#1276/1336 短編
★タイトル (QKD ) 00/ 7/24 8: 9 (185)
お題>タイムマシン / 権座池 《マスカット》
★内容
権座池は周囲をミカン山に囲まれた村のはずれにあった。
村のものは何時からこの池を権座池と呼び始めたのか解らず誰にも通じる
呼び名としてそう呼んでいた。
「あんりゃぁ?」
「どうしたぃ? 勇作さん?」
「あれ、ほれ、あれだがな! 今、権座池の方に何か落ちたようだぞぃ」
「勇作さん、見に行こう」
権座池まではさほど遠くはないが、この暑い時節に歩くのは辛かったので
二人は源太の軽トラで行った。池に近づくと何やら光る物体が見えた。
「何じゃろう?」源太が少々不安そうに言うた。
「まぁ、もちっと近づいて見てみようがなぁ」勇作は先に立って歩いた。
えらい元気やなぁと思いながら源太は後についた。
権座池のちょうど入ると膝下くらいの浅い水面にキラキラ光るお碗のよう
な物が浮いていた。勇作がその中に入ろうとするので、源太は心配で叫んだ。
「ちょっと待てやぁ、勇作!」
「はぁ? 何でやなぁ?」
「危ない物かもしれんがなぁ?」
「大丈夫やがな、こっちこいさぁ」
源太が中を覗くと勇作がご機嫌で中のソファに座っていた。
変な物やなぁ。それはお碗のような形をしたまるでモデルハウスの一室の
ように家具やら電化製品を置いてある結構大きな部屋のような物やった。
「きっと最新式のモデルルームやなぁ、これは。源太も入れやぁ」
恐々だったが、あまり意気地なしと思われるのもしゃくやで、思い切って
源太も入ってみた。
「おっ、なかなか、ええクッションやなぁ、家にもこんなん欲しいのぉ」
「いっそ、二人でこの中の物運んで持って帰ろかいなぁ」
「勇作、そんなぁ、泥棒やないかなぁ」
「冗談やわ、冗談。 うん? このスイッチ何やろなぁ?」
源太が「むやみに触らんほうがええぞ」と言う間もなく勇作が触れてしも
うた。グギーーーーーン ウィーーーーーン 二人の耳に大きな機械音
が押し寄せてきた。
「わぁーーーー」
ポチャーン。「ん? どうしたんやぁ、どうなったんやぁ?」
「勇作!勇作!大丈夫かぁ?」
「はぁ、大丈夫やぁ、えらい大きな音したなぁ」
「はよ、もうこんな変なとこ出よ!」
「そやな、なんや気持ち悪かったなぁ」
ポチャーン。
「なぁ、なんかさっきから音せんかぁ?」源太が言うた。
「ああ、ポチャンとか音するなぁ」
二人は濡れた足をふきながら周囲を見回した。別になんも変わった事は
なかった。ポチャーン。「また、したなぁ」二人は気味が悪くなった。
「はよ、帰ろうなぁ、勇作」「そやな」
池の近くの小道に停めておいた軽トラに戻ろうと二人は立ち上がった。
「あれぇーーー?」「なんやぁ?」
「軽トラあらへんでぇ」「そんな事あるかいなぁ」
二人は走って小道へ降りるとそこに停めた筈のトラックを探した。
「あらへん・・・」「くそぅ、キーつけといたでなぁ、盗まれちまった
かぁ」 やれやれ、此処から村まで歩いて帰るはめになるとは。こんな
とこ来んだら良かったなぁ。源太はそう思っていた。勇作は手ぶらで
帰れるかい!と思っていた。みんなの笑い者になりとうないわぁ。
源太の止めるのも聞かず勇作はさっきのお碗の中に入っていった。
えーい、このソファはトラックないで無理やなぁ、なら、この洒落た
丸テーブルだけでも持って帰るぞぉ。勇作がうんしょと力を入れてその
テーブルを持ち上げようとした時・・・ポチャーンとまた音がした。
「あんたら、そこで何しとんのやなぁ?」
今時珍しい野良着を着た爺さんが歩いてきた。
「いやぁ、ちょっと変わった物があったんでなぁ、調べとったんやわ」
勇作はけろりと嘘をついた。源太は困った奴やと思いながらもここは同調
しとくがええわなと思った。「爺さん、あんた変わった格好してやなぁ?」
「わし、別に変わった格好してへんがなぁ、ここらじゃみんなこんな恰好
やで、あんたらこそ変わった格好しとるがな。あんたら、殿さんとこの
新しい家来衆かいのぉ?」
殿さん!?家来!? 二人はこの爺さんいかれとんのやわと思った。
相手にせんほうがええなと思うた二人は村の方へとぼとぼと歩いて帰った。
「勇作ぅ、わし、疲れとんのかなぁ? 変な物見えるでぇ」
「源太ぁ、わしも疲れとんのかなぁ? 嘘やそんなん!」
村のはずれまでやっと歩いてきた時・・・二人の目に入ったのは映画で
見るような小さいがまぎれもなくそれは「城」だった。しかも、今、二人
が立っている先には、ちょんまげ姿の侍が立っていた。
二人はこれは映画じゃないがな、なんか変やがなと怖くなってその場から
逃げた。権座池に戻るしかないなぁ。あんな変な物に入ったんが間違い
やったなぁ、ん? ここで源太の頭にある事がひらめいた。
「勇作や、こないだTVで見た映画でな、タイムマシンというのをやっと
ったんやな、もしかすると、あの変なお碗そうと違うかぁ?」
「うーん、そうかもなぁ、どっちにしても、こんなんじゃ家にも帰れへん
がな、戻って調べてみようやぁ」
ポチャーン。二人が戻ったのを知らせるようにまた音がした。
「気になるなぁ、あの音・・・」
「気にしても仕方ないがな、はよ、あのお碗調べよな」
勇作は最初に入った時に偶然触れたスイッチをもう一度触ってみた。
「ご帰還ですね。先ほどは失礼をいたしました。音声装置が異常でお客様
にタイムマシンの行き先設定のご説明をできませんでした。では改めて
ご説明をさせていただきます」
お碗が喋った!! 二人は仰天したが、これで帰れると思うとホッとした。
ポチャーン。
「ただいまのポチャーンで貴方様方がこのタイムマシンでこの世界におい
でになってから5ポチャーンの時が流れております。お客様のお乗りに
なった時代では、5かける事のポチャーンの年数がたっております。
それでもお帰りになられますね?」
「なんやて?」「どういう事やぁ?」二人はわからんなりに青くなった。
「つまり、このタイムマシンをお使いになると500年も一瞬って事です。
その感覚を忘れていただくといけないが為のポチャーンでしたが、どうも
こちらの機械設定のミスでお客様への説明が行き届かなかったようです」
もう、わからん! わからんけど怖いでもう帰りたいよーと二人は思った。
「こ、これ押せば帰れるんや、絶対に」勇作は泣きそうになって言うた。
「ふ、二人で一緒に押すぞな」源太は言うた。目をつぶってエぃっと押した。
グギーーーーーン ウィーーーーーン
「やれやれ、帰れたな」源太は勇作の手を引くとお碗の外に出た。
水がない・・・池がない・・・そこは巨大なドームのような室内だった。
二人の前を知的進化生命体グールがふわふわと飛んでいった。
「なんやぁ!?」 二人は頭を抱えて座り込んだ。
「教授・・・また犠牲者が出ましたよ。もうこういうたちの悪い冗談は
やめましょうよ」助手は気の毒な二人の姿を画面の中に見ながら言った。
「ええか、あれは500年昔に生存しておった人間という愚かな生命体
じゃ。愚かでもあの者らにもうちっと熟慮があれば、あのような事には
ならんだとは思わんか? 世はまさに淘汰の繰り返しじゃ。まぁ、あの
気の毒な者達は落ち着いたら元の世界に戻してやるがのぉ」
助手は教授のこの気晴らしに近い悪戯癖をやれやれと思っていた。
ちょうど800年前にも同じ事があったのだ。
その時の愚か者の名前は確か・・・権座という名前だったな。
追跡調査によれば、何とか無事に帰ったものの、気がふれたと噂が流れて
池で溺れ死んだらしい。それからあの池は権座池と呼ばれているらしいな。
今回の犠牲者には最新の記憶喪失誘発剤を与えてから帰そう。もう、
あんな気の毒な様は見たくないからな。助手は教授には内緒にしとこうと
思った。
「さて、レポートを仕上げないとまた教授にお目玉をくらうな」
助手はグール独特の超思考蝕指を人口知能から自動で呼び出すと
まずは1ポチャーンの時空間移動の歴史のデータをまとめ上げた。
「タイムマシンか・・・あれは確か6ポチャーン前の時代にとある
作家が空想の産物として生み出した言葉だったかな・・・まっ、これ
はさして重要項目でないから削除だな」
【 おしまい 】
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《マスカット》QKD99314