AWC そろそろ大人になろうか 6 なつめまこと


        
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★タイトル (BKX     )  97/ 2/22  11:11  ( 76)
そろそろ大人になろうか 6 なつめまこと
★内容
              不倫の行方
  ぼくが額田中に赴任した年の秋が深まる頃、シラカタ女史とスズやんの仲も
すっかり深まり、周囲に大きな影響を与えるようになった。
  シラカタ女史はニュースキャスター風の才媛で、新採用時に今の太っ腹校長
に育てられた縁で他の学校から引き抜かれ、この春着任した。校長は近い将来
指導主事に推挙するつもりで呼び寄せたが、配属した学年(三年)にスズやん
がおり、掌中の玉をドブに放り込む結果となった。
  スズやんは、父親が企業の経営者で、両親が離婚した際、姉や妹は母親に引
き取られ、自分は父親を選んだとか。金はあるわ、テニス・スキーはうまいわ、
ギターは弾けるわで、女にモテるタイプだが、母性的なものに渇しているのか、
前任校で六つ年上の体育教師にからめ取られて、二年前に額田中に赴任してき
た。「あんないい男が何故、あんなのと?」と噂されたが、二年経つ間に自分
を包み込む女なら誰でも真剣に口説いてしまうということが周囲の者にわかっ
てきた。額田中でもシラカタ女史の前に二人の女教師がスズやんに口説かれて
一時ボーッとなっていたとか。スズやんの立派なところは、同僚の女性にはす
ぐ手を出すが女生徒には手を出さず、また玄人筋は相手にしないというところ
だ。ようするに『純粋』なのである。
  シラカタ女史の夫君は高校時代のボーイフレンドとかで、女史との間に三人
の子どもがいる。企業の中堅どころで、あちらこちらに単身赴任で家にいるこ
とが少ないとか。そのスキを狙ってスズやんの『純粋さ』がチェックをかけた
のである。などとぼくは分析するが、テッちゃんらの若手に言わせると、スズ
やんは単にわがままなボンボンで、人が「いいな。」と言うものを手に入れな
ければ気がすまない性格なんだということ。そして若手教師らが「シラカタさ
んはいいね。」とみんな言うものだから、手に入れたくなっただけの話とか。
  太っ腹校長は肝臓障害で夏休みから断続的に入院しており、二人の噂が彼の
耳に入った時には、もう二人の仲は、朝は始業ぎりぎりに車を連ねて出勤し、
夕方は勤務時間が終わるとまずスズやんがこっそり姿を消し、五分後にシラカ
タ女史が急いで後に続くというパターンになっていた。玄関から車までの距離
をダッシュする彼女の表情は誰が見ても十六歳の乙女のそれと同じで、二人を
見送るぼくらは顔を見合わせ肩をすくめた。
  教頭の話によると(彼はこの手の話が好きでぼくとよく情報交換をする)、
校長がシラカタ女史に「あんないいかげんな男のどこがいいんだ?」と詰問し
たところ、「スズモト先生は本当にすばらしい人です。」と言い切ったとか。
  この年の三年所属の教師の構成は、リーダーが五十代の柔道部顧問のニシど
ん。長年、生徒指導畑にいて顔形はごついが、一昨年の教師による生徒への刺
傷事件、昨年の自分自身が殴られた校内暴力事件とアクシデントが続いてすっ
かり自信をなくしていた。また言語能力に乏しくてしゃべっていることに筋道
がなく、会議などにもまともな文書が出せないおっさんだった。この年、学年
主任と生活指導部長を兼務していたが、あまりに無能のため、翌年ぼくが生活
指導部長の職を立候補で奪い取ってしまった。学級担任はスズやん、昨年結婚
したばかりの音楽科のマリちゃん(彼女もぼんやりした女だがスズやんに口説
かれたことがある。)、二十九歳で教員二年目のタケどん、昨年三年だったが
二年にいるはげちびじいさんが三年にいくのを嫌がったので、また三年にコン
バートされたムラさん、それに体育科のヒデさんの五人。ヒデさんは学生時代
体操のオリンピック候補選手だったとか。三十代後半だけど『永遠の少年』と
いった趣きで、カメラ・ビデオの類の新製品は発売されればすぐに購入し、自
宅の部屋はさながらオモチャ箱の様相。体操部・女子バレー部・女子バスケッ
ト部の顧問をし、その年その年メンバーにかわいい女の子が最も多い部に力を
入れて指導するという話。バレンタインデーにもらうチョコの数のトップ争い
をいまだに若手と争っているという。
  こんな五人のクラス担任に加えて、学級担任外としてシラカタ女史と臨時採
用のミキちゃんがいた。ミキちゃんはカルーイ女の子で、シラカタ女史とスズ
やんの関係を知りながらスズやんに誘われてスキーに行ったり飲みに行ったり
している。このところの生徒減の対策として、教育委員会は正式採用を控え、
一年契約の臨時採用を増やして生徒減少期を乗り切ろうとしている。臨時採用
された若者は仕事をこなして校長の覚えをよくしながら、採用試験の受験勉強
をしなければならないというプレッシャーを受けているが、ミキちゃんはその
辺はあまり考えずに普通のお姉ちゃんをしているので、額田中学向きではあっ
た。
  スズやんの教科は数学で、教員になる前に塾の教師を何年かしていたので教
え方にかなりの自信を持っていた。また音楽にも強かったのでこの学年のリー
ダーシップを実質的に取っていた。額田中では特別活動として合唱が盛んだっ
たので、その指導力のあるなしが、生徒が言うことを聞くか聞かないかの分か
れ目になる。ちなみにぼくは前任校での経験で行事指導にけっこう自信を持っ
ていたが、最初気負ってちょっと抑圧的な指導をしたため六月の合唱コンクー
ルでは全校十六クラス中十六位であった。同じ一年生でもテッちゃんのクラス
は六位、マッちゃんのクラスは八位である。この結果からぼくは指導の方法を
ガラッと開放的なものに変えた。
  それはさておき、三年職員の実質的リーダーのスズやんと進路指導担当のシ
ラカタ女史が情事にふけるようになったので、慌てたのは学年の他のスタッフ
である。特にタケどんは、教員になって初めての三年の学級担任であるという
不安、結婚前には思いもよらなかった勝ち気の妻へのサービス(禁煙)からの
ストレス、自分たちの結婚式を二人に汚されたという思い込みなどが膨らみ、
学年の会議がだんだんと冷戦、熱戦の場へと変わっていった。
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