#4159/7701 連載
★タイトル (AZA ) 95/ 4/29 7:48 (198)
うちの文芸部でやってること 2−1 永山
★内容
「うちの文芸部でやってること」の1−1、1−2の続きです。今回は、私
が1−1と1−2を読んで、それに対する短い感想を書いたことに端を発して
います……。
目指せ百万円? 集英社ファンタジーロマン大賞への道2 鉄拳爆裂編
−−ヤオイでなぜいけないか!? それは面白くないからだ。
(黒沢哲哉/日本出版社・コンバットコミック編集長)
極めて一部で大反響、発案者の彷徨君よりも周囲の人間の方が盛り上がって
いる(?)連載企画の二回目だ。などと言っている場合じゃない。タイトルが
前と違っているのは気のせいか? いや、先輩の有り難い教えに従って、目標
が変更になったのだ。詳細は後述するが、これは目標が低くなったからではな
い。確かに優勝賞金は少なくなっているが、その志は決して低くなった訳では
ない。よりよい戦場を求めるため、撤退ではなく転身したのだ。一歩下がって
二歩前進なのだ(まるで大本営発表のようだ)。
ともかく、今回はいろいろあって、前回にも増して妙なノリとオタク的知識
に満ち溢れるはずだ。覚悟すれ。
★ ★ ★
5.批評
二月二十六日午前十一時。彷徨佳(敬称略)と共に地震で散らかった部屋の
片付けを行っていた島津義家は、机の上に見慣れない紙が置いてあるのを見つ
けた。見れば、小説の公募をまとめた雑誌のコピーらしい。
「へえ、わざわざこんなんコピーしてきたん?」
島津が彷徨に言う。
「何が?」
「あれ、このコピー、彷徨君が持ってきたんと違うんか?」
「いいや。誰が持ってきたんや……?」
B5のコピー用紙三枚をホッチキスで止めたそれを受け取り、彷徨はパラパ
ラとめくった。三枚目の用紙の端に書かれたメモに目がいく。
「あっ、永山先輩や!」
「うわぁー! ほんまや!」島津がのけぞって絶句する。「この企みを知って
はるちゅうことは、前のオルタネート(永山註.個人で出しているコピー誌)
を読まはったいうことか。しまった、どっかに隠しとけばよかった」
「それやったら、何のために作っとんねん」彷徨が失笑する。しかし島津の動
揺は収まらない。結局その日中、島津はうろたえて無意味な言い訳をぶつぶつ
と繰り返していたのだった。
ちなみに永山先輩のメモはこうだ。
−−あらすじ「飛光機物語」読んだ。ねらうとしたら、こっち(註.集英社
ファンタジーロマン大賞)の方があっていると思います。日本ファンタジーノ
ベルにこだわるのなら、「大人が子供にもどってみるゆめ」みたないものを主
題にすべきだと思う。あのあらすじだと、「子供が子供のときにみるゆめ」の
ような気が……。妄言多謝−−。
6.対策
さて、動揺していても仕方がないので、傾向と対策を考えてみようと思う。
筆者にとっての大先輩が気にかけてくれているというのは、大変気恥ずかしい
限りだが、いい機会なのでここで宣言しておく。筆者は「大人が大人のままで
楽しめる夢」の創作を目指している! というのは大げさだが、まあ端的に言
えばそうなる。実は筆者は先輩のコメントを読む直前までに、基本案二(前号
参照)を元にした小説を原稿用紙百二十枚分程度書いていた。しかしどうにも
話のまとまりがつかなくなっていたところ、このコメントが問題点を鋭く突い
たのである。筆者かうろたえた理由もそこにある。
それは何か。結局、「敗戦の淵に立たされている国を、輝光石航空機(飛光
機)という圧倒的な威力を持つ新兵器によって救う」というコンセプトが、余
りに幼稚である点だと筆者は考えている。これはまさに子供の正義で戦える、
子供の戦争だ。そこには戦略も戦術も存在し得ない。それを存在させてしまっ
た場合、飛光機なしでも主人公の国が勝ってしまうか、飛光機の力をもってし
ても国を救えなくなるからだ(子供の正義が、本当の意味での大人の理論にか
なうはずないから)。防衛軍がゴジラを倒してしまうようなものだ。主役が防
衛軍であれば別だが、現実にはそうでない。防衛軍はわざわざゴジラにやられ
るべく、稚拙な作戦の元、無意味な兵器を投入している(ように筆者には見え
る)。そうしなければ映画として成立しない。
ここで問題は筆者の抱えている次元にまで降りてくる。つまり、くそ真面目
に戦争というものの現実を捉えた場合、飛光機の存在はひどくうっとうしくな
ってしまうのだ。何故なら、ファンタジー小説の多くがモデルとしている中世
ヨーロッパの戦争において、飛光機というものは必ずしも必要十分ではない。
その気になれば飛光機抜きでも物語は立派に成立してしまうのだ。これには筆
者のひねくれた性格も関与している。もし強引に飛光機を物語に登場させたと
しても、飛光機を落とそうとする勢力の側に感情を移入させて話を進めてしま
うだろうからだ。
最近まで流行していたシミュレーション戦記小説を読みあさった筆者の経験
から言うと、過去の戦場に未来兵器を持ち込んだり、架空の超兵器を登場させ
た物語は、よほどうまくやらない限り幼稚に見える。それらの兵器が既存の兵
器と同時に、戦力の妙までも吹き飛ばしてしまうからだ。それはそれで痛快か
もしれないが、真剣に戦争や戦略を捉えている人間にとっては、そういう空騒
ぎは白々しいことこの上ない。本質が子供のヒーローごっこと同じだからだ。
だからといって輝光石航空機抜きで話を進める訳にもいかない。これを登場
させなければ全ての前提が崩れてしまうし、第一それではただの架空世界の戦
争シミュレーションになってしまう。ファンタジーというものは、現実の世界
では置換できない何かの存在が必要となる。龍とか、魔法とか、悪の大王とい
ったものはそのステレオタイプとして存在している。それらを登場させた上で、
既存の、くそ真面目な人間が真剣に築き上げてきた理論を崩さずに融合させる
というのは並大抵のことではない。思わず投げ出してしまいたくなるほどだ。
しかし、これをどうにかして実現しない限り、「子供が子供のときにみるゆ
め」はおろか、幼稚園児に聞かせる御伽噺にすらならない。現に、「軽いノリ」
と称したその手の小説は巷に氾濫しているではないか。
7.逆襲
こうして思い悩んだ結果、筆者の筆はすっかり進まなくなってしまった。当
然といえば当然ではある。今まで、自分の書きたいものを書く、いわば勢いだ
けで作ってきた話とは違い、誰かに読ませることを前提にした話を作らねばな
らないからだ。
これは改めて考えると酷な話ではある。筆者の作る話はどれも、基本的に人
の心を明るくするような物語性をそもそも有してはいない。そして一番困るの
は、筆者が「英雄」というものの価値を認めたがらない点だろう。
要するに理屈をこねるタイプなのだ。しかも人と同じということを何よりも
嫌う。こういうタイプは万人受けを望まない。むしろ、分かる奴だけ分かれば
よい、という態度をとる。従って、
「主人公は冒険好きのおてんば王女。彼女を助けるのは、幼馴染みにして才気
溢れる若き騎士。魔王に滅ぼされかかった国を救うため、持ち前の好奇心と行
動力を生かしての大冒険!」
などという話は死んでも書けない(ここに書いているだけでも、情けなくて冷
や汗が出る)。
「刀の柄は長めにすべきだ。短いと振り回した際にすっぽ抜ける。また、万一
刃が折れた場合でも、柄の尻を使って殴打できる。刃は斬撃ではなく、刺突用
の武器として用いる。斬ると刃こぼれが激しく、一人倒しただけで使い物にな
らなくなる。斬撃の際でも、上から振り降ろすより、下から振り上げる方が効
果的だ。逆手切りは意味がない。逆手に持った刃を敵の身体に垂直に当てるの
は極めて困難だ。腰布はデザイン的にはともかく、実戦の際には足に絡まって
邪魔になるだけだ。肌の露出はできるだけ少なくする。布一枚あるかないかで、
擦り傷、火傷の度合いが変わってくるからだ」
こんな具合に理屈をこねるに決まっている。よく「RPGに出てくる女性は、
何故軽装なのか?」などと揶揄を込めた疑問をゲーム雑誌で見かけるが、それ
どころではないイチャモンを付けまくるのが目に見えている。これはかなり厄
介な事態だ。さらに、
「結局この国を救ったのは、歴史に名を残す英雄ではない。数知れぬ無名の戦
士達が、自らと、その家族を守るべく戦った、その結果に過ぎないのである。
一将功なって万骨枯る。その現実を忘れてはならない……」などと言い出した
のでは手に負えなくなる。そんな視点から作った話は、例え理屈は通っていて
も、読んで面白いだろうとはとても思えない。
何だかボヤキまくっているようだが、苦悩の末に導き出した現状把握なので、
当たらじと言えど遠からずだと思う。
さて、グチはこの程度にして、前向きな話をしていこうと思う。何しろ大先
輩が応援してくれるのだ、中途半端なことができようはずもない。
★基本設定
一.「けなげでりりしい」主人公の設定
主人公。何から何まで全てがいつまでも仮設定では話が進まないので、これ
は女性に決定する。基本案二における「風色の少女」がイメージしやすいので
この設定を使わせてもらう。
「そんな弱腰でどうすんねん」という声が聞こえてきそうだが、心配はいら
ない。何故なら、その他の設定が個性的すぎて、多少媚びておいてちょうどい
いぐらいになるはずだからだ(まともに話が進めば、の話だが)。第一、くそ
真面目に話を進めた場合、女性が一人も登場しないまま終わってしまうかもし
れない性質の設定なのだ。これぐらいバランスを取っておいた方がいい。
ともかく、主人公というのは、形はどうあれ読者に支持される、魅力的な存
在でなければならないと筆者は考える。主人公より敵役の方が人気のある物語
は比較的多いが、それは結果オーライであり、本来の姿ではない。
従って、主人公の設定は最も注意を払うべき対象の一つであろうと言えるだ
ろう。容姿についての具体的な描写は彷徨君に任せるとして、問題は性格及び
彼女の持つ才能である。
「冒険」の主人公である以上、行動力のないお嬢様では困る。しかし、ただ
元気がいいだけで、帽子をかぶるために頭がついているような性格であっても
困るのだ。それなりの判断力と、女性らしい優しさも持ち合わせていなければ
ならない。端的に言うなら、「けなげでりりしい」が理想と言える(ナウシカ
やね)。
それはいいとして、もう一つ重要になってくるのは、主人公の主人公たる所
以、である。スポーツを題材にした漫画などを読んだ際によく感じるのは「勝
つから主人公なのか、主人公だから勝つのか」という点である。
読者の心理は微妙なものだ。主人公の勝利を望みながらも、その一方で勝っ
てばかりの主人公に疑問を抱いてしまう。余り完璧過ぎる主人公では、読者の
感情移入の対象たり得なくなってしまう。何事もバランスの取り方が肝心とい
うことだ。だから、「主人公は美人で秀才の姉を持つ、ドジな妹」というのは
少女漫画などでありがちパターンだ(だんげんしてしまっていいのかどうか知
らんが)。が、基本案二の風色の少女は「王子を弟に持つ不遇(?)の姉」だ。
王子の出来次第では、御家騒動の匂いがする設定ではある。つまり、織田信長
や伊達政宗が歩んだ道だ。そのあたりの権力闘争を突っ込むと、「大人」の話
になるかも。誰もが善人でもないし、有能でもないのだ。目指すは「細腕繁盛
記」か(古いなあ)?
二.「認めたくない、若さ故の過ち」美形の敵役
この企画が始まるよりも以前、筆者は彷徨に「ファンタジーとは何か」と聞
いたことがある。彷徨は、典型的かつ軽いノリのファンタジーの定番として、
「主人公の勇者、美しい姫、主人公よりも美形の敵役が不可欠」と答えてくれ
た。なにぶん昔の話なので記憶違いがあるかと思うが「美形の敵役」を挙げた
のは間違いないはず。
うーん。何を例に挙げてそのパターンを確認すればよいのだろうか。残念な
がら筆者は「これだ」という物語を提示できないが、言わんとしていることは
よく分かる。
つまり、敵も馬鹿ではない、ということだ。何だかよく分からん理由で「世
界征服」を企むような連中が相手ではなく、たまたま信ずるところが違ったた
めに戦う羽目になった、と言わせたいのだ。
今回の企画でも、そのパターンは踏襲しておこうと思う(美形かどうかは知
らんが、女ということはないだろう。「女同士の戦い」という言葉の響きは余
りいいイメージを与えない)。
次に考えなければならないのは、敵の強さである。これは、敵役というより
も、敵役の属する勢力全体を捉えた場合の問題だが、主人公側の強さも含め、
慎重に設定せねばならない項目である。
あんまり弱すぎるのも考え物だ。下手すると主人公に出番が回ってくる前に
話が終わってしまう(そんな馬鹿な、と思う向きもあるかと思うが、筆者はこ
の状況に陥ったために話を一つボツにしている。主人公側だけに感情移入して
物語を作ると、そういう事態になる可能性は大いにある)。
かといって、味方側の戦力がまるでアテにならず、世界(一国・地域の場合
もあり)を救えるのは主人公ただ一人、という状況に追い込むのはしんどい。
そういう事態に持っていく過程で、必ず説得力が失われてしまうのが目に見え
ているからだ。
理想としては、味方の戦力の内訳は、主人公三割、他の味方七割ぐらいだと
思う。脇役を上手に活躍させるのは難しい作業だと思うが、筆者は基本的に、
主人公ばかりが活躍するような(サンライズのアニメのような)話が好きでは
ないのである。
「無意味なやられ役やザコキャラを出さない」が原則である。
2−2に続く