AWC ベツレヘム777  第18話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第18話       リーベルG
★内容

「それでどうしたの?」グレイヴィル市長は青ざめた顔で訊いた。
『激発した兵士たちは、そのままプラントに突入していった』ウェイ大佐は心
身両方の疲れのせいか、実際よりずっと年老いて見えた。『その時点で、すで
に指揮系統は崩壊したも同然だった。イワネンコは、やむなく全隊に突入命令
を出した。結果として、人質の6人が死亡、8人が負傷してメディカルセンタ
ーに運ばれた。ソウルズは全員射殺され、こちらも7人の兵士を失った』
「その間抜けな指揮官をこの手で絞め殺してやりたいわ」グレイヴィル市長は
リンクの反対側にいるウェイ大佐の顔に突き刺さりそうな勢いで指を突きつけ
た。「あなたもよ、大佐。部下の統制もろくに取れないようなやつを指揮官に
するなんて」
『やむをえんさ。SSOCに割り当てられる予算は、年々減少する一方だ。別
にあんたを責めているわけではないが、予算の削減は、装備と訓練のクオリテ
ィに直接響いてくるからな。今回も、スナイパーを同行させていれば……』ウ
ェイ大佐は忌々しそうに鼻を鳴らしたが、すぐに表情を切り替えた。『ところ
で、緊急に連絡したのは、あんたに愚痴や弁解を聞かせるためではない。施設
の中でイワネンコが奇妙なものを発見した。厄介なことになりそうだ』
「これ以上厄介な事態は願い下げだわ。何を発見したというの?」
『これだ』
 ウェイ大佐の上半身と入れ替わりにディスプレイに映し出されたのは、ごく
あたりまえに存在するリストデバイスだった。
『何だか当ててみるかね?』
「当てるも何も、スタンダードタイプのリストデバイスじゃないの。うちの息
子はプロ用のを持ってるわよ」
『そう見えるだろうが、それはカモフラージュにすぎない。こいつは実に精密
に造られたESR(電子スピン共鳴)式磁気発生機構と、SQUID(超伝導
量子干渉素子)を内蔵している、対人磁気スクランブラーなのだ』
 ウェイ大佐がグレイヴィル市長の驚愕を期待していたとしたら、さぞかし失
望したことだろう。市長は軽く首を傾げただけだった。その素振りが先を促し
ているのだと知ったウェイ大佐は、説明を続けた。
『うちに技術班によるとだな。このスクランブラーは、100から400テス
ラの磁場を人間に照射するらしい。人体からフィードバックされた磁場をSQ
UIDセンサーが捉えて磁場を調節する。超伝導素材利用のバッテリーだし、
人体の体内電流を蓄積することもできる半永久機関だ』
「それで?」グレイヴィル市長は苛々と先をうながした。「その、なんだかも
のすごそうなデバイスは、何をするの?」
『今、それを言おうとしたんだ。つまり、こいつは一種の洗脳装置なんだよ』
「洗脳ですって?」
『そう。簡単に言うと、磁場で脳波に干渉し、深層心理にイメージを植え付け
るのさ。どんなイメージなのかは、やられてみなければわからんが、おおよそ
の想像はつく……』
「言わなくてもいいわよ。どうせ、魚のシンボルか、十字架に決まっているわ
ね」グレイヴィル市長にも、ようやく事の重大性が飲み込めた。「そのデバイ
スはたくさんあったの?」
『あった……というか、あったらしいな。この施設の奥に、こいつの製造ライ
ンが設けられていた。もう何年も前から、このスクランブラーはここで製造さ
れ、<ジブラルタル>中にばらまかれていたのかもしれない』
「なるほど。リストデバイスなんか目立たないから、それはあり得るわね。そ
のせいで、突然ソウルズが増加したのね。でも、例の<ベツレヘム>からのレ
ーザーパルスはどういう関係があるの?」
『まあ待て。まだ先があるんだ』
「楽しい話?」
『残念ながらその逆だ。聞きたいかね?』
「いまさら耳を塞ぐわけにはいかないわ。続けてちょうだい」
『地球の人間がみんな死んでも、ソウルズは死に絶えたわけではなかったんだ
な。私が言っているのは、ネオ・ソウルズではない。ジン・バーソロミュー八
世を直接崇拝していた過去の亡霊たちのことだ。<ジブラルタル>でも、他の
コロニーでも彼らは市民の間に紛れ、秘かに活動を続けていたんだ』
「ジン・バーソロミューがやり残した仕事を完遂するためにね。だから、私た
ちは、心理・思想チェックをうんざりするほど続けて、要観察者を選び出して
きたのよ」
『それらのテストが不十分だったことは、先ほど証明されたとおりだが、問題
は奴らが何をしてきたかだ』
「そうね」
『施設の奥から発見されたものはまだ他にもあった。大量の音声・画像データ
パケットのアーカイヴだ。内容は想像がつくだろうな?』
「ええ。何となくわかってきたわ。ネットメディアに秘かに紛らわせて、ソウ
ルズを肯定する暗示を市民にかけたのね」
『おそらくその通りだ』ウェイ大佐は憂慮のにじむ声で答えた。『結果として
我々が導き出したソウルズの戦略はこうだ。音声や画像で市民の間にソウルズ
への興味をかき立てる。無意識に近いものだろうがな。そして例のスクランブ
ラーで深層意識にイメージを投影する。偶然デバイスを手に入れた市民を標的
にだ。最後に<ベツレヘム>からのレーザーパルスで引き金を引くんだ』
「いつからなの?」
『見当もつかない。ホーリーナイト直後からだとすると、相当に遠大な計画だ
な』
「自分でも気付かないうちに、ソウルズ思想に汚染されているわけね。ぞっと
するわ」
『今のところ、ソウルズとしての本性を露にした市民は、1パーセント未満に
すぎないが……』
「5パーセントを越えたら、保安軍の兵力ではコントロールできなくなるわね。
それどころか、また先のように兵士たちがソウルズ化する可能性も大いにある
ってことよ」
『もっとぞっとすることを言ってもいいかね?』
「何?」
『他のコロニーでも、同様の事態が進行中だ。もし、市長や軍司令官がソウル
ズ化して、<ジブラルタル>に攻撃をかけてきたらどうする?』
「そんなことなの」グレイヴィルはおもしろくもなさそうに笑った。「もっと
ぞっとすることを言ってもいい?」
『何だね?』
「私が何よりも恐れているのはね、私自身がソウルズになってしまうことよ。
ジン・バーソロミューを崇め、神の名を叫び、<ジブラルタル>の破壊活動に
赴く自分を想像すると、心が凍りつきそうになるわ」
『安心しろ。そういう時は、私が自分の手で射殺するから』
「感謝するべきなのかしらね」
『何、心配はいらないさ。一番ソウルズになりそうもない人間を挙げるとした
ら、あんただからな。ところで……』ウェイ大佐の口調が私人としてのそれに
変わった。『あんたの子供達の居場所はわかったのかね?』
「素直に、ダイ・ジャーランの居場所、と言ったらどうなの?他人の子供より、
自分の姪を心配するのは不自然なことではないわ。いいえ、まだよ。おそらく
他のコロニーだと思うけど、詳しいことは追跡中よ」
 グレイヴィル市長のささやかな偽りに気付いたのかどうか、ウェイ大佐の顔
からは判別がつかなかった。
『そうか。騒ぎに巻き込まれていなければいいが……では、また連絡する』
「B級警報はすぐに発令するわ」
 リンクが切断された。

                                つづく





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