#2224/5495 長編
★タイトル (CWJ ) 93/ 7/13 13:59 (124)
NAVY CRISIS −7− 作 うさぎ猫
★内容
「ひゃーはっは」
「キャッキャッ」
あぁ、うるさい。
「だからよぉ」
「えーっ、ギンちゃんたら」
ああ、やかましい。
「おまえら静かにしろ!!」
俺はキーボードを打つ手を止めて、大声で怒鳴った。
銀次とお嬢がキョトンとする。
まったく、ひとの部屋来てきゃいのきゃいのとウルサイ。
多一郎のウイルスに対抗するため、ワクチンプログラムの開発を
始めたのだが、大した用事もないのに・・・
「ひゃーはっは!」
うるさい! うるさい! うるさい!
「おまえら何してんだ」
銀次とお嬢は日本酒で顔を真っ赤にしている。
「やん、お酒飲んでるだけじゃん」
お嬢は完全に酔っ払っている。
湯飲み茶碗でがぶがぶ飲んでいる銀次が口を開く。
「今、五郎はなぁ、正義のために戦っているんだ」
「ひゃーぁ、ゴロちゃんかっこいい」
ケラケラ笑うお嬢。こいつらバカにしやがって。
「なぁ、五郎。そんなこと整備課に言えばいいじゃん」
焦点の定まらなくなった銀次は、ろれつの回らない口調で言う。
「言ったよ。整備課にも機関長にも言った」
「それで?」
「笑われた」
そうなのだ。俺はこの事を整備課に申告し、機関長にも言った。
しかし、信じてはもらえなかった。
「だから、俺がやるしかないんだよ」
「本庁には言ったのかよ」
銀次は思考能力も落ちているようだ。
「警察官僚ばかりの防衛庁が俺の話しなんか聞いてくれるもんか」
俺は警察がキライだ。
だいだい自衛隊の事務機関である防衛庁の中核職員が、なんで警察
庁の天下りばかりなんだ。
おもしろくない。
「あぁ、そういえばさぁ」
上機嫌のお嬢がにこにこしながら口を開く。
「最近、電算課にペンタゴンから問い合わせがよく来るよ」
「ペンタゴン? ペンタゴンがなんだって!」
俺はお嬢に詰め寄る。
お嬢はびっくりして後ずさりする。
「いえ、幹部が直接応対しているから詳しくは知らないんだけど、
きくかぜのMCSデータを見せてくれとか、S−RAMのデータが
書き変わっているとか・・・」
俺の頭の中に、深夜、岩国基地上空を飛ぶトムキャトの記憶が蘇
る。
米軍はウイルスの事に気付いているんだ。
そして、海上自衛隊ともコンタクトをとっている。
機関長も、ひょっとして知っているのか。
「あーっ、頭にきたッ。」
俺が憤慨していると、突然、電話がけたたましい音をたてた。
「もしもし」
俺はぶっきらぼうに電話を取る。
「あぁ、五郎さん?」
女性の声だ。それも子供の。
「えっと、どちらさま?」
「やーだ、忘れましたの。ゆき子です」
喫茶店らふぇーる。
豪雨の中、俺はゆき子に呼び出されてやって来た。
「お兄様のお話しを聞いていただけました?」
奥のテーブルに座る美少女が笑顔で聞いてくる。
ゆっくりと、テーブルへ歩く。
「多一郎は君の兄なのか」
テーブル越しに美少女ゆき子の目を見ながら聞いた。
ゆき子はにこやかに微笑んでいる。
透けるような白い肌に長い黒髪。汚れたものを見たことのないよう
な美しい瞳。
これだけの容姿を備えた子が、女神のような笑顔で微笑む。
はっきりいってツライ。
多一郎のときのように、すらすら言葉が出てこない。
胸が高鳴っている。
「お兄様と協力していただけますか」
「それは、出来ない」
ゆき子の笑顔がスッと消えた。
「なぜ?」
「君たちの考えはまちがっている。だいいち、多一郎の本当の目的
は支配欲だけじゃないか」
目を逸らしながら一気にしゃべる。
「日本には、真の指導者が必要なの。残念なことだけど、この国の
ひとたちは強大な権力の元でなければ生活していけないわ」
「バカげてる。誰も独裁者なんてのぞんでない」
「お兄様は独裁者じゃないわ、お兄様は指導者になるの」
「どちらにしても、日本人はそんなものいなくても生きていける」
俺はテーブルをドンッと叩く。
「うそよ」
ゆき子は確信を持った瞳で俺を見る。
「皆、そう思いたいだけ。親なんていらないと主張する子供のよう
にね。日本国には大昔から支配階級が存在したのよ。その中で人々
はうまくやっていた。今になって指導者がいらないなんて、出来る
はずがないじゃない」
ゆき子の瞳が濡れている。泣いているのか。
「貴族・武士・天皇と、この国の指導者は変わってきたのよ。そし
て、今の支配階級は国会であり、指導者は内閣総理大臣であるはず
なのに、その力はとても弱いわ。尊敬されない指導者なんて、指導
者としての資格はない」
「多一郎だったら指導者として的確だというのか」
「わたしたちは革命を起こすの」
突然の稲光。ドーンッという音とともに、雷が近くに落ちた。
店内のウエイトレスがキャーキャーいって騒ぐ。
そのなか、ゆき子はじっと俺の瞳を見つめていた。
「わたしたちと一緒に戦ってください」
「・・・俺は、俺には、できない」
自衛隊をうらぎるなんて出来るはずがない。
それに、日本は民主国家だ。
革命なら選挙を通してやるべきだ。
「五郎さんに見てもらいたいものがあるの」
ゆき子は立ち上がる。俺の目をじっと見つめたまま。
「目をつぶって」
言われるままにまぶたを閉じる。
瞬間、体が軽くなったような錯覚を感じる。
恐くなって目を開けた。
真っ暗な闇。暗くてなにも見えない。
「なんだぁ、これはなんなんだ!!」
落ちていく。
どんどん体が落ちていく。
どこかで雷の音が聞こえた。
−8−へ・・・