#5120/7701 連載
★タイトル (USM ) 97/ 5/30 23:58 (172)
海鷲の宴(4−2) Vol
★内容
12月10日1530時 マレー沖
「1時方向の水平線上に艦影発見。パゴダマストです!」
「ウェールズ」艦橋内に、緊張が走った。パゴダマストは、日本軍の戦艦が装備
する特徴的な艦橋だ。三脚檣や七脚檣に、フラットを逐次貼りつけて行ったため、
仏塔のような姿になっている。
つまり、ここにパゴダマストを装備した艦がいると言うことは、この方面に配備
されている金剛級戦艦が現れたことを意味していた。
続いて報告が入る。
「金剛級戦艦2隻。その他軽巡1、駆逐艦5!」
「戦力的には殆ど互角と言ったところか。いい勝負が出来そうだ」
リーチ艦長が、満足げな笑みを漏らした。
同時刻 第二艦隊旗艦「金剛」艦橋
「12時方向、水平線上に敵艦隊。距離45000!」
「来たか!」
近藤信竹長官は、待ちかねたように叫んだ。
「待っていたぞ、この時を……」
それは、本心からの言葉だった。空母と飛行機が主力となった日本海軍において、
砲術科の上級ポストは相対的に数が少なくなっていた。反面、正面装備だけの充実
を追い求めてきた海軍内部では、航空戦の専門家が非常に不足し、航空戦隊指揮官
のような重要なポストでさえ、欠員がボロボロと出る有り様だった。近藤のような
砲術科のエリート達は、少ないポストを巡って熾烈な競争を繰り広げていたのだ。
敗れた者は、空所補充も同然の屈辱的な人事に甘んじて、畑違いの航空畑のポスト
に就かねばならなかった。その熾烈な競争を勝ち抜いて、第二艦隊司令長官と言う
現在のポストを勝ち取った近藤の、その真価が、今問われようとしている。まさに、
砲術科エリートにとっての本望と言うべきだった。
「全艦突撃せよ!」
どっしりとした近藤の巨躯から、凛とした声で、命令が発せられる。
そして、第二艦隊所属の戦艦「金剛」「榛名」、軽巡洋艦「川内」、駆逐艦5隻
が、一斉に全速力で突っかかって行った。
「距離、35000を切りました!」
「撃ち方始め!」
近藤が、吼えるように号令する。
次の瞬間、「金剛」「榛名」の14インチ砲合わせて16門が、轟音と共に16
発の巨弾を叩き出した。真っ赤な閃光と共に、オレンジ色の発射炎が迸り、甲板上
を黒煙が覆う。
殆ど同時に、「プリンス・オブ・ウェールズ」「レパルス」も射撃を開始した。
彼我合計32発の砲弾が空中で交錯し、お互いの周辺に高々と水柱を上げる。
「弾着……いずれも遠弾です」
白石万隆参謀長が報告する。
「次は必中を期して行け!」
近藤の気合に応えるかのように放たれた第二斉射は、「ウェールズ」の左右に、
16本の水柱を生み出した。
「夾叉しました!」
白石が、嬉々とした顔で報告する。
目標の左右に水柱が上がると言うことは、砲弾の散布界に目標を捉えたと言うこ
とだ。あとは、確率次第で命中弾が出る。
「どんどん行け、撃ち負けるな!」
次の瞬間「金剛」は、10本の水柱に取り囲まれた。
「夾叉されました!」
「敵もどうして、なかなかやってくれる」
近藤が舌打ちする。
「弾着……『プリンス・オブ・ウェールズ』に、直撃1発!」
砲術長が、歓喜の声を上げた。
「ウェールズ」に直撃した「金剛」の砲弾は、煙突直後の上甲板で炸裂した。中
央部にオレンジ色の閃光が沸き起こり、周辺に設けられていた対空機銃や探照灯が、
要員の肉体もろともバラバラになって巻き上げられる。続いて黒煙が湧き出し、黒
っぽい破片が飛び散った。爆風の煽りを食って、すぐ下に設けられていた13.3
センチ両用砲が、台座ごと大きく傾ぐ。
その直後、「榛名」の第四斉射が「ウェールズ」を襲った。8発中3発が直撃し、
うち1発が第一砲塔を正面から直撃した。
だが、ヨーロッパ最強と言われるドイツ軍の戦艦「ビスマルク」に対抗する目的
で建造された、キング・ジョージX世級戦艦の分厚い装甲は、これに平然と耐えた。
砲弾は砲塔の前面装甲に弾かれ、右舷側の海面に水飛沫を上げた。
残りの二発も、舷側装甲帯に命中し、呆気なく弾き返されている。
一方、「ウェールズ」の放った10発の14インチ砲弾は、その内2発が「金剛」
に命中した。命中した砲弾の口径こそ同じだが、「金剛」の被害は、「ウェールズ」
とは比べ物にならなかった。
まず、第一砲塔の天蓋に命中した一発が、127ミリの装甲を易々と突破し、砲
塔内部で炸裂した。一瞬浮き上がったように見えた第一砲塔は、次の瞬間装填して
あった2発の砲弾の誘爆で内側から弾け飛び、無数の破片を撒き散らした。千切り
取られたらしい砲身の一本が、新体操のバトンのようにくるくると宙を舞い、海面
に落下する。
第三砲塔直後を襲ったもう一発は、水上機用のクレーンとカタパルトを跡形も無
く吹き飛ばし、航空燃料に引火して火災を発生させた。消火班が急行したところに、
「レパルス」の15インチ砲弾が至近弾となって水柱を吹き上げ、消火班の半分以
上が、硝煙混じりのどす黒い水柱に巻き込まれて、甲板上から海に投げ込まれた。
水柱で火災が消し止められたのは、不幸中の幸いと言える。
戦闘力の4分の1を喪失した「金剛」だが、それでも砲撃は続行された。
今度の命中弾は1発。「ウェールズ」の後部甲板を貫通した九一式徹甲弾は、士
官居住区に飛び込んで炸裂し、細かく区分けされた居住区画の隔壁を吹き飛ばして、
ちょっとした体育館ほどもある空間に変えた。
これに対する「ウェールズ」の砲撃は、再び「金剛」を正確に捉えた。斉射10
発中命中5発。50パーセントと言う、驚異的な命中率だった。
まず1弾目が後部煙突を襲い、甲高い音響と共に上部を吹き飛ばし、高さを半減
させた。
2発目は前檣楼頂部に命中し、砲弾自体は不発だったものの、ここに設置されて
いた主砲射撃用測距儀を艦橋構造物からもぎ取り、海に叩き込んだ。
そして3発目と4発目が、第二砲塔を相次いで正面から直撃した。衝撃で第二砲
塔は大きく傾き、旋回も射撃も出来なくなった。2本の砲身は根元からねじ曲がり、
それぞれバラバラな方向を向いている。砲塔要員は、衝撃で砲塔内壁や内部の機器
に叩き付けられ、全員が即死していた。
さらに5発目が、止めとばかりに、先の被弾で抉られていた後部甲板を襲った。
剥き出しになっていた装甲甲板を貫通した砲弾は、よりにもよって水圧機構や電路
が集中する区画で炸裂し、第三・第四両砲塔に旋回動力を伝達するための電路や、
砲身駐退機用の水圧管を、滅茶苦茶に破壊してしまった。
後部主砲塔、使用不能「「
この報告に、近藤は顔を引きつらせた。これで「金剛」は、戦闘力を完全に喪失
してしまったのだ。
「『榛名』に連絡だ。『我を顧みず、攻撃続行せよ』」
「金剛」の信号所から、発光信号で「榛名」に近藤の指令が伝達される。それに
答えるかのように、「榛名」が主砲を斉発した。「ウェールズ」の上空から投網の
ように覆い被さった8発の砲弾は、うち3発が命中した。
1発は右舷中央部で炸裂し、両用砲塔2基を叩き潰して、鉄と人体の残骸のペー
ストに変えた。
そして、残りの2発……この命中箇所が、海戦の流れを変えた。
「敵一番艦、戦闘不能の模様」
見張り員の報告に、フィリップスは双眼鏡を構えて戦果を自分の目で確認し、破
顔した。
「見事だ。この調子でもう一隻も頂くとしようか」
「了解。攻撃目標を敵2番艦に変更せよ!」
リーチが号令し、伝声管の向こうから復唱が返ってくる。「ウェールズ」は、次
の獲物に向かって主砲塔を旋回させつつあった。
そこに、「榛名」の放った砲弾が落下して来た。
直撃は3発。うち2発が、第一・第三両主砲塔の天蓋端付近を正確に直撃した。
直後、一際大きく震えた砲塔は、旋回部から白煙を吹き出して動きを止めた。動作
中に激しい衝撃を受けた旋回部が、負荷に耐えきれずに破損し、砲塔が回らなくな
ってしまったのだ。命中箇所が天蓋中央部なら、分散された衝撃力は旋回部が吸収
できたかもしれないが、片側だけに大きな負荷が掛かったため、バーベットのギア
が歪んでしまった。
両主砲塔の4門づつの長大な砲身は、なおも仰角を掛けて天を睨んでいたが、も
はやそれが火を噴くことはなかった。
「第一・第三砲塔旋回不能!」
フィリップスは顔色を変えた。「ウェールズ」の牙とも言うべき主砲火力は、こ
れで一気に20パーセントになってしまったのだ。よりにもよって、門数の多い砲
塔ばかりやられるとは!
「ま……まだだ。射撃続行、敵2番艦を何としても仕留めろ!」
フィリップスの号令に、「ウェールズ」と「レパルス」合わせて8門の主砲が、
一斉に火を噴いた。
だが……当たらない。数発が至近弾となって、舷側の機銃と副砲を何基か破壊し
ただけで、致命傷となるような損傷は何もなかった。
そして、英艦隊にとって更に厄介な事態が発生しようとしていた。
「1時方向に複数の艦船……日本海軍の重巡です!」
南遣艦隊に所属する5隻の重巡が、全速力で突っ込んで来たのだ。
「派手にやられているな、『金剛』は……」
小沢治三郎中将は、旗艦「鳥海」の戦闘艦橋で呟いた。
英艦隊が北に向かっているとの知らせを受けた小沢は、フィリピン攻略部隊の高
橋伊望中将に掛け合って、軽巡「那珂」と一個水雷戦隊を借り受けて空母の護衛に
当てると、自ら「鳥海」「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」の5隻を率いて、全速
力で西進したのだ。
小沢が見たところ、全体的にはまだ英艦隊が押しているように見受けられた。第
二艦隊旗艦の「金剛」は特に損傷がひどく、前部2基の主砲塔が破壊され、後部の
2基も動力系統をやられたのか、動きを止めている。
対する英艦隊も、「プリンス・オブ・ウェールズ」が、第一・第三砲塔から白煙
を吹いている。
だが、主砲火力では、8門中6門を威力の大きい15インチ砲が占める英艦隊が
有利だ。
「もう一押しと言うところか。全艦に通達! 『レパルス』を食うぞ!」
威勢よく下された小沢の指令に、5隻の重巡が一斉に突っかかって行った。「ウ
ェールズ」の13.3センチ両用砲が、「レパルス」の6インチ単装砲が、釣瓶撃
ちに砲弾を放つ。突進する重巡部隊の周囲に、無数の水柱が奔騰する。「三隈」の
艦上に閃光が走り、クレーンの支柱を兼ねている後檣楼が大きく傾ぎ、スローモー
ションのようにゆっくりと倒壊して行く。
「敵もどうして、打つ手が早い」
小沢は、舌打ちした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
……は。しまった、またしても続いてしまった^^;^^;
Vol