#439/1336 短編
★タイトル (ALN ) 95/ 4/22 18:51 ( 50)
お題>『博物館… 欠片』 聖 紫
★内容
冷酷な苛立ちほどにも意味のない遠い古に輝いたと云う束の間
突然の春には夜の闇に雨がお前の影を今更の様に美しく曝す。
激しい涙に崩れ心の土砂の中から呼び覚まされた悲しみの様に
時と云う名前の船に揺られて思い出の岸縁から旅立つうねり…
総ては怨みの中に横たわる陽気なお前たち… 悲しみの絹衣は
限りを知らぬ透明な大気の襞に絡まる様に輝く射翳い微粒子達
大凡は諦めの中をさまよう哀れなお前たち… 慈しみの日々は
消滅を許さぬ裏切りが木霊する緩瞬の狂震にも似た激しい静寂
夢霞の中を舞い降りる薄紅の花弁に差し出す時の指の先の様に
唯ひとひらの戯れも限りない無数の中でお前だけの物だった…
お前を育んだ季節は出逢いと別離を繰り返しながら老いて行き
互いがお前の対岸で二度と渡れぬ事を知りながら身を投げる。
紅の絨毯は何時の間にか漆黒に変わり、幾歳月の流れを経過した物かを知らせ
示すかの様に、まるで其処だけが塗り替えられた物の様に真っ白い漆喰の蛇腹を
突き上げる両脇の壁の狭間に続く。
決して再度開いては成らぬ紫檀の扉は目眩を誘うほど頭上高く迄もそびえ立ち
まるでそれが憶病者を揶揄する時の嘲笑の響きにも似た恐怖に似ているのは、哀
れさが如何にも矮小に怯え震える栄光の影に潜む魔物の冷酷な微笑みに思えて成
らないからでは無い。威厳に満ちた震えが、謙虚な古に忘れた真実の投影に過ぎ
ないからだ。
紫檀の扉を両手で力強く開くならば、薄暗がりの果てしない時道へと、その扉
の中より真実の闇が眩く流れ来て、あなたの躯を射抜く。
悠久の空間に取り残されたお前の愛は、欠片となり宙に投げ捨てられ、漂うま
まに静止したその一点から今も激しい涙を雫らせて居るのだ。
銀色に透明な輝きは、優しさの絨毯に触れる瞬間、紅い血痕と成って、今と云
う時の後ろを追い掛ける様に、過去から未来へと時道を遡り、やがてその生暖か
い液体は、ぬらぬらと表面から凝固して行きながら、計り知れない時の代償を経
て、漆黒の叫びへと変貌する。
あなたが、その叫びの時道を歩み寄る様に、遠い過去に捨てられた愛は、あな
たほどにはあなたを恋しがっては居ないものを… ご覧なさい、あなたのその無
防備な背中に続く漆黒の時道が沸々とわき上がり、今再び生臭い紅のうねりに戻
り、あなたを飲み込もうとしている。
お前は涙を枯らすまで、お前は心を殺すまで、二度と再び薄暗がりに憧れては
ならなかったものを、あなたが愛を連れてくるから、渡れぬ流れに身を沈め永遠
の別離を告げる為に今更の愛を殺しにやって来るから、あなたも此の開かずの扉
の内で永遠の眠りにつくのです。
心と云う名前の過去を隠した壊れた愛の博物館にあなたが迷い込むのは何時も
寂しさの笹舟に揺られ夢見る微睡みの縁から在りもしない涙の泉の底を探す時。
聖 紫