AWC お題>ポプラ並木       ふみぼう


        
#521/1336 短編
★タイトル (PYN     )  95/10/23  23: 9  ( 68)
お題>ポプラ並木       ふみぼう
★内容
 僕は、一体何をここで待っているんだろう。

 藤本を待っている、と、言えば、それまでだ。

 でも、待っているのは、それだけじゃない、はずだ。

 藤本と僕は、幼稚園の頃からの幼なじみだ、幼なじみだ。

 10年会っていない、一体どう変わっているんだ、君は。

 ・・・何度、君とこの樹々の下で語ったことだろう。春には淡い緑の靄、夏
には深緑の屋根となり、秋には金色の葉を僕らの肩に落とし、冬には純白の雪
を支えるポプラの下を。
 塾帰りに、自転車を押しながら、もう暗くなった道を、ゆっくり歩いていく。
他愛ないクラスの話、先生達の悪口、塾の中の噂話、勉強、受験の話。時には
ずっと黙っていたこともあった。黙っている君の前髪に舞い降りたポプラの葉
を、すっと指でつまんで取ってあげた。

 宇宙航学のエンジニアになる、という僕の夢に、君と一緒に、がついたのは、
一体いつ頃からだったろう。君がまっすぐに見つめているものを、一緒に見つ
めたかったんだ。君は将来を見つめている、僕なんか見てはいない。君の視界
に僕が入れないのなら、せめて同じものを見ていたい、同じものを追いかけた
い、同じものにたどりつきたい、と。

 さりげなく、僕が心密かに狙っている大学を、君に勧めたこともあった。君
が行きたいと言っていた大学を、志望したこともあった。テストではいつもか
なわなかった、少しでも追いつこうと、君に勉強を習ったこともあった。逆に、
君が僕に教わりに来たときは、はっきり言って嬉しかった。僕は、君を目標と
し、君をライバルとし、君を先生とし、君を生徒とした。

 君は、私立の女子高へ進むつもりだったし、僕も、私立の男子高へ進むつも
りだった。大学への一番の近道、選んだ理由は二人ともそれだった。
 君は推薦で一月中に合格を決めてしまった。そして、ずっと僕の勉強に付き
合ってくれた。僕の合格を一番に知らせたのは君だったし、一番喜んでくれた
のも君だった。
「やったじゃん、スキー行こうよ、坂口」・・・いつもと全く変わりのない口
調だったけど。

 最後の塾の日、最後の君と帰る日、僕は言った。
「十年後、君の誕生日に、君をここで待っている」
 返ってきたのは冷たい一言。
「来るよ、覚えてたらね」

 変わらないポプラの葉が、昔を、思い出させた。

 ・・・そうして、10年の月日が流れた。25才の僕は、今日、25才とな
る君をポプラの樹の下で待っている。
 もう、秋である・・・。あの頃と同じ、葉が肩に舞い降りてくる。少し冷た
くなった秋の風が、僕の頬を打つ。半分ほど葉の落ちたポプラの樹は、細い枝
を空に届かせようと精一杯背伸びをしているようだ。10年前の、僕のように。










 サカグチ!

 フジモト!

 10年前に戻った、一瞬。
 ポプラの樹が見せてくれた、一瞬。

                        ふみぼう




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