#368/1336 短編
★タイトル (XVB ) 95/ 1/13 19:17 ( 98)
昔話>あずり糞 $フィン
★内容
昔、昔、ある所に、そんなに若くない男と女が一つ屋根の下におりました。男は
いつもいつも酒ばかり飲んでは女に折檻をし、女の方は男の殴る蹴るの折檻をまっ
たく苦にせず、それどころが男が乱暴を働けば働くほど喜ぶといった気性をお持ち
でした。
あるとき男と女は仲良く手をつないで道端を歩いていると、地蔵様に熱心に祈っ
ている年老いた狸に出会いました。狸はびっくりして草原に隠れようとしましたが、
年老いた狸だったので、すぐに捕まってしまいました。
捕まった狸は泣きながらどうか助けてください。助けてくれたならなんでもしま
すと訴えました。
ところが男と女は狸の言葉がぜんぜん分からなかったので、滅多におめにかかれ
ない狸を捕まえたのだから、肉は狸汁にして、皮は旦那の帽子にしようと笑いなが
ら相談していました。
男と女の会話を聞いていた狸は、どうせわしはおいぼれだから食ってもおいしく
なかろう、皮にしてもすぐに朽ちてどうにもならんだろうに、せっかく親切で言っ
てあげたのに、おまえたちはそれでもわしを殺そうとするのか、それならこっちに
も考えがあると言うと、こてんと心臓マヒで死んでしまいました。
狸を絞める手間が省けた男と女は大喜びで家に持ち帰り、お鍋の中に茸やそこら
で採れた野野菜と一緒に皮を剥いだ狸を投げ込み、狸汁を食べることにしました。
やがてぐつぐつと煮えて美味しそうな狸汁ができあがり、男は狸が獲れたお祝いに
酒屋で買った一級酒を飲み、女は今宵は精が出ますようにと薄気味悪い笑顔を浮か
べながら狸汁を食べました。
男は、狸汁を食べ終わり炊事場で片付ける女の後ろからいきなり襲いかかりまし
た。女は何をするのあんたぁ、まだ夜になっていないじゃないのぉ、とどことなく
媚を帯びた声で男に訴えかけました。
女の訴えを聞いた男は、女の頬をぱしんぱしんと平手打ちにして、おらがやりた
いといったらやりたいのじゃ、女の癖に男の言うことが聞けないのかと言い、いつ
もの折檻を始めました。
女は狸汁の後片付けは明日でもいいかなぁと考えながら、ああぁあんたぁかんべ
んしておくれよぉ、わたいがわるかったよぉと男のすねを持ちながら叫びました。
男は女の必死の訴えにも耳をかさず、わるかったと思うのなら、ここで犬の真似
をしてみろと無理難題をふっかけますます怒り狂ったようすで女を攻めたてます。
ああぁん、ああぁん、ああぁん、女は男の暴力にくっせることなく、勇敢にも男
の無理難題を難無くクリアーしました。それでは、これでどうだ。男はますます激
しく女を攻めたてます。女は男の攻めにあわせて、狸汁を飲んだせいかその夜はお
二人ともいつもより大きな声をあげて喜び合いました。
その夜遅く、男の腕の中でぐっすり寝こんでいた女はなんだか酸っぱいものを食
べたくなったり、急な吐き気とを覚えました。厠に行った女はゲロを吐こうと思い
頬まで戻してしまいましたが、せっかくの狸汁を食べたのにもったいないと感じて
頬まできたゲロをそのままごくりと飲み込んでしまいました。飲み込んだゲロの味
はさっき食べた狸汁とほんの少しの胃液でちょっぴり酸っぱい味がしていたので、
女は二度も狸汁を食べた上にただで酸っぱいものを食べたことを喜び男に報告する
ことにしました。
男は女の報告を聞くとおらに隠れて狸汁を二度も食ったのか、おのれぇ、今度ば
かりはもう許さんともう一度女に折檻を始めました。女は、狸汁の効果とはこんな
に絶大なものなのかと鳥肌を立つ思いで折檻に耐えていきました。
それから月日は流れ、十月十日ぐらい過ぎたころでしょうか。男はどうもなかっ
たのに、女は狸汁を二度も食べてしまったせいで腹がぱんぱんに脹れ、急な腹痛を
起してしまいました。男の折檻を何度も耐え抜いた女だったのに、こればかりはど
うしようもなく死ぬぅ、死ぬぅ、死ぬぅーと悲痛な叫びを何度も繰り返し続けまし
た。男の方は、狸汁をおらに隠れて二度も食った報いだ、けらけらけらと腹痛で悶
え苦しむ女を横目で見ながらお酒を呑みつづけていました。
死ぬぅ、死ぬぅ、死ぬぅ、とうとうそんな声も上げる力もなくなり、死んでしま
った女の腹から、突然ぶりぶりぶりと大きな音がしたかと思うと、真っ赤な血に染
まったうごめく巨大なあずり糞が生まれました。あずり糞は狸汁を食べた結果生ま
れてしまったので、大きな茶釜に似たこぶを背負ったあずり糞になっていました。
それを見た男は、なんて因業なあずり糞なんだ。大きくなったら遊郭にでも売り飛
ばそうと思っていたが、こんな大きなこぶを持っているあずり糞なんて気味悪がっ
て誰も抱いてくれるものなんていねぇだ。ああ気味が悪い、おら見ているだけで寒
気がくるだよと言い、男は遠くのぶんぶく寺まであずり糞を捨てに行ってしまいま
した。
おしょうさぁーん、何か変なものが落ちていますよぉと小僧さんがぐうたら和尚
さんに報告しました。和尚さんは、変なものを集めたり変なことをするのにいきが
いを感じていましたので、小僧さんを呼び止め、それがとてもよいものであれば、
今宵の夜伽はおまえにしようと約束してから、拾いにいかせることにしました。
和尚から久しぶりの手ほどきを受けれるかもしれないと喜んだ小僧さんは、門に
落ちているあずり糞を洗えばもっと和尚さんに気に入られるのかもしれないと思い
自らを洗うようにせっせっせっと洗いました。するとあずり糞は大層喜んで、いた
たたたたたと声をあげました。びっくりしたのは小僧さんです。
すたこらさっさとあずり糞を持って廊下を走り、餅を食べている和尚さんに声を
出すあずり糞を見せました。変なものが大好きだった和尚さんはあずり糞のあえぎ
声を聞くとそのまま快楽に身をまかせ、餅を喉につまらせて死んでしまいました。
おしょうさまぁ、おしょうさまぁ、今宵の夜伽はどうなったのですぅ。ぼくはぁ
このときを楽しみにしていたのにぃ、それもこれもこのあずり糞が悪いのぉだ。こ
んなもの放してしまえとあずり糞をぽーんと天に投げてしまいました。
運悪く通りかかったおじさんの頭の上にあずり糞は乗ってしまいました。なあん
だぁ。こりゃぁ。糞じゃなかんとぉ。おらぁ別に悪いことはしとらんとぉとおじさ
んは言い、それでも天からの授かり物は粗末にしちゃあ罰があたるってことで、お
じさんは持っていたびく篭にあずり糞を家に持ってかえりました。
おじさんは何も言わず、囲炉裏の火を灯し、鍋にいろいろなものを放り込んでい
ます。生まれてから過酷な環境に生まれ、前世の記憶でまた食われてしまうのでは
ないかと恐れおののくあずり糞を前に鍋はぐつぐつ煮えたっていきます。
おまえはぁ、名はなぁんというだぁ。おじさんはあずり糞に聞きました。
? あずり糞はおじさんのいうのとがわからず身体をぶるぶるいわせています。
だからぁ、名だよぉ、おっとさんもおっかさんもおったじゃろう、それじゃ名無
しじゃなかろぅ、おじさんは苛立って鍋の中をぐるぐるまわして言いました。
ないだよぉ、おらぁ生まれて一度も呼んでもろうたぁことないぞぅ、あずり糞は、
もう駄目だぁ、鍋に入れられてこれまでかぁ思えば短い一生だったと観念して言い
ました。
じゃぁ、おらがなまえをつけたろぅ、あずり糞じゃ可哀想、名無しのごんべえで
はちとまずい、ぶんぶく寺から落ちてきたからぶんぶくでどうじゃ、ほれぇ、でき
だぞぉ、おじさんは鍋をかきまぜてぶんぶくと名を変えたあずり糞に雑炊をさしだ
しました。
おじさぁん、ありがとぅ、ありがとぅ・・・ぼかぁ、一つも悪いことぉなんにも
してないのにぃ、母を殺して父には捨てられて、寺ではぁ和尚さんを殺したぼくぅ
にも優しくしてくれるのですねぇ、ありがとぅ、ありがとぅ、ありがとぅ・・・お
礼にいつまでもおじさんにぃ取り憑いてあげましょうと言ってあずり糞はいつまで
も幸せに暮しました。