AWC 「ドラッグ」/Tink


        
#442/1336 短編
★タイトル (DRH     )  95/ 4/23   7:51  ( 50)
「ドラッグ」/Tink
★内容
「ドラッグ」

 春色の口紅を付けて街へと繰り出し、男を漁る。
 そんな毎日が続いていた。
 いつの頃からこんな事をするようになったのか、いまいち思い出せないのだが、そ
れが日常になるにつれて、こんな生活に疑問を持つことも少なくなってきていた。
 最初は絵の勉強するために上京してきたのだが、いつからか学校にも行かなくなり、
友達もだんだんと少なくなって来ていた。
 寂しくはなかった。
 昔から一人で過ごす時間を好んでいたし、何より誰も私をかまってくれなかった。
 少なくとも恋人と呼べる人が出来るまでは。
 頼る事を嫌い、頼られる事すら嫌った私の前からあの人は去り、後は信じられない
位に弱くなってしまった私だけが残っていたのだ。
 最初のうちは、そんなことを認めたくなかった。
 なんでも一人で出来る自分。強かった筈の自分。
 全ては虚勢でしかなかったのだろうか?
 何よりも弱さを見せることを嫌い、強さを誇示することで、そう信じ込むことで、
自分の中のバランスを保っていられたのだろう。
 実際は誰よりも弱かったのだ。
 弱さを見せれると言うことは、裏返せばその人はきっと強いのだろう。
 私には間違っても出来ないことだった。
 自分の弱さに気付いた頃から酒に溺れ、男に溺れ、お金に溺れ、薬にすら溺れた。
 その頃から、全てがマイナスの方向へと向かい出したのだ。
 今でも売春が良くないことだとは、頭では分かっていても、簡単にお金を手に入れ
るにはその方法しかなかったのだ。
 目標もなく、夢もなく、ただ、死んでいるように生きているだけだ。
 私は一時、自分が何の為に生きているのかが分からず、何度も死のうとしたのだが、
剃刀を引くことすら出来なかった。
 薬は簡単にハイにしてくれるが、一度切れると言いようのない恐怖感に襲われる。
 朦朧とした意識で男に抱かれ、金を貰い、薬を買う。
 抜け出せない悪循環だった。
 ただ、落ちるとこまで落ちても自分では気がつかなかったのだが。
 やがて、親に見つかり、無理矢理病院に押し込められてしまい、やっと自分のして
来たことに、おぼろげながら気がついたのだ。
 薬の禁断症状は凄じく、喉の乾き、体の痙攣、恐怖感、孤独感、幻覚症状がが次々
と襲って来た。
 何とか治療を終え、退院の時に鏡で見た、自分のげっそりとこけた頬を見ると、何
とも言えない気持ちになった。
 ただ、何故か虹が無性に見たかった。
 そんな余裕を持てることに驚きを覚え、自分がやっと自分に戻れたことを実感でき
たのだ。
 いつか私は結婚し、全ては過去へとなるだろう。
 私のして来たことは、きっと間違っていたのだろう。
 今は何よりも人に会いたい。
 全てを忘れさせてくれる友達を作りたい。
 思い出を作っていける恋人を作りたい。
 朝日の眩しさに手をかざし、やっと爽やかな気分で街へと繰り出していけるだろう
と感じていた──。

                                  (おわり)




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