#367/1336 短編
★タイトル (XVB ) 95/ 1/13 19:14 (118)
みなさんいらっしゃい $フィン
★内容
「いらっしゃい」
「あのう、わたくし・・・」
「あなたは・・・ここ初めてですよね?」
「はい」
「そうでしょうねえ。あなたはここに来るような人には見えないですから、一度
でも来られたのなら覚えていると思ったのですよ」
「・・・・・」
「あ、そんなに堅くならなくてもいいですよ。ここは他と場所と違って気を抜い
てもいいんですよ」
「・・・・・」
「すみませんねえ。気がつかなくて、ぼくも少し気が抜けていたようですね。そ
この椅子にかけていてください」
「ここ、本当にそうなんですか」
「あははは、この構えじゃ信じてくれないのかもしれませんが、そうなのです。
陰気な雰囲気じゃだれもよってこないものですから、この間新装開店、あ、これ
じゃパチンコ屋みたいですね、失礼。立て直したのです。それに少しでも明るく
した方が気持ちも安らぐでしょう?」
「はあ・・・」
「で、どんなことをしたいのです」
「わたくし・・・」
「そんなに考え込まなくてもいいですよ。リラックス、リラックス、肩の力を抜
いて、うんと気を楽にして思ったとおりのことを云えばいいんです」
「・・・・・」
「うんうんそうですよねえ。ではこんなのはどうです。少し古い資料ですけどと
りあえず参考に見てみます」
「こんなにあるのですか」
「はあい。そうです。ぼくのところにいろいろな悩みを抱えてくる人がくるもの
で、それに応じてこんなに種類も増えてしまったのです」
「・・・・・」
「心配しなくてもいいですよ。なあに世間が思っているより恐いところじゃない
ですよ。そりゃあまあ場所が場所だけに変わった人も多いですが、みんな親切で
すよ」
「そんなものですか」
「そんなものです。あなたも慣れるまではたいへんでしょうが、慣れたらどんな
ところも住みやすくなるというものですよ」
「わたくし・・・」
「決めてくれますか。よかったあ。ぼくもあなたのために思ってずいぶんと頭を
悩ませていたのです。で、どれにします」
「わたくし・・・ここにします」
「ああ、それですか、そこはいいところですよ。あなたは運がいい、一番いいと
ころを選んだようですね」
「一番いいところ・・・」
「ごめんなさい。ぼくの口がすべってしまいました。あなたに皮肉で云ったつも
りはないのです。本当にこの資料の中で一番住みよいところだなあと思ったので
す」
「・・・・・」
「あ、そうそう云い忘れるところでした。あなたは入所してもあなた自身が選ん
だことを誰にも云わないと約束してくれます?」
「どうして・・・」
「ぼくもね、本当は有無を云わさずあなたをしかるべきところに入れなければな
らないのですが、それじゃ本人の自由意志というものがないでしょう? ぼくは
自由意志というものを尊重したいのです。だから本人が納得して入所できたら少
しでも楽しく過ごせるのじゃないかと思っているのです。ぼくの云っていること
わかります?」
「はい・・・」
「だからあなたが勝手に選んだとなるとぼくも怒られる。それにあなたをその資
料の中に載っている他の場に入所させなければならないかもしれない。せっかく
住みよくなりかけているのに他の場所にいくのは嫌でしょう? だから云わない
でくれますね?」
「わかりました・・・」
「では、気をつけていってらっしゃい。なあに時期がくれば誰かが出してくれま
すよ。ではごきげんよう」
「・・・・・」
「次の方、どうぞ」
「・・・・・」
「あ、これはこれは副院長さんお久しぶりですね。え、昨日もあったことがある。
そうでしたっけ? 忘れまていましたね。ああそうだ。副院長さんも見ていたで
しょう。今この部屋からぼくをしかるべきところに送りだしたところなんですよ。
だからぼくは今ここにいないのですよ。それじゃあここにいるぼくは誰なのでし
ょうか。おかしいですね。副院長さんもそう思われます? ぼくはおかしくて笑
ってしまいそうです。副院長さんもおかしいと思うのなら一緒に笑いませんかあ
ああ。あはははは・・・。鏡の中で副院長さんが笑っています。副院長さんが笑
っているのでぼくが笑っています。どうしてこんなにおかしいのでしょうね。あ
はははは・・・。いいですよおお。みんな一緒に笑いましょうよ。笑えば楽しく
なりますよおおお。あはははは・・・」
$フィン