AWC 真夏の鎌倉旅行    /竹木 貝石


        
#1277/1336 短編
★タイトル (GSC     )  00/ 7/25  13:46  (135)
真夏の鎌倉旅行    /竹木 貝石
★内容
   7月21日(金)

 妻と二人で鎌倉旅行に出かけた。
 メインは、ウィリー沖山のコンサート『ヨーデル IN 鎌倉』を聴く為で
あるが、ついでに名所を幾つか見物してきたい。
 鎌倉は高校3年生の修学旅行以来だから、もう45年にもなる。当時の様子
をあまり覚えていないが、江ノ島でたくさんの階段を上ぼり下りしたことや、
引率のI先生に、旅館でさざえの壷焼きをこしらえてもらったことなどを記憶
している。

 名古屋発11時5分の新幹線に乗り、道不案内のため、東京まで行って東海
道在来線で大船まで戻った。
 コンサートの入場券は一人6000円で既に購入済みだが、念のため会場の
『鎌倉芸術館』まで歩いて約10分、前もって場所を確かめておいた。
 横須賀線で2区間、鎌倉まで来て、小町通り商店街を通って約12分、鶴ケ
岡八幡宮に参拝した。参道も境内も社殿も広々として、さすがに名高い神社だ
けのことはある。
 実朝を暗殺すべく、公暁が隠れ潜んでいたという大銀杏は、柵があって近寄
ることはできなかった。

 帰りは若宮大路を駅の方角へ戻り、途中にあるホテル『鶴ケ岡会館』でチェ
ックインを済ませ、いったん304号室に入った。
 荷物を置いて部屋で暫く休み、私だけシャワーで体を流して、再び出かける
ことにする。なにしろ外はものすごく暑くて汗ぐっしょりなのだ。
 ホテルを出てすぐの所に、〈鳩サブレー〉で有名な豊島屋があった。鳩サブ
レーは東京八重洲口の大丸百貨店が取り扱っている大型のクッキーで、製造元
はここ鎌倉の豊島屋である。東京ではよくみやげに買うが、今日は本店で買え
るから嬉しい。
 日頃世話になっている、W・S・Dの各氏に、3品の詰め合わせを郵送し、
私も一箱買って、それをもう一度ホテルのロビーに預けた。

 横須賀線で大船まで戻り、駅前の寿司やで早めの夕食を取った。
 鎌倉芸術館では、開場時間の5時半まで、入り口正面のウインド式掲示板で
催し物の日程を読んだり、ロビーでカウボーイ関連の展示即売などを見物した
りした。
 建物の床は木製ブロック式で、ホールの定員は650人くらいだろうか?
観客の出足はいまいちだが、それでも開演頃には三分の二以上は入場したと思
う。
 プログラム第一部はカントリー、第二部はジャズという構成で、若手のバン
ドや前座出演もあった。
 ウィリー沖山は昭和8年生まれというから67歳だろうか? 声の衰えは全
然なく、見事な歌唱力はさすがである。期待のヨーデルは、第一部で3曲・第
二部で1曲しか歌わず、しかも私はMD録音機の操作を間違えて、ほとんど収
録できなかった。
 演奏終了後、楽屋裏へ訪ねていって直接ウィリー氏にお礼を言いたい気もし
たが、結局遠慮した。

 ホテル『鶴ケ岡会館』はバス・トイレ付きで、二つのベッドの他に四畳ほど
の畳敷き部分があり、これが大いにくつろぎを与えてくれる。私がMDの録音
編集をしているうちに、妻は既に寝息を立て始めた。
 夜中に冷房と暖房のセッティングを間違えるハプニングもあったが、他には
何事もなく静かに休息出来て良かった。



   7月22日(土)

『ソレイユの間』で朝食を取り、9時半まで自室でゆっくり休んでからチェッ
クアウトを済ませ、ロビー脇の喫茶店でコーヒーを飲んだ。
 さて出発…。今日は快晴の炎天下! せっかくの鎌倉見物だが、はたしてこ
の暑さにどこまで耐えられるだろうか?

『ルルブ鎌倉』で調べておいて、まず最初は、ホテルから歩いて5分の妙隆寺
へ行ってみる。
 民家の間に埋没しそうなお寺だが、歴史は古く、妙徳年間に建立されたとか
…、山門の柱も年代物だ。
 石段を上がって、木の縁板に片手を突くようにしながら賽銭箱に百円硬貨を
落とし入れ、そっと手を合わせて祈った。
「この寺の2代目住職は、焼き鍋をかぶせる刑に処せられた」
 という説明文があり、おそらく政治批判をして捕らえられ、自説を曲げなか
ったものと思われる。
 鎌倉駅へ行く途中に、『日蓮上人が辻説法を行った場所』という立て看板も
あった。

 江ノ電(江ノ島電鉄)の1日フリー乗車券〈のりおりくん〉を購入し、ガー
ドをくぐって駅に入り、暫く待って乗り込んだ。
 この鉄道は単線らしく、路線の途中で時折反対方向の電車を待ち合わせては
すれ違っていく。停留所の1区間は短いが、主な名所はこの電車で行けるらし
い。冷房が強烈に利いていて、今日の私には助かる。
 鎌倉から3区目の長谷駅で降りて、徒歩10分の長谷観音へ向かう。
 確かに凄い暑さだが、浜風なのか、絶えず5〜6メートルくらいの風が吹い
ていて、清涼感を与えてくれる。結構な人出で、おばさんたちや親子連れも歩
いている。私は途中の雑貨店で扇子を買って仰ぎながら歩いた。

 長谷寺は見所が多く、まず境内の放生池に咲く水蓮を観察した。正に心臓の
形をした大きなつぼみや、花弁が散った後の円錐形の種の固まりを触れて感激
する。
 本堂前に「日本一大きい木魚」が置いてあり、手で触ることはできなかった
が、7年もかかって楠木を彫り抜いたとのことである。
 本尊の11面観音菩薩は高さ9.18メートルもあり、足利尊氏が金箔を、
足利義満が後光を寄進したと伝えられる。
 本殿と別棟の厄除け阿弥陀如来および弁天堂と弁天窟も巡って参拝したが、
詳しいことは覚えていない。

 長谷観音から歩いて約5分、大仏で有名な高徳院に来た。入場料は200円
だが、追加20円で大仏の体内に入ることができて嬉しかった。大仏の中は結
構広くて、内側の壁は鋳物加工のように綺麗な手触りになっている。
 大仏の高さは13.35メートル、台座を除いた高さは11.31メートル、
重さ121トンの青銅製だそうだ。
 帰りの参道に大きな銀杏の樹があり、妻と両手を広げて計ったら、二抱えで
僅かに手が届かなかった。

 ちょうどバスが来たので、これ幸いと江ノ電の長谷駅まで乗るつもりだった
が、経路が違っていて、また鎌倉駅まで戻されてしまった。
 江ノ電に乗り直し、今度は江ノ島まで行って降りた。
 駅前から商店街が続き、「江ノ島入り口まで600メートル」と書かれた看
板を頼りにまっすぐ歩いたが、これは大層暑かった。立体交差の地下道をくぐ
り抜け、左前方にヨットレースらしきスピーカー放送を聴きながら、汗だくに
なって進む。
 両側に波音が近づいて、ようやく「江ノ島弁天橋」にさしかかった。昔は確
か木の橋だったと記憶しているが今はコンクリート製で、長さはほぼ1千歩あ
る。
 橋を渡って江ノ島に入ってからも、商店街の間の登り道をかなり行き、やが
て階段にさしかかった。「展望台までエスカレーターで10分」と書いてあっ
たが、江ノ島神社まで徒歩で登ことにした。
 気丈な妻もついに途中で休憩するほど暑くて苦しい。
 やっとのことで階段を登り切った所に神社があり、巾着形の大きな賽銭箱に
百円ずつ入れて参拝した。
 帰りに階段を下りながら段の数を数えたら、4、33、29、48、52、
20。合計186段だった。
 島の出口に近い食堂の1軒に入り、二階の部屋に上がって、焼き鰈定食を注
文した。生のシラスや繭玉豆腐など珍しい料理もあったが、味はそれほどでも
ない。

 江ノ電に乗り、建長寺の見学は次回の楽しみにして、鎌倉に戻った。
 駅前の店でかき氷と紫芋のソフトクリームを食べたが、この店は静かで冷房
もよく利き、ホッと命拾いの感じだった。但し、ここで扇子を置き忘れたのは
残念である。

 横須賀線で東京へ、17時7分発のひかり号で名古屋に帰ったが、名古屋の
プラットホームに降りた途端、サウナか蒸気風呂にでも入ったような猛烈な熱
気に圧倒された。夜の7時でこれだけの暑さとなると、大船や鎌倉の暑さなど
比ではない。さすがは名古屋の夏である。






前のメッセージ 次のメッセージ 
「短編」一覧 オークフリーの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE