AWC 冒険世界・密林での昼休み   神無月 光季


        
#747/1336 短編
★タイトル (PZN     )  97/ 1/20  11:16  (153)
冒険世界・密林での昼休み   神無月 光季
★内容
「……えーっと」
「リュー……まだ描けねえのか?」
「まだ、てターヴさん。僕がそんな、絵が上手いように見えますか? だいい
ちもう忘れちゃいましたよ。そんなにはっきり見てたわけじゃないし」
「仕方ねえだろ? 新種の岩獣(ロックビースト)なんぞに追いかけられたお
前が悪いんだよ。ギルドに報告義務があるってのに……面倒臭いことしやがっ
て」
「めんどくさい、て……僕のせいじゃありませんよ! 勝手にあいつがあそこ
にいたんだから」
「てめえがボケっとしてて迷子になるからいけねえんだよ!」
「そんな――あれは、ヴェイドさんが……」
「如何にも。リューが、私の呪文に巻き込まれてはぐれてしまった。あれは、
私が確認を怠ったせいだ」
「ほらほらほら!」
「しかし、魔道師を志す者があれしきの怪物に手こずるようではいかんな」
「志してませんよ、とっくに」
「ああいった怪物には、原子分解系の攻撃呪文が有効だぞ」
「だからあ……原子分解系? それって、位階八以上の超高等呪文の?」
「位階八程度を『超』などと言っていては、まだまだだな」
「滅茶苦茶言わないでくださいよ! 僕は位階一の、それも一番簡単なやつし
か知らないんですから」
「そもそも魔道というものは――」
「ああ、ヴェイドさんの蘊蓄話が始まっちゃった」
「ばかやろう!」
「痛い! もおー、乱暴だなあ」
「こっち来い、まったく、説教してやる!」
「ちょっとお。ヴェイドをあのままにして逃げるのかい?」
「うるせえぞ、サム。男同士の話し合いにケチつけんな! どうしてもってん
なら、自分が男だって認めてからにしろよな!」
「なんだってえ! ターヴ!」
「うわ、逃げろ!」
「だ、だからターヴさん。どうしていつも余計なこと言うんですか!」
「お前に言われたかねえよ。いいからついてこい!」
「待ってくださいよお!」
「逃げた、逃げた」
「――そもそも、私が『魔道とは何ぞや?』と知ることになったのは――」
「ラエナ、あんたこの男の弟子だろ、一応? 何か言ってやりなよ」
「――あれは、そう。私がまだ十一の夏、いつ果てるともない魔道の苦行を続
けて……ん、ラエナ。どうした?」
「何か」
「……いつ終わるとてない魔道の荒行は――」
「(はあ……)隊長ー!」
「……」

「ふう、ここまで来れば大丈夫だ」
「はあ、はあ……まったくもう」
「リュー」
「何ですか?」
「お前、幸せを探してるって言ってたよな」
「そうですよ」
「男にとって幸せとは何か教えてやろう」
「な、何なんですか? 突然」
「それはな――」
「やめてくださいよ!」
「あん?」
「だって……僕が幸せだと思うことと、ターヴさんが幸せだと思うこととは違
うと思うんです。いえ、絶対違いますよ!」
「なにい? オレはなあ、楽して大金稼いで、ウマイ飯食って酒飲んで、イイ
女抱いてる時が幸せなんだよ! 『僕は違う』とは言わせねえぞ!」
「そ、それは、僕だって、そう、ですけど……でも、それだけじゃ自分で納得
できないんです」
「何でだよ?」
「……言われたんですよ。『お前は、この道以外では幸せになれない。〈大い
なる者〉がそう言っている』て。その人が言う幸せ、てものが、そういう何て
言うか……単純なものとは思えないんです」
「誰だよ、そいつは?」
「魔道の師匠、だった人です」
「うーん……有名な大魔道師だったよな? なんて名だ?」
「レギアロ・ブラースン導師です」
「レギアロ……聞いたことあるぞ。たしか、ちょくちょく色んな国の政策に口
出しする、やたら嫌われ者の……おい、そいつ、すげえ預言者だろ?」
「そうです。占星術の権威です」
「……ま、いいか。とにかくだな、『幸せになりたい』とか、て言うのは、も
うやめろ!」
「何でですか?」
「幸せなりたいと言ってる奴はな、幸せにはなれないんだよ」
「どうしてです?」
「知らねえよ! 世の中そういうモンなの!」
「……ただ単に、僕が『幸せ、幸せ』て言ってると、うざったいだけなんじゃ
ないですか?」
「そうだよ……違う、て言ってるだろ!」
「どっちですか!」
「あー、くそ! あ、あのな……」
「はい」
「……あんなとこに、ラエナがいるぞ?」
「ほんとだ。トンボを追っかけてるみたいだけど……て、ターヴさん! どこ
へ行く気ですか?」
「し、死んだ……バーチャンが言ってたんだけどよ」
「はい」
「……『幸せとは、見えない妖精みたいなもんでのう。人を豊かにする力があ
るんじゃが、とっても臆病で恥ずかしがり屋なんじゃ』」
「はあ……」
「『じゃから、幸せ、幸せと年がら年中騒いでいる者の所へは、恥ずかしがっ
て近寄って来ないんじゃよ』てな! はあ、はあ」
「ターヴさん、顔赤いですよ」
「う・る・せえ!」
「ぐえ! く、くるひい……」
「とにかくだな」
「げほ、げほ!」
「金輪際、『幸せ 幸せ 春の訪れよー』とか言ってんなよ! それとも、俺
たちと一緒にいるのがそんなに不幸か? ええ!」
「ぐええ、分かりました! 分かりましたから、もう首を絞めないでください!」
「分かりゃ、いいんだよ」
「もう……何だかなー」

「リューは、どうした?」
「あ、だんな。あいつはラエナとトンボ捕まえに行きました」
「……ターヴ。ふふっ」
「な、なんだよサム。気味悪いなあ」
「聞いたよー。幸せが妖精だって?」
「! さ、さて。そろそろ行きましょうぜ、だんな。リューたち呼んで来ない
とな」
「私が呼んでこよう」
「ヴェイドおー!」
「なに、恥ずかしがってんだよ。ターヴっ!」
「痛っっっ! やめろー、頬っぺたに穴開いちまう!」
「……行くぞ」


・あとがき

(注)これは、リューが何か、教えとかに目覚めて幸せを悟る話ではありませ
ん、念のため。

 いや、とにかくですね、リュアッドが「幸せ、幸せ、ウリィィィィ(←古す
ぎ)」とか、て言ってると彼ばかりがクローズアップしちゃって話がそれてい
くんで、ここで一応区切りしときます。外の隊員が出番なくなっちゃうんで。
 突然ですけど、最近、マンネリな話のマンガとか多いでしょ。それは、ハッ
ピーエンドで話が締め括られるからだと思うんです。いや、それがいけないと
言うつもりはありません。読者としての僕は、ハッピーエンドのほうが、アン
ハッピーエンドより好きですから(話書く側としては、あまり面白くないけど)。
 だからさあ、そのう、もうちょっと変わったハッピーがあってもいいかな、
と思うんじゃん? 何かないかなー、何かとっぴなハッピーエンド……とか思
っていたら、リューの奴が人の真似して勝手に……。
 なんだか、話がオモくなるんだよなー。「僕にしか見えない宝物」とか、も
う少し言いよう考えればいいのによお、こいつは! 作者泣かせだ。
 オレって友達少ないけど、そこまで不幸でもないんだけどなあ……。
 悩むこと嫌いじゃないし。ほら、悩みに悩んでるとさ、頭の芯が疲れてボー
っときて、しまいには別の世界が見えて来る、てゆうか(←かなりキケン)。
あはは! でも、悩んでばっかりじゃいけないんだよねー。困ったヤツだのう。
 前回はなんだか、変なところで行が開いたりしちゃって。利用者が多い時間
帯だったのか、やたらとおかしなことが起きてビビりました。
 あ、ラストでラエナはどこにぶら下がってたか分からないと思った人、いま
せんか? 崖の上から垂らした縄はリューの足首に巻きつけられただけで結ば
れてはいなかったんです。リューの足首に縄を絡めた後、ラエナはその余りの
部分でぶら下がっていたわけです……分かりにくかったでしょ?
 なのに、今回はセリフだけという……タワけたことをしてしまって、申し訳
ありませーん! でも、ごめんね、いろいろやらせてね。
 では! ではでは……。

・追伸

 武闘さーん、あんた、本当にいい人だよー!




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