AWC 『Angel & Geart Tale』(19) スティール


        
#2172/5495 長編
★タイトル (RJM     )  93/ 6/19   0:11  (122)
『Angel & Geart Tale』(19) スティール
★内容

       『Angel & Geart Tale』 第十一章


 ところが、二、三日して、状況が、また、変わった。札幌の彼女が、僕が、彼女
の後を追わないと聞いた途端、態度を変え、泣き叫んで、僕に、札幌に来るように、
言ったというのだ。僕は、あまりことにあきれた。彼女のそういう態度が、問題を
複雑にし、すべてをダメにしたのだと、僕は思った。
 僕には、もう、彼女の後を追うつもりは、なかった。石原さんは、そのあとも、
毎日のように、泣き叫んで、僕が札幌に来ることを望んでいたらしい。何十人もの
人が、僕に、彼女のいる札幌に行くように言った。だが、僕は、彼女のその態度が
気に入らなかった。なぜ、自分で、直接、連絡しないのだろうか、と、僕は、疑問
に思った。そのことに、僕は、とても、腹が立った。彼女を許せないと、思った。


 多くの人が、僕に、札幌行きを勧めるなかで、彼女と一緒に歩いていた、あの背
の高い二人組は、相変わらず、僕と、彼女との仲をぶち壊すそうとしていた。中村
伸夫と石田浩之は、僕の姿を見るたびに、僕に、近寄って来ては、『石原さんに、
ちんぽしゃぶってもらって、気持ち良かった』とか、『石原さんに、二人いっぺん
に相手にしてもらった』とか、大声で叫んで行った。いったい、彼らが、どういう
つもりなのか、僕には、まったく、わからなかった。ただ、それを、聞くたびに、
確実に、僕の彼女への愛情は薄れていった。あんな、くだらない人間と行動をとも
にしていた、彼女が、もう、信じられなくなっていた。僕は、彼女が清純そうなふ
りをして、最初から僕を騙していたのではないかと、いまでも、疑っている。

  僕は、彼女に謝罪してほしかった。彼女に、いままでの事を、一言でもいいから、
謝罪してほしかった。あの十月に、札幌行きを辞めたあとでも、彼女が直接僕に謝っ
てくれれば、僕は、札幌に行っていた。せめて、あの背の高い二人と行動をともに
したことだけでも、一言でも謝ってくれれば、僕は彼女を許せると思った。なのに、
彼女は、僕に、直接、連絡をくれなかった。

 彼女と付き合うことよりも、彼女に謝罪してもらうことのほうが大事だった。きっ
と、直接、連絡して、謝ってくるだろうと、期待して、僕は、待っていた。でも、
とうとう、最後まで、彼女から、連絡が来なかった。あのときの、彼女の行動が、
僕には、まったく理解できない。なぜ、当の本人には連絡もしないで、他の人達に
さんざん言いふらすのか、僕には、彼女の気持ちがわからなくなった。
 彼女は、自分が悲劇のヒロインの気持ちを味わうために、僕やその他の人を利用
しているだけなのだろうかと、考えたこともあった。
 なんで、二人だけの問題を、僕に直接連絡しないで、他の人を通して連絡しなけ
ればならないのか、僕には、わからなかった。ハガキの一枚でもくれて、彼女の連
絡先でも教えてくれれば、すぐに話し合えるのに、なぜ、彼女は、それをしないの
だろう。それを、なんで、わざわざ、関係のない他の人まで、彼女は、巻き込むの
だろうか。

 僕が、彼女を好きになったのも、彼女に騙されたようなものだった。僕は、彼女
の美しさには、特別、想い焦がれてはいなかった。ただ、彼女と話がしたかった。
彼女がどういう人なのか興味があった。きっと、彼女とわかりあうことができて、
愛し合うことになるだろうと、確信して、信じていた。それが、運命だと思って、
彼女を信頼していた。しかし、その本当の実態は違った。彼女のような人を好きに
なってしまったのは、僕の人生のなかの最大の汚点だった。彼女に、彼女のことを
初めて見たときから好きではなかったと、嘘をついて、認めなくて、本当に、良かっ
たと、思った。

 僕は、彼女を責めているわけではなかった。騙された僕が、悪いのだ。もう少し、
しっかりしていれば、彼女がどういう人なのか、見抜くことができたはずだった。
それを見抜けなかった僕がどうかしていたのだ。

 とにかく、彼女は、何もわかっていないのだ。あれだけ、他人に迷惑をかけなが
ら、なぜ、謝罪しないのか。ほんの少しでも、謝ってくれれば、たとえ、彼女がど
んな人でも、きちんと、付き合ってあげたのに、なんで、そういうことがわからな
いのか、僕には理解できない。なぜ、謝罪しないのか。彼女のせいで、僕が、どれ
だけ、嫌な思いをして、どれだけ、迷惑したか、彼女はまるで、理解していない。


 彼女と係わりあうまで、僕の人生はバラ色だった。あれから、毎日が、つらく悲
しいものに変わった。なぜ、彼女は、連絡先を教えてくれなかったのか。そうすれ
ば、次の日にも、すぐ、連絡したのに。それを、彼女が、平然と8mmに出続けてい
るから、僕が、判断を誤ったのだ。兼子さんに、あんなひどいことをされながら、
彼女には、なんで、それをわからないのか。

 彼女がばかだから、僕が苦しむことになったのだ。連絡先が分からず、僕がどん
なに苦しんだか、彼女に、いくら言っても、彼女は、それを理解しようと、しない。
彼女は、その間に、兼子さんや、加茂谷さんや、他のたくさんの男と遊び回ってい
たのだ。彼女は、僕のために、髪を切るよりも、自殺したほうが良かったと、僕は
思っていた。そのほうが、生きて、あんなひどいことされるよりも、良かった。
 彼女とのことに巻き込まれてから、生活がバラ色ではなくなり、だんだんと、重
い色に変わった。彼女は、人の一生を、メチャメチャにしていた。彼女さえいなけ
れば、僕は、もっと、幸福な学生生活を送っていた。なぜ、彼女は、謝らないのか。
誘われれば、誰とでもつきあうくせに、彼女は、純情そうな少女のふりをして、僕
を騙して、僕の一生をメチャメチャにした。彼女は、いったい、何を考えているの
だろう。彼女からの連絡が来ないから、彼女に確かめようもないのだ。連絡さえく
れれば、彼女に聞きたいことは、山ほどあった。
 謝罪すれば、許してもらえることが、どうしてわからないのだろうか。付き合う
付き合わないの問題ではなく、謝罪するかしないかの問題なのに、どうして、その
ことが、わからないのだろうか。どうして、直接、連絡しなければ、意味がないこ
とがわからないのか。もっとも、彼女は、ただ、悲劇のヒロインの気分に浸ってい
たか、僕を陥れるために、そういう行動をとっていたのかもしれない。

 彼女のせいで、顔から微笑みが消えた。親に捨てられた施設の子供を見ても、か
わいそうだと、感じなくなった。あのとき、彼女が苦しんでいても、札幌に行かな
かったのは、もう、孤児院のかわいそうな子供をみても、同情しなくなったためか
もしれない。僕の情感や感性は、明らかに、後退していった。もう、そのときから、
四季の移り変わりも、桜の花びらも、秋の落ち葉も、施設のかわいそうな子供をみ
ても、なんとも、思わなくなった。彼女のせいで、僕の人生がメチャメチャになっ
ただけなら、まだ、よかった。それ以外にも、微笑みや、やさしさ、人間らしさを、
僕は失った。明らかに、僕は変わった。彼女のせいで、いろいろなものを、失った。
彼女が、謝ってさえくれれば、また、人間らしい心が取り戻せるはずなのに、彼女
は連絡すら、寄越さなかった。

 僕は、石原さんを追っていかなかった。だが、彼女のことを、彼女が僕を想って
くれている何十倍何百倍も、愛していた。なぜ、彼女は、僕に連絡をくれないだろ
う。いま、そうしなければ、僕には、彼女を許すことができないのに。僕は、一日
千秋の思いで、彼女からの連絡を待っていた。

 現実に、僕たちは、一言も言葉を交わしていないのに、お互いに、死ぬほど愛し
合っていた。ただ、彼女が、そのとき、連絡を寄越さなかったために、僕は、彼女
のあとを追わず、それっきり、僕らは、出逢うことはなかった。いまだに、僕の心
のなかの、彼女に対する想いは、消えない。いま、彼女はどこにいるのだろうか。
僕は、いま、それすらも知らない。
 あのとき、なぜ、彼女のあとを追わなかったのだろう。あとで、後悔することは、
分かりきっていたことだった。彼女が許せなかったから、それとも、もう、嫌気が
さしたから。いまだに、一人で部屋にいると、時々、妄想や幻覚に苦しむ。彼女が
ひどい目に遭っている幻覚や、彼女が自殺する幻覚に、僕はさいなまれる。闇は、
永遠にして、自在、水のように、形無く、僕を包んで、僕を苦しめた。いったい、
この苦しみが、いつまで続くのか。僕は、きっと、永遠に苦しむ。

 結局、僕は、一年、留年し、それから、就職した。彼女とは、それっきりだった。
僕は、成功するや、否や、何かから、逃れるように、日本を抜け出した。日本を捨
てきれぬまま、ポケットに、彼女の写真を入れたまま、僕は、香港に旅立ったのだ。

 そう、僕は、過去の苦悩や、その他のものから、逃れるために、日本を抜け出し
たに違いなかった。




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