AWC CROSS TALK【改訂版】(5/13)  らいと・ひる


        
#21/598 ●長編    *** コメント #20 ***
★タイトル (NKG     )  01/12/11  23:33  (193)
CROSS TALK【改訂版】(5/13)  らいと・ひる
★内容


 教室での美凪はいつも通りだった。葵が挨拶をかけても、美凪は無視して横を
すぅーっと通り抜けてゆく。休み時間もお昼休みも、彼女はずっと机の上で寝て
いる。
 普段とは変わらない日常。クラスメイトは誰も彼女に声はかけない。
 葵は思わずため息がこぼれる。
「どした? なんや、さらに悪化しとるように思えるが」
 恵美香が彼女の顔をのぞき込む。
「ねぇ、サトちゃん。西原さんって、なんでみんなから無視されてるのかな?」
「あんたも事情はだいたい知っとるやろ。出る杭は打たれるの。それはどこの社
会も同じやん。それが教室っていう閉鎖されて空間でもな」
「目立つことはいけないの?」
「いけないとかそういう問題やないねん。みんなの羨みや妬みがどういう仕組み
で起きとるか、それがわかっとらん人間は標的にされても文句は言えないんや」
「どうして人間ってそんな面倒なんだろうね」
「不完全やからやないかなぁ。でもな、西原さんは文句は言わへん。それはそれ
で偉い思うんよ」
「でも……でもね、西原さん、なんか寂しそうで」
「あんたもけったいな性格しとるな。まあ、それはそれで、あたしはおもろい思
うから、別に気にしとらへんけど」
「ごめん。なんか変な事言って」
「ええって、葵っちは周りに気ぃ遣いすぎのとこあるねん。たまには自分の思う
ように行動するのもええんちゃうの」
「え?」
「例えば、あんたが西原さんと友達になりたいんやったら、あたしは止めへん。
その代わり、今度はあんたも西原さんと同じ仲間と見なされるだけやけどな」
 恵美香はきっぱりとそう言った。
「サトちゃん……」
 葵は少しだけ気弱になる。
「でもな、あたしは別にそれでどうこう思うわけやない。これからも、たまに話
しかけたり用事付きおうてもろたりする。それで、クラスの奴らがあたしに対し
てどうこう言うても、それはそれでどうでもいいことやねん」
「サトちゃん、ありがと」
「お礼言われるほどの事は言ってへん。それにな、あたしが葵っちをけしかけと
るんは、そしたらおもろいことになるんやないかって睨んどるからなんや」
「お、おもろいこと……」
 サトちゃんはそういう子であった事を葵は改めて思い知る。
「西原さんは葵と仲良くなる、葵とあたしは元々親しい、それでもってあたしに
は独自のネットワークがある。ここにクラスの連中がどう対応するかだ。……フ
フフ」
 何かを企んでいるような、楽しんでいるような恵美香の顔を見て、葵はただた
だ苦笑するしかなかった。


 あれから美凪は、葵にはいっさい話し掛けてこない。気を遣っているのだろう
が、彼女にはそれが寂しかった。友達になれたかもしれないと思うと、どうにも
もどかしくなる。
 しばらくそんな状態が続いたある日の昼休み、葵が恵美香と一緒に昼食をとっ
て教室に戻ると、中が騒がしいことに気づく。
「どうしたんだろう?」
 葵がそう言いながら戸を開けると、なにやら教室の一角に女子生徒が集まって
いるのが見える。
 近くまでいくと、座っている美凪に対して何人かの女子生徒が抗議しているよ
うなそぶりだ。
 いつもなら徹底的に無視を決め込む生徒たちまで彼女に注目している。
「あんたしかいないんだからね!」
「そうだよ。今日の体育で見学してたの西原だけなんだから」
 水野友美、甲斐翔子、富永薫。この三人は、つい1ヶ月ほど前に美凪を陥れよ
うとして逆に返り討ちにあった者たちだ。それが今さらなんだというのだろう。
「なんとか言ったらどうなの!」
 これだけの騒ぎだというのに当の本人は涼しい顔で座っているだけ。相手にす
る気などないようだ。
「なぁ、どうしたん?」
 サトちゃんが近くの女生徒に聞く。
「なんかね、水野さんの数学の教科書がなくなったいらしいんだけど、どうも西
原さんが盗ったんじゃないかって」
「なんで西原さんがそんなことしなくちゃいけないの?」
 葵は思わずそう聞き返してしまう。
「5時間目の授業、ちょうど水野さんがあたる番なんだって。西原さんて前、水
野さんに目をつけられていたじゃない。だからその仕返しなんじゃないかって。
彼女、4時間目の体育見学だったみたいだし」
「くだらん」
 隣の恵美香はそう呟くと自分の席へ戻ろうとする。
 たしかにくだらないかもしれない。今時そんな子供じみたことを、しかもあの
彼女がやるわけがない。葵はそう思った。
「チャンスかもね」
 戻ったはずの恵美香が葵の耳元でそう囁きニヤリと笑うと、再び自分の席へと
帰っていく。
「ふざけないでよね!」
「あんた、聞いてるの?!」
 美凪の視線は、窓の外へと向いているようだ。
 三人の苛立ちは高まり、言葉遣いはエスカレートしていく。
 だが、それが的はずれな疑いであっても、何も喋ろうとしない彼女の態度には
葵も納得がいかない。
 恵美香の言うように素直に行動してみるのもいいかもしれない。彼女のバック
アップを受けるのは卑怯な事かもしれないけど、でも思ったときに行動するのが
一番なのかもしれない。葵は自分をそう納得させた。
 すぅーっと息を吸い込む。
「西原さん」
 葵のその呼びかけに、周りを囲んでいた生徒たちが一斉に彼女を見る。そして、
それに遅れてやや驚いたような顔の美凪がこちらを向く。
「……」
「やってないのなら、なんでやってないって言わないの?」
「ちょ、ちょっと御陵さん」
 横から口を出された水野がさらに驚いた顔をする。
「私を助けようとしてるつもり?」
 美凪の冷たい視線。そんなのは大きなお世話だとでも言いたげな瞳だ。
「違うよ。私は西原さんの態度にイライラしてるだけ」
 葵は、まっすぐに美凪の顔を見つめる。
「それで、お節介を焼こうっての?」
「お節介じゃないって」
「それがお節介だって言うの。だいたい、わたしがやってないって言ったところ
で、疑いが晴れるわけでもないんだよ」
 普段、教室では冷静で、冷徹な彼女が少しでも感情を露わにするのは、めずら
しいことかもしれない。
「なんなのあんたたち」
「勝手に話して、どういうつもり」
「わたしたちを差し置いて話を進めないでくれる?」
 すっかり葵に割り込まれてしまった三人は、今度は彼女に対して抗議をする。
「お願い、少しだけ西原さんと話させて」
 葵は彼女たちに向き直ると、両手を合わせて頭を下げる。そして、再び美凪を
見つめ言葉を続ける。
「疑いが晴れるとかそういう問題じゃないでしょ。疑いを晴らす意志がなきゃず
っとそう思われるだけなんだよ」
「どうでもいいよそんなこと」
「よくない。言葉は大事だよ。それを伝えないってのは相手を馬鹿にしてるよう
なものだよ」
「馬鹿にしてるんだよ」
「西原さん。わたしは別にクラスのみんなと仲良くなれとは言わないよ。人それ
ぞれだし、お互いに好き嫌いがあるのはしょうがないから。でもね、自分から進
んで敵を作るのは良くないと思うよ」
「それはわたしの勝手でしょ」
「たしかに西原さんの自由かもしれない……でも……だったらどうしていつも寂
しそうな顔をしているの?」
 美凪は、はっとした顔をすると、葵から目をそらす。
「気のせいよ」
「この間、西原さんと初めて話して、わたし改めて感じたもん。この人は他の人
と同じように一人でいることを好んでいないんだって」
「……」
 美凪は答えない。
「わたしね。その時思ったんだ。西原さんと友違になりたいなって」
「哀れみや同情ならやめて」
 美凪の視線はまだこちらへ向かない。
 葵は、心を落ち着かせると柔らかな口調で言った。
「違うよ。友達になりたいってのは、わたしの願い。西原さん結構面白い人だな
ぁって、この前会った時に感じたのはホントだから」
「御陵さん。忠告したはずよ。わたしに関わらない方がいいって……あなたもわ
たしのように孤立したいの?」
「西原さんの方こそわたしに気を遣うのやめようよ」
「私は、気を遣ってなんか……」
 美凪の発言に力がなくなる。
「西原さんは、ホントは優しい人なんだよね。だから無理しないで」
「わたしは……面倒なことが嫌いなだけ……」
「お取り込み中、ちょいと失礼」
 席に戻ったはずの恵美香が葵の隣へ現れる。しかも、水野さんの襟を掴んでい
た。
「予想通りというか、この子の教料書な、友達が借りて持っていってしまってた
らしい。さっきな、葵っちが西原さんと熱い議論を交わしとるうちにその友違が
返しに来てな」
「それホント?」
 葵は目を丸くして恵美香に聞き返す。
「そう。それでな、水野さんが何やら言いたいことがあるそうな」
 そう言って恵美香は彼女の襟を持ったままぐいっとこちらへ引き寄せる。
「あ、あたしは、別に……」
「ほぉー、本当にないんかいな?」
 恵美香がさらに引き寄せるものだから、彼女の首が絞められて苦しそうである。
「サトちゃーん。やめなよぉ。水野さん苦しがってるじゃない」
「ふふふ、葵っちに免じて許したる」
 恵美香から解放された彼女は、少しだけ咳き込む。
「謝ればいいんでしょ」
 水野は少しヤケになりかけたような言い方をする。
「別に謝れとは言ってない。だいたい、西原さんは謝られて嬉しがるようなタマ
やないやろ」
「私は別にどうでもいいんだよ」
 美凪は恵美香の言葉に反応する。
「じゃあ、どうすりゃいいっての!」
 水野は少し逆ギレ気味である。
「そんなもん自分の頭で考えんかいボケ!!」
 恵美香のその過激な言葉に教室内が一瞬静まる。
「サ、サトちゃん、そんなはしたない」
 葵が思わずそう言うと、
「あーら、ごめんあそばせ……ってそういうキャラやないやろ、あたしゃ」
 すかさず彼女は葵の胸元へと裏拳を返す。
「二人とも漫才でもやりにきたわけ」
 美凪があきれたようにそう言う。が、すぐにくすりと笑い出した。
 その笑顔に葵は安心する。周りの生徒が多少ざわめいたが、それは彼女の笑顔
を教室で初めて見たからであろう。
「さて」
 恵美香がニヤニヤしながら水野を見る。
 彼女は、少し考え込むそぶりを見せると、息をすぅーっと吸い込み口を開く。
「みなさん、お騒がせしました。教科書の事は私の勘違いです。ごめんなさい」
 西原の方にぺこりと深く頭を下げる。水野としては周りに対して謝ったのだか
ら、プライドは保てるはずだ。
「水野さん。西原さん。今回の事はどっちも悪いねん。葵もそれ言いたかったん
やろ」
 恵美香は「仕切るつもりはないのやけど」、と小声で付け加える。
「う、うん。だって、二人が敵対していなかったら、こんな大騒ぎにはならなか
ったはずだもん」
「そういうことや。さあ、さあ、お開きお開き」
 ぽんぽんと手を叩いて、恵美香は美凪の周りの野次馬たちを追い払う。彼女も
もしかしたら本当はお節介なのかもしれない。葵はそう思った。





元文書 #20 CROSS TALK【改訂版】(4/13)  らいと・ひる
 続き #22 CROSS TALK【改訂版】(6/13)  らいと・ひる
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