AWC うちの文芸部でやってること 1−1  永山


        
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★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   7:42  (174)
うちの文芸部でやってること 1−1  永山
★内容
 以下に紹介するのは、文芸部での我が後輩二人がやっていることの記録です。
記録と言いましても、以下の文章は二人の内の一人が自分で書いたもので、彼
らが個人的に出してるコピー誌「オルタネート」に同じ文面を載せていました。
それを私が読んで、「これは面白いから、パソコン通信にUPしてもいい?」
と聞いて、許可を得た訳です。
 簡単に言えば、賞を目指して小説を書く、そのいきさつを記した文章なんで
すが、下手すると、こっちの文章の方が面白いんじゃないかえ?と心配になっ
てしまいます。
 できましたら、以下の文章を読んでいただき、この二人に何かいいアイデア
(私は『アイディア』を使いたいのだが、文中、『アイデア』なので)を授け
てやってくださいませ。


目指せ五百万? ファンタジーノベル大賞への道1 始動編

1.発端
「ファンタジーノベル大賞って知ってるか?」
 彷徨佳(敬称略)が島津に聞いた。時に十一月四日金曜日、午後一持。場所
は教育棟C209教室の隅。商大祭ということで、文芸部が展示を行っている
教室である。
 ただでさえ屋外での屋台がメインの商大祭であるのに、隔離されたような立
地条件(もっとも「お祭りステージ」がよく見える、眺めのいい場所ではある
が)、さらに平日ということもあって、客はただの一人もいない。
「新潮文庫のあれか?」
 島津義家が答えた。
「おう、そうや。あれに応募してみる気はあらへん? アイデアは一応考えて
あるねんけど」
 彷徨の言葉に、島津は怪訝そうな顔になった。
「そんなら、池井さんに頼めばええやん。ファンタジーはこっちの守備範囲や
ないからなあ」
「ファンタジーノベル大賞は、四百字詰めで三百から五百枚は書かんといかん。
池井さんに長い文章は無理や」
 彷徨はそう言って、「お祭りステージ」に目をやった。天気はいい。暖かい
日差しが部屋に差し込んでくる。
「確かに。まあ、まず話のアイデアを聞かせてもらおか」
「よっしゃ」彷徨は黒板に歩み寄り、チョークを手に取ると、
<金属の存在しない世界>
 と書いた。
「ほう」島津が声を上げる。島津のように現実に縛られた思考しかできない人
間にとって、こんな突拍子もなく、それでいて空想の広がる舞台世界を築くの
は不可能である。それを彷徨はたった一行で表現してみせていた。金属がない
ということがどれほど産業の発達を阻害するか、新鮮な感動があった。
 感心する島津を横目に、彷徨はさらに一行書き加えた。
<飛行機の物語>
「うーん」
 島津の感心の度合いが大きくなった。
「この飛行機は、金属がない世界の話やから、エンジンを積む訳にはいかへん。
せやから……」
 島津が何かを考える前に、彷徨は一つの単語を書いた。
<輝光石>
「これを動力源にして、飛ぶ」
(「ラピュタ」やな)
 島津はそう思ったが口には出さず、代わりに、
「反重力物質みたいなもんかいな」
 と聞いた。なともファンタジーを解さない人間の発想だが、ここ一年で急速
に硬直してしまった思考回路は、それ以外の発想を島津にもたらしてくれなか
った。
「そのへんのところは、まだ全然考えとらんのや。あとは、やっぱり小さな村
に住む少女が出てこんとな」
(今度は「ナウシカ」かあ?)
 島津は思わず、どうでもいいようなことを口走っていた。
「ほんなら、主人公は豚か?」
 彷徨はその点について気付いていたのかどうか、大声で笑った。見ると、近
くの席で「ミスター味っ子」を読んでいた由良真沙輝も笑っている。彼は必要
なことしか声に出さない性格であるから、積極的な意見の提供は期待できない。
しかしロールプレイング的なファンタジーの知識は部でも一番のはずだから、
あとで彼に何かアイデアを提供してもらうのも一つの手かもしれない。島津は
そう思った。
 そう。このときすでに島津は、彷徨の与えた題材をストーリーの形にすべく、
脳味噌を働かせつつあったのである。

 その日、島津は帰りのバスを待ちながら、彷徨の与えた題材を形にしようと
考えを巡らせていた。
 すると、島津の後ろにいた二人の女性が何やら話をしている。耳を傾けてみ
ると、彼女達の知人が同人誌か何かで小説を書いているらしい。
「あの話もねえ、もう少し練り込めば『ナウシカ』級の話にできたのにねえ」
 とかなんとか言っている。
(こりゃあ、つらいな)
 島津は思った。ファンタジーで、大空が舞台で飛行機が登場し、主人公が女
性とくれば、これはもう宮崎駿の世界そのものである。
(こんなところで、宮崎駿を敵にまわして話をつくらにゃならんのかいな?)

 苛立つ島津を救ったのは、その二日後、部室での商大祭打上げの席で、彷徨
が言った言葉だった。
「まあ、新潮文庫のファンタジーノベル大賞が無理やったら、富士見ファンタ
ジア文庫とか、講談社のジャンプノベルでもかまわんのやし」
(※永山註.ジャンプノベルは講談社ではなく、集英社)
 聞きようによっては、これほど後ろ向きに聞こえる発言もない。しかし、島
津はそうは思わなかった。とにかく、やるだけのことはやってみようじゃない
か。そう考えたのだった。
 トラファルガー海戦の英雄、ネルソン提督はかつてこう述べ、海軍の心意気
を示した。「どうすればよいか分からぬ時は突撃せよ」と。しかし、我々はも
っと分かりやすい言葉を知っている。「当たって砕けろ」という言葉を。


2.軽率
 ◎「飛光機物語(当然、仮題)」基本案その一
 一.舞台世界
・基本的には、浅井家と織田家が戦った「姉川の戦い」から浅井家が滅亡した
「小谷城落城」までの状況を元にする。
・浅井家をオウミ国、織田家をナゴヤ帝国と仮定する。
・主人公達の住むサワヤマ村はオウミ国の南の外れにあり、輝光石や破岩石(
後述)の産地として知られているが、街に住む人達の中には、彼らを蔑視する
者も多い。

 二.登場人物
・タカトラ
 オウミ国の外れのサワヤマ村に住む腕白少年。今はミツナリの父・キヨツナ
の養子になっているが、彼の亡き父がかつて「飛光機」を使ってオウミ国を滅
亡から救ったという話を聞き、飛光機の復活に情熱を燃やす。
・ミツナリ
 キヨツナの実子であり、タカトラとは義兄弟の関係にある。タカトラと比べ
るとひ弱に見えるが、タカトラの夢をかなえるべく協力する。
・キヨツナ
 タカトラとミツナリの父。現在はサワヤマ村の外れの石切場で働く石堀職人
だが、かつてはタカトラの実の父・ツナチカと共に飛光機の開発を行った。
・ヤヒョウエ
 サワヤマ村の長老。過去のことを話したがらないキヨツナに代わり、飛光機
に関する知識をタカトラとミツナリに与える。
・カズマサ
 オウミ国一の猛将。危機に立たされているオウミ国を救うには、飛光機の存
在が不可欠であると考えている。
・ヒカル
 カズマサの娘。好奇心が旺盛で、タカトラ達の飛光機作りに協力する。
・ナガマサ
 オウミ国の現国王。本人は柔軟な考え方を持っているが、古い考えにとらわ
れている父・ヒサマサとの関係に苦悩する。
・ヒサマサ
 ナガマサの父。現在は王位から退いているが、発言力は今なお現在の王・ナ
ガマサをも凌ぐ。
・ノブナガ
 オウミ国を攻めるナゴヤ帝国の帝王。
・ヒデヨシ
 ノブナガの重臣。ナゴヤ帝国の切り札「飛空船」の指揮官。
・シゲハル
 「飛空船」の開発者。

 見れば分かるとおり、カズマサの娘ヒカル以外は全員戦国武将の名前からと
っている(関係はかなり違っているが)。もっとも、これは島津が名前を考え
やすいというだけしか意味を持たないので、もっと格好いい名前を彷徨が考え
れば、随時変更される。

 三.輝光石と飛光機
 輝光石は普段から淡い光を発している石であるが、物理的な運動を与えると
より強い力を発する。その光は太陽光とは異なり、物を押す力を持っている。
 飛光機を飛ばすためにはその輝光石の性質を利用する。放射状に発せられる
輝光石のエネルギーを、樽のような物の中で発生させることによって指向性を
持たせ、推進力とする。
 輝光石に物理的な運動を与えるため、飛行機の機首に風車(プロペラ)を取
り付ける。この風車の回転を棒によって伝え、棒の先端に固定された輝光石を
回転させ、エネルギーを放出させる。
 なお、輝光石の持つエネルギーには限界があるので、空を飛べる時間はそう
長くない。また、離陸時には、飛光機を坂から滑り落とさせることで、輝光石
が充分なエネルギーを発するまで風車に回転を与え続ける必要がある。
 また、ナゴヤ帝国の「飛空船」は、空気に触れると空気より軽いガスを噴出
する「昇華石」を使用する。昇華石のガスを丈夫な布製の袋に詰めて空に浮か
び上がる。我々の世界の飛行船と考えてもらえばいい。

 四.世界設定の特徴
 「鉄のない世界」であるため、産業革命などの近代化は望むべくもない。し
かし、その一方で木や石の加工能力を高く設定しておかないとバランスが取れ
ない。そこで、輝光石や昇華石以外にもこの世界特有の物質を設定する必要が
ある。
・「粉火石」我々の世界での火薬に相当する。鉄のない世界の戦争は石や木で
作った槍や弓が主力武器となるが、それとは別に、この粉火石を使用したロケ
ット弾(竹筒に粉火石を詰めて、導火線を付けた物)も使用されている。
・「破岩石」この世界で最も堅いとされている物質。槍や弓矢の先に付けられ
るが、木を切るときの斧や、石を採掘する場合にも使用される。熱せられるこ
とでもろくなり、加工できる。
・「歯刺の蔓(つる)」表面が堅く細やかなトゲに覆われた蔓。糸ノコギリの
代わりとして使われる。
・「縮みの蔓」特別な加工を行わなくても使える、ゴムのような物。

1−2に続く




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