AWC ベツレヘム777  第17話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第17話       リーベルG
★内容

 イワネンコ少尉は戦術ゴーグルをかけて、プラント施設のエントランスを見
た。拡大された映像が網膜に投影された瞬間、思わず罵り声が洩れる。
 兵士の報告は正確ではなかった。施設から出てきたのは3人だった。ただし、
自分の足で歩いているのはソウルズ兵一人である。
 残りの二人はどちらも人質となっていた子供だった。、一人はソウルズ兵の
身体にテープで固定されたまま、恐怖で声も出ない様子である。もう一人は、
兵士に抱きかかえられて、ハンドガンを頭に突きつけられている。プラント施
設を包囲した兵士たちの間から、一斉に怒りの声が上がった。
 ソウルズ兵は、40対もの怒りの視線を受けながら、平然と立っていた。そ
の顔に浮かんでいるのは恐怖でも戦闘の緊張でもない。後悔や良心の呵責から
もほど遠い表情である。イワネンコはその正体に思い当たると同時に、心の底
からぞっとした。
 殉教者の顔だ。
「人質を避けて狙撃できるか?」イワネンコは囁いた。
「だめです。スナイパーライフルを装備している兵はいません」小隊長が囁き
返した。「制式銃で撃ち損なえば、人質のどちらかは確実に死にます」
「話してわかるような相手ではないぞ」
「時間稼ぎにはなります。その間にスナイパーを手配しましょう」
「仕方がない。誰が話す?おれはごめんだ。説得するどころか、逆に相手を刺
激するのがおちだ」
「誰でも同じだと思いますが……」
 そのとき、兵士の一人が進み出て敬礼した。
「少尉!」
「何だ……」イワネンコは兵士の衿の認識票を見た。「エディングス曹長」
「自分は、以前、あの兵士と同じ隊にいたことがあります。自分が話してみま
す」
 イワネンコと小隊長は顔を見合わせた。だが、すぐにイワネンコがハンドス
ピーカーを渡した。
「いいだろう。やってみろ。できれば、人質を解放するように説得するんだ」
「わかりました」
 兵士は制式銃を置くと、数歩進み出て落ち着いた口調で呼びかけた。
「カーマイクル。おれだ、エディングスだ。おぼえているか?」
 ソウルズ兵はエディングスをじっと見つめると、ゆっくりと頷いた。
「おぼえているぞ、エディングス。協定使節警護任務で同じチームだった。第
8中隊に所属していたときだ」
「カー。なぜ、こんなことをする?その子供たちを解放してやれ」
「お前は良き友人であったが、神をともに崇めることは共に拒否していたな。
地上の俗なる者の中から救い出してやろうとしたのに」
「お前のことを通報しなかったのは、ただ秘かに神を崇めているだけならば、
誰に迷惑をかけることもないと信じていたからだ。お前が過激な破壊活動など
に手を染めたりしないと信じていたからだ。頼む、おれたちの昔の友情がかけ
らでも残っているのなら、おとなしく投降してくれ。決して悪いようにはしな
い」
「友情は尊いものだ」カーマイクルはおごそかに答えた。「だが、神はそれ以
上に尊いものなのだ。お前はついにその素晴らしさを知ることがなかったな」
「このままでは死ぬだけだぞ、カー!」
「我々にとって、死は終わりではない。それどころか、輝かしい神の国の門を
くぐり、永遠の至福の中で暮らす第一歩なのだ。かりそめの生など少しも惜し
いとは思わない」
「ばかな」エディングスの顔に苛立ちが浮かんだ。「本当にそんなでたらめを
信じているのか?ジン・バーソロミューが30年前に何を引き起こしたのかを
忘れたのか?ホーリーストームという最終戦争を!」
「ジン・バーソロミュー八世は、罪にまみれた地球に降り立った最後の使徒だ
った。彼は、その身に世界中の罪を背負い、神の国へと先立たれたのだ。残さ
れたコロニーの人間の罪を消すのが、我々の役目だ」
「神の国に行きたければ、一人で行ったらどうなんだ!」エディングスは激昂
して怒鳴った。「その銃で頭をぶち抜けよ!」
「我々は自ら死を迎えることを禁じられているのだ。神は、我々にできる限り
かりそめの生を生き抜けと命じられた。それだけ多くの罪を背負い、世界を清
浄の地に戻すことができるからだ」
「いいから、その子たちを解放しろ、カーマイクル」エディングスは一歩前に
進み出た。「その子たちに何の罪があるというんだ?」
「このようにまだ汚れを知らぬ子供の無垢な魂を、神の国に送ってやれるのは
無常の喜びだ」カーマイクルは心底愛おしそうに、人質の子供の頭を撫でた。
「この子たちは、美しい天使となるだろう」
「いい加減にしろ!」エディングスはさらに歩みを進めた。「おれが人質にな
る。子供たちを解放するんだ!カーマイクル!」
「昔の友情に免じて、お前にはより速やかなる幸せを与えてやろう」言葉と同
時にカーマイクルはハンドガンの銃口をエディングスに向けると、躊躇うこと
なくトリガーを絞った。
 戦闘ジャケットの防弾効果が途切れる顎の下を撃ち抜かれたエディングスは、
信じられない、とでも言いたげに目を大きく見開いてカーマイクルを見つめた。
口がぱくぱくと開閉しているが、ひゅーひゅーという音が洩れるだけだ。カー
マイクルは哀れみの視線で、かつての戦友を見やった。
「神はお前の犯した罪に値する苦痛をお与えになった。だが、心配はいらない。
苦痛が長引けば、それだけ罪は軽くなり、神の国の住民たる資格にふさわしく
なるのだ」
 エディングスの身体がぐらりとよろめき、そのまま地面に倒れた。
「このやろう!」
「ふざけやがって!」
 イワネンコや小隊長らが制止する間もなく、数人の兵士たちが飛び出した。
制式銃を構えてカーマイクルに突進していく。
「スナイパーはまだか?」イワネンコは慌てて小隊長に訊いた。
「もうすぐ配置につきます」
「誰か、あいつらを止めろ!」
 カーマイクルは突撃してくる兵士たちを、興味のなさそうな視線で見やると
銃口を子供の一人に向け直した。
「さらばだ、愛しき天使よ。神の国への先触れとなっておくれ」
「やめろー!」兵士の一人が叫んだ。
 救いがあったとすれば、男の子がすでに意識を失っていたことだろう。銃声
が轟き、鮮血が地面を叩いた。
 カーマイクルはもう一人の人質に銃口を向けた。だが、そのときには、兵士
の一人がカーマイクルのすぐ近くにまで接近していた。
「この狂信者が!」
 兵士は制式銃を棍棒のように振り回すと、カーマイクルの頭に叩きつけた。
続いて別の兵士が、人質を引き離す。接近していた残りの兵士たちは、一斉に
発砲した。数十発の軍用高速弾がカーマイクルの顔に撃ち込まれた。
「主よ……」
 その言葉を最後に、カーマイクルは彼の信じた神の国へと旅立っていった。


                                つづく





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