AWC そろそろ大人になろうか 9 なつめまこと


        
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★タイトル (BKX     )  97/ 3/ 1  22:42  ( 86)
そろそろ大人になろうか 9 なつめまこと
★内容
  翌年の夏は七泊八日の北海道ツーリングだ。上野から函館までモトトレイン
で行き、函館から道東を一周する。参加者はマッちゃん、テッちゃん、イシカ
ワ、ぼくの四人。この旅行での成果はマッちゃんをしっかりと理解できたこと
だ。テッちゃんは火野正平風でわがままだけれど憎めない所があり、酒のつき
あいも律儀なので年長の者に好かれるタイプである。マッちゃんは逆に長身で
スマート、酒は飲まない、カッコ悪いことは絶対にしない、頼まれなければ縦
のものを横にもしない、頼まれても嫌なものは「イヤだ。」と言う。年上の人
間にとって全く扱いにくい若者である。バイクの趣味が一致しなければぼくと
敵対していたかもしれない。テッちゃんとマッちゃんは同世代でありながらタ
イプがまるで違うのでいつも張り合っていた。そしてぼくは間に入って双方の
悪口を聞きながら二人をコントロールしていた。
  そんなマッちゃんとホテルで同室になると、彼は風呂に入る順番を「ナッち
ゃん、ジヤンケン!」と決めようとする。こういうフラットな対人関係の在り
方はその後のぼくの年下の者とのつきあい方においてたいへん有意義な経験と
なった。
  広大な北海道のツーリングは色々あったが、最後は街で豪勢に遊ぼうという
ことで札幌に入った。昼はビール園に行ってジンギスカンを食べ、夜はススキ
ノにあるカニ料理専門店『氷雪の門』に飲みに行った。その店のオーナーはイ
シカワの父親の友人というので「タダで酒が飲みたい」がために年寄りの昔話
を一つ一つ四人が感心して聞きほれた。その結果、老人は充実感を味わい、ぼ
くらは旅行費用をいくらか浮かすことができた。
  カニを食べビールを飲んで街を流すと、夏のサッポロはすれ違う女は皆、観
光ギャルか『おミズの女』に見え、後腐れのない開放的な気分になる。喫茶店
でコーヒーを飲みながらぼくは若い三人が女に声をかけるのを待っていたが、
一番モテそうなマッちゃんにちっともその気がない。彼は肉欲がないんじゃな
かろうかと思う時があるほどクールで、絶対ナマな形で女に興味を示さない。
「それじゃ、行くべき所に行くかぁ。」とぼくがタケどんが感激したという場
所を匂わすと、テッちゃんがすぐに乗り、イシカワを脅して喫茶店を出た。路
上でマッちゃんの動向を窺っていると、彼も何となく付いてくる。カッコ悪い
ことをしないマッちゃんが自分と一緒に女を買いに行ったことがテッちゃんに
はよほど嬉しかったらしく、この話題は後の酒席で何度も何度も彼の口にのぼ
った。
「四人で一軒の店に行っても、待ち時間が無駄だから二手に分かれよう。」と
いうテッちゃんの現実的な提案に従って、ぼくらは『ウラオモテ』で二組に分
かれた。彼はこういう時、すごく賢い。ぼくはイシカワと組み、呼び込みをし
ているポン引きを介して、一条さゆりが女の子に手ほどきをしたという趣旨の
看板のある店に入った。
  それから、ことをすまして夜道をホテルに戻る間、イシカワは無口で元気が
ない。ぼくが気にして声をかけてやっても反応が悪い。ホテルの部屋で三人し
て問いただすと「女がデブだった。」とさも嫌そうに言う。ぼくらは大笑いし
てイシカワのたわいのない不幸を楽しんだ。
  翌日はツーリング最終日で、ぼくらは函館まで一気に走り、駅前のホテルに
チェックインした。夕食に寿司屋で海の幸をたらふく食べ、腹ごなしにシーズ
ンだからか一般車両通行止めになっている函館山までの道をシカトして駆け登
り、海峡の夜景を堪能した。そしてホテルに戻ると、部屋に入った直後に誰か
がドアをノックする。ぼくがドアを開けると三十代の女が立っていた。
「す、すみません。よろしかったら、私とデ、デ、デートして欲しいんですけ
ど…。」
「えっ?」
「私とデートして欲しいんですけど。」
  俗に言う素人売春かと判断し、デブでないのでイシカワにまわそうとぼくは
考えた。
「それでいくら?」
「に、二万円です。一人。」
「ぼくら四人で泊まっているんだけど、どこでするの?」
「わ、私はここでかまわないんですけど。」
「いや、こっちが困るんだな。」
「ど、どうしてですか?」だいぶ頭が軟らかそうだ。
「あのね。友達がいるそばでエッチするわけにはいかないでしょうが。」
「できませんか。私はだいじょうぶですけど。」
「あのね、男は、その、ナイーブで、そういうのはダメなの!」
「じゃあ、お風呂場でしますか?」
「あのね。そういう訳にはいかないの。するなら外で。ちょっと待って、相談するか
ら…」
  ドアを閉じ、女を廊下で待たして、友を振り返った。三人の友はベッドで寝
たふりをしている。イシカワを揺すり起こして、
「どうするんだよ。おまえが昨日満足してなかったから話をつなげているんだ
ぞ。」
「知りませんよ、ぼくは。」
「何、君。したくないの? デブじゃないぞ。ちょっとおばさんだけど顔もま
あまあだし、トロそうなところが魅力じゃないか。」
「いや、結構です。ナツメさんが始末してくださいよ。」
  イシカワがへんにツッパルので、しかたなく彼に一万円を借りて廊下に出た。
旅も最後の夜なので路銀も底をついていた。敵は何とかぼくらの部屋で数をこ
なしたかったらしいが、ぼくは噛んで含めるように説得し、「ぼく一人が相手、
部屋代込みで二万円」で交渉が成立し、二人で非常口から外に出た。地廻りの
ヤクザの目を怖れてか、薄暗い路地を選んで歩く女の後についてぼくは連れ込
み宿に入った。そこから先もすんなりゆかず、女はぼくに宿代をまける交渉を
させる。彼女はぼくを通して休憩料金の三千円を主張したが、宿のおやじは深
夜なので泊まりの五千円を譲らなかった。
 部屋に入ると夏なのに室内は寒々しく、何度もクリーニングされて色が褪せ
た肌触りの悪いタオルケットの上で、ぼくは何とも空しいセックスに取りかか
った。二晩続けて女を買うはめに陥った自分を悔やみながら…。
  この夜の一件は『函館のおばちゃん事件』と名付けられ、後々悪友たちを大
いに喜ばせた。





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