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ベツレヘム777 第9話 リーベルG
★内容
サオリは文字通り飛び上がると、手にしたスタッカートを取り落とした。
「カ、カーティス!」
「また鳴り出した。攻撃の合図かもしれませんね」カーティスは対象距離を3
メートルにセットすると、セイフティグリップを引き抜いた。「下がっていて
ください。絶対に撃たないように」
「カーティス、あなた、さっきからあたしに下がれ下がれって、そればっかり
言ってるわよ」
「いいから下がって」
その言葉と同時に、生物たちが前進を開始した。今度は通路の幅いっぱいに
広がって、ゆっくり進んでくる。
「私に次のライフルを渡せる用意をしていてください」カーティスはサオリに
囁いた。「絶対に私の前に出ないように。いいですね?」
「わかったわよ」サオリはふてくされたように答えた。
生物たちの先頭が、スキーピオ対人地雷から3メートルの距離に達したとき、
地雷は音もなく作動した。
方向を完全にコントロールされた無数のボールベアリングが、生物たちに襲
いかかった。それらは空中で鋭い突起を生やし、殺傷力を増大させている。
無数の鮮血からなる花が一斉に咲いた。その破壊力は軍用高速弾の比ではな
かった。敵性生物たちの強靱な肉体は、原型をとどめぬまでにずたずたに引き
裂かれ、単なる肉塊として通路にぶちまけられた。
一拍置いて、カーティスが発砲を始めた。地雷の攻撃をかろうじて生き延び
た生物たちを、正確な射撃で1体ずつ仕留めているのだ。スキーピオ対人地雷
は磁力作動方式なので、爆煙で視界が妨げられることはない。カーティスにし
てみれば、射撃の練習をしているようなものである。
生き残ったのは、仲間の身体が盾になった10体あまりにすぎなかった。無
傷の生物はほとんどいない。中には両手を引きちぎられて、ふらふらとよろめ
いているだけという状態の生物もいる。それでも攻撃の意志だけは健在である
らしく、カーティスたちの方へ向かってくるのを止めようとはしなかった。
数秒の間を置いて、3発ずつの連射音が小さく響き、その度に1体が死体の
仲間入りをしていく。カーティスが敵を哀れに思ったとしても、敵を殲滅する
以外の行動は取れなかっただろう。
最後に1体を残すだけとなったとき、カーティスは顔を半分傾けて訊いた。
「お嬢さん。生かしておいて尋問してみますか?」
返事はなかった。
「お嬢さん?」
カーティスは眉をひそめて一歩下がった。そのまま視線を下に向ける。
サオリは半ばうずくまり、両手で頭をかかえていた。
あまりにも意外な姿に、カーティスはしばし敵のことを忘れて立ち尽くして
いた。が、サオリが意見を言えるような状態ではない、と知ると、向き直って
生物の頭部を撃ち抜いた。
それを待っていたように、音楽が次第に小さくなり、やがて停止した。
カーティスが声をかける前に、サオリはおそるおそる顔を上げた。
「終わったの?」
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
その問いには答えず、サオリはゆっくりと立ち上がった。ちらりと背後を見
たが、通路一面に飛散している血まみれの肉片を目にした途端、口で手を押さ
えながら背を向けてしまった。
「お嬢さん……」
「ちょっと黙ってて」
表情のない声で制すると、サオリは壁に手をついて大きく喘いだ。何度も咳
き込み、胃のえずきをこらえるように腹を押さえている。このような修羅場を
現実に見たことがない18歳の女性ならば、100人のうち99人までは嘔吐
感に耐えることはできなかっただろうし、サオリがそうしたとしてもカーティ
スは非難しようとは思わなかった。だが、サオリは嘔吐の衝動を咳でごまかす
ことに成功したらしく、しばらくして顔を上げた。
「お待たせ」冷めた口調でそう言うと、サオリは立ち上がった。「みんな殺し
たの?」
「はい」
「音楽が止んでるわね」
「ええ。そうですね」
「これからどうするの?」
「このライフルがあった場所へ案内してもらえますか?武装を整える必要があ
りますから」
「武装……殺すわけね」
「向こうが攻撃してこなければ殺しませんよ」カーティスは言葉を切ると、サ
オリの横顔を見つめた。「不満ですか?」
「そんなことないけど……でも、生かしたまま捕まえることはできないの?」
「こいつらはたとえ首だけになったって、攻撃の意志を捨てませんよ。それに
捕まえてサニル君の居場所を訊き出そうとしても無駄でしょう」
「どうしてよ?」
「こいつら、口はありますが、喋れないようなんです。悲鳴はおろか、苦痛の
声さえ洩らしていませんから。声帯がないか、可聴域外の音声を出すようにな
っているんでしょう。どちらにしても、私たちには役に立ちませんよ。ところ
で、ジャーランは何をしているんです?」
「武器庫でターミナルを見つけて、早速お話してるわよ。まあ、こいつらを尋
問するより、ジャーランの方が見込みありそうね」
「そうですね」
頷いたカーティスは、サオリのベストからスタッカートの予備マガジンを抜
き取ると、半分以上消耗したマガジンと入れ換えた。
サオリは明らかに殺戮に嫌悪を感じたらしいのに、自分のスタッカートを手
離そうとはしなかった。実弾の入った銃器を見るのは初めてらしく、ひっくり
かえしてはあちこちを見ている。カーティスは、セイフティがしっかりかかっ
ていることを確認していたので不安は感じていなかった。
不意にサオリの手の動きが止まった。
「ジャーランのところへ行きましょう」
「ねえ」カーティスの言葉を無視して、サオリは乾いた声で呼びかけた。「こ
れみて……」
サオリはスタッカートのストックの下部を見せた。プロセラミックスのフレ
ームを軽量プラスティックで覆った何の変哲もない造りである。だが、バット
(銃床尾部)近くに浮き出したマークは、カーティスの心臓を跳ね上がらせる
だけの意味を持っていた。
魚のシルエットを斜めに貫く十字架。
「ソウルズ……ホーリーソウルズの印だ」カーティスの口から、意識しないま
ま言葉が洩れた。「ここは、まさか……」
つづく