AWC CROSS TALK【改訂版】(4/13)  らいと・ひる


        
#20/598 ●長編    *** コメント #19 ***
★タイトル (NKG     )  01/12/11  23:33  (197)
CROSS TALK【改訂版】(4/13)  らいと・ひる
★内容

 恵美香が連れてきてくれた泉元堂は、商店街にある甘味処のお店だった。
 ちょっと古めで、それでも雰囲気は悪くない店構えでもある。
「葵はこの街に来たばかりやったね」
「うん、入学してからだからまだ1ヶ月ちょっとだもん」
「この店チェック入れといた方がええよ。ここ、冬季限定でたい焼きを売り始め
るんよ。それが『めちゃうま』なわけ」
「へぇー」
「もう冬場はこっからな」恵美香は、オーバーリアクションで「このあたりまで
並んどるんよ」と向こうの方まで駆けていってそう叫ぶ。その顔にはこぼれんば
かりの笑顔が浮かんでいる。
 葵は恵美香のその表情につられて自然と笑顔を取り戻す。いつの間にかもやも
やした気分もどこかへいきかけていた。
 そのあと店内に入り、恵美香オススメの栗入りゼンザイを注文してたわいもの
ない会話を楽しんだ。
「私、用事があるさかい」
 隣町に用事があるという恵美香と駅で別れ、葵は少し寄り道をしてから帰ろう
と再び商店街へと戻る。
 本屋にでも寄ろうかと考えて、彼女はあたりを見渡す。前に一度行ったはずな
のであるが、どのあたりにあったのか忘れてしまっていた。
 歩きながら店を探していると、ふと路地裏の細い道から少年の声が聞こえてく
る。
「ムカツクよな」
 葵は何事かとそちらの方を向き、一人の少年と目があってしまう。
 その子は助けを請うかのような今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 葵と同じくらいの年齢であろうか、その子を何人かの少年が囲んでいる。紺の
ブレザーにエンジ色のネクタイは、おそらく公立中の子であろう。
 イジメだ。葵は直感的にそう思った。しかし、理由がわからない以上関わるべ
きではないとも同時に考える。
 夏江には昔から言われていた。それが間違った事であろうとイジメには理由が
ある。それが取り除かれない限りイジメは繰り返し行われるのだ。
 ただ、もし葵がイジメられるようなことがあれば、目を背けてはいけない。そ
れは夏江との約束だった。自分が悪ければ反省しなさい。相手が悪いのならそれ
を主張しなさい。言葉が通用しない相手なら反撃しても構わないと。
 ただし、他人のイジメには首はつっこむな。それは誰のためでもない。その本
人の為なのだからと。手助けは最小限に、相手が相談してきてそれが正しいと思
うのなら、相談にのってあげなさい。でも甘やかすのは誰の得にもならない。そ
れはしっかりと覚えておきなさい。そう強く言われてきた。
 考えごとをしながらぼんやりと彼らの様子を見ていた葵だが、囲んでいた少年
たちの一人が彼女の存在に気づいてしまう。
「おっ」
 もう一人も気づいて口笛を鳴らす。
「女に助けを求めるってか」
「そこまでするかぁ」
「さすがヤベムシ」
 ひどい言われようである。でもまあ、それは仕方ないかと、葵は思う。
 葵は、小さなため息をつくともう一度イジメられている少年へと視線を戻した。
「馬鹿は馬鹿なりに怯えてればいいんだよ! この!」
 一人の少年がいじめられている彼へと容赦ない蹴りを入れる。その様子はまる
で物に当たるようだ。彼を人間として見ていないようだ。
 多分、このいじめには大した理由はないのだろう。くじ運の悪い人間が単にみ
んなのストレスのはけ口となる。ただそれだけなのだ。
「このヤベムシが!」
 彼らは何か取り憑かれたかのように、少年を攻撃する。
 その行為を目のあたりにして、葵の中に怒りの感情が生まれ始める。
 いつの間にか彼女は、彼らを睨み付けるよう見つめていた。
 そんな彼女に彼らも気づかないわけではない。
「あれ、あの子まだこっち見てるぜ」
「オレに気があるのかな」
「違うよ。俺にきまってるだろ」
 葵のおかげでいじめていた彼らの気がそれる。それを見逃さなかったのか、い
じめられていた少年は隙をついて走って逃げていった。
「あいつ逃げてやんの」
 あざ笑うかのように少年たちは彼を見送った。深追いする気はないようだ。あ
くまでも軽い遊びなのだろう。
 葵の中で生まれた怒りの感情は嫌悪感へと変わる。
「さてと、この子どうする?」
「玩具も逃げちゃった事だし、今度はこいつにするか?」
 彼らの中では比較的体つきのよい子が顎で葵の方を指す。もしかしたら、彼が
リーダー格なのかもしれない。
「ねぇ、かーのじょ。あいつ逃げちったぜ」
「せっかくキミが助けようとしたのにな」
 彼らは「けけけ」と嫌な笑いをした。
 葵の警戒心が今さらながら強くなる。
 葵は、ちらりと周りを見渡しその場に止まった。ここは人通りのある商店街、
いざというときには駅前の交番まで駆け込めばいい。
 一番怖いのは集団心理で、彼らが後先考えない行動をすることだ。
 その時は、ケガの一つや二つ覚悟で葵は彼らに抵抗するつもりだった。反撃の
方法は、夏江に教わっている。護身術の心得のある叔母の直々の教えを7才の時
から受けていたのだ。実践するのは3度目くらいだろうか。
 葵はリーダー格らしき少年を見据える。いっぺんにかかってこられたらさすが
の葵でも一瞬で抑えつけられる。
 足の甲、臑、股間、鳩尾……葵は夏江に教わった急所を思い出していく。幸い
相手は彼女の事を「かよわい女の子」となめてかかっていた。それが唯一の勝機
でもある。いや、勝たなくてもいい。逃げ切れれば。
 少年たちは、ヘラヘラと笑いながら彼女の方へと近寄ってくる。
 近づく前に逃げる方法も考えたのだが、それでは葵の気が治まらなかった。
 すぅーっと静かに深く息を吸い込み、止める。
 右肘、それとも右膝か。葵はいつでもその箇所を動かせるように身構える。
「御陵さん」
 ふいに横から名前を呼ばれる。
「え?」
 葵はゆっくりとそちらを向く。
 そこには、同じ制服を着た女の子が彼女の方を見つめていた。
「ちぇっ!」
 一人の男の子が舌打ちをする。
「今日のところは勘弁してやるぜ。……へへへ一度言ってみたかったんだ」
「バカ。おめぇ、なめられんぞ」
「まあ、いい。運が良かったな、あんた」
 ふんと鼻で笑うと、リーダー格の少年は仲間をつれて路地の奥へと行ってしま
った。
「運が良かったのはどっちだか」
 先ほどの女の子が独り言のように、そう呟く。
 葵は、彼女の顔を再確認して改めて驚きを覚える。
 彼女は、葵のクラスメイトの西原美凪であった。
 しかしながら、入学以来、彼女と話したことなどなかったはずである。
「あ、ありがとう。助かったよ」
 全身から緊張が解けていくのを感じながら、葵は感謝の言葉を告げる。
「別にあんたを助けたわけじゃないよ。相手の方がやばかったかもしれないから
ね」
「……」
 葵はきょとんとして、その返事を他人事のように聞いた。
「あいつら、単なるいじめっ子でしょ? それも遊びでやっているような奴ら。
反撃されることなんかまるっきり頭にないみたいだからね」
「そ、そうだったのかな……?」
「御陵さんの方が怖かったよ。あなたは反撃することに容赦はしないタイプみた
いだからね」
 そう言われて葵は頬がかぁっと熱くなるのを感じていた。もしかしたら、それ
は気をつけなければならないことなのだろうか? 彼女はそう思う。
 7才の時、知らない街へ行き、転校した学校でいじめにあって夏江さんに相談
して以来、反撃に対する躊躇いは多分普通の子供よりも薄いのかもしれない。
「……わたし、もしかして殺気だってた」
「かなり」
「わぁ……」
 両手を頬にあてて葵はうつむく。さきほどよりかなり熱くなっている。
「どうしたの?」
「いや、だって普通は反撃なんて考えないのかなぁ……なんて」
 その言葉で、美凪は吹き出したように笑い出す。
「っぷ、はははは……御陵さん真面目に考えすぎだよ」
 彼女は腹を抱えてさらに笑い続ける。
「だ、だってわたし家庭環境、普通じゃなかったから……そうやって考えないと
……」
「ごめんごめん、笑いすぎた。私あなたの性格全然把握してなかったら。……う
ん、そう。反撃するのが当たり前だってのは私も同じだから、あんまり深く考え
る必要はないと思うよ」
「そうだよね」
「そうよ。うん、でも御陵さんて思ってたのと違ってたな。もっと見たまんまの
女の子と思ってたから」
「見たまんまって?」
「おとなしい女の子っていう意味。一応誉め言葉」
「そ、そうかなぁ」」
「まあ、あくまでも見た目だからね。だから私、ずっと誤解してたかも」
「誤解って?」
「私の敵かもって」
「……」
 敵? と聞いてそれ以上深く聞く勇気は葵にはなかった。もしかしたら、美凪
は彼女以上に恐ろしい性格なのかもしれない。
「そういや、話するの初めてだったね。でもなんか御陵さんの事、気に入ったか
も。まあ、友達になってくれとは言わないけど、時々、私に構ってくれると退屈
しないかも」
 彼女は人懐っこい笑みを浮かべる。学校でのあの冷たい表情は感じさせない。
少しつり目なのが、無表情の時に冷たさを感じさせてしまうのかもしれない、葵
はそう思った。
「あ、それは全然構わないけど」
「冗談だって、学校じゃあんたに話しかけないよ」
「なんで? せっかく話ができたのに」
「御陵さんに迷惑がかかるでしょ。私は別に孤立していても全然平気だからさ」
 嘘だ。葵は直感的にそう思う。だったら、時々見せるあの寂しげな表情はなん
なのだろう。
 西原先輩の事、寂しげな表情の事、葵は彼女にいろいろ聞きたいことがあった。
 だけどこういう時に限って葵は躊躇いを持ってしまう。葵自身も、聞かれて欲
しくないことはたくさんあるからだ。
 結局、その日は美凪とその場で別れて、おとなしく葵は寮へと戻った。


		*						*


「最近どーしたの」
 昼休み、葵は中庭のベンチでぼーっとしているところを柳沼に呼ばれる。
「あ、柳沼先輩。こんにちは」
 葵はあわてて笑顔を作り、先輩に挨拶する。
「文芸部、やっぱ気に入らない?」
 彼女は深刻そうな顔でそう聞いてくる。しばらく部活に顔を出さなかったのを
心配しているのかもしれない。
「そ、そんな、とんでもないです。みんないい人ですし、話も面白いし、とても
楽しいです」
「じゃあ、最近どうしたの? 誰かになんか変な事された?」
 柳沼がまゆを寄せる。
「あ、いえ……その」
「え? されたの? 誰? 私はあんたの味方だからね。葵ちゃんを困らせるよ
うな奴ぶっとばしてやるから」
 彼女のまくしたてるような怒気
「あ、あの……違うんです。そうじゃなくて私の問題ですから」
 葵はあわててそう答えた。
 柳沼はまだ釈然としない様子だったが、何か用事の途中だったらしく「ホント、
何か問題があるようなら言ってちょうだいね」と言い残し中庭を去っていく。
 彼女の興奮した声がまだ耳に残っている。葵は背もたれに寄りかかって空を見
上げ、大きなため息をつく。
 しばらくして、べンチから立ちあがろうとした葵はふいに誰かの視線を感じた。
 だが、彼女が気配の方に向いたときには、視界には見知らぬ女生徒の後ろ姿が
かろうじて映るだけであった。
 背格好からしても制服の着こなしからしても、多分、高等部の生徒かもしれな
い。葵は直感的にそう感じる。
 だけど、なんで中等部の校舎にいるのだろう。そんな疑問も同時に思い浮かべ
た。





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 続き #21 CROSS TALK【改訂版】(5/13)  らいと・ひる
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