#961/1336 短編
★タイトル (PCN ) 97/12/22 15:23 (171)
すーがくにまつわるエトセトラっ! 3 湯飲み茶碗
★内容
9月某日、夜のことである。
数学教師の倉本 慎は自分の財布とにらめっこをしていた。
財布の中には50円玉がたった1枚しかなかったからである。
今の所持金は上着やズボンのポケットをあさりにあさって、よ
うやく318円。彼は悩んだ、タバコを買うか、鮭チャーハン
の素を買うか・・・・
「ぐきゅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
彼のお腹の音である。この音で彼は答えを出した。
「まずは腹ごしらえやな」
車の中で独り言を言いながら彼はコンビニへと鮭チャーハンの
素を買いに、車を急がした。
コンビニへ行った彼が家に戻ってくるのに時間はそうかから
なかった。まぁ、金がないので何も買えないのだから当たり前
なのだが・・・・
幸いご飯は朝、出勤する前に炊いていたので、後は買ってき
た「素」を混ぜるだけだった。食べてる最中に彼はあれこれ考
える。
(ああー、こーゆーとき彼女がいたらなぁー。疲れて家に帰っ
てきたらおいしい料理作って待ってるカワイイ彼女、欲しい
なぁー。教師になってから出会いなんてあれへんし。学生ン
時が一番良かったな・・・・今、周りにおんのは、うるさい
ガキばっかしやし・・・いや、過去なんか振り返ったって、
しゃーないか・・・)
冷蔵庫に冷やしてあった缶コーヒーを最後に飲んで、一息つ
き、絨毯にごろっと仰向けに寝転がる。上には天井が見えた、
それがますます孤独感をつのらせる。誰もいないのだこの部屋
には。
(はぁーっ、今までこんな静けさってあったっけ。入社して3
年、教師っていろんな仕事すんねんなぁ・・・あちこち出張
行ったり、生徒の進路相談、学校の雑務・・・んで、生徒に
数学を教える・・・学校ってホントににぎやかやし、忙しい
よな・・・)
すると、彼は自分の体がソワソワしているのに気が付いた。何か
が足らないのだが・・・
(タバコが吸いたいな・・・)
そうなのだ、まだ家に帰ってきてから一度もタバコを吸っていな
いのだ。しかし、コレは無理なハナシである。何せ金がないのだ
から。
(ガマンや・・・いやでも吸いたい・・・けど金がない・・・で
も吸いたいっ・・・)
とうとう我慢し切れなくなった彼はお金を探すために自分の部屋
を荒らし回った。
約10分後、彼は貯金箱を発見した。
(重いな。けっこう入ってんちゃうかな・・・)
重さと金額は一致しないことを考える余裕はこの時彼にはなかっ
た。案の定中身を出してみると、ザザーッという音と共に出てき
た硬貨は、1円、5円ばかりで、あとは10円玉が数枚だった。
彼はそれを元に戻し、またコンビニへと車を走らせた。
「すいませんっ!コレ数えて下さいっ!」
店員の目の前に小銭が山のように広げられた。店員はその数の多
さに驚いたが、とりあえず地道に一緒に数え始めた。
夜の9時に、小銭を一生懸命数える男2人なんともバカらしい
光景である。
「437円です」
店員の声を聞いたとたん
「じゃあ、セブン・スター下さい」
こうして彼は満足げにタバコ1つとおつりをもって家に帰ってい
った。
食欲も一応満たされた、タバコ欲(!?)も満たされた・・・
さて、起きているとまたお腹が減るので、彼はお風呂に入ってす
ぐ布団へ入った。
「という訳やねん」
全部昨日のことをしゃべり終えた倉本 慎。そう、ここは職員室
である。
「先生、じゃあ今日のご飯はどうしたんですか?」
今まで、倉本 慎の激貧バナシを聞いていた佐生 英子(さしょ
う ひでこ)が尋ねる。
「今日はな、家にあったミニチキンラーメン1コで、1日持たさ
なあかんねん」
「ええっ!めちゃめちゃ貧しいじゃないですかっ!」
「おうっ!」
あんまり食べていないせいか、ちょっとHIGHなってしまって
いる彼。
そこへ、現国担当の樋口 成治(ひぐち せいじ)先生がお菓
子の入った箱を持って話に入ってくる。
「あー、先生それ下さいー」
お菓子とわかったのか、甘えた声になる英子。
「うーん、まぁいいか。実行委員会で頑張ってるし、はい」
中からクッキーを取り出して英子に手渡す。
「ありがとうございますー」
すると、樋口 成治は倉本 慎の方へ向き直り
「なぁ、倉ちゃん、君コレ食べた?」
さっき英子にあげたクッキーを指差す樋口先生。
「え?この前、もらったヤツのことですか?」
そう言って机の引き出しを開ける、中には英子がもらったものと同
じものが3つ入っている。
「じゃなくて、あげた以外にこっから、取って食べてる?」
「なんでそんなこと聞くんすか?」
「いやぁー、もう3部しかないんだよー」
この先生なぜか「個」を「部」と言うのである。
「はぁ、食べてますけど・・・」
「先生、それドロボーじゃ・・・」
「だよなぁー、佐生さん」
樋口先生と英子から攻撃を受ける倉本 慎。しかし、彼は開き直っ
て
「だって、樋口先生、この前こっから取って食べていいよーって言
いましたやん。何か文句あるんですか?」
「オマエ、もらってるヤツやのに態度でかいな・・・」
「ですよね・・・」
あまりに飢えているのでホンキで怒れない樋口 成治。そしてさっ
きもらったお菓子を食べるのをためらう英子。
この時だけは倉本 慎が小さな子供に見えたと2人は言う。
おしまい