#380/1336 短編
★タイトル (ALN ) 95/ 1/24 22:57 (200)
千昔一昔物語…… その1話 聖 紫
★内容
それは昔々の、もっと昔の事で御座いました… それから、さらにまた昔迄行って、
突き当たった所を右に曲がると、なお、遠い昔が御座いました… その昔からタイム
マシーンに乗り、途中で乗り換えてやっとたどり着ける… それはそれは、恐ろしい
ほど遠い昔のことで御座います……
遠い昔のことなので住所までは存じませんが、お爺さんとおばあさんが住んで居り
ました。二人はたいそう仲の良い御夫婦で御座いましたが、仲が良すぎて子供が御座
いませんでした… と云う良くありがちな設定で御座います。
あるひ、お爺さんが退屈しのぎに竹蜻蛉でも造ろうかと思いつきまして、竹薮に出
掛けた時の事で御座います… 薄暗い竹薮の中で一本だけ眩しいほどに輝いて居る竹
を見つけたので御座います。お爺さんは、気味が悪くなってそのまま竹も切らずに家
に帰って仕舞ったので御座います。 家に帰ってその話しをおばあさんに致しました
ところ、おばあさんはたいそう興味を示した様子で、是非見たいと云いったので御座
います。仕方ないので次の日、お爺さんはまた竹薮へと出掛けて行ったのでやんす。
「確か此の辺りだったのだが… 」
昨日はあれほど眩しく輝いていた筈の竹で御座いましたが、今日は気配すら感じら
れないので御座います。諦めて帰ろうとした時のことで御座います。お爺さんの直ぐ
目の前で一本の竹が急に輝き始めたんじゃと。まさに昨日の竹で御座います。
「うをぉっち!」
急な閃光に、お爺さんは目がくらんで仕舞、その場に倒れて仕舞ったので御座いま
す。 …どれくらいの時間が経ったので御座いましょうか… お爺さんが目を覚まし
ますと、辺りは先程までの竹薮とは思えないほどの華やかさで賑わって居りました…
「あぁぁ、チャバレェーだぁぁ… 」
お爺さんはその雰囲気から、若かりし頃の記憶の中にキャバレーを思い出して居た
ので御座います。しかし、其処はキャバレーではござんせんでした。
「クラブ “かぐや姫” へようこそ… 」
そう、其処は懐かしい… お爺さんが未だ若者だった頃に毎晩通い詰めた事のある
クラブだったので御座います。そして、お爺さんを迎えてくれたのは、かぐや姫と云
う名前の、それはたいそう美しい女性で御座いました。
お爺さんは、己の年も省みず… かぐや姫が、一目で好きになって仕舞ったので御
座います。 ……それから、幾日が過ぎ去った事で御座いましょうか… お爺さんは、
家で待っているおばあさんの事も忘れて、クラブ“かぐや姫”で、酒浸りの時を過ご
して居ったので御座います。
……
一方、竹を切りに出掛けたまま、行方不明になったお爺さんの安否を気遣って、おば
あさんは居ても立っても居られない日々をおくって居りました。犬のお巡りさんに聞
いても分かりません… おばあさんは、悲しみの余り自らの命を絶とうと、川の側に
来ておりました。いわゆる、入水自殺… と云う設定をもくろんで居たので御座いま
す。おばあさんが、今しもその身を川に投げ込もうとした時の事で御座います。目の
前を大きな大きな桃が、ゆったりと流れて行くでは御座いませんか…
「んな、あほなぁぁ… 」
おばあさんの目は、点になって仕舞いました。
が、気を取り戻し、その桃を拾い上げようとした刹那、おばあさんはバランスを崩し
て川に落ちてしまいました。
ちゃぽっ!
「あへ、ちめたい… 」
良く考えましたところ、その川はとても浅く、おばあさんの足のくるぶし辺りまで
しか水が無かったので御座います。
「妖しい… 」
おばあさんは、その事に気が付きますと、目の前の桃を白い目で見ました。
「こんな浅い川を… んな、大きな桃が流れる筈がない… 」
云われて桃は、冷や汗をかいたや否や、一口サイズに小さくなったので御座います。
「なめるなよ」
おばあさんは怒ったので御座います。
大きな桃が腹一杯頂けるものと思えばこそ、身の危険も省みず、拾い上げようとした
ので御座います。おばあさんの食い意地が爆発するのも、ごもっともで御座いました。
おばあさんに叱られた桃は、恐る恐る大きくなりました。
それを見たおばあさんはたいそう歓び、キャッキャキャッキャとはしゃいでおります。
既に、行方不明のお爺さんの事などは欠片ほども心中に御座いません。
「さて、しかし… 」
一頻り歓んだおばあさんでは御座いましたが…
此の大きな桃を、如何にして家に持ち帰ろうかと思案致すところと相成ったので御座
います。
おばあさんが、桃を前に悩んで居りましたところ、川の向こう岸を1人の力の在り
そうな子供が行くのが見えたので御座います… 子供は熊を馬代わりに、後ろには、
たいそうな数の森の動物を従えて悠然と歩み進んで居りましたので御座います。
おばあさんは、聞きかじりの黒魔術で、若くて美しい女性に変身したので御座いま
す…… 女は魔物じゃ.....
「其処の、旅のお方… 」
美しい姿のおばあさんは、綺麗な優しい声で、その男の子を呼び止めました。
聞けば、男の子は、足柄山から都に軟派に出掛ける途中だそうで… 動物虐待連盟会
長の金太郎と云う名前の如何にも精力絶倫けた… ませガキで御座いました。
「ぼうや、此の桃を私の家まで運んでおくれではないかい… 」
本当は婆のくせに、若くて美しい女性は、弱々しく頼むので御座いました。
生まれつき女好きな性格の金太郎はふたつ返事で引き受けたので御座います… が、
其処には、ちゃんと下心が働いていたので御座います。
無事、おばあさんの家まで桃を運び込んだ金太郎の態度が一変して、先程までの、
ませガキ仕様から精力絶倫おじさん仕様になるや否や、 本当は婆のくせに、若くて
美しい女性に襲いかかろうとした刹那。
「宅急便ですよぉぉ… 」
玄関で声がしました。
「あぅうぅ… 」
金太郎はがっくり来ましたが、 本当は婆のくせに、若くて美しい女性は、ほっと
胸をなでおろしたふりをして…
「はぁぁい… 」
と、返事をしながら… 髪の解れを気遣うように右手で撫でながら逃げるように、
玄関へと走って行くので御座いました… アホッ
玄関先に人影は無く… 代わりに空に1羽の鶴が飛んで居りました…
「あぁ、あれは… 」
そうです…
紛れもなく、お爺さんが雪の夜、騙して手込めにしようとした、おつると云う娘の本
来の姿だったのです… あのひ、おばあさんがおつるを助けたのはなにも優しさや倫
理感からでは無かったので御座います… ただ単に、自分より若い女を抱こうとした
お爺さんに対する嫉妬心からした鶴助だったのですが… 純粋な心のおつるは、そん
な事はお構いなしに、おばあさんに恩を返しに来たので御座いました。
「ちっ… 良いところだったのに… 」
おばあさんは、久しぶりの若い男のエネルギーを感じ、燃え上がり掛けて居たとこ
ろだったので、少し腹立たしく思ったので御座いましたが… 本来の心を取り戻すと
台所に行き、出刃包丁を研ぎ初めて居たので御座います。
本当は婆のくせに、若くて美しい女性が何時までも戻ってこないので、金太郎は不
思議に思い、ごそごそと部屋から出てまいりました… 廊下づたいに玄関の方へ歩い
ていく途中で、妙な音のすることに気が付いたので御座います… それは、紛れも無
く、出刃包丁を研ぐ音でした。金太郎は音のする方へそっと近づき、台所の障子戸の
隙間から中を覗くと…
「きゃいぃぃん〜 」
金太郎は一瞬神社の狛犬になってしまいました…
なんと、金太郎が其処に見た光景は、本当は婆のくせに、若くて美しい女性だった筈
のおばあさんの姿では無く、山姥が不気味な顔でにやけながら、出刃包丁を研いで居
る姿だったので御座います。
「みたなぁぁぁ… 」
金太郎に見られて居ることに気が付いた山姥仕様のおばあさんは、提灯お化けのよ
うな、大きな口を開き、今にも襲いかからんばかりに此方を睨みました。身の危険を
感じた金太郎は、後ろも振り返らず一目さんにと走り去ったので御座います。
… 何処をどう走ったのか… 見当も付きませんでしたが、ふと気が付くと、足柄
山から出掛ける時、都で軟派した娘にプレゼントをしようと思い、懐にしのばせて来
た、南蛮渡来の家宝の硝子の靴が片方無くなって居ることに気が付きましたが、もう
引き返してまで探す気にはなれない金太郎で御座いました。
一方、金太郎を追って玄関まで来た山姥仕様のおばあさんは、出掛けに妙なおばあ
さんとばったり鉢合わせになって仕舞い、それ以上追いかける事は致しませんでした。
妙なおばあさんは、山姥仕様のおばあさんを見て一瞬固まりましたが、其処はそれ、
なぁに? うぅぅん何でもないの ^^;
気を取り戻して、いきなり商いの話しを始めたので御座います。
妙なおばあさんは昨日から此の辺りで林檎を売っている行商人仕様の森の魔女だった
ので御座います。山姥仕様のおばあさんは、恥ずかしそうに、元のおばあさん仕様に
戻りました…
「林檎は堅いから… 入れ歯にこたえますので… 」
白々しく断ろうとするおばあさんに、妙なおばあさんも負けては居りません。
「なにも、丸かじりしなくても、他にも方法は在りましょう…
例えば林檎ジュースにしてちゅうちゅうとすするとか… 」
意地悪そうに云われたものですから、流石のおばあさんも頭にきたので御座います。
「ふん! かじってかじれん事は無いわい… 一つかしてみ 」
そう云って、妙なおばあさんの篭から一つ林檎をつかみ取ると、無理をして一口林
檎をかじりましたので御座います… あ、歯茎が生理を始めた… 意味不明。
するとどうでしょう… たちまちおばあさんは、深い眠りについて仕舞ったので御
座います。
それを愉快そうに見ていた、妙なおばあさんは、すぅ〜っと、煙のように消えて仕
舞ったので御座います…… 。
聖 紫