#443/1336 短編
★タイトル (DRH ) 95/ 4/23 7:52 ( 49)
「創作家と死の関係」/Tink
★内容
「創作家と死の関係」
今、何をしたいのかが分からなかった。
ワープロの前に座り、カーソルのみが点滅を繰り返している以外、何も書かれてい
ない白いモニターを眺めていても、何も文章なんて浮かんでは来なかった。
ただ、小説を書きたいと言う欲求だけが胸の中をくすぶり、そして、その満たされ
ない欲求はいつも空回りをしていた。
スランプなんて言うような、なま易しいものじゃなかった。
創作小説を始めてから今まで、すらすらと文章を書いていたのがまるで嘘のように、
一言も文章が浮かんでこないのだ。
本当に、一体どうしたと言うんだろうか?
確かに今までもスランプの経験が無い訳ではない。
そんな時は、ちょっと視点を変えてみたり、構想を練り直すことで簡単にスランプ
から抜け出せたのに。
僕は結局一行の文章も書かないまま、ワープロの電源も落とさず、部屋の隅に丸く
うずくまるようにして泣いた。
才能なんて無いことは分かっていたのだ。
----お前の書いたのは良く分からない。
僕は理解される為に創作を続けている訳じゃ、無いんだ。
----こんなの誰でも書けるんじゃないのか?
だったらお前が書けばいいんだ。
----くだらない。
お前に何が分かるんだ。
周りの目は全て否定的だった。
ただ、自己の表現として文章を書いていて何が悪いんだ。
僕が僕であり続ける為に、僕は文章を書いている。
ただ、寂しかった。
漆黒の闇の中に放り込まれたように、全ては闇、闇、闇----。
何もかもが思うように進まず、何もかもから逃げるようにして過ごして来て、気が
つくと周りにはだれもいなかった。
叫び出したい気持ちと、人に弱味を知られたく無いと思う心の弱さ。
僕は弱い。僕は弱い。僕は弱いんだ。
全てが、全ての事が僕を弱くするんだ。
唇を噛み締め涙を流す姿なんて、僕じゃない。
僕は僕であり続けたいのに、全ての事柄は僕であり続けることを否定する。
気がつくとカッターナイフを握り締めていた。
手首に当てて一気に横に引くと、静脈からどす黒い血が流れ出す。
不思議な安堵感と、生きているんだという感覚が支配する。
流れ落ちる血を他人事のように眺めている自分と、死に対して肯定的な自分と、生
きていたいと思う自分----全て自分なのだ。
溢れる血も止めずに、涙も拭わずに、ワープロの前まで来て文章を打ち出す。
全てを書き終えた時、短くても自分の全てを書き留めれた実感を感じていた。
そして、ついに創作を書き上げた時にすら感じたことの無い、達成感。
この瞬間の為にこそ、僕は創作を続けて来たのだと理解していた。
僕は眠さと朦朧とした意識の中、文章の最期に「さよなら」と書き足した----。
(おわり)