AWC 忘却の彼方    κει


        
#47/1336 短編
★タイトル (WJM     )  93/ 5/31  23: 4  ( 76)
忘却の彼方    κει
★内容




ここはどこだろう。先はみえない。気が遠くなるほどのえいごうに、魂が揺れた。
ガラスの弾ける音がする。闇の中、おぼろげで赤く曇った光がどこからか差し込んで
いる。どんよりと重いもやが漂っている。水面のように何もなく静か。
どこだか分からない世界で俺は瞳を閉じる。たまらなく懐かしい。
胸が締め付けられるよう。どこまでも続く闇と赤い光は、不安ではなく俺に静ひつな
安堵を与える。
繊細なガラスが何度も弾けあう音。どうしてだかわからないが俺は透明な蝋燭を手に
していた。静寂と安堵が酸素の変わりに漂っていた。
ゆらゆらとそこは異次元のように、火がか弱く燃えている。どこへ向かえばいいか。
しかし安堵が俺になお漂白させる。

俺は闇の中を随分と歩いている。疲れと時の流れはおそらくここに存在しない。
さらさらと俺の胸をすり抜けてゆくこの流れはいったいなに。渋い赤のように思える。
足元の黒い煙が執拗なくらい足にからみつく。混沌とした悔恨のよう。

刹那。赤い稲妻が音もなしに天から地へと駆け始める。何本も何本も。
俺はそれをさけながら進む。ガラスの弾け合う悲しい音色の他何も聞こえずただ広大
である世界。
荒れ狂う悲壮、それさえも懐かしい。忘却の彼方にいったい何があったか。
おもむろに首を左右にふる。悲しくはないのに一筋の涙。地におちたら、水の音が響
いた。波紋。それに俺は静かにとても静かに沸き上がる豊じょうな喜びを感じる。
意識が、さらに大きな世界へと落ちてゆくよう。

「俺はいったいなにか……」

初めて口にした言葉さえ、反響されながら遠く遠く見る事の出来ない向こうへ、四方
八方へ揺らめきながら進んでいった。
紫の波長が身体からにじみでている。もやのような光。何もかもを押し退けて進む静
けさ。月のようなガラス玉が弾ける時、悲愁をみた。一瞬現れる星が流れ衝突し合う。
刹那的に無となる。

進んではならぬという後ろめたさに、どこかへの郷愁をさらに感じながら不気味な霧
を裂いている。清浄な気持ちだけは闇に飲まれてはならぬとという念は、使命感に思
えた。
能動はおもむろに受動にかわり、虚像をいつのまにかつくりだした。
すべて空想か。夢ごこちの中で、光は俺から内発している。
見た事のないほど綺麗な色に俺は呆然とする。見た事のない平安の形。現れては消滅、
はかなすぎて泣いた。
俺を呼ぶ念。言葉ではなく形でもなく、光のようにどこか遠くから。無限のループ。

音のない稲妻は紅と青白い光を抑え込みながらに揺れている、繰り返し去来している。
身体中にしびれを感じた。紺色の光が、俺の血管を駆け抜けている。
心地よい電気が走る。それは意識の中で、まばゆい光と化した。

俺は地に細々とした一筋の流れをみつけた。白い光。青くも思える。紫の細い炎が俺
を包み込んで、やはり導かれるようにさまよう。現れては消える、決して掴みえない
感情と、目の前に現れる形、すべて。
存在の意味も知らぬまま、知られぬままに、生まれ消えゆくのか。
蝋燭は徐々にとけてゆく、俺はどうすればいいか、何をすべきか、わずかに燃える炎
をみつめ焦燥する。
黒い水面、悲しく揺らめく自分の影に思いだした。それはきっと必然。




ここは母胎。そして、俺はまだ生まれぬ。













                  . ...  κει . . .  . .






前のメッセージ 次のメッセージ 
「短編」一覧 けいの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE