AWC ベツレヘム777  第16話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第16話       リーベルG
★内容

 市長よりも数分早く、事態の報告を受けたウェイ大佐は、即座に命令を下し
た。
「現時点を持って、第24小隊はネオ・ソウルズと断定する。最も近くにいる
部隊は?」
「第3中隊が命令を待っています」
「第3中隊は、完全武装の上、S34セクタに突入。敵小隊と交戦せよ。第1
5および第16小隊は、市民を退避させろ」ウェイ大佐は舌打ちした。「くそ、
S34セクタか。待機中の部隊は、全てS32セクタに向かわせろ」
「S32ですか?」命令を復唱していた副官が、驚いたように問い返した。
「そうだ。S32には大気循環プラントの古い方がある。あれを破壊されたら、
<ジブラルタル>内部のエアレベルが4から5低下してしまう。急げ」
「アイ・アイ・サー!」
 SSOC(保安軍)司令室には、司令官シートの他に4つのオペレータシー
トがあるだけだった。ホーリーストーム直後、SSOCが誕生したときは、こ
の司令室も現在の4倍の広さを持っていたが、年月を経て、ソウルズの脅威が
下火になるにつれ、必然的に予算縮小、人員削減の波が押し寄せた。生産に何
ら寄与しない軍隊という組織が、平和時に縮小されるのは当然のことである。
「ネットワークの確保が困難になりつつあります。現在、32の回線を保安軍
用に確保してありますが、あらゆるコミュニケーションシステムが不調です」
「コロニー間リンクを、緊急用の一本を除いてそちらに解放しろ」
「市長から情報を求める連絡が入っています」
「わかっていることを報告してやれ。ついでにB級警報即時発令を要請してお
け。私は手が離せないと伝えろ」
「レーザーパルスの波長が変化しました。現在の波長は940ナノメートルで
す。技術班は直ちに干渉波の再設定作業に入りました」
「市民からの通報、および問い合わせが広報部に殺到しています」
「イベリア・ブールバードが、混乱状態で32パーセントしか機能していませ
ん」
「<ギオン>のイイジマ大佐から、情報交換の申し入れが入りました」
 誰もが問題を抱えていた。ウェイ大佐は指示を与えながら、司令官用のライ
ンで第3プラットフォームをコールした。SSOC専用の小規模なプラットフ
ォームである。
『SSOC第3プラットフォーム駐留所、マクギル少尉です』ディスプレイに
映った赤毛の女性が、ウェイ大佐に気付いて敬礼した。
「テス」ウェイ大佐は声を小さくした。「地球軌道まで飛べる高速船はどれぐ
らいある?」
『地球軌道ですか?』マクギル少尉はターミナルを操作することなく、わずか
数秒で答えを返した。『47隻です』
「SSOCの管轄下にあって、2時間以内に発進できる船は?」
『有人ですか?無人ですか?』
「両方の数字が欲しい」
『無人であれば8隻が発進可能です。有人ですと1隻になります。安全基準を
大部分無視するのならば、あと2隻はご用意できます』
 ウェイ大佐は、その数字を口の中で反芻した後、頷いて命令した。
「全ての無人高速艇の発進準備だ」
『全てですか?』マクギル少尉が思わず問い返した。『失礼しました。無人艇
8隻を直ちに発進態勢に移行します。装備と軌道はどのように?』
 ウェイ大佐は口早に説明した。それを聞くうちに、マクギル少尉の顔には、
先ほどの比ではない驚きが浮かんだ。
「……以上だ。正式な命令はすぐに送る。飛行所要時間はどれぐらいになる?」
『通常発進手順であれば、片道120分から140分です』
「かかりすぎるな。短縮できないのか?」
『EX緊急発進手順を使うことはできますが……』
「それはどういうものだ?」
『まだ一度も実行されたことはありません。小規模な融合エンジンを人為的に
暴走状態にして爆発的な初期加速度を得るものです。理論的には50Gになる
はずですが、使用した融合エンジンは廃棄するしかなく……』
「それは構わない」
『さらに、<ジブラルタル>そのものに、一定の運動エネルギーを与えること
になります。コロニーそのものの姿勢制御オペレーションが後で必要になりま
すよ』
「その手順だと、地球軌道への到達時間はどれぐらいなのだ?」
『30分以内です』
「よろしい。直ちに実行してもらいたい。後のことは心配するな」
『了解しました』
 敬礼とともに映像は切れた。同時にオペレータの一人が報告した。
「第3中隊、敵小隊と交戦状態に入りました」

 兵士同士の結束は、他のどんな職業よりも固い。親兄弟にすら抱くことのな
い一体感を、兵士同士は抱くからだ。おれたちは自由を侵害するあらゆる敵か
ら、命をかけて市民を守ることを義務とし、また誇りとしている。兵士の誓い
は他のいかなる誓いにも優先する高潔なものだ。第24小隊にネオ・ソウルズ
思想が浸透しており、ついにその本性をむき出しにし、あろうことか市民を殺
戮しているのは悔やんでも悔やみきれないし、おれたちが永遠に背負わなけれ
ばならない恥の記憶として残るだろう。だが、その罪はやつら自身の血で贖っ
てもらう。おれたちはやつらを殺し、一片も悔いることがないだろう……
 イワネンコ少尉を指揮官とする、第3中隊40名の兵士たちが、S32セク
タに突入した時の心中は、このようなものだった。SSOCのレーゾンデート
ルはソウルズの再興を防ぎ、ホーリーストーム、そしてホーリーナイトのよう
な悲劇を二度と繰り返さないことにある。こともあろうに、小隊丸ごとがネオ・
ソウルズと化していたなど、許し難いことだった。
 怒りに燃えていた兵士たちは、しかし、一方で楽観もしていた。5倍の兵員
ということもあったが、ネオ・ソウルズといえば神の名を喚き散らすだけで、
闇雲に破壊を繰り返すだけの狂信者である、というのが彼らの共通の認識だっ
たからである。そのような敵は、こちらが冷静さを保ってさえいれば、それほ
ど怖い相手ではない。
 ところが、戦場になると知らされてきたS32セクタは、予想外に閑散とし
ていた。「アーメン!」や「ハレルヤ!」を喚きながら、ライフルを乱射する
ネオ・ソウルズの姿など、どこにも見つけることができなかった。
 そのかわりに、ポイントマンの兵士が発見したのは、数人の死傷者だった。
負傷の原因は、全てが<ジブラルタル>保安軍に制式採用されているJシュー
ト76式アサルトライフルによるものだった。
 重傷者のほとんどは、死の領域に足を踏み入れかけていたが、一人だけ何が
あったかを口にすることができるぐらい軽傷の市民がいた。ポイントマンは、
必要な情報を聞き出すと、市民に即効性鎮痛薬を投与してから、急いでイワネ
ンコ少尉に報告に戻った。
「人質を取って、立てこもっているだと!?」イワネンコ少尉は怒り狂った。
「しかも全て、子供達ばかりだそうです」兵士は自らの怒りを懸命に抑制しな
がら報告した。「第4水耕農場プラント施設です」
 イワネンコ少尉は直ちに中隊に前進を命じた。
 問題の水耕農場プラント施設は、<ジブラルタル>内部に6つあるうちの1
つで、ハウスモジュール5個分の面積を持つドーム状の施設である。<ジブラ
ルタル>の食料は農場モジュールから供給されるが、この施設では既存動植物
の品種改良研究や、薬品の原材料となる植物の他、主に観賞用の草花などが栽
培されている。<ジブラルタル>の若者たちの間で流行っている嗜好性ドラッ
グは、ここの副産物である。
 この施設の管理は、ジュニア教育課程の生徒たちが実習を兼ねて交替で行っ
ている。ネオ・ソウルズの兵士達は、それを狙って立てこもったらしい。
 中隊がプラント施設を包囲化に置いたのは、7分後だった。
「包囲完了しました」
「入り口は?」
「中からロックされています。現在、スペシャリストが外部からのロック解除
を試みています」
「中の様子はどうだ?」
「モニタできません。ラインは全て切断されています」
「少尉」小隊長の一人がイワネンコの注意を引いた。「聞こえますか?奴ら、
歌っています」
 イワネンコは耳を澄ませた。施設の一部が破壊されていて、そこからかすか
に歌声が響いてくる。
「くそ、讃美歌だ」イワネンコは吐き捨てるように言った。「奴ら、神を讃え
る歌を公然とさえずってやがる。なめやがって」
 兵士たちが動揺した表情で囁き交わすのを横目で見ながら、近くにいた小隊
長が訊いた。
「このままでは兵が困惑します。ただちに攻撃に移りましょう。交戦規定はど
うなっているんですか?」
「ソウルズに対する交戦規定は一つしかない。わかっているはずだ」
 小隊長は黙って頷いた。そのとき、兵士の一人が呼びかけた。
「少尉!中から一人出てきました!」

                                つづく





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