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ベツレヘム777 第8話 リーベルG
★内容
唯一残っている不安は、30年以上昔に製造されたスタッカートが正常に作
動するかどうかだった。だが、トリガーを絞った瞬間に響いた軽快な連射音と
ともに、カーティスの不安は消し飛んだ。
たちまち、先頭の数体が、頭部を撃ち抜かれて通路に倒れた。だが、それを
見ても今度は生物たちの突撃は止まらなかった。むしろ我先に弾丸に当たろう
とでもするように、カーティスめがけて進んでくる。
スタッカート標準マガジンの装弾数は300だが、フルオートでトリガーを
絞りっぱなしにすれば、空になるのに一分とかからない。カーティスは数々の
疑問や、焦燥や恐怖などの余計な感情を、とりあえず封じ込めておいて、敵性
生物を倒すための戦闘マシンに徹することにした。
それは、ある意味でチェスの勝負に似ていた。銃口をミリ単位の正確さで動
かし、照準を定め、トリガーを絞る。その瞬間には、先の射撃計画が立ってい
なければならない。単に次の標的を決めているだけではなく、次の次、さらに
その次の標的を決定し、その動きに応じて自分の身体の位置や、姿勢などをあ
らかじめプログラミングしておくのだ。しかも、そのプログラムは、1ミリセ
コンド毎に修正を加える必要があるし、考えられる限り最高の効率を維持しな
ければならない。
30秒あまりの間に、幅5メートルの通路には50以上の死体が累々と横た
わっていた。どの死体も頭部に3つの弾痕が穿たれている。生物学的な特性が
不明なので、確実に命を断てるように脳を破壊したのである。脳や中枢神経が
別の場所に位置している可能性も危惧したが、そこまで人間とかけ離れてはい
ないようだった。
カーティスも数歩後退していた。火力は圧倒的に有利だとしても、一体でも
手の届く範囲に入れたら、その瞬間に有利は消え去る。敵との距離は常に一定
にしておく必要があった。
2体が同時に跳躍して、別の方向から飛びかかってきた。口の中で罵りなが
ら、左の壁に飛び込むように肩をつけ、防御範囲を狭く設定する。得られたわ
ずかなタイムラグを利用して、2体をたて続けに撃ち殺した。
だが、わずかに崩れたバランスを、敵性生物は、その驚くべき脚力で突いて
きた。3体がきれいな列を作って突進してくる。カーティスが先頭の一体の顔
面を撃ち抜いた瞬間、2体めが先頭の生物の身体を盾にしつつ跳躍する。同時
に3体めが横から飛び出した。
「くそ!」
カーティスは親指でセレクタを弾いてフルオートに切り替えると、そのまま
通路を横に薙ぎ払うように掃射した。胸部にまとめて弾丸を叩き込まれた生物
は、壁に血液と内臓をぶちまけて落下した。横に跳んだ1体も、首を半ば切断
されるほどの弾丸を受けて倒れた。
カーティスが体勢を整える間もなく、今度は5体が縦に並んで進んできた。
もはや丁寧に3点バーストで1体ずつ撃ち倒している余裕はなかった。
ストック上部のカウンタの数字は、みるみるうちに減少していき、5体の突
撃を止めたときには、2桁を切っていた。もう一度同じことをやられたら、止
める術はない。カーティスはハンドガンを抜いて弾切れに備えた。
不意にカーティスは、今まで流れていた音楽が止んでいることに気付いた。
同時に生物たちも、カーティスに対する攻撃を中止していた。
これはどういうことだ?カーティスは呼吸を整えながら考えた。まるでカー
ティスの弾丸が切れかけたときに、あの悲しげな音楽が停止したのは偶然なの
だろうか。もっとも、カーティスは戦闘中に音楽が鳴っていたかどうかなど、
記憶していなかったから、もっと前に切れていたということはあり得る。
それを確認できる人間が、後ろから走ってくる音が耳に届いた。
「カーティス」サオリが息を切らしながら、新たなスタッカートを差し出した。
「持ってきたわよ」
カーディスは、素早く弾丸の尽きかけたスタッカートを捨て、フルロードさ
れた方に持ちかえた。生物たちから目をそらさないまま、早口でサオリに訊く。
「音楽はいつ止んだんですか?」
「え?なに?」
「音楽です。さっき始まった悲しそうなやつ。いつ止んだんですか?」
「ついさっきよ」
「そのとき、銃声は聞こえてましたか?」
「聞こえてたわよ。むっちゃくちゃ撃ちまくってたわね」
「どういう終わり方でしたか?」
「何が?」
サオリの声には苛立ちが混じっている。質問ばかりされるのが気に入らない
のだろう。
「つまり音楽は自然に終わったんですか?それとも、いきなりブツリと切れた
んですか?」
「いきなり切れたのよ」
言葉と同時にサオリはカーティスの横に進み出た。下がっているように言お
うとしたカーティスは、サオリにちらりと視線を移した途端に目を剥いた。
「お嬢さん、なんですか、それは」
サオリは両手に一挺ずつのスタッカートを抱えていた。さらに、身体には、
簡易ITLBV(個人用戦術物資携帯ベスト)を装着し、二挺のハンドガンと
多数の予備マガジンを差している。呆れたことに室内制圧用のスタン・グレネ
ードや、指向性対人地雷までがパウチに入っている。肩にはシャトルから持ち
出したナップザックがかかっていた。
「置いてあったの。援護するわよ」
「やめなさい」カーティスはサオリの構えているスタッカートの銃身を掴んだ。
「素人が扱うと怪我をします。いいから下がっていてください」
「素人とは何よ!」
「撃ったことあるんですか?」
「レギオン・バスターじゃ、パーフェクトシューターとったことあるわよ」
「なんですか、それは?」
「知らないの?アミューズセクションで大人気なのに」
「ああ、シューティングゲームですか」こんな状況にもかかわらず、カーティ
スは気の抜けたようなため息をついた。「いいからライフルを下ろしていてく
ださい。私の背中を撃たれたんじゃたまりませんからね。それから、左のパウ
チに入ってるものを下さい」
サオリはむっとしながらも、言われた通りパウチの中身を渡した。
「何なのそれ?」
「スキーピオ対人地雷です」カーティスは片手で包装を破った。「こういう狭
い通路で使うにはうってつけの強力なやつですよ」
中には直径5センチ、長さ20センチの円筒が入っていた。片方の端が可動
部分になっている。その先端には吸着プラスティックがついていた。カーティ
スはサオリと一緒に5、6歩下がると、銃口を生物たちに向けたまま、スキー
ピオ地雷を床にセットした。
同時に音楽が再開した。
つづく