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★タイトル (AZA ) 96/12/ 7 21:39 (200)
推理小説的読書法「魔術師」4 永山
★内容
伊集院がそういうと、真っ先に誠治が寝室へと向かった。さすが作家だと、伊
推理作家ならともかく、作家かどうかは無関係だと思います↑
集院は納得した。
アーーーーーーーーーー!!!
寝室から誠治のうめき声が聞こえてきた。そのうめき声を聞いた5人は肩が上
↑「アーーーーーーーーーー!!!」は叫び声だと思います
下にピクッと動いた。そして、慎治が恐る恐る、誠治の後に続いて寝室へと消え
↑慎治の心理に立ち入っている
ていった。
慎治も誠治と同じようにうめき声をあげた。そして、リビングルームに残って
いる4人は、寝室へと行こうとはしなかった。伊集院はそんな4人を残して、勇
敢なる2人がいる寝室へと向かった。
2人は寝室の入り口の直ぐ側で、足の力がなくなったように座り込んでいた。
そして、体は振れなくてもわかるほど震えていて、声すら出ないようだった。
↑「触れ」の誤変換?
「さっきの手紙は、この事を示していたんだよ」
伊集院は2人の肩に触れながら言った。2人はそれでも我を忘れたかのように、
ただ、震えていた。伊集院はそんな2人を寝室から出すとリビングにいた4人と
その2人に1階のロビーに行くよう言った。
そして、伊集院は念入りに寝室を調べたあと部屋を出て、カギをかけた。
「どうしたの、皆、青ざめちゃって……」
和巳が外で待っていたらしく、伊集院に尋ねた。
「菊子さんが、死んでいたんだ」
伊集院は隠していたことを打ち明けた。和巳は一瞬動揺したが、すぐに我を取
↑和巳の心理に立ち入っている
り戻して、
「本当?」
と、伊集院に尋ね返した。
「部屋の前に置いてあった手紙の内容通りに死んでいたんだ」
伊集院はそう言うと、和巳の背中に手を回し、ロビーへと歩いていった。和巳
は伊集院の腕に寄りかかるように歩いていた。
ロビーにはさっきの6人が沈黙した状態で座っていた。天井を見上げている人
や頭に手を添えている人など、いろいろな動作をしていた。
隼人は、菊子がどうなっていたのか見なかった。だから、人一倍不安でしょう
がなかったようで、髪の毛を金田一耕助のようにかき毟っていた。そして、時折、
片手を目の辺りに手を持っていって、目頭を押さえていた。
伊集院は和巳を連れて、ロビーの玄関側の椅子に座った。
「見なかった皆さんに、あの部屋で何が起こっていたのかをまず、説明しておき
ましょう」
伊集院はそう言って、菊子の部屋で起こったおぞましい出来事を詳しく話した。
伊集院が話し終わったときの皆の表情はさっきよりも暗くなった。特に、隼人の
表情変化は大きかった。
支えられていたものがなくなったように、悲しみのどん底に落ちていた。
「その赤い服の人物は何処へ行ったのかね?」
幸夫が伊集院に尋ねる。
伊集院は自分が見たことを説明した。
「そっ、そんなことがあるか。本当に見たのかね、その人物を」
隼人が落ち着かない口調で反論する。
「僕もそう思いたいですよ。だけど、僕は見たんですよ、この目で。自分の目が
嘘をつくとは思えないんですよ、利根田さん」
伊集院はそう言った。伊集院が話している間、周りでは誰も喋っていなく、た
だ、伊集院の声だけが響き渡っていた。そのほかに聞こえてくる音は、耳鳴りと
誰の耳?↑
窓から入ってくる風、鳥の鳴き声だけであった。
「ここにおられる方の中で、検死などをできる方はいらっしゃいますか?」
伊集院は大胆なことを聞いた。
「私の妻なら、できると思いますが……。応じてくれるかどうか……」
そう答えたのは幸夫であった。幸夫の話によると、妻の陽子は、昔、ほんの少
しの間だが検視官をやっていたという。伊集院はそれを聞くと、まず、幸夫に承
諾をとり、陽子の部屋へと向かった。
伊集院が頼み込むこと10数分。陽子は、伊集院の熱意に負けたらしく、検死
をすることを決意した。隼人の妻こと、利根田菊子の検死に立ち会ったのは、伊
↑「〜に同意した」の方が適切と思います
集院に陽子、幸夫に時夫の4人だけだった。和巳は立ち会いたいと言っていたが、
伊集院が諦めさせた。
陽子の検死の光景を伊集院は側で、じっくりと見ていた。時折、吐き気が生じ
ることが何度もあったがそういう気持ちを抑えながら、最後まで見届けた。陽子
はてきぱきと死斑を調べたり、出血個所を調べたりと、1人で忙しそうにしてい
た。時夫と幸夫は、付添人と言う形で、陽子の行動を見つめていた。
一連の動作が全て終わったのは菊子の部屋に入ってから30分後のことであっ
た。陽子は「ふぅ〜」と言って、菊子の死体の側から立ち上がった。そして、伊
集院達に「外へ出ましょうか」と言うと、リビングの方へと歩いていった。
「どうでした?」
伊集院が尋ねる。
「死因は出血死と見ていいと思いますね。時間ですが、当てにはならないと思い
↑普通は失血死という語句を使うと思いますが……
ますが、朝方の3〜5時の間だと思います」
陽子は穏やかな口調で答える。
「どうしましょうか……。菊子さんを……」
時夫はほかの3人に尋ねる。
「一応、布団でも掛けておきましょうか?」
幸夫がそう言うと、陽子は小さく立てに首を動かした。
↑「縦に」の誤変換?
幸夫は寝室に入っていき、布団を掛けて戻ってきた。
「これからどうしますのです?」
陽子が伊集院に尋ねた。
「まぁ、とりあえずは、このことを皆さんに報告しないとならないでしょうね、
時夫さん」
伊集院は時夫の方を向いて言う。
「そうですね、助けもまだ、来ないことですし……」
↑呼んでもいない助けが来るはずありません。不自然な台詞
時夫は腕を組んでいった。
4人は菊子の部屋を出て、1つ1つ部屋をまわって、皆をロビーに集めた。部
屋には全員がいた。伊集院は赤のマントを羽織った人物がこの中にいるのではな
いかと思っていた。しかし、全員がいるということは……。などと、色々なこと
を考えていた。
そして、全員が揃った所で、再度事件について、伊集院が説明した。
6
説明がし終わったとき、先ほどと同じように誰一人として言葉を交わさなかっ
↑「説明をし終わった」あるいは「説明が終わった」では
た。一人一人、何かを考えているといった表情である。説明した本人も、話しな
がら色々と考えていた。
日は傾き始めていて、ロビーには西日が窓から入ってきていた。烏の鳴き声が
こだまして、淀んだ室内に響き渡る。なおも、誰一人として、声を発しなかった。
時夫は席を立って、暖炉の近くへと歩み寄っていった。すると、ロビーのシャ
ンデリアに明かりが点された。時夫は明かりをともし終わると、自分が座ってい
た席へと戻ってきた。
「いったん、お開きにしませんか。こう考えていたって、助けが来るわけでもな
いし、事件が解決するわけでもないのですから」
↑考えれば解決するかもしれません。不自然な台詞
時夫はそう言った。伊集院もそれはそうだと思っている。行動に移さなければ、
結果が生まれないからである。
「そうだな」
幸助はそう言うと家族三人をつれて部屋へと帰っていった。幸助が部屋へと帰
っていくのをきっかけに、次々と自分たちの部屋へと帰っていった。
伊集院も部屋へと帰っていった。部屋に着くと伊集院は椅子に座って、今まで
に自分が見てきたことを紙に書き出した。そして、時間の経過ごとに出来事を書
いていく。誰がやったのか、そして、あの人物が誰なのか、その部分だけが空白
だった。
和巳は伊集院に気づかれないように部屋へと入ってきた。そして、ベッドの端
↑唐突に和巳の視点から書いている
っこに腰を下ろし、静かに伊集院の背中を見つめていた。
伊集院は考えているとき、髪の毛をかきむしる癖がある。かの有名な金田一耕
助がこれを見ていたら「これはこれは……」と、声でもかけてくれるくらい似て
いるのである。その仕種が……。
「翔君? 何考えてるの、そんなに」
「あっ、和巳か……。いつからいたんだ、全然気づかなかったけど。何考えてい
↑不用心極まりない
るかって、さっき死んでいた菊子さんのことだよ。誰があんなことをやったのか、
そして、僕が部屋に入ったときにいた、赤い服の人物が誰であったかってね」
「赤い服の人物?」
「あぁ、つり橋が壊されただろう、あの時、向こう岸にいたんだよ、その赤い服
を着た人物らしきものが。で、その時にはあまり気にしていなかったけど、菊子
さんの部屋に入ったとき、窓の所にそいつが居たんだ。それで、僕が追いかけて
いくと窓から外へ降りた。それで、すぐに下を見たんだけどもうその時には居な
かった。赤い服も何もかもが……。まるで魔術師のように消えてしまっていた」
「あの手紙通りだったのよね、菊子さんの死に方。誰がやったんだろう、壁画と
いつの間に壁画が出て来たんですか? 壁に掛かった絵でしょう?↑
同じように殺すなんて……」
二人の間に長い沈黙が、窓からは真っ赤な夕日の光が降り注ぐ。まるで、あの
残酷な光景を思い出すかのように……。
↑「思い出させるかのように」が適当では?
夕食の時間が近づいてきた。伊集院はいつの間にか寝ていたらしく、あの後の
ことが何一つ記憶に残っていない。ただ、一日が過ぎたわけではないことだけは
確かだった。
和巳の姿が無くなっていた。伊集院はベッドから起き上がると、備え付けの洗
面所へと歩いていった。頭を直し、寝ぼけ眼を冷たい水で洗った。冷たいと言う
よりも、気持ち良いという感想の方が伊集院の中では強かった。
置き時計は7時を示す、少し前であった。伊集院は少しばかり早いと思ったが、
部屋を出て食堂へと向かった。
階段を降りていくと、ロビーには隼人と誠治、陽子の三人がいた。伊集院はそ
の三人の中に入るべく、ロビーへと歩いていった。
「お集まりの所をすみません。何を話しているのですか?」
伊集院はそう言いながらソファーに座った。
「いえね、伊集院さん。誠治さんの小説について、話し合っていたんですよ。何
が良かったとか、あの人はどうなったのかって」
「そうでしたか。お邪魔してすみません。邪魔じゃなければ私もいれていただけ
ませんか?」
「いいですとも」
誠治がそう言いながら二人の顔を見た。二人とも縦に頷いて、伊集院を見た。
「最新刊の森の涙、あれは今までの中で何かが違うと感じた作品でしたね」
↑本のタイトルであれば『森の涙』という風に括弧でくくるのが一
般的だと思います
陽子がいきなりそう言った。伊集院にはどのような作品なのか全く分からなか
ったが、一応話に付き合う形で聞いていた。
「あれですか、あれは今までのとは作風を変えましてね、魔術師みたいな犯人と、
森という怪しい空間を中心にしたんですよ。
さっぱりとして、読みごたえのある所が読者の中での感想ですが、いかがなも
のでしょうか……」
「その通りですよ。全くと言ってもいいほど、あっさりしていて……」
その二人は、永遠とそんな話をしていた。隼人は、その話を聞いていても、ま
↑「延々と」の間違いでは?
だ、菊子のことが頭の中に残っているらしく、どことなく上の空といった感じだ
った。
夕食の時間らしく、食堂から紀子がこちらに歩いてきた。紀子は夕食の準備が
出来たことを告げると、階段を上っていった。伊集院たちは、言われた通りに食
堂へと向かった。
食堂に皆が集まったのはそれから10分後のことである。食事中は、必要最低
限の会話しかなかったが、食事が終わるとさっきのロビーのような雑談が始まっ
た。
伊集院はその雑談を逃げ出すかのように食堂を出て、部屋へと戻ってきた。話
が嫌いなわけではないのだが、自分の興味のない話は好きではないのである。
そして伊集院は、いち早く眠りにつくことにした。
7
夜が訪れた。私にとって、今日ほど格好な日はなかった。「恨みを返す」。こ
んな素晴らしい日が、いいまでにあったのだろうか。心の中で何回も自分に問う。
問うた所で答えは同じ「無かった」の一言である。私は、そんな思いを胸にしま
い、一歩一歩ある場所へ向かって歩いていく。
誰もいない、正確に言えば、誰も起きてはいない廊下を、足音を立てずに歩い
ていく。窓から入ってくる月明かりが、時々私を照らしている。それでも、時々
後ろを振り返り、誰もいないことを確認する。
手には手袋を、頭には帽子を、顔にはマスクを付けている。声さえ出さなけれ
ば、私が女か男か区別することが出来ないはずであると、私は考えている。