AWC ベツレヘム777  第3話       リーベルG


        
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ベツレヘム777  第3話       リーベルG
★内容

 サオリは興味の色を浮かべてディスプレイを覗き込んだが、表示されている
図形や数字をちらりと見ただけで顔をしかめた。
「それで?」命令口調で訊く。「何がわかったの?」
 サニルとジャーランは、一瞬お互いに譲り合う仕草をみせたが、その短い争
いに勝利を収めたのはジャーランだった。
「えーとねえ」サニルが表示を追った。「<ベツレヘム>の建造は2022年
に始まって、第六段階つまり最終段階の施設稼働は2027年。ステーション
の統括OSは……ナザレ4000型。バージョンは1.49。こんなのきいた
ことないなあ」
「2027年」サオリは顔をしかめた。「戦争中じゃない」
「メーカーはどこ?」ジャーランが訊いた。
「そのデータはないなあ。民間じゃないってことかなあ」
「そんなことはどうでもいいわよ」サオリは不機嫌そうに続きをうながした。
「ステーション内に人はいるの?今、現在よ。30年前のことなんかどうでも
いいの」
 サニルはデータをスクロールダウンして、サオリの求める数字を探した。そ
の指の動きが止まり、同時に呼吸も止まった。
 不思議そうにサニルのディスプレイを覗き込んだジャーランも、一目見て硬
直した。
「なによ?」サオリは二人を見た。「どうしたのよ?」
「ちょっと信じられないけど……」サニルがようやく呼吸を再開した。「現在
の在ステーション人数は……773人になってる」
 サオリは顔色をかえた。相変わらず外部の映像に注意していたカーティスも、
思わず顔を上げてサニルを見た。
「まさか」サオリはジャーランを見た。ジャーランがサニルの言葉を肯定して
頷くと、青くなった。
「<ジブラルタル>のライブラリじゃあ、<ベツレヘム>は20年以上前に放
棄されたってなってたのに!」まるでその責任が弟にあるとでもいうように睨
みつける。「どういうことよ!」
「ぼ、ぼくに言われても……」
「ああ、ちくしょう!」サオリは頭をかきむしった。「さっさと出るわよ、こ
んなとこ。ジャーラン、エンジン始動急いで。忌々しいここの住人に連絡され
る前に脱出するのよ」
 サニルとジャーランは顔を見合わせた。
「でも、ここを出てどこに行くの?」ジャーランが訊いた。「推進剤が残り少
ないから、<ジブラルタル>に帰るぐらいしかできないわよ。もともと、ここ
で補給する予定だったんだし」
「そんなこと後で考えるわよ!」サオリはヒステリックに叫んだ。「とにかく
ここを出るのよ」
「でも、軌道計算をしないと……」
「じゃあ、<ジブラルタル>への帰還軌道でいいわ。すぐにやって」
 サニルとジャーランは意見を求めるようにカーティスを見た。だが、カーテ
ィスは、サオリのわがままであろうとなかろうと、<ベツレヘム>から出るこ
とには諸手を挙げて賛成しているようだった。
 ジャーランは肩をすくめると、コントロールユニットに潜り込んだ。アイコ
ントローラーを装着すると、落としたばかりのパイロットモジュールを再起動
するために、I・Oキーをひねろうとした。
 突然、コクピット内に耳障りな警報が鳴り響いた。
「な、なによ!」
『こちらは<ジブラルタル>コロニー所属、400クラス貨物船ラヴェル8搭
載OSです』警報に混じって、非人間的な声が告げた。『船内センサー三カ所
において……訂正します、五カ所において、第一級バイオハザード基準を満た
す生物学的汚染が検知されました』
「なんですって!」サオリは飛び上がった。「ちょっと待ちなさいよ!」
 OSはサオリの言葉を無視した。
『よってコロニー間検疫条例修正第46項および第48項により、当船舶は乗
員を含む全生物学的要素を焼却します。焼却はエンジンの意図的冷却剤喪失現
象および非常用焼夷炸薬の点火により、40プラスマイナス3秒後に実行され
ます。シークエンスはすでに発動中であり、停止手段は当OSにも提供されて
おりません。ご協力を感謝いたします』
「焼却って何よ!」サオリは怒鳴ったが、声はそれっきり沈黙した。
 サニルとジャーランも凍りついたように身動きしない。
 カーティスが飛び上がった。顔つきが敵襲を受けた兵士のそれに変わる。
「ハッチへ急げ!」そう怒鳴ると、座ったままのサニルとジャーランを、シー
トから引き剥がすように立たせた。「脱出するんだ!お嬢さん、急いで!」
 サオリは我に返ったように動いた。だが、言われたとおりハッチに行くので
はなく、通路を数歩戻ってサニルの手首を掴むと、ハッチの方へ押しやった。
続いてジャーランを同じように押しやる。年少の二人も、ようやく金縛りが解
けたのか、慌ててエアロックへ急ぎ始めた。
『シークエンス続行中。エンジン温度危険域に達します』
 シャトルの後部から、ぞっとするような震動が伝わってきた。カーティスは
雇い主の娘に対する礼儀など気にせず、ほとんど抱きかかえるようにして、ハ
ッチまで移動した。ハッチの前では、ジャーランが必死になってロック解除を
命じていた。
「だめ!開かない!」
「ロックされてるんだ!」泣き出しそうな顔でサニルも叫ぶ。
 カーティスは二人の襟首を掴んでパネルから離して、自分の後ろにかばった。
その手にはいつの間にかハンドガンが握られている。
 突然、船内の照明が消えた。だが、カーティスは微塵の動揺も見せず、トリ
ガーを絞った。轟音が警報を圧して連続的に響き、パネルの横部分が拳ほどの
大きさでえぐられる。パネルに灯っていた赤いランプが消えた。続いて、圧力
ロック機構が埋め込まれている隔壁に弾丸が撃ち込まれる。
 カーティスはハッチに体当たりした。ハッチはあっけなく開き、2メートル
先に外側のエアロックがグリーンの非常灯によって浮かび上がっているのが見
えた。駆け寄りながら弾丸をロック機構に叩き込む。頑丈なエアロックが数セ
ンチだけ開いた。
「カーティス!」サオリが叫ぶ。
 隙間に手を突っ込み、全体重をかけてエアロックを押すと、どうにか人間が
一人通れるだけの幅が開いた。カーティスは自分は下がると、サオリたちをせ
き立てた。
「急げ!出るんだ!」
 ジャーランとサニルが、最初に外に飛び出した。気密服を着ている暇はなか
ったから、プラットフォーム内の空気が呼吸可能であることを祈るしかない。
 サオリは貴重な数秒を費やして、シートに置いてあったナップザックを掴む
と、ロックに身体をねじりこんだ。カーティスはサオリに体当たりして外に押
し出すと、ハンドガンを握ったまま後を追って飛び降りた。

                                つづく





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