#480/1336 短編
★タイトル (ALN ) 95/ 7/19 22:47 ( 40)
夏虫 聖 紫
★内容
風鈴の舌さえも微かに振れぬ闇の流れに儚く碧白い輝き揺らめき
尽きぬ古を照らす様に幾つもの束の間の命が漂う小溝のせせらぎ
甘い香りの青い茅の茎には白き雫の口に広がりを強く閉ざした唇
遠く聴こえ来る童達の闇にはしゃぐ声も現に晨夜思いし君に夙夜
冷めし光りは激しき熱を射映す最も近き星に過ぎぬ深闇に蒼月の
射して明るき障子にも観得る雪洞の交互暗灯に魅入る束の間さえ
狂おしき様は柔らかき胸汗ばみ白き足の乱れて裾を妖しく艶じる
触れる事さえも憶す指先の櫛に伝わりし冷たき黒髪の永き流れ也
夜ともなれば風も冷めて行き、闇の中を姿も見せず降り来る露の冷ややかな感触
が包み込むのです。 はたしてその感触は露の冷たさだったのか、闇の持つ冷酷さ
だったのか… 昼間の光りの中に横たわり、美しいと思うもの達は、夜の闇の中で
は不気味な影となり、微風に揺らぐ一瞬さえ恐ろしい… せめてもの安らぎは、昼
間は光りに隠されて見えないもの達の闇に解き放たれた美しさなのでしょうか…
昼明かりの中で、あの無数の星々を不気味に恐れる事は在りません。 白けた月
さえ美しいのです。 そう… 闇の中にあって美しいものは、光りの中に在っても
美しいのです… 光りの中に在って美しいものは、闇の中にあっては醜いが故に、
光りの中に隠れて生きるのです。 真実は暗闇に隠される偽りの背中に過ぎない…
闇は、光りの中に隠された醜さを赤裸々に照らし出して仕舞う。 だから多くの
命は、闇を恐れ夜に眠るのです。 夜美しき夏虫は… 命在るが故に光りの中では
醜い虫なのです。 あの夜空を彩る花火でさえ… 人の手に依るもの故に、光りの
中では醜い火薬の塊に過ぎない… 笑止、笑止、笑止… 月も星も… 塵の塊では
在りませんか… 美しいものに姿などあり得ないのです。 花は美しき故に儚き命
を持て余し、醜きものは永き生涯を弄ぶ… 喰らいて眠り目覚める事無く貪りて滅
び行く… 未だ少女のあどけなさが残る君を美しい等と思ったのは束の間の空想に
過ぎなかったのです。 一瞬は二度と再び巡る事などあり得ない… まして、永遠
のものなどであり得ましょうか… あの一瞬は、姿無き思い出と云う心の中の投影
として永久に美しいのです。
手のひらで自らの光りにより、醜い姿を曝す夏虫に似て… 否、否、否… 手の
ひらに欲す事を望みさえせねば真実に気付く事等無かった事を嘆く様が、まるで、
あの夜の君の事の様で… 無性に永久に一瞬であれと願うのです。
聖 紫