AWC 焦点 8     永山


        
#2251/5495 長編
★タイトル (AZA     )  93/ 7/30   9:59  (200)
焦点 8     永山
★内容
犯人当て 時森邸の殺人・解答編    香田利磨
 鳥丸は全員を集め、状況の説明を行った。
「……と、こんなところです。やっと、手がかりらしい手がかりが出て来まし
た。このマークに何か心当たりのある方、いませんか?」
 朝日田が遺していた、↑のことである。
「いくら、時森譲さんの部屋を、矢印の先が示していたからって、亡くなった
人が犯人であるはずないし」
 井沢純子は、極めて常識的な意見を述べた。いつもはなついている聡美も、
今は母親の方に寄り添っている。
 鳥丸刑事は、それにうなずきながら言った。
「そうですね。何かを書く途中で、息絶えたようにも見えませんし……」
「お、お母さん」
 震える声で、そう言ったのは、荒木聡美だった。母親の服の袖を、しっかり
と握りしめている。
「どうしたの、聡美?」
「分かった気がするの……。矢印の意味」
「え? 本当?」
 三人の大人達の声が、はもった。
「これを書こうとして、朝日田さんは……」
 聡美は、鳥丸の方を見返すようにして、手近の白い紙に、ペンを走らせた。
そこに、♂という印が現れる。
「これ……」
 鳥丸は絶句した。
「これ、男ってことでしょ? 鳥丸さん。残っている私達の中で、男の人は鳥
丸さんだけよ!」
 聡美が断言すると、夏子や井沢は驚いたように、女の子と刑事に交互に目を
向けた。
「な、何を馬鹿なことを、聡美ちゃん」
 鳥丸のきれいな顔立ちが、少しばかり醜く歪む。
「ねえ、夏子さん。あなた、まさか、信じてはいないでしょう? 私は刑事な
んです。人殺しなんて」
「……」
 何も言えないでいる夏子に代わり、聡美が言った。
「刑事だからって、殺さないとは言い切れない」
「でもね、殺す理由がないよ、自分には」
「……私、何となく気付いていたんだけど、鳥丸さんもお母さんのこと、好き
なんじゃないの?」
 その言葉に、鳥丸はぐっと詰まってしまった。
「そうだったんですか、鳥丸さん?」
 夏子が、何を信じればよいのか分からないといった風ながら、やっとのこと
で口を開いた。
「……そうです。それは認めます。隠すことじゃないですからね。初めてお会
いしてから、ずっと考えていたんです。でも……」
 ここで、鳥丸は言葉を区切った。
「でも、犯人じゃありません。こう言っては失礼かもしれませんが、真犯人が
唯一の男性となった私を陥れるため、あんなマークを書いた可能性だってある
はずです」
「……それなら、はっきり、♂と書いていいんじゃないかしら?」
 井沢が言った。
「どうであっても! 私は認めません。これだけのことで犯人とされては、か
ないませんよ」
「……いいえ。鳥丸さんが犯人よ。思い出した、私」
「何を? 聡美ちゃん」
「さっき、鳥丸さんは、私の部屋から朝日田さんの部屋の中が見え、そこに朝
日田さんが倒れているのを見つけたって、こう言ったでしょ?」
「……ええ」
 やや考えてから、鳥丸は同意した。
「時間は夜の六時だった」
「そう」
「そんなはずないのよ。私、昨日のほぼ同じ時間に、自分の部屋から朝日田さ
んの部屋を見たのよ。朝日田さんの部屋の窓、鏡みたいになってたわ。あれで
中が見えたなんて、あるはずない。
 鳥丸さん。朝日田さんの死んでた部屋、鍵がかかっていたって言ったよね?
鍵のかかっていた部屋なら、犯人以外に部屋の中の様子は、誰も知らなかった
はずよ、あの時間なら」
 聡美の言葉は、抵抗の構えをしていた鳥丸を陥落させるのに、充分だった。

−−解答編.終わり


 犯人当て「時森邸の殺人」に多数の応募、ありがとうございました。厳正な
抽選で正解者の中から一名、当選者を選ばせていただきました。記念すべき第
一回の当選者は以下の方です。おめでとう!
  神場究作さん (経済学部情報科学科2回生)
   *ご足労ですが、神場さんは推理研部室に賞品を取りに来て下さい。
 今回の犯人当ても、奮って応募して下さい。賞品をもっと豪華に、という声
があるようですが、さる事情によりどこからも援助のないサークルの身分では、
ちょっと苦しい……。しばらくは我慢のほどを。


<<−−執筆者の言葉−−>>
奥原丈巳 (おくばら たけみ)
 忙しい忙しい。八月に入っても、まだ決まらない私立の弱さ。ここで一句。
  けいき食べ 残りはアワで 洗い落ち  おそまつ。これじゃ、川柳だな。

玉置三枝子(たまき みえこ)
 部長があの調子なのを目の当たりにし、遊べるのは今の内と痛感。この間は
「紅の豚」と「氷の微笑」を観て、矢沢永吉のコンサートへ。支離滅裂デス。

香田利磨 (こうだ りま)
 犯人当て、どうでした? 完璧に当ててくれた人も結構いて、びっくり。次
に担当になるときは、正解率ゼロを目指す! 連載の方は先行き不安……。

剣持絹夫 (けんもち きぬお)
 サティが静かなブームらしく、嬉しい。ギルバート・オサリバンも好きなん
だけど、来日しないかなあ。好きな音を聴きながら手品を考える時間、最高!

本山永矢 (もとやま ながや)
 時事ネタでもお一つ。オリンピック、盛り上がりましたねえ。きょーこちゃ
んや古賀選手ばかりを持ち上げないで、吉田選手にもスポットライトを!

木原真子 (きはら まこ)
 たまぁに、イラストを送ってくれる人がいるけれど、私の仕事を取らないで!
お誉めの感想は、『生きてきた中で一番嬉しい』……ってほどじゃないか。

編集後記
 創刊号ではバタバタしていて、編集後記もなしでしたが、今度は落ち着いて
書けます。
 暑い最中、クーラーも扇風機もない部室で、汗だくになりながら編集した第
二号、どうだったでしょう? 不景気なご時世、お手軽な雑誌としてお手元に
どうぞ。
 誌名についての質問がいくつかありましたが、大方の予想通り、「ルーペ」
とは虫眼鏡のことで、シャーロック・ホームズのトレードマークの一つとして、
拝借しました。ドイツ語だとは知らなかった……。
 最後に、この活動が認められて、少しでも早く、推理小説研究会が元のクラ
ブ扱いになることを願っています。それには、読者の皆さんの声が一番心強く、
また実際の力にもなります。これからもよろしくお願いします。

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「反応、芳しくない」
 あたしはため息混じりにつぶやいた。
「そりゃそうよ。試験だし」
 ミエの言う通りなのは分かっている。ウチは、七月八月が夏休みで、その後、
いきなり試験で後期が明ける。そんなときに、言ってみれば素人の雑誌なんか
読む暇人はいない。そもそも、この時期に本を出すあたし達の方がどうかして
いるんだ。
「先輩達は、もう終わったんですか、試験?」
 剣持が言った。二回生らしい話し方、気持ちがいい。
「あと二つ。情報通信概論と経済学総論。どっちも出れば通るってやつだから、
優が欲しくないんなら勉強する必要はない訳」
「いいですねえ。自分、情報科学科だから、情報通信概論は専門扱いにならな
いんですよ」
「ま、若い内は苦労をするのもいいわよ」
 と、使い古された台詞を口にする。みんな疲れているからか、こんなくだら
ないことでも笑うんだなあ。
「次は学祭が勝負ね」
 ミエが話を戻した。次の会誌をどうするか、ということで話していたんだっ
た。いつ出すかは決まっていて、十一月頭の学園祭に間に合わせる。
「部長はもう、解決編で手一杯でしょうから、何で埋める?」
「さあ」
 とか言っていると、扉が開かれた。試験を一つ終え、誰か部員が戻って来た
のだろう。
「ちわーす」
 と入って来たのは、二回生の本山と木原真子。
「どうだった?」
「テストですかぁ? ダメダメ、暑くって全然集中できない」
「寒くても集中できないんだっけ」
 真子にぼそっと突っ込む本山。いっつも思うけど、表情が読めないヤツ。
 と思っていたら、続いて部屋に入って来たのがいた。誰かと思ったら、きよ
ちゃん。
「今、いい?」
 推理研じゃない彼女は、遠慮がちに覗く。
「うん、構わない。どしたの?」
「こうのさとみって子が聞きたいことがあるって、言ってきたの」
 部屋に入り、後ろ手で扉を閉めると、きよちゃんは切り出した。それから、
手近の紙切れに、「高野里美」と記した。ふうん、これで「たかの」じゃなく
て「こうの」なの?
「誰?」
「一応、語学が同じクラスだったんだけど、あまり親しくはないわ。どこで見
たのか、『ルーペ』を読んだみたいで」
「え? それって、まさか新入じゃないから」
「直接、感想を言いに来たいのね」
 あたしの言葉を受けて、ミエが続けた。
「そうなのよ。それで、『船越さん、推理研の人と知り合いだったよね』って、
話しかけられて……。びっくりしたわ」
「今、いるの?」
「ううん。今日は忙しいからって、帰ったみたい。明日以降、都合のいい日を
聞かせてほしいって」
「明日で私とリマは終わりだから、昼からなら構わないけれど。それって、誰
それに文句があるなんて、指定はなかったのね?」
「ええ」
 うなずくきよちゃん。まとめた髪が揺れて、可愛らしい。
「じゃあ、私とリマで」
「うん、ありがとう。伝えとくわ」
 仲良し三人組だから、それからも盛り上がったんだけど、内輪ネタだし、関
係ないので省略。

 翌日、楽に二つのテストをこなしたあたしとミエは、期待半分不安半分で部
室に向かった。
「どんな子かしらね」
「リマ、子っておかしいわよ。同じ学年なんだから」
「でもさ、女なんだから、いいじゃないの」
 そんな話をして、部室で時間を潰していると、不意にノックがされた。待っ
ていたとは言え、やはりどきっとするものね。
「はい、何でしょう?」
 副部長ということで、ミエが言った。
「あの、船越さんから話を通してもらっていると思います。高野です」
 緊張した声が返って来た。
 でも……? この声の質は、女性のものじゃないわ!
「どうぞ、開いてます」
 ミエの声が届いたか、扉がゆっくりと開かれた。
「失礼します」
 入って来たのは、背の高い、気の良さそうな『男』だった。
「あなたが……高野里美さん?」
 あたしは、あっけに取られていた。
「そうですよ」
 ニッと笑った彼は、照れているのかどうか、片手を頭にやった。

−続く




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