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★タイトル (FAM ) 93/10/14 19: 7 ( 61)
小説・色紙博士(2) KMP
★内容
なんじゃ。
そう何度もこられても面白い話などないぞ。
なに。ほほう、これわ天下に名高い名酒「酔仙」。少々甘いが、あの横山
大観がいまわのきわに飲んだという。いやいや、催促はしとらんぞ。これも
人徳。わはははははは。まあ母屋に。うん、何をしとったかというのか。な
にこの絵にな、こうジュエルメデュームをたあらり垂らしてな。ドライヤー
を一気にあてるとばりばりばりばり、ほうれ見事なひび割れじゃ。これに日
東紅茶の濃い所に漬けこんで干すと、まあ田舎の代議士くらいはいちころじ
ゃ。なに、無粋な事をいうでない。年寄りの道楽に水を差すもんじゃないぞ。
また上野の話か。あそこはもう芸術家なぞ出んぞ。福神漬けとかいうのを
見なさい。よくてサラリーマン。教師ばかり無闇と増える。まあ、受験が終
ると定年になったようなもんでな。8年かけたやつもいたが、そうなると定
年どころか隠居になってしまう。卒業する頃には煙になっている。いや嘘で
はない、床の間の瓶があるじゃろう。あれはかつてA美の名物男でな。かわ
いそうに入学と同時に煙になったのをあわてて瓶に詰めた物じゃ。なに。あ
あ、あれは12年物じゃ。
「有名」という麻薬はなにしろ速効性の上に習慣性もあるでな。この間、
わしの知っているデザイナーで98ごときでCGをやっとる男がいるんだが、
普段から生意気な事ばかり言っておってな。自分は「有名」などという事で
おたおたしない、と放言していた。自信過剰のばか者じゃの。
ちょうど遊びに行った時じゃ。電話が鳴ってな、奴め、目を白黒させとる。
聞けば山本寛斉からじきじきの電話じゃ。本人がいるわけでもないのに、ペ
コペコしてのお。わしは人間の屑じゃと言ってやったわい。そういえば奴の
98はRAなんじゃが、486にコプロ、RUMてんこ盛りでスロットは満員
というわけで、わしは「乞食の正月」と呼んでおる。
まあ、年に一度のお祭りじゃな。あれはな、キャンバス代など考えると安
かったんじゃ。万一の事もあるしな。だからほかの美大に行ってても、受験
だけは毎年するという馬鹿者が多くてな。実際の倍率は半分ぐらいだったん
じゃないかな。中にはスキンヘッドで真っ赤な服を着てな。「一年ぶりィ」
などと言って、同窓会みたいなもんじゃ。一次の最終日には気落ちしてそう
な美人の女をいそいそと捜すしまつ。まあどいつもこいつも若かったという
事じゃな。
受験の実際も今考えると変なものじゃ。まだリキテックスが禁止になって
ない頃でな。受験開始と同時にペインティングナイフで下地を作り始める。
速くも遅くも出来るしな。まあバリエーションという事を考えればいいのか
も知れないが、ルオーとローランサンとビユッフェが並んでいたぞ。あの頃
は油が一次になったばかりでどいつも混乱していたな。
そういえばその後グリフィンは使って良いとされたようだが、あの代理店
はどこだったかな。悪名高きHじゃあるまいな。あそこの営業の目付きは釣
り上げられたばかりのボラに良く似とって、オドオドしている癖に妙にプラ
イドだけ高くてな。やたらと甲高い女言葉で喚きたてる。自信のないやつが
無理して知らない物を売りつける羽目になると、人間あそこまでボラになれ
るものじゃな。
まあ年に一度のお祭り、宝くじとはいっても、「万が一」というのは残っ
とるわけじゃ。まあ、心のどこかに期待は、ある。
かの世界的版画家が田舎の両親に「いまからでも入れて貰えないか」と言
われるぐらいの伝説の城じゃ。入ってしまえば、将棋の歩が王将になるなん
てもんじゃない。何処かの大工が大天使ミカエルに迎えられるより大変な事
じゃ。なんといえば良いのか、そう、友部正人のバックを演奏していた男が
アカデミー賞を取るぐらいのおおごとじゃな。
まあ、そんな「万が一」気分も一次試験の最終日、試験官の最後の挨拶で
砕け散るのじゃがの。実際小さい教室では30人ぐらいしか入らんしな。む
わははははははははははははっ。ところで旨いぞこの酒は。
試験官/「それでは皆さん、また来年!」
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まずいぞ。