AWC 野薊                    聖 紫


        
#426/1336 短編
★タイトル (ALN     )  95/ 3/25  16:57  (170)
野薊                    聖 紫
★内容

  春の日は、日毎に夕暮れが遅くなり、退社時刻をとっくに過ぎてしまって
 居るというのに未だ明るい。終業の挨拶の後、私は自分の席に戻り、日課で
 ある、退社前の珈琲を呑みながら、彼女に別れを告げる。

  気分の良い日には、延々と別れの呪文を告げるのだが… 大方は、疲れ切
 って居るか、不機嫌かの事が多く、足下に蹲る彼女の胸元に足の先を分け入
 れるように忍び込ませ、足の親指で、まるで乳首を押すように、オレンジ色
 の、トグルスイッチを『ぷっちん』と蹴り込む。すると彼女は、悶える代わ
 りに、『かちっ』と云う機械のような音を立てて悶絶死するのだ… ふむ。
 また次に私が出社してくるまでのお別れだな。

  車を洗車したあと、行き付けのスナックに向かう… これは日課では無い
 なぁ… いわゆるエラー処理ルーチンとでも云うべきかな… 時々、社会と
 云う大きなプログラムの中で遭遇する未定義命令から逃避する為の自己保護
 回路の様なものでは無いだろうか…

  見慣れた木製のドアを開いて、薄暗い店の中に入った瞬間から、私は私で
 無くなる… いやぁ〜、そうではなくて、私でない私から、本来の私に戻る
 のかな? そんなことはどうでも良いや… どうせ、ひとつのマシーンで、
 幾つものOSがかけずり回る昨今、ハードが私で在れば、ソフトが誰であろ
 うと、意識出来るわけもない。

  店の中には、見慣れない子が独り、カウンターの内側に立っている以外に
 客も居ない… 未だ早いからなぁ、こんな時間にいきなりスナックに車で乗
 り付ける人間も希だろう… まぁ、そんな事もどうでも良いか…

  私は黙って何時もの席に着くと、タバコを取り出して一服…

  「いらっしゃいませ… 何に致しましょう…」

  「あぁ、何時もの奴ね」

  「………」

  「何時もので良いよ…」

  「ファイルまたはコマンド名が違います」

  おいおい。ママはどうした… あかねも居ないのか…
 居なくても良いから、既存のデーターくらい、インプットして置いてから、
 留守にしろよなぁ。

  「其処の棚の、ナポレオン… そう、2/3残ってる奴… セットはつけ
   なくて良いから… 食べもしないスナックで、いらん金使いたく無いか
   らなぁ… 肴は一品で良いのよ…」

  不慣れに酒の準備だけすると見慣れない子はまた黙りで、つっ立ったまま
 になっている。 あふゅうぅぅ…

  そうこうして居る所へ、ママが慌てて入って来る。

  「あら、相変わらず早いわねぇ… ちょっと、悪いんだけど、この子と留
   守番していてくれないかしらぁ」

  さも、申し訳なさそうにそう云いながら、ばたばたとまた出かける準備を
 している。

  「それは、かまわないけど…」

  「ごめんね、あかねをS市まで迎えに行って来るから… 店、鍵して置い
   て良いから… この子、今日からだから… お客さん来ると困るでしょ
   う…」

  おいおい、私は客では無いのか…
 あっと云うまにママは出ていって仕舞ったが… S市と云えば、車で2時間
 は掛かる所では無いか? 時計を見ると… おいおい、11時までこんな、
 訳の分からない子と二人で居なきゃならんのか… 此処からの逃避先は…
 システムには組み込まれては居ないようだし… 仕方ない… ママが帰って
 くるのを待っていようか…

  「名前は?」

  「ファイルまたはコマンド名が違います」

  「何処から来たの?」

  「ファイルまたはコマンド名が違います」

  「作動していますか?」

  「ファイルまたはコマンド名が違います」

  ありぇい ? …… 未だCommandが組み込まれていないのかな?
 なるほど、んで、店をしめとけって事なのか… しかし、私はどうなるんだ
 まぁいいか、とにかくドアには鍵を掛けて置いた方が良さそうだ。

  しかし、退屈だなぁ。
 汎用Commandか何か無かったかなぁ… しかし、この子の正体を見極
 める事が先決だなぁ…

  取りあえず、ハードの性能から解析してみるか。
 まず、服を脱がして… 下着もとってしまおう… 相変わらず無表情な奴だ
 なぁ… ふむ。結構綺麗な躰をしているぞ… これは最先端の流行モデルだ
 な… 此の乳首の色と様子では… 確率的には99%処女だな… ちょっと
 足を開いて…

  「ぴぃぃぃぃぃぃ!……… 」

  「わぁ、突然どうしたんだぁぁ… びっくりするじゃ無いかぁ…」

  ふむ。自己保護回路が作動したようだ。
 私とした事が… メインスイッチをOFFにするのを忘れていた… ソファ
 の所まで自走させて… 確かメインスイッチは唇にキッスのトグル回路だっ
 たな… 『ちゅっ』メインスイッチをOFFにして… あらぁ、最近のは良
 くできてるなぁ、メインを落としても自立神経は生きてる様だぞ… と云う
 ことは… 保護回路も生きているのか?

  おそるおそる、足を開かせてみる… あぁ、口を半開きにして、頬を染め
 たぞ… しかし、ブザーはならないなぁ… こいつの本能は人間と同じなの
 かぁ?

  まぁ、よいや… 別に、こいつの股間に興味が在るわけでもない… 確か
 今までの此のタイプの機種には「プ○シ○」のあの辺りに豆粒のようなボタ
 ンが付いていて、其処をいじくればプログラムリストが読める筈だったが、
 わぁ、こいつ… なま暖かく濡れて来たぞ… 凄い、技術の進歩だ! って
 それでは困るんだなぁ、ROMは、どうなってるんだぁ…?

  いきなり、こんな所を弄くったからいけないのかな…
 じゃぁ、セオリー通りに乳周りから攻めていこうか… 此のボタンは、未だ
 誰も弄くった形跡が無いなぁ… 『ぴょこん』… ふむ。 ボタンが飛び出
 して来たと云うことは… 『ぷにょ』押し込んで見れば…

  「あぁぁん…」

  え? 何だこれは… おかしなボタンだなぁ… 押し込む度に、変な声は
 出すが… 何処も蓋が開く様子が無いぞ…

  もしかすると、あかねと同じなのかな… 想像しただけでも… 桃色だぁ
 独りでおとなしく呑んでいた方が無難かな… あっ、元に戻して置かなくて
 は… ママに叱られる… をっ、こいつ独りで起きあがって、勝手に服を着
 てる… 未だメインスイッチも入れて居ないぞぅ…

  「馬鹿ね、私は人間よ…」

  「気づいていました… 」

  「でしょうねぇ… だって、どんな話題が良いのか分からないし… ママ
   から、あなたがコンピューター好きだって聞いていたから… 」

  「それは、それは…」

  「続きは、後で… アビタシオンにきて下されば… 」

  「ふむ。 予約ルーチンへの分岐命令ですか… うまくアボート出来るか
   どうか… 所で、なんであかねさんは、S市に居る分け?」

  「何でも、ウイルス感染とかでメインメモリーを破壊されたそうです…
   今朝から修理に入って、さっき工場から引き取れるって電話が在りまし
   たの… 何でも、序でにクロックアップされたとか…」

  「え? ……… あかねさんロボットだったの?」

  「冗談ですよ…」

  「ふむ……… 時々、ハングアップしてたものなぁ… 妖しい。。。。。。。。」

  「それって、人間の女性の場合、悶絶って云うんでしょう?」

  「ふむ。 そうなの? 私の彼女の場合は… 仮死状態の事を悶絶死って
   表現してやるのだけど… やはり、人間の彼女と機械の彼女は区別しな
   いと、駄目なのかな?」

  「今更… 変わらないと思いますけど…」

  見知らぬ子は、さも愉快そうに微笑んで答えるのだが… どうも、話して
 いて初めてのような気がしない… もしかすると… ハードを替えただけで
 あかね用のプログラムを走らせているのでは無いかと思えてしまうのだが…

                                聖 紫




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