AWC NAVY CRISIS −8−  作 うさぎ猫


        
#2225/5495 長編
★タイトル (CWJ     )  93/ 7/13  14: 5  (171)
NAVY CRISIS −8−  作 うさぎ猫
★内容
  ネイビークライシス


 どこなんだ、ここは。
ドーム状の建物の中から、どんよりした空を見上げる。
 崩壊し砕けた街。
ビルは破壊され、昔はハイウエイであっただろう道は寸断されてい
る。死んだ都市。いや、元都市というべきか。
 小雨が降っているようだ。
俺は建物の傘から出ていこうとした。
「ダメ!」
 俺の服を引っ張り止める。ゆき子だ。
後ろにちょこんと立ち、じっと俺を見つめる。
「どこなんだここは」
ゆき子に聞く。
「あなたには信じられないかもしれないけど、10年後の日本よ」
 すらすらと衝撃的なことを言ってくれる。
これが日本なんて誰が信用するもんか。
「大掛かりな手品だな」
俺はうんざりしていた。
「とにかく、俺は君たちに協力する気はないんだ」
「あそこの山の上に建っているものがわかる?」
ゆき子が指差す方向に、赤レンガの建物があった。
「総監部か・・・ 」
雨風にさらされて、色の剥げかかった桜の紋章。
「ふざけんじゃない! なんでこれが日本なんだよ」
「おちついて、わたしの話しを聞いて」
ゆき子が諭すように宥める。
「日本はね、北朝鮮から核攻撃を受けたの。大阪を中心に、街は跡
形もなく消え去った。
在日米軍は報復攻撃にでたわ。でも、日本は、日本の自衛隊は出動
しなかった。
 アジアに対する過去の侵略戦争の二の舞を踏むのは良くないとい
う国会の意見からね。
 当然、アメリカは批難した。
日本人は何様のつもりでいるのかと。
 結果、北朝鮮からの空爆。そして、二度目の核攻撃。
 アメリカと国連軍の協力で戦争は終結したけど、日本はこのあり
さま」
「そんなバカな事・・・ 」
「戦争が終結したあと、そんな日本に、国連や各国のボランティア
が救助にきてくれたわ。だって、子供たちは学校にもいけないし、
その日食べるものすらないんだもの」
ゆき子のいう事は本当の事なのか。
 たしかに、戦争になったとき、国会は自衛隊を出すことを躊躇す
るだろう。
 ゆき子はスッと、俺たちを雨から防いでいるドームを差した。
「このドームは国連のUNTACがつくったものよ。今は皆、ここ
の地下で生活している」
 地下へ通じるための階段があった。
そこへ、ひょこりと6才くらいの男の子が頭を出した。
丸坊主で顔はどろんこ遊びをしたあとのように汚れている。
大きな瞳が、じっとこちらを見ていた。
 ゆき子は男の子を見てニコリと微笑む。
「五郎さん、行ってみる?」
いやだ、見たくない。
こんなもの見たくない。
「帰してくれ。俺をもとの世界に帰してくれ!」

 帰してくれ・・・ 花が咲き乱れる日本へ
 帰してくれ・・・ 平和な安穏とした日本へ
 帰してくれ・・・ 豊かですてきな日本へ
 帰りたい・・・ 帰りたい・・・ 帰りたい・・・


 「ゴロちゃん!」
 「五郎!」
かが俺の体をゆすっている。
俺はゆっくりまぶたを開いた。
お嬢と銀次が俺を覗きこんでいる。なんでこんな所に寝転んでいる
んだろう。ゆっくりと体をおこした。
「ゴロちゃーん!」
お嬢が半べそかきながら飛び付いてきた。
「五郎、びっくりさせるなよ」
銀次が真顔で怒鳴る。普通にしていてもヤクザみたいなヤツなのに
怒鳴るととても恐い。
「俺、どうしたんだろ」
俺は俺の部屋で茫然と座り込む。
「突然ブッ倒れやがって、心配するだろ」
倒れた? 俺はゆき子と喫茶店であっていたんだぞ。
 ジリリリリッ・・・
突然、電話の呼び出し音。
 部屋中にこだまするイヤな音だ。
忘れようとしている悪夢がふたたび蘇る。
 崩壊した日本・・・
「銀次、取ってくれないか」
銀次は変な顔をしたが、受話器を取るといつものように高圧的にしゃ
べった。
「もしもし。うん? はい、はい・・・  えーっ、明日出航!?」
 銀次が聞き捨てならないことを言った。
暗い顔をして受話器を置く銀次に聞く。
「誰からだよ」
「艦からだ。明日出航だってよ」
「だって予定じゃ、あと3日はドックのはずじゃんか」
「知らん知らん・・・」
銀次はなげやりに言うと、テレビのスイッチを入れた。
 テレビのリモコンがないとおもったら、コイツが持ってたんだ。
「なんかおもしろい番組やってないかな」
 銀次がチャンネルをまわしていると、お嬢が後ろから飛び付き、
銀次のリモコンを取り上げようとした。
「コラお嬢、なんなんだよ」
「いやーっ、ドラマ見るの」
ほとんどじゃれあっているようにしか見えない。
 リモコンがポーンと飛んで、俺の手元にきた。
俺はニュース番組にチャンネルを合わせる。
 <・・・ただいま入ってきたニュースです。防衛庁は明日より瀬
戸内海で米軍との合同演習をやることを発表しました。この情報を
察知した平和団体は海上自衛隊に厳重抗議するとともに、出航前の
時間に海上でデモ行動をするそうです>
「瀬戸内海で演習!?」
そんなバカなこと。
だいたい米軍との合同演習の話しなんて聞いてないぞ。
「演習するために出航するのかな」
銀次がテレビを見ながらのほほーんと言った。
ニュースは戦前の日本海軍の映像と陸上自衛隊の検閲式の場面がオー
バーラップしていた。
マスコミの大好きな映像らしく、自衛隊というとかならず出てくる。
「よっしゃぁ、飲みに行こうか」
銀次は立ち上がる。
「やったぁ、飲みにいこう!」
お嬢も立ち上がる。
 こいつら、ここでグテグテ飲んでて、まだ飲むつもりなのか。
「おまえらの頭には酒しかないのか」
「まあまあ、明日から出航じゃんか。出航したら酒飲めないぞ。だ
から酒飲みにいこう」
銀次の理論にはついていけん。
「ゴロちゃんてばへんくつだよん」
悪かったな。

 外は雨が降り続いていた。
いったい、いつになったら止むのか・・・
時間は夜8時。銀次に言わせれば飲みはじめるのに丁度良い時間な
のだそうだ。
 俺たちはそれぞれ傘をさしてマンションを出た。
戸口でアジア系の中国人っぽい男とすれ違う。
「しかし、ここんとこずっと雨だよな」
銀次はうらめしそうに空を見上げる。
「そうそう、お洗濯物が乾かなくて困っちゃうよね」
「お嬢、洗濯なんかするの!?」
「失礼ね、お洗濯ぐらいするわよ・・・ たまには」
俺はへらへらしながら、銀次とお嬢のやりとりを見ている。
なにげなく後ろを振り向いたとき、マンションの戸口であった中国
人風の男が近づいていた。
 いつの間にきたんだろう。
俺は男が手に隠すように持っている刃物を見つけた。夜行灯に照ら
され、それがギラリと光った。
「銀次!」
俺は叫ぶ。
男は刃渡り20センチはあるだろうナイフを突きつけてきた。
「うぎゃー!!」
銀次が叫ぶ。
俺は体が動かない。
どしゃぶりの雨のなか、血まみれになって転がる銀次。
まるで、スローモーションの映像を見ているみたいにゆっくりと、
濡れた道に転がる銀次。
 雨水とともに、あたりは一面真っ赤に染まる。
「キャーッ!!」
お嬢が叫び声をあげた。
「ワタシ、ニホングンタイユルサナイ。アジアノヘイワマモル」
男は自分の行為を正当化しようと必死に騒ぐ。
「イヤーッ!」
お嬢が血まみれの銀次に飛び付く。
 俺は男に足ばらいをかける。
男はナイフを落として倒れ込んだ。
 警官が駆けつけてきた。
「ニホングンタイユルサナイ」
 どしゃぶりの雨の中、真っ赤になった世界に俺はどうする事も出
来ずに茫然と立ち尽くしていた。


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