AWC お題>月と指輪       青木無常


        
#427/1336 短編
★タイトル (GVJ     )  95/ 3/26   6:46  (195)
お題>月と指輪       青木無常
★内容
 んあ? 本番五分前? わかった。わかってる。わぁってるからいちいち報告すん
なってのに、なんべん云やわかんだ、てめえ? ああ、うるせえ、そりゃな、人間た
まにゃまちがいもするさってんだ。過ぎたことぐだぐだぬかしてんじゃねえよバカ。
わかったか? わかったな。よし、わかりゃいいんだ。んじゃ酒もってこい。うるせ
えいいから酒だってんだ。本番四分前だっつって、んなこた時計見りゃわかるっつっ
てんだろ、しつこいなこの。バカタレ、いいから酒。だいじょうぶだってのに。
 よーしよしよし。おおーっとっと。よし、それでいいんだよ。ったく、ボケタゴの
くせして融通効かねんだからよ、おめえはよ。
 ぐびぐびぐび。っく。うーい。あーいー気持ちだなあ。へっへっへーだ。歌うたっ
ちゃうもんね。宇宙客船のりついでえーえ、と、やってきました辺境へーえと、すが
るあの娘をふりきってーえと、くらう浮き世の情けなさーあ、とくらあ。ひっく。あ
ん? いーんだよ。酒飲んでわめく歌に意味なんかあるかってんだ。ったく。ボゲ野
郎のくせして小理屈ばっかりノベやがってよ。ぐびぐびぐび。うーい。
 ふう……。
 ……。
 ……あ? またやった? 何? ぶつぶつ云ってねえではっきり口きけって云って
んだろうが進歩のねえヤツだなあ。何? もう本番はじまってるだあ? ……あ。
 あー、えーと、うわははまたやっちまったい、あーと、ラジオをおききのトートお
よび三つの衛星にご苦労さまにも駐屯のおまえら、まことにご苦労さまでございます
ねだ。今週も毎度おなじみ篠原克の『セヴンス・ロフト』の時間がやってまいりまし
たよーと。あー、そういうわけでだな。またまた今日もスタートの声を聞きのがして
しまったわけだが、なーにいつものこった、気にするな。おれは気にしない。
 よし、じゃ一枚目のハガキ読むぞ。えーとなになに、みみずののたくり。なんだこ
りゃ。まったく、おれはイレム語は読めねえんだって何度云えばわかるんだ、ここの
リスナーどもは。あ? おれにハガキ読んでほしけりゃインターワールドかインター
エイシャで書いてこいっつってんのに、毎回毎回。もしかしてわざとじゃねえだろう
な? あ、初めてのリスナーだったらごめんよ。とにかくおれはイレム語は読めねえ
の。そこんとこよろしくな。
 んー、そういうわけで、さっそくミソがついちまったが、なにどうせ適当な番組な
んだ、気にするな。そういうわけでだな、んーと、んじゃ今日の一曲目。ハールワド
・アリ・パシャで『イーオンのジクル』。じっくり聴け。
 ……。ふう。なんとかごまかせたな。ごまかせたんだよ。ごまかせたの。いいから
つっこむんじゃねえっての。気弱なくせに意固地なヤツだなあ。おい酒。酒きれたぞ。
だいじょうぶだっつってんだろ。あ? おまえ、おれに説教くれようってのか? ず
いぶんとお偉くなったもんだなあ。あ? あ? よしよしそうやって素直になればな
あ。なにもおれだってよ。るせえ、いちいちいちいち口ごたえすんじゃねえよ。そり
ゃ痛えのあたりまえだろがよ、痛えように殴ってんだからよ。あー、うっとおしいか
らガタガタガタガタぬかすんじゃねえよ。ほら曲終わっちまうよ、はやくミキシング
ルームひっこめってのに、まったく、いつまで経ってもこのバカは。
 はい。そういうわけで、一曲目は『イーオンのジクル』でした。
 んじゃまあ、二枚目のハガキな。んーと、バスト区マイダス開拓局のダネル・シー
クのおたより。あー、篠原さんこんばんわ、毎回毎回のいいかげんなDJぶり、怒り
をとおりこして呆れはててます、ときたもんだ。うるせえ、よけいなお世話だよ。あ
ーなになに、以前はチャンネルがひとつしかないのでしかたなく聴いていたのですが、
あまりのいいかげんぶりにラジオを壁に叩きつけて思わず壊してしまうことも一度や
二度ではありません。って、それはおれのせいじゃねえっての。で、あー、いまさら
弁償しろとはいいません、だと? あたりまえだバカ。おかげさまで本職の惑星気象
学とはべつに、ラジオの修理においても、基地内でのオーソリティーになってしまい
ました。おー、よかったじゃねえか、このおれさまに感謝しろよ。いいな? んで、
あー、なになに? ちかごろチャンネルがふたつ増えたのでよろこんでいます。でも
ほかの番組を聴いていても、最近は篠原さんのやる気のないしゃべりかたとADの人
へのどなり声とが気になって、ついこの局にあわせてしまったりもしています。おー
おー、いい心がけじゃねえか、うん。あー、それでだ、あん? なに? でもやっぱ
篠原さんのしゃべってんの聴いてると腹がたつので、やっぱ他のチャンネルにかえて
しまいます、だあ? バカにしとんのかおまえは。まあそんなことは気にせず、これ
からもマイペースで勝手にやってなさい。ぼくは聴きません、だと?ふざけやがって、
なんだこのハガキは。こんなハガキいちいち出すんじゃねえよおまえ。ヒマ人だなあ。
まったくよ。まあいいけどよ。
 あー、そういうわけでだな、んじゃ二曲目はダネル・シークのリクエストでガラベ
ジャン&ハインズ、『クオン』。ほいスタート。
 ひっく、うーい。うえ、おい、いまのしゃっくり電波のっちまったかな? あ?
のったかもしんない? げろっぴー。まあいいや。いつものこった。な? そうだろ。
なにヤケんなって笑ってやがんだてめえ。ちっとこっちこい。こっちきて酌しろ酌。
うるせえバカ、まだだいじょうぶだよ、この曲はけっこう長いんだからよ。いいから
酌しろっての。はやくしろボケ。とっととしねえとおめえ、また後で三角木馬でドタ
マこづいて蹴りくれてだな、あ、曲終わった? なんでえ。ずいぶん早えな。
 はい、そういうわけで三枚目のハガキ。えーと、第七クレーター地区にお住まいの
主婦、ママ・カナヨさんからのお便りだ。あーん、なになに? いつも放送聞いてま
す。よし。えらいぞ姉ちゃん。あ、姉ちゃんじゃなくて母ちゃんか。いいんだ何でも。
とにかくだな、あー、うちには三ヶ月前にうまれたばかりの子どもがいますが、その
赤ちゃんが篠原さんのわめき声を聞くたびに泣き出してたいへん迷惑しております。
あん? なんだこのハガキは。お願いですからもうこの番組は打ち切りにしてくださ
い、だとふざけんじゃねえよ。ガキが泣きわめくのあ、あたりまえのこっちゃねえか。
あ? だいたいだなあ。ガキが泣くのがいやならセックスすんなってんだまったく。
あのなあ、姉ちゃん、じゃなくて母ちゃん。ガキが泣くのイヤだってんなら、チャン
ネルかえるかラジオ切りゃいいだろが。てめえで努力ひとつしねえでぜんぶ人のせい
におっかぶせようって了見じゃおめえ、ガキだってかわいそうだよ。まったくよ。ま
あ、しかしなんだ。なるべくわめかねえようにすっからよ、おれも。あんたも努力す
る。わかったな。よし。
 ふう。そういうわけで、んじゃつぎの曲はママ・カナヨのリクエスト。映画『百一
匹赤ちゃん大行進』のサントラからグロッケンTの演奏で『百一匹赤ちゃん行進曲』。
前代未聞のリクエストだなこりゃ。ほい音楽スタート。
 かーっ。ぺっぺっ、おい、なんだこのハガキは? え? おめえ、この番組はお昼
のワイドショーじゃねえんだからよ。おめえもうちっと選べよ内容をよ。なに? そ
のハガキ選んだのはぼくじゃない? んじゃおれが選んだってのかよ。あん? なん
でっておめえ、この番組の関係者はおれとおめえしかいねえんだから、おめえが選ん
だんじゃねえってんなら後はおれしかいねえじゃねえかよ。あん? あん? だって
記憶にないんだもん、だと気持ち悪ィからそういうしゃべくりかたするなってのがわ
かんねえのかこのバカは。あん? わかった? よし。んじゃ酒もってこい。なに?
なんだと? まだてめえ、おれに何か指図しようってのか? あ、ほれみろ、おめー
がぐずぐず云ってるうちに曲終わっちまうじゃねえかよ。あとで覚えてろよこの野郎。
 はい、そういうわけで、名作『百一匹赤ちゃん大行進』のメインタイトルでした。
あー、なんだか空気までミルクくさくなってきたような気がするな。
 んーと、そういうわけで、だ。口直しのハガキの四枚目は、えーとなになに、クロ
スヒル七十二番街の匿名希望三十二歳。んーと、私は現在クロスヒル外縁の開拓地で
パワードギアを運転している三十二歳の男性です。ほう。パワードギア、ね。男の憧
れってヤツだね。渋いねえ。職場では部下が四人、二人は熟練で、あとの二人は二年
目と今年初任の新人ですが、みな自分の技量なりにしっかり働いてくれるので、安心
して一日を過ごすことができています。そりゃよござんした。んで? えー、週末だ
けでなく、機会を見つけてはそんな部下たちといっしょに、クロスヒルの唯一の繁華
街にくりだして遅くまで飲んでいたりするのですが、火曜日の夜だけはできるだけあ
けるようにしております。ほう。それはなぜかというと、ほう、いうまでもなく、篠
原さんの『セヴンス・ロフト』が放送される日だからです。と。ほう! ほう! ほ
う! 一技術者の身とて、番組に対してなんの貢献もできませんが、陰ながら篠原さ
んのご活躍を応援しています。これからもお体に気をつけて楽しい番組をつづけてく
ださい。はいはいどうもありがとさんで。えーと、PS、あまりADさんをいじめな
いであげてくださいね。はっきりいってかわいそうです。あー、最後がどうもよけい
だねえ。でもまあいいか。いやあどうもありがとう。こういうハガキって滅多にねえ
から、どうもこの、テレっちまうね。へへ。なんちゃって、ひっかかったなバカ、こ
のおたよりは実はヤラセだ。わーはははははははひっかかったひっかかったざまーみ
ろってんだ。この番組にこおーんなまともなハガキがくるわけねえってんだよーい、
だ。ざまあみろ。
 ってなわけで、ほいじゃこの架空の人物のリクエストで、ほお、こりゃリクエスト
のほうも渋いじゃねえの、えーと、はるか帝国のマイナーパフォーマー、エルンスト
・ディドルで『カインの夜明け』。渋いぞ。
 ……おい。おい。おいってのに聞いてんのかこの野郎。おめえ、こんなテレくせえ
ハガキ選ぶんじゃねえってのに。なに? たまにいいハガキきたんだからせっかくだ
から? バカてめえ、冗談じゃねえっての。おめえ。カラーってものがあるでしょカ
ラーってものが。おれのもってるカラー。番組のカラー。おめえ、こんなんはっきし
云ってまるっきしガラじゃねえじゃねえの。え? おい。うるせえ口ごたえするなっ
てのにこいつは。いいからとにかく、次からはこういうのはボツな。いいな? 無条
件でボツだぞ。いいな? わかったな? うるせえ機嫌が悪ィのはさっきから酒が切
れっぱなしだからじゃねえかよ。あーうるせえうるせえ、わかってるってんだもうす
ぐ曲終わるってんだろ? ちっ。たくよ。あ? つぎのと、あと一曲でちょうど時間
くらいだ? わかったわかった、きれいにおさめてやっからよ。なに、おさまんなく
てもエンディングひきのばしゃ、あ、曲終わった? いけね。
 あー、あー、そういうわけでだな。んじゃつぎで今日の最後のハガキな。えーと、
なになに? 移民局、匿名希望の二週間前に地球から赴任したばかりの新米より、だ
とさ。えー、篠原さんこんばんわ、はじめておたよりします。はいはいこんばんわと。
んー、私は二週間前にトートに赴任してきたばかりの、できたてのほやほやの新米開
拓民です。んなこたおめえ、ペンネーム読みゃわかることだわな。ちょっとくどいぞ。
まあいい。つづき。えー、ここにきたのは希望ではなく、会社の意向です。そりゃお
めえ、まあ、たいがいそうだわなあ。好きこのんでこんな辺地にくるヤツってのも、
まあいねえわけじゃねえけど、あんまりいねえわなあ。ま、おたがいお気の毒ってと
こだわな。で? えー、じつは、地球にいたころぼくには将来を誓いあった女性がい
ました。おたがいどんな境遇になろうと助けあい、愛しあいながら一生を暮らしてい
こうとよく話しあっていたのです。なんでえ、ノロケかこりゃ。ふざけやがって。冗
談じゃねえぞ、くそ。それで、あー、ぼくにトートへの赴任の話がきたとき、十年と
いう長期にわたってのプロジェクトですが内容もやりがいがあり、また子どものころ
から開拓民にあこがれていたこともあって、ぼくは進んでこの話を引き受けることに
したのです。だと? なんだおめえ、バカじゃねえの? こんな片田舎のドツボなと
こをよ。ま人それぞれだけどな。まあな。つづき。そんなぼくの性格を、彼女もよく
わかってくれていたはずなので、あーあー、はいはい、これがいい機会だと思ったぼ
くは、はいはいはい、彼女に正式にプロポーズすることにしました、だとよ。あーあ
ーよかったねーだ。そこでぼくは、トートの周囲をめぐる七つの衛星にひっかけて七
つの指輪を発注し、結婚指輪として彼女におくることに決めたのです、ときたもんだ。
えーい、やってらんねえや。ったくよ。お? ところが、ときたぞ。どうしたんだ、
おい。えー、ところが、です。なんと彼女は、トートなどという遠隔の僻地にいくの
はいやだといいだし、ぼくの指輪をうけとってくれなかったのです。ざまーみろだな。
ははは。でも、まあ。かわいそうに。なあ。
 まあ、でも、なあ。この、彼女のほうの反応のほうが、まあ。ふつうだわなあ。
 ……なあ。
 ……。
 ……。
 ……ふう。
 うるせえ。わかってるよ。あとで始末書かく。
 とにかく、つづけるな。えー、そういうわけで、ぼくはいま一人でこの星にきてい
ます。風のたよりで、彼女にはべつの男ができたと聞きました。べつに恨んではいま
せんが、すこし哀しい、というか、割り切れない思いです。うーん。ま、そうだろう
な。そんなもんだ。な。えー、んで、ですが、昔のことはきっぱり忘れてこの星で第
二の人生を歩みだしてみたいと思っています、ときたか。へ。第二の人生。うっわー。
真顔でよくいうぜ。第二の人生。うっわー。うっわー。でもまあ。がんばれよ。ま、
そのうちきっと、いいこともあるかもしれねえし、な。ま、気楽にいこうや。な。ん
で、えーと、そんなぼくのリクエストです。二年前地球で流行った『鋼鉄の翼』をか
けてください。彼女といっしょに暮らしていたころの、一番の思い出の曲です、だと、
このバカ、未練たらたらじゃねえかよ。情けねえよなあ。
 まあしかたがねえか。わかったわかった。わかったから、とっとと薄情な元彼女の
ことなんざ忘れて、第二の人生とやらに力強く歩みだせよ。
 あー、そういうわけで、だ。すべての独身赴任者におれがささぐ。本日のラストナ
ンバー、ラスティ・ブラウン・ナイト・エンジェルで『鋼鉄の翼』。
 ……ふう。やれやれ。これでようやく今日もおわりか。趣味ではじめた番組だけど、
なんだか最近かったるくなってきたよなあ。なに? ファンも増えてるんだからやめ
ちゃダメだだと? うるせえバカよけいなお世話だっつってんの。やめねえよ心配し
ねえでも。あー喉からからだぜ。おい。コーヒーいれろ。酒じゃねえのかってよけい
な口きくなっつーのに。酒飲ませてえのか? あん? わかったらとっととコーヒー
いれろってのにグズが。あーあー紙コップでもなんでもいいからとっとと持ってこい。
曲終わっちまうじゃねえかよ。急げよ。
 ……ふう。
 あ。ご苦労さん。なに? ご苦労さんだなんて天地が砕けちっちゃう、だ? てめ、
ケンカ売ってんのかこの野郎。
 あ、ほれ、曲終わっちまったぞバカ。はやくエンディングかけにいけ。はやくしろ
ってのバカ。のろいぞこのボケ。えー、とまあ、そういうわけでだな、本日もなにご
ともなく平和に終わってよござんしたってところだな。そういうわけで、篠原克の
『セヴンス・ロフト』今週はこれまでってわけだ。そういうわけだから、また来週も
ハガキをたくさんよこせ。わかったな。苦情でもなんでもいいからよ。私は逃げも隠
れもしない。わかったな。そういうわけで、それじゃ時間がきたから、んじゃまたな。
あばよ。また来週。ほい。
 よーし、せのびっ、……………………っとお。いよーし、おわったおわった。おい、
ひさしぶりに飲みにいこうか。この前いったばかりっておめえ、二日ぶりじゃねえか
よ。いいから遠慮すんな。飲みにいこうってのに。あ? さっきのハガキ? それが
どうしたんだ。あん? 先輩が酔って話した昔の話に似てるだと? てめえはこのボ
ケ、ざる頭のくせしてどうしてそういうことばっか憶えてやがんだこのこのこの。い
いから飲みにいくぞ。うるせえ、まだ逆らうのか。いーからこいっての。な?

                               月と指輪――了




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