#428/1336 短編
★タイトル (GSC ) 95/ 3/27 10:34 (149)
フリー随想 『名作・名演』 /オークフリー
★内容
1
今年は日本放送開始70年ということで、NHKのラジオ深夜便などで、懐かしい
番組を幾つか放送している。
今夜は、川端康成と高村光太郎のインタビュー録音、その後、徳山 環(文字不明)
の歌である。一通り聞き終わってから、特に〈川端〉について、私の感想を書いてみ
たい。が、Uploadするのは明日の昼頃になるだろう。
(以下は、私の聞き覚えなので、記憶違いも多いことと思う。)
アナウンサー:「川端康成さんは、明治32年の生まれ……。この録音は昭和34
年、NHK教養特集で放送した物です。聞き手は、池島晋平(文字不明)さんと島中
ホウジ(文字不明)さんです。」
注記(オークフリー):川端康成の声を聞くのは初めてである。もっと老人くさい声かと
思ったが、案外であった。あまり良い声とは言えず、フワッと、軽く額から抜けて行
ってしまいそうな音質だが、話し方はさすがである。ゆっくりと間を置いて、自分の
言いたいことを的確に言い切る。ぶっきらぼうの中に、不思議なユーモアが漂ってい
る。
(会話は、ごくゆっくりと、間を置いて進められたので、読者諸氏は、適当に区切
りや…を挿入してお読み頂きたい。)
問い:「川端先生は、ご自分の文学を、どのように見ていらっしゃいますか?」
川端:「怠け者の作品です。」
問い:「どういう意味で、怠け者とおっしゃるんですか?」
川端:「怠け者ですよ。」
問い:「先生の色々なご活動を拝見していると、決して怠け者とは思えませんが
…。」
川端:「何しろ面倒なことはしませんから。」
問い:「でも、評論なども沢山書いていらっしゃいますね。」
川端:「書きました。」
問い:「川端先生に対する評論はお読みになりますか?」
川端:「読みますよ。」
問い:「それを、どうお思いになりますか?」
川端:「読むには読んでも、あまり従いませんから。」
問い「お弟子さんの某(名前を聞き落した)さんが書いた小説に対し、構成が悪い
と言う評論がありましたが…。」
川端:「師匠に構成力がないんだから、そうなりますよ。」
問い:「構成力はありませんか?」
川端:「無いですね。」
問い:「例えば、長編小説をお書きになる場合も、先に結末とかはお考えにならな
いんですか?」
川端:「考えません。」
問い:「女性の描き法が独特だと言われていますが、それはどうなんでしょう?」
川端:「そうですか。」
問い:「独特で分かりにくいと言う人もいますが?」
川端:「それぞれの作品には、経過という物がありますからねえ。その内のどれな
のかと言うことですよ。」
問い:「女性の方が書きやすいですか?」
川端:「楽ですから。」
問い:「男性よりも女性の方が、どういう点で楽なんですか?」
川端:「男性には職業があるので、それを調べなきゃならない。私は怠け者だか
ら。」
問い:「これからは、女性も職業が増えてきますね。…、ところで、先生は、女性
の手も握ったことも無いと言う説がありますが。」
川端:「そんなことはありません。」
問い:「外国で、川端文学はどのように評価されてますか?」
川端:「分かりにくいかも知れない。」
問い:「日本女性の恋は複雑だとか、そんな評論もありましたね。」
川端:「千羽鶴とか。」
問い:「なるほど、千羽鶴…。東洋の恋は難しいということになりますか。」
川端:「難しいと言えば、何だって難しいですよ。」
問い:「誰かの文章を手本にされたということはありますか?」
川端:「菊池さんには随分世話になっているからねえ、しかし、手本とは違うよう
な気がするし、志賀さんの作品も沢山読んでいるけど、これとも違う。」
問い:「新感覚派とも言われましたが、それについてはいかがですか?」
川端:「そう言われた時期には、少しそのようにも書いてみました。」
問い:「新感覚派だと言った人は誰ですか?」
川端:「… …さん(聞き覚えのない名前)です。」
問い:「プロレタリア文学については、どう思われましたか?」
川端:「私は割合理解できましたよ。違和感はなかったですね。」
問い:「最近の若い人たちはどうでしょう?」
川端:「色々ですが、まず、概して良くないですね。」
問い:「どういう文章を好まれますか?」
川端:「私は、耳で聞いて、分かりやすい文章を書くようにしています。」
問い:「ホオー、音で聞いて解る文章ですか。」
川端:「世の中には、漢語ばかりで読みにくい物もあります」
問い:「誰の作品がお好きですか?」
川端:「森鴎外、志賀さんの物、宇野千代さんのもいいです。」
問い:「今日は、ラジオ出演ということで、テレビだったら、先生のそのギョロリ
としたにらみが、また格別なのに、やや残念な気もいたします。」
川端:「そうでもないでしょう。」
問い:「今回、NHKの放送に出て下さいとお願いに行ったら、先生が、へこまさ
れに行くのか とおっしゃいましたが、結局はこちら二人がへこまされてしまいまし
た。」
川端:「だったら今へこまして下さい。」
(一同爆笑)
問い:「本日は、どうもありがとうございました。」
アナウンサー:「川端さんは、昭和47年、73歳で亡くなられました。」
注記(オークフリー):以上が全てである。多少私の創作が入ったかも知れないが、なる
べく雰囲気を壊さぬようそのまま書いたつもりではある。
お詫び:ところが、ここでさらに、私の駄文を追加しなければならないことになっ
た。と言うのは、インタビューの最後の所で、「へこまされる」と言う言葉が2回出
てきたが、実は「へこまされる」ではなく、何か別の言い回しだったのを、私が度忘
れしてしまったのである。つい今し方まで記憶していた言葉で、一番大切な動詞、こ
の『随想』の中で最も正確に書きたかった表現、それがどうしても思い出せないのだ。
『やっつける』『コケにする』『鴨にする』…のような意味で、正にこの放送にぴっ
たりの言葉!残念ながら、私はそれを忘却してしまったのであった。情けない!
補足:と言う訳で、すっかり意欲を失った私ではあるが、気を取り直して書き続け
ることとする。元来私は川端康成の小説を差ほどには好まない。美しさと悲しみと・
雪国・古都などのの文学的価値が分からないのである。しかし、伊豆の踊り子・千羽
鶴・山の音・眠れる美女の四作は大変素晴らしいと思う。そして、昨夜の放送を聞い
てから、私は川端康成という人物を好きになった。
2
今月のラジオ深夜便で、往年の名歌手を紹介しており、24日は藤原美江、25日
は四谷文子、26日は徳山環、27日は藤山一郎である。それらの歌手と歌について
は、いずれまた述べさせてもらう機会があるとして、ここでは、解説および司会者の
森数也(文字不明)氏について書きたい。
この人は、
音楽学校で藤山一郎の1、2級後輩だそうで、一時期NHK名古屋放送局(JOCK)
の音楽番組を担当していたことがあり、当地では知られた音楽評論家である。やや高
めの声で優しく話す語り口には好感が持てる。最近では、地方局だけでなく、全国放
送にも時折登場し、特に大衆音楽に関する博識と豊富な資料には感服させられる。も
う70歳を越えていると思うが、まことに若々しい。
昭和30年頃、私が盲学校の高等部に在学中のある日、森氏が学校へ慰問に来てく
れたことがあった。当時はまだ、民間ラジオ放送とかコマーシャルとかクイズ番組な
どが目新しく感じられた時代で、森氏は、全校生徒の前で音楽クイズを演じてくれた。
「今から私がアコーディオンで流行歌の一部分を挽きます。但し、そのメロディー
は、歌の中の『アア』と言う箇所です。いったい何の曲なのか、その歌の題名を当て
て下さい。」
そう言って何曲かの歌謡曲の『アア』に相当する箇所を挽いて聞かせた。当時盲学
生が150人くらいは居ただろうか。私は、歌の題名が喉の所まで出てきているのに、
ついに1曲も当てることができず、賞品の歯磨きセットをもらうことができなかった。
今でも覚えているが、最後から2曲目が『シベリアエレジー』(伊藤久男)、最後
の曲が『アアそれなのに』(美ち奴)であった。
歌謡曲と言えども、青少年時代によく聞いた曲は懐かしく美しい。私の幼少の頃は、
軍歌一点張りだったから、思想的にはともかくとして、それらの歌は懐かしくわびし
い。そういう意味で、大衆音楽もなるべく美しい物を子供たちに聞かせてやりたいと
考えること頻りである。
3
夕べのラジオは、その後、思い出の名作として、ドラマ『…ファーム』を放送した。
北千島から引き上げてきて、北海道の原始林を開拓している人たちと、新しい機械を
導入して新式農業を始めようとする人たちとの、微妙な食い違いを題材にした物語、
生活苦から生ずる矛盾と確執・一方では隣人同士の思いやりの心…。劇の内容や演出
もさることながら、声優の見事な北海道弁には驚嘆した。多分札幌放送劇団の出演だ
とばかり思っていたら、なんと、東京の劇団の人々がほとんどで、私のよく知ってい
る若山源蔵や白坂道子(文字不明)その他そうそうたるメンバーであった。
芸術とは、かくも素晴らしいものかな。
OAK