AWC 護田鳥の夏 5   永山


        
#5173/7701 連載
★タイトル (AZA     )  97/ 7/30  20: 9  (174)
護田鳥の夏 5   永山
★内容
 さらに一時間強が経過−−。
 会議室内の騒ぎが、大きくなりつつあった。
 食事の配付もなければ、命令が下されることもない。教団員の誰も、顔を見
せさえしないのだ。
 ライフラインでもある電話回線は、何度呼び出しをかけても、うんともすん
とも反応しない。
 中からドアをいくらノックしても、何ら応答がないことに変わりはなかった。
「どうすべきだろう?」
 妹尾副所長を中心として、話し合いが始まる。
 と言っても、選択肢はさして多くない。
 このまま大人しく待つか。ドアを破るか。
「扉の向こうに、見張りがいないことは、確かだと思う」
「しかし、脱出は無理だろう」
「脱出なんて、とんでもない! 連絡を取りたくて、やむなく部屋を出たとい
うことにしなくちゃ」
「誤解されて、撃たれるかも……。だったら、大人しく待つ方が」
「丸腰の我々を、いきなり射殺するとは考えにくい」
 そんな議論が交わされたが、結論は簡単には出ない。
「護田の鳥の奴らが、私達を試している訳じゃないでしょうし」
 和久井の囁き声が、田守の耳に届く。
「試すとは?」
「無反応を装って、私達研究所員の中で、反抗的な者と従順な者とを分類しよ
うとしてるのかなってね。でも、どう考えても不自然だし」
「そうで−−」
 田守が相槌を打とうとしたとき、急に建物の周辺の気配が変化した。
 どこか遠くでガラスの割れる音がした。続いて、合戦が始まったかのような、
地鳴りめいた響きが沸き起こる。
(な、何だ?)
 田守だけでなく、全員が戸惑う中、やがて地響き−−多人数が駆け抜ける足
音らしい−−は会議室前の廊下に。
 息を飲む田守達。
 そして−−扉は開かれた。

 護田の鳥教団の、FFF遺伝子作物研究所占拠は、わずか一日あまりで収束
を見た。
 食糧に仕掛けられた睡眠薬によって、簡単に意識を失った連中は、突入して
きた機動隊の手で、あっさりと拘束された。
 いかにして、教団員にのみ薬を服用させたか? 種を明かせば単純、自然食
物とFFF食物との差を利用したまでである。
 外からの援助物資の中に、自然食物は限られた分量しかなく、護田の鳥教団
員は当然、FFF食物を避け、自然食物を優先的に摂取した。その中に、特殊
な睡眠薬を混入しておいただけである。これも一種の遺伝子操作作物で、十二
時間が経過するまでは摂取しても何の症状も来さないが、経過後は、薬が効果
を発揮するようになる。それ以前に体内に取り込んでいた者も同様だ。
 故に、教団員達が二交替にしようが三交替にしようが、十二時間を空けずに
食べさえすれば、薬の存在を知られることはない。
「結局、FFF食物様々って訳ね」
 研究所の自室で、事件を伝える新聞を見入っていた田守の前に、和久井が姿
を現した。彼女は勝手に、手近の椅子に落ち着いた。
「そのようで……。あんな物騒な時限薬物を仕込めるまで、開発が進んでいた
なんて、僕らも知らなかった」
 TD(時限薬物)の技術は、米国にあるFFF遺伝子作物研究所の開発……
と伝え聞いている。本来は、医療目的で研究が進められていた物らしいが、思
わぬ形で役立った訳だ。
「それよりさ、あのとき助けた子供が、最後のナチュラルチルドレンだったな
んてね。運命の皮肉を感じる」
「そんな大げさかなあ? とんでもない偶然だとは思いますが」
 児島美香は、その振る舞いから察せられた通り、護田の鳥教団信奉者を親に
持つ子供だった。しかも、自然食物のみを摂取して育てられてきた、教団にと
っては己の正しさを証明するための、大切な存在の一人。
 そのように育てられた子供は十人おり、この点、禰津のもたらした情報は正
しかった。
 ただ、その十人の内九人までが重い病気にかかり、数名はすでに死亡してい
るという。命を今のところ取り留めている子達も、教団の志す実験を遂行する
には、とても体力が持たない状態であるらしい。
 唯一の希望の星であった児島美香が誘拐されたと知ったとき、教団は上から
下まで、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
 その後、美香が無事に帰ってきて、一時は安堵したが、誘拐犯の手によって、
無理矢理FFF食物を食べさせられそうになったと聞き、再び慌てることにな
る。
 −−わずかとは言え、体内に入ったのではないか? その恐れから、教団内
部え方向性に違いが生じ始めた。
 児島美香に望みを託そうとする一派と、もはや望みは絶たれたとし、強硬手
段に出ようとする一派に。後者が、今回の占拠事件を引き起こした訳だが。
「結局、取り潰しにはならない?」
「みたいです。この程度のことじゃあ、信教の自由とかを覆すには至らないら
しくて」
「やっぱりね。ま、予想できてたけれど……巻き込まれた当事者としちゃ、た
まんない」
 首をすくめると、和久井は不意に笑った。皮肉っぽい。
「でも、おかげで誘拐事件絡みでは、抗議を受けなかったんだから、よしとし
ましょうか。どう思う、田守君?」
「……命を落とした者はいなかったんだから、いいんじゃないですか」
 先日、やっと退院した弓削所長の顔を思い浮かべつつ、田守は答えておいた。

〜〜〜

 たねは まかれた
 でも めぶかない
 ほしのだいちが やんでいる


    田守耕作 タモリコウサク 大 枯れ地Vストロベリー護田の鳥教団

和久井義子 ワクイヨシコ     地 生理異常N−5遺伝子作物研究所因

      弓削敏樹 ユゲトシキ が 果関係、証明されずリアルライス食

禰津竜也 ネヅタツヤ       植 糧難人間が卵から? そいつはいい


           たねは まかれた
           さあ うまれよう
           あくまのちから かりてでも


      李相乾 リーサンコン 物 ねえ! FFF(ファンタスティッ

児島美香 コジマミカ       を ク フーズ ファクトリー)妊娠二

    妹尾毅彦 セノオタケヒコ 拒 十五ヶ月Sウィート誘拐カルシウム

児島みさお コジマミサオ     絶 片に覆われた赤ん坊ナチュラル・プ


           ことりがはこんだみどりたち
           かがくがつくったみどりたち
         いいゆめみるには どちらをえらぼう? 
           めざめがこない とわのゆめ


     宇留野薫 ウルノカオル し ロジェクト稲をくわえた小鳥のシン

児島達郎 コジマタツロウ     始 ボル一人でも正常な人間がいれば、

      森りえ子 モリリエコ め みんな助かるんだからね親離れ『ト

日岡京太郎 ヒオカキョウタロウ  た ロッコ』冷凍保存された精子食べて


                      たねは まかれた
                      さあ うまれよう
                      あくまのちから かりてでも

〜〜〜

 護田の鳥教団が呼称するところのN−1〜N−4、N−6〜N−10の内、
七名が死亡。残る二名のN−1とN−3も瀕死の状態。
「教団からのカルテにある通りって訳か」
 最終判断を任された立場の、森りえ子がぽつりと漏らす。
 教団直属の病院からQ大学病院に搬送されてきた二名を診た医師の数は、二
桁に昇ろう。
「原因不明−−教団の医者連中も、うちのスタッフも、全く同じ結論かい。分
かったのは、内臓にダメージを受けていることだけ」
 カルテの束に再度、目を通しながら、ぶつぶつと独り言。
「出血は極わずか。胃や食道なんかが壊死していき、再生されない……。死因
は栄養失調だろうが……その大元の疾病の正体が分からん。ああ、くそ! 遺
体が残ってないのは、きついな。勝手に燃やしちまいやがって。せめて、徹底
的に調べてからにしろってんだ」
 病死した子らを焼いた灰は、教団所有の田畑に蒔かれたという。真偽のほど
は定かでないが、たとえ今から回収しても原因究明の役には立つまい。遺骨の
方が、まだ可能性は残されている。
「一応、当たってみるか。許可、もらわないといかんな。ああ、面倒だがやら
なくちゃ」
 入院している二人は、現在、意識はある。痛みもほとんど感じないらしい。
ただ、体力が劇的に落ちており、物を咀嚼する力さえ残っていないため、流動
食と点滴で栄養を与えている。
 胃の機能も日に日に落ちているため、流動食もやがて使えなくなりそうだ。
「教団が子供に与えていた食い物について、FFFの研究所が中心になって調
べるとか言ってたっけ。何か、皮肉だね」
 せせら笑う森。
 息が詰まりそうな中、笑うきっかけがほしかっただけだ。
 別に、悪気があっての行為ではない。
「しっかし、おかしいな。自然食物ばっか食ってきたんだから、遺伝子の面で
は、何の問題もないはず。なのに、ナチュラルチルドレン−−嫌な呼び方だね!
−−はみんな、調子を崩している。……いや、違った。一人だけ、例外がいた
んだ」
 森りえ子の脳裏に、一人の子の呼び名が浮かんだ。
 N−5。
 児島美香のことである。
「ナチュラルチルドレン−−Nっ子十人の内の、たった一人の健康体。調べて
みる値打ちは充分だ」

−−了.続きは『護田鳥の秋』にて




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE