AWC Long Night(3)    うちだ


        
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★タイトル (TEM     )  93/10/15  21:21  ( 62)
Long Night(3)    うちだ
★内容

 二人は一通り家の中を見た。結局この家には誰も住んでいなかった。一階は
玄関と、洋風の居間と、五畳ほどの和室と、寝室らしき鍵のかかった部屋と、
キッチンに食堂。二階には机と黒板しかないがらんとした部屋が四つ。
「何にもないけど、やっぱり別荘なのかな」のぞみがつぶやく。
「うん。小さな会社の研修とか、部活の合宿みたいな事に貸し出ししてるんじゃ
ないのかなあ。下に一部屋、鍵のかかった部屋があったからさ、そこに備品み
たいなモンがまとめて置いてあるんだと思う」
「そういえば」階段でくるりとのぞみが振り向いた。「電話あった?」
「ダメ。なさそうだよ」
「・・・・どうしよう」
「外でうろうろするのは危ないよ。しょーがないから、夜があけたら動こう」
と聡。「・・・・そうね」
二人は居間に戻った。ふうっ と大きなタメイキをついて、のぞみはソファに
腰を降ろした。薄くホコリが舞った。聡も同じようにのぞみの隣に座った。し
ばらく沈黙が続いた後、のぞみの顔を覗き込んで聡が言った。
「どうしようね、今から」
「おなか空かない?」のぞみが即答した。
「あ、あ・・・」聡はのぞみの肩にまわそうとした手を戻しながら、しどろも
どろに答えた。「そだね・・・でも、駄目なんでしょ、冷蔵庫も」
「えっへっへー。こんなこともあろうかと」のぞみは自分のバックをごそごそ
とさばくると、板チョコを1枚取り出した。「これ半分コして食べよ」
聡はそれを受け取ってパキリと半分に折り、大きめの方をのぞみに渡した。
「四次元ポケットみたいだな、のぞみちゃん」
「爪きりもバンソウコも正露丸も持ってるよー。残念ながら傘は旅行カバンの
方に入れてたけどね。あとはーハサミ、ノリ、ペン、修正液・・・・」
さほど大きくもないハンドバッグからどんどんと物を出して見せるのぞみに呆
れたように聡は言った。「スゲーなあ、用意いいんだ」
「人はあてにしてないから」ぱくぱくとチョコをほうばりながら、のぞみが答
えた。「あ、ゴメン。聡くんのこと、あてにしてないって意味じゃないよ」
聡がムッとする。
「こんなトコまで俺なんかについて来ちゃって、よかったの?」
のぞみはきょとんと聡の顔を見た。「へ?」
「だからー、こんな夜中のドライブに一人でついて来ちゃって、それって俺と
ならどうなってもいいってことかなーと」
「ああ、そういう意味」のぞみは笑った。「だって聡くん、無理やりどーかし
ようなんて気はないでしょ」
「えー? 分かんないぜ。俺も男だから」聡は真面目な顔をして言った。
のぞみがそれを睨みつける。「そんなことしたら、私泣き寝入りしないからね。
FAXで怪文書をばらまいて、聡くんの就職をパーにしちゃうよ」
「ああっ、それだけはご勘弁を」
大袈裟に土下座の真似をする聡を見て、のぞみが笑い出す。「嘘よ」
「俺のだって嘘だよ。無理やりなんかしないって」二人は笑った。
“ガタン”と物が落ちる低い音がした。
「・・・聞いた? 今の音」
聡がうなずいた。「うん。二階だったよな」
「ねえ、さっき」
「ん?」
「さっき、私がこの家に入る前。聡くん、この家に入ったでしょ? 二階のあ
の部屋は見なかったの?」
「いや、入ったんだけど」聡が頭はかいた。「黒板はよく見なかったから。机
や椅子はひっくり返ってなかったよーな気がするんだけど」
のぞみは青い顔をしている。「何か、気持ち悪いね」
「大丈夫だよ。誰もいないって」と聡。
のぞみは、聡の顔を覗き込むように見た。
「もし、何か危険な事が起こったら、私のこと助けたりしないで逃げていいよ」
「そんなこと言うもんじゃないよ」聡が少しムッとして答える。「なんか悲し
くなっちゃうな。俺ってそんなにアテにならない?」
「そういうことじゃないけど」のぞみがあいまいに笑った。
「じゃあ見てこっか」
聡はソファーを立ち上がり、居間を出た。
                              つづく




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