AWC お題>ケガレ               $フィン


        
#326/1336 短編
★タイトル (XVB     )  94/11/ 5   4: 9  (107)
お題>ケガレ               $フィン
★内容

 「それだけはぁかんべんして」女が男が持っているものを必死になって取り戻そ
うとしていた。

 「ええい、放しやがれ、くそ女」男はしがみつく女を蹴り飛ばした。

 「ああ、痛い。わしはどうなってもいいの。だけどそれだけはかんべんして」地
べたに転がっても男の裾にへばりつく女。

 「ええい。うるさいな」男はぱしんと【それ】のほっぺたをはり倒した。

 「ぼう!」女は【それ】を見て叫び声をあげた。

 「何をしておるのじゃ。そんなことしたら【それ】がいたんでしまうではないか」
杖を持った老人が男をじろりとにらみつけて叱咤する。

 「【それ】がうるさぁてかなわん」男は腕の中でわめいているものと顔中鼻水で
ぐしゃぐしゃにして睨みつけている女とを交互に見た。

 「【それ】をわしにかしてくれ。おーよしよし、よう肥えてうまそうじゃのう」男
から【それ】を受け取った老人は、顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

 「おじじさまぁ、今年はゆるして」女は老人の裾を引っ張って哀願した。

 「【それ】は神のケンゾクになれるのじゃ、おまえさんはありがたいことじゃとは
思わんのか」老人は女の頬をはり飛ばした。

 「いやじゃ。いやじゃ、わしは今のままの方がいいの。だから【それ】を返してよ」
女は老人が持っているものを取り替えそうとした。

 「うるさいあまっ子じゃのぉ、おぬし、何とかして静かにさせんか」老人は男に顎
で指図した。

 「じじさま、どんな方法でええんか」男はにやりと笑って、老人を見た。

 「今回だけは仕方がない。おまえの好きなように始末せい」老人は泣きわめく女
と男を交互に見て笑った。

 「お許しが出たぞ、おい、女、こっちにこい」男は女の髪をひっぱり茂みの中に
連れ込もうとする。

 「いやじゃ、いやじゃ。ぼう! ぼう! ぼう!」女は最初、男から離れようと
し、【それ】のことで泣きわめいていたが、茂みの中に連れ込まれ、やがて別の意
味のすすり泣きをあげだした。

 「やれやれ、若い者は元気があっていいのう・・これで、来年もなんとかなりそ
うじゃな」老人は苦笑しながらもちゃんと耳をそばたてて聞いているのだった。

 「じじさま、遅うなりました」女が茂みの中からごそごそ出てきて、ぺこりとお
じぎをした。

 「もうすぐ大事な儀式だというのに、二人してそこで何しておったのじゃ」老人
は女のあとからごそごそ出てきた男の顔を交互に見ながら云った。

 「それはねえ・・・」若い男女はお互いを見て笑った。そして老人によく見える
ように二人はぎゅっと握りしめた。

 「まったく・・・最近の若いものは儀式をなんと心得ておるのじゃ」老人は老人
らしく小言を云う。

 「最近の若いものはだって、三人しかいないのにねえ」若い男女は老人の云うこ
とがよほど面白かったのか、くすくすと笑い出した。

 「ええい、おまえら笑っておらんで、はようあの儀式をせんか」老人はいらだち
を隠すことなく、わめいた。

 「はーい、じじさまぁ」若い男女は同時に返事をした。

 「これはまた、よく肥えていますね」男は老人が持っていた【それ】を見て云っ
た。

 「そりゃあ、まあ、わたしがここまで【それ】を育てたのだもん」女は胸を大き
くはって自慢した。

 「これっ」老人はぎゅっと女を睨みつけた。

 「駄目だよ。今そんなこといっちゃ、さっきやったみそぎの儀式が駄目になっち
ゃうじゃないか」男は女を優しく叱咤した。

 「それはそうね」女はぺろりと舌を出した。

 「おまえたち、はようあの儀式をやらんか」老人はあのみそぎの余韻でいちゃつ
きまわる二人に険しい顔で叱咤する。

 「それじゃ、これから儀式やりまーす」女は用意していた出刃包丁を持って、突
き立てると、辺り一面赤い液体が飛び散った。

 「なぜじゃ。なぜそんなことをする」老人は目を大きくあけて二人を見た。どく
どくどく・・・老人の胸が大きく割れている。そこからどろどろと血が流れている。

 「ごめんねー。こいつがたまには儀式で違ったことをしたいって言うものだから
・・・」男は女をちらりと見た。

 「やん、わたしがいったらあなたも、それがいいって賛成したじゃないの」女は
ぷーと頬を膨らませて、可愛く怒ったふりをして見せる。

 「おのれら、そんなことをしてもいいと思っておるのか」老人は血をだらだら垂
れ流しながらうめいた。

 「だってじじさまは来年はここから出てくるはずでしょう?」女はにっこり笑っ
てあるところを指した。

 「それは少し違うぞ」老人は絶句して、そのまま事切れた。

 それからだ。老いの味を覚えた若い男女が、死ぬべき存在になったのは・・・

                                 $フィン




前のメッセージ 次のメッセージ 
「短編」一覧 $フィンの作品 $フィンのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE