AWC お題>僕は君だけは許せない      椿 美枝子


        
#49/1336 短編
★タイトル (RMM     )  93/ 6/ 1  14: 9  ( 40)
お題>僕は君だけは許せない      椿 美枝子
★内容
 一週間前から待ち合わせていた。彼女と会う日の事を。彼女は絶対にこやかに、
僕を見て微笑むんだ。会いたかった、って言って、そしてためらいがちに僕の上
着の右腕を指でつまむんだ。僕は小鳥を飼ってる気になって、右腕をそっと明け
渡して、そして並んで歩くんだ。それは何より確実な未来だったし、何より大好
きな彼女だった、時折の気紛れを知ってはいるけど、そんな事は誤差の範囲なん
だ。だから彼女が眉根を曇らせ僕の前に一時間遅れて現れたって、僕は怒らない、
心配するだけだ、そもそも怒る筈なんてないんだ。

 どうして遅くなったの、と僕は心配な声音。
 彼女はおそるおそる僕にチケットを渡す、ごめんなさい、これあなたが行きた
いっていってたから、チケット。二人分買ってきた。今、探して買ってきたから、
遅くなった。プレゼント。ごめんなさい、これあなたと行けない。行きたいけれ
ど、行けない、あなたと行く資格なんてない。許して。
 彼女は瞳に涙を浮かべる。
 何があったかわかってるさ、あいつと会ったんだろう、知ってるよ、何があっ
たか見当付くさ、君が泣いているのが証拠だよ。

 彼女はいつだって泣くんだ、僕はいつだって許すんだ、彼女は本当は僕が許す
って信じているんだ、僕の元に戻りさえすればいいって信じているんだ。僕はこ
れではいけない、って思うんだ。本当は許せないんだ、っていったら彼女はどん
な顔をするだろう、多分眉根をもっと曇らせて、泣きながら優しく微笑み、別れ
ましょうって言うんだ、それは僕が引き留めるって知ってて言うんだ、そして本
当にいつだって僕は引き留めてしまうし、彼女は本気で別れようとする事などな
いんだ。したたかだよ。遅れてきたのもチケットも演出の内だろう。僕はわかっ
ているんだ。

 僕は君だけは許せない。例え、君がどんなに泣き崩れても。
 僕は捨てないでくれ、って顔をして、君を抱きしめて、それでも君を許せない。
 僕は君に償って貰う。僕の人生で君に出会ってしまった事。僕の君への投資を
思うと、恋なんて面倒で、二度とする気はない。
 君のしたたかさが僕に許す事をさせない。君のせいだよ。だから君は僕と一緒
に生きるんだ。何があっても離れられないんだ。

 彼女に微笑む。愛しているよ。
 そしてそれは心の中で、許せない、って響くんだ。


                  了

                       1993.05.31.12:00




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