#4158/7701 連載
★タイトル (AZA ) 95/ 4/29 7:45 (177)
うちの文芸部でやってること 1−2 永山
★内容
(承前)
五.あらすじ
世界制覇を企むナゴヤ帝国が、世界の中心「聖域」への遠征を開始した、そ
の道程に存在するオウミ国は聖域を守るため、敢えて戦争を決意する。オウミ
国はカズマサの活躍によって、あわやノブナガを討ち取る寸前にまで達するが、
飛空船を使ったヒデヨシの攻撃の前に惨敗する。カズマサは、飛空船に対抗す
べく飛光機を作れるサワヤマ村に使者を送ることをナガマサに要請する。ナガ
マサは了承したが、小さな村に頭を下げることをよしとしないヒサマサの反対
にあって却下される。
一方、何としても飛光機を必要と考えるカズマサは、無断で娘のヒカルを密
かに使者としてサワヤマ村へ赴かせる。
ヒカルの持ち込んだ話に、ヤヒョウエ以下村人達は概ね賛成する。しかし、
ただ一人キヨツナだけが猛反対し、カズマサの申し出は却下される。困ったヒ
カルを見て、タカトラが飛光機を復活させることを宣言する。
タカトラはミツナリやヒカルの協力を得て、ヤヒョウエの助言を参考にしつ
つ、飛光機の復活に挑戦するが、必要不可欠な輝光石を手に入れることができ
ない。飛光機作りをあきらめてしまうタカトラ。しかし、ミツナリは一人、機
体の製作をやめない。その姿に勇気づけられたタカトラは石切場に行き、何と
か使えそうな大きさの輝光石を持ち帰る。しかし実験は、やはりエネルギーが
足りずに失敗する。それを見たキヨツナは複雑な思いにとらわれる。かつてキ
ヨツナは、飛光機の事故でタカトラの実の父・ツナチカを死なせていたのだっ
た。
再び実験を行おうとするタカトラ達の前にキヨツナが現れ、タカトラ達が見
たこともないような大きさの輝光石を渡す。
一方、山岳でのゲリラ戦を行っていたカズマサだが、ついにナゴヤ帝国の物
量の前にオダニ城へと追い詰められる。上空からまさに飛空船が攻撃を仕掛け
ようとする瞬間、タカトラとミツナリの乗った飛光機が飛来し、飛空船に戦い
を挑む。
飛光機対飛空船の死闘が続く。しかしあと一歩というところで、輝光石のエ
ネルギーが切れ、飛光機が下降し始める。やった、とヒデヨシが油断した瞬間、
エネルギーを節約していたミツナリの機転で飛光機は息を吹き返し、飛空船に
とどめを刺す。
飛空船を失ったナゴヤ帝国はオウミ国と休戦する。ヒサマサは無断で飛光機
を戦わせたことについてカズマサを叱責するが、ナガマサが断固としてカズマ
サを庇う。そしてナガマサは、かつてオウミ国を救わせながら、充分な恩賞を
与えなかったことをキヨツナに詫び、サワヤマ村の人々を復権させる。
3.対比
十一月二十一日午前九時。C201教室。
(少々調子に乗り過ぎたか)
島津は昨日感じた不安を確信に変えていた。何を、と言えば先に作った設定
を時間をおいて客観的に見た場合「どこがファンタジーやねん」と突っ込まれ
ても文句の言えない内容であることを、だ。パンと味噌汁を同時に食べている
ような、とでも言えば内心の不快感を分かってもらえるだろうか。素人の悲し
さに加え、つまらないところで人と同じことを嫌う性格が災いして、どうにも
納得のいかない内容になっている。
そこへやってきたのはここ数週間、この話題に関して音無しの構えだった彷
徨だった。彷徨は、鞄からおもむろに一枚の感熱紙を取り出して一言。
「一応、設定考えてきたんやけど」
「おおーっ! それを待ってたんや!」
◎飛光機物語(しつこいが、仮題)」基本案その二
風色の髪を持った少女が、伝説の飛光機に乗って一国の危機を救う物語。少
女は風色(現世回の若草色の近い)の髪と瞳を持っている。このことは、物語
世界でも、不吉ではないにしろ、とても奇異なことである。少女は父親が国王
である。それ故、本来なら王女として王宮で育てられるべきであるが、その特
異な容姿のために国民にその存在を知られていない。少女には弟がいて、第一
王位継承権は彼が持っている。
少女は王宮でなく、城下町から少し離れた小さな村落の鍛冶屋で育てられて
いた。鍛冶屋といっても、彼はかつて王宮住み込みの鍛冶屋職人だったが老齢
のために王宮での仕事を引退し、王女を育てるという役目を引き受けていた。
少女は鍛冶屋のことを「じい様」と呼んでいる。少女は、自分が王女であるこ
とを知らない。
ある日、王国が隣国との交戦状態に入る。戦況はいたって芳しくなかったが、
隣国も最後の決め手がなく完全に攻めきれずにいる。そのとき少女は、初めて
王城に呼ばれて自分が王女であることを知らされる。そして、伝説の飛光機の
こととそれを実用可能にすることができる「じい様」の技術も同時に教えられ
る。しかし、飛行機を飛ばすのに必要な輝光石は王城にはなかった。
輝光石は隣国との国境にある山で掘り出すことができた。少女は輝光石を、
自分が掘り出しに行くことを望む。掘り出す技術を持つ「じい様」と王宮騎士
団の騎士一人、その見習い、そして弟王子が同行することになる。王子が同行
することになったのは、出発直前に暗殺騒ぎがあり、旅に同行させた方が安全
だと国王が判断したからである。しかし、王宮にはアサシンだけではなくスパ
イも潜り込んでいて、飛光機と輝光石の存在は隣国に知られることとなった。
様々な隣国の妨害をくぐり抜けて、少女は輝光石を手に入れる。飛光機は成
り行き上、少女が飛ばすことになる。助手席には同行した騎士見習いが乗る。
この飛光機一機に隣国軍は翻弄される。ついに、戦争の首謀者(隣国王ではな
い)を倒し、戦争は終わる。そして、再び、平和な世界に戻る。
やはり、こうしてみると島津と彷徨の実力差や個性が如実に表れている、と
言えるだろう。彷徨の洗練されたストーリーは、いかにもファンタジーである
と感じさせる。ふぅ。
4.妥協
(しかし、だ)
島津は自室で唸っていた。彷徨のストーリーはよくできていると認めるが、
その全てに納得した訳ではなかったからだ。
最も気になる点は、彷徨が明記しなかった、どうやって少女を飛光機(飛行
機)のパイロットにさせるか、ということだ。
島津は、ファンタジーに一番必要なファクターは「リアリティ」だと思って
いる。矛盾しているように思われるかもしれないが、これだけは簡単に妥協で
きない。フィクションとファンタジーの違いは、その内容が現実の何かと交換
可能かどうか、という点である。それ故にファンタジーにおいては、現実世界
では有り得ない要素をその世界では当然として受け止められている状況を設定
し、なおかつその状態を読者に納得させなければならないのだ。
何が言いたいか分かるだろうか? つまり、どんな疑問・質問にも淀みなく
答えられるほどの確固たる世界観を築かなければ、話が薄っぺらになり、無用
の突っ込みを受ける羽目になるのだ。
確かに、女性を主人公に置くメリットは島津にも充分に分かっている。対戦
格闘ゲームを例にあげるまでもなく、本来いるべき場所にないところにいる女
性は、その存在そのものが個性になる。複雑な人物設定を行わなくても、簡単
にキャラクターを立たせることができるのだ。魅力的になると言ってもいい。
しかし、と島津は反論せざるを得ない。フライ・バイ・ワイヤは無論、油圧
装置もない世界の飛行機(飛光機)の操縦捍は非常に重いと思われるからだ。
とても少女が操縦できる代物ではない。
考え過ぎと思われるかもしれないが、一度考えてしまうとその懸念を振り払
うことができないのは島津の悪い癖だ。
(要は、必然性の問題なのだ)島津は思った。例えば、パイロットとしてでは
なく後席員としてなら、何か役割を与えられるかもしれない。後席員の役割と
は。それはレーダーを監視したり、兵装を扱うことだ。それならば後席員自身
にレーダーの役割を持たせたらどうだろうか? その少女は「気」を読むこと
ができて、普通の人間には目視できない物を「見る」ことができる、とか。
飛行機についてもそうだ。今まで飛行機イコール戦闘機という形で書いてい
るが、戦闘機一機で戦況を逆転できるだろうか? 彷徨もその辺りはさすがに
分かっており、そこはぼかして書いているようだ。ここにも改良の余地がある
だろう。
基本的なところから考えよう。飛行機の優れている点は何か。空から敵を攻
撃できる、というだけではないだろう。他のあらゆる移動手段よりも早い、と
いうことも立派な特色のはずだ。それならば、輸送機として飛行機を登場させ
るのはどうだろう。別に輝光石でもいいが、王女自身を連れていかねばならな
い、という設定もいいかも。これなら、ある程度の必然性が出てくる。
とはいえ、やはりせっかく飛行機を出すのだから、空中線のシーンは是非と
も入れたい。「飛光機」が、ただ一機だけの存在という設定は悪くないが、そ
れを踏まえた上でライバルとなる他の飛行機を登場させることはできないだろ
うか。
ちなみにこの飛光機、島津は旧日本軍のロケット戦闘機「秋水」をイメージ
して考えているが、彷徨は複葉機として考えている。このあたりを利用して、
何か新しい設定ができるかもしれない。
(よし、それならば……)
◎「飛光機物語(仮題だってば)」基本案その三
その世界では、現実世界の中世の段階で飛行機の開発に成功し、大国は空軍
を有している。もっとも飛行機とは言っても、現実世界のゴム動力の模型飛行
機を実寸大にした程度の代物であり、飛行時間は極めて短い。
その世界に存在するある大陸。そこには西の大国と東の大国の二つの国家が
あり、その間にある聖都と呼ばれる都市国家に住む王族が、大陸の平和を保っ
ていた。王族の人々には代々、普通人には見えない物を見る力があり、その力
故に彼らは信仰を集めていた。
しかしあるとき、東の大国の計略により、聖都の王族と、西の大国の首相が
幽閉されるという事件が起こった。西の大国はすぐにでも新しい首相を任命す
べきだったが、西の大国の首相任命権は聖都の王族のみが持っており、その王
族を失った西の大国は首相を立てることができなかった。世論が分裂し、東の
大国の攻勢に対して敗走を重ねる西の大国。そんな現状を憂える一人の騎士は、
離れ島にある南の小国に、王族の血を引く少女がいることと、並外れた能力を
持つ「飛光機」が存在することを知る。騎士は飛行機に乗って南の小国を目指
したが、その途中で、東の大国のエース・パイロットが操る戦闘機に撃墜され
てしまう。
辛くも脱出した騎士は、南の小国の漁師に助けられる。その漁師の住む村で、
騎士はその少女が普通の子供として暮らしてるのを見つける。南の小国の政府
は、見かけは騎士に協力する態度を示した。しかし、彼らは大陸の戦争に巻き
込まれることを嫌い、密かに暗殺舞台を派遣して、少女の抹殺を計る。
そのため、初めは少女を聖都へ行かせることを反対していた村の人々は、村
に伝わる飛光機の復活を約束し、騎士に少女の運命を託す。
一方、騎士が南の小国に派遣されたことを知った東の大国は、航空母艦を南
下させる。
そんな中、飛光機は村人達の不眠不休の努力によってついに復活した。殺到
する東の大国の艦載機の攻撃を振り切り、騎士の乗る飛光機は一路聖都へと向
かう。その前に立ちふさがったのは、以前騎士の飛行機を撃墜した、あの戦闘
機だった。果たして騎士は、少女を無事に聖都へ連れて行くことができるだろ
うか……。
思わず「続く」になってしまったが、このまま少女を聖都に連れていき、新
首相を任命して西の大国を救う、という話にしてもいいし、そこで一波乱が起
こってもいい。いずれにせよ、だいぶんファンタジーらしくなってきたと思う
のだが。
まあ何でもいいから、「ここはこうすべきではないか?」「こんなアイデア
はどうだろう?」と思った人は、ぜひ島津や彷徨に教えて欲しい。もし何か賞
が取れたときは、賞金の一部を渡すということで、どうかひとつ。
(この作品は八割方フィクションです。登場人物、組織、団体名などは、実在
するものとは関係ない場合が多いです)
−−第一回.完 2−1に続く