AWC 色紙博士(3)   KMP


        
#3394/7701 連載
★タイトル (FAM     )  93/10/14  19: 8  ( 73)
色紙博士(3)   KMP
★内容
 なに。陶芸家になりたいじゃと。
 まあ、やめておいた方がいいじゃろうな。二十年前であんたが外人だったら、
D工芸展あたりでつまらん皿でも出してなんとかなったかも知れんが。
 まだ居るのか、強情な奴じゃな。じゃあちょっと話でも聞かせてやるとするか。
そうすればあきらめもつくじゃろうて。しょうのないもんじゃ近頃の若いもんは。

 儂が二十歳ぐらいの時だから昔話と思ってくれて良いのじゃが、「ぬめぬめ」
という窯元があっての。Sというのに師事していた連中の所に遊びに行った時の
事じゃ。
 面白い連中でのお。儂が行った時はちょうどカッパドキアみたいな巨大陶器を
野焼きしている最中じゃった。連中、酒をくらって馬鹿踊りをしとったな。それ
が消防署に届けをしなかったもんで、あとで大目玉を食っておったが、なんとも
思ってないな、あれは。
 歓迎会というのかな。子牛一頭まるごとじゃ。片手にキャベツ、片手に肉じゃ。
わざわざ金具まで作ったというのだからたいしたものじゃ。まあ歴史ある窯元じ
ゃ。時価数百万円もする皿に平気で刺身を盛ったりする。さすがに剛胆なものだ
と感心しておったのじゃが、皿を持つ手が震えておるように見えたのは、儂の気
のせいじゃなさそうじゃな。
 まあ、連中は朝から昼の3時くらいまで土管を作っておった。それがまあ、収
入な訳じゃが、その当時にしてもとんでもなく安い給料でな。食って寝て、あと
は煙草代がやっとといったところかな。その後は自分の作品が作れるという訳じ
ゃ。大変な所でな、ゼーゲルコーンやら針山やらとんがった物ばかり転がっとる
もので気が気じゃない。鋼の本物の罠まであったがありゃあ何じゃったんじゃろ。
 連中が東京でグループ展をやった時も手伝いをしたもんじゃが、意欲的な展示
会だったな。なにしろピアノがまるごと陶器じゃ。楽譜も陶板に楽譜をシルク印
刷しておる。ごていねいに椅子のじゃらじゃらまで一本一本捻じった陶器じゃ。
テーブル、時計、果物、全部陶器じゃ。フォークもナイフもな。ピアノがまた深
い青でな。泡立ちがなかったのが印象的じゃった。低火度の釉薬というのは面倒
な物じゃよ。
 連中、自分たちの作品が認められないのがなにより口惜しいらしくて、酒が入
ればその話じゃ。中には上野の駅から美術館までの道沿いにずらららっと作品を
並べてしまえと言いだした奴がおってな。その時のSの態度が印象的じゃったな。
こう、腕を組んでな。じろりと睨む。そしておもむろに口を開き、「それはもう、
やった。」みんなシュンとしてしまったのお。
 そういえばその中のひとりが結婚した時のことじゃ。スピーチでな。こんな事
を言った奴がいたな。「Y君は現在無名です。これから先はというと、多分無名
のままでしょう。死んでからといえば勿論有名になどなりません。誰も思い出す
事もないでしょう。」ときた。
 それは事実かもしれん。しれんが、結婚式などというものは所詮嘘八百を並べ
る儀式じゃ。嘘をつかなきゃならん所で嘘がつけなかったとなると、これは「礼
儀知らず」という事になる。Yの親父に到ってはそのせいで酔いつぶれてしもう
た。スピーチした奴がトイレに行った後、二度とは会場に戻らせはしなかったが
の。なに今ごろは歪んだ顔にも慣れたじゃろ。

 どうじゃ、これでも陶芸家になりたいかな。
 なに。そういう修業や努力無しで、しかもすぐに有名になりたいじゃと。困っ
た奴じゃな。なにもともと飽きっぽい上に約束が守れない。短気で喧嘩っ早くそ
の上女癖が悪い。つまり働きたくないから芸術家にでもなって女にもてたい。警
察に指紋も登録済み。
 それだけ才能に恵まれててよくいままで貧乏でいたもんじゃ。うってつけのや
つを教えてやっても良いが、気持ちがこもっとらんとな。ふむ。ふむふむふむ。
だいぶ気持ちがこもって来たの。
 なあに簡単。かあんたんな事じゃよ。まず窯元の娘をかどわかす。そうじゃ。
普段から腕立て伏せはよくやっておくがいい。
 まずそれだけで大物の陶芸家じゃ。後は適当に焼いて、人が来た時にはさも難
しそうな顔をして片っぱしから焼いた物を叩き割っておれば良い。なにしろ大方
は運でやる芸術じゃ。溶変という不思議な現象のせいで形がどうのと言われる気
遣いはない。特に訳が判らん物が出来たら「作品」にしておけ。題名はそこらへ
んの奴がつけてくれる。使い道のない物にはオブジェという事でな、まあ現代美
術にも挑戦といった態度で。喋るんじゃないぞ。無口を装っておれ。どこかの評
論家が勘違いしてくれるでな。
 あとは無名で気の弱そうな素人の陶芸家をおだて上げて作品をごそっと借りて
来てな、自分の作品として売ってしまえ。なに気にする事はない、良くある事じ
ゃ。
 書なども暇を見つけてやっておけ。読めちゃだめじゃ、もう思い切りむちゃな
物をやるんじゃ。文化人の集まりにもまめに出ておけ。喋るんじゃないぞ。腕を
組んで「うーむ」とうなっておけば良い。
 こうやって駄目になった奴も、実は、居る。でももともと人間の屑じゃったの
だから、まあいい夢でも見たと思うが良い。損はしない訳じゃしな。わはははは
はははははははは。こりゃ、何をする。こりゃ。こりゃ。

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PS:ああ、神様。




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