AWC 僕は君だけは許せない 11   永山智也


        
#4645/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/10/31   2:10  (199)
僕は君だけは許せない 11   永山智也
★内容
 この他にも、今回はすることがある。たこ焼きではない。喫茶店をやるから
には、メニューをうまい具合いに作りたくなろうというものではないか。
「何が出せる訳?」
 今回に限って、こちらのグループに加わっている田原が言った。
「うん、色々な種類、出せると思っているんだけど」
 黒沼さんが後輩の女の子の一人に、手で合図をした。その子が一枚のリスト
を取り出してくる。
「はい」
 僕ら全員に見えるように、その紙は机中央に置かれた。カタカナ文字が並ん
でいるのが分かる。
 コーヒーは一種類なのであるが、紅茶が色々と分類されている。ミルクティ
だのレモンティなら男にも分かろうというものだけど、ラベンダーやらハーブ
となると、ついて行けなくなるというもの。
「こういうややこしいの、本当にできるのかい?」
 田原はリストから目を逸し、黒沼さんに聞いた。
「簡単よ。最初からそういう仕立てのティバッグ、売られているんだから」
 他のメニューはというと、クッキー、シャーベット等が記してあった。日持
ちがする食べ物ってことで、これらが選ばれたんだろう。
「クッキー、焼くの?」
 僕は黒沼さんに尋ねた。
「もちろん。クッキーもシャーベットも手作り」
「凄いなあ。とても真似できないよ」
 羨望とともに感嘆してしまう。小説が書けて、絵も描けて、お菓子も作れる
なんて、大したものだと思う。
「そんなことないって。その気になれば、たっちゃんにだってできるわよ」
「慰めをどうも。ところでクッキーと飲物、別々に売るのかな?」
「ううん。飲物とクッキーでセットにするつもり。クッキーだけなんて、値段
の付けようない」
「そうだろうね。シャーベットは売れる見込みある?」
「気温によりけり、でしょ。余ったら、何とか私達で処分しなくちゃ」
「寒かったら、つらいねー」
 僕は両腕を抱え、震える格好をやってみせた。意外に受けて、笑いが起こる。
 とまあ、わいわい騒ぎながら、十日余りの間にこれらの仕事をやってのける
のだ。試験の追い込みと同じだね。

 学園祭初日は爽やかな晴天で明けた。小春日和の暖かい一日になるでしょう
との天気予報、まことに結構である。前の日まで、必死になって働いた甲斐が
あるというものだ。
 なお、前日まで仕事をしなければいけない羽目に陥ったのは、たこ焼き屋の
開店準備の遅れによる、ということを付け加えておきたい。
 学園祭の幕開けは午前十時からとなっているが、それは一応、である。客足
は九時ぐらいの内からちらほらと見られ始め、徐々に賑やかさが増していく。
それを体感しながら準備していくのは、焦りを誘うものの、ある種の喜びもま
たもたらしてくれる。
 さて、客の出足が早いにも関わらず、展示室の方は開けることができない。
学園祭実行委員会なる組織が文字通り『鍵』を握っていて、九時三十分頃まで
渡してくれない。
 もちろん、内装は前日までに準備完了しているが、やはり早く開けて、客を
少しでも多く呼びたいじゃないか。商人の気持ちが分からないのだ、委員会は。
 という訳で、展示室への鍵が手に入るまでは、全員で模擬店への荷物運びと
テント立て。集合時間は午前九時としていたが、全員が集まったのは九時十五
分過ぎだった。まあ、こんなものである。
「ほら、そこの脚を持って」
 会長らしく、三木が後輩達を動かしている。脚とは言うまでもなく、テント
の脚である。折り畳んである脚を引き出し、伸ばして固定するタイプ。
「いち、にの、さん!」
 かけ声と共に、テントが立った。ついで、その下に道具を運び込む。
 そうこうしていると、実行委員会の役員がやって来た。彼は三木に呼びかけ
た。
「あー、ここ、文芸さん?」
「そうですが」
「展示の方も応募してましたよね? 鍵、渡しておきますから。えーっと、展
示室の責任者の方は?」
「それなら――おーい、黒沼さん!」
 呼ばれて、黒沼さんがちょこちょこと駆け寄る。
「これが一〇七の鍵です。責任持って保管してください」
「はい」
「それから、一日が終わる度に、実行委員会の人間を見つけて、鍵を返すよう
にお願いします。できれば、僕を見つけてくれるのが一番なんですが」
「分かりました。どうも」
 そうして、実行委員会鍵係(?)は次のテントへと走り去る。彼は彼で、大
変そうである。
「さあ、展示室のグループ、集まって! 行きましょ」
 黒沼さんの声を合図に、七人が揃って展示室一〇七号へと向かう。
 部屋の鍵を開け、すぐにドアを開け放つ。こもったような空気は追い出すに
限る。入れ替わって、ひんやりとした風が流れ込んで来た。小春日和とは言え、
朝の空気は肌に冷たい。
「天気予報が当たれば、シャーベットも売れてくれるはずだね」
 たこ足コンセントを引っかけないようにしながら準備を進める僕は、黒沼さ
んに声をかけた。
「そうね。楽しみ」
 冷蔵庫の冷凍室を覗いていた彼女は、こちらに振り返って微笑んだ。とにか
く、楽しそうだ。
 田原と二人きりのときも、こんな笑顔をしているのかな? 僕の頭にふと、
そんな想像がよぎった。当然ながら、二人きりの場面まではチェックできない。
 いけない。僕は頭の中の画像を振り払うと、作業に没頭した。
 キャンパス内でやっと見つけて確保した小さなテーブルを、秩序正しく並べ
る。椅子の方はやや見劣りするが、木製のそれをかき集めてきた。やっぱり、
長机にパイプ椅子の喫茶店では色気ないもんね。
 キッチン用の空間として、流し台のある一角を昨日の内から長机で囲い、テ
ーブルクロスを転用した布で飾り付けた。どうにかきれいに仕上がっている。
 肝心要の会誌の展示は、入口に近い部分にスペースを取り、長机二つの上に
ディスプレイする。ここに置くのは見本で、部屋の中でなら自由に閲覧できる。
買いたい方にはきれいに仕上がった物を出す運びだ。
「これで準備完了!」
 手をはたきながら言った黒沼さん。
「ところで店番の順序だけど。やっぱり、一回生は初めてなんだし、色々と見
て回りたいもんでしょ?」
 彼女の言葉に、うんうんと首を振る一回生達。
「それだったら、一日の初めの方だけさっさとすましてしまって、あとは遊び
回るのがいいかしら? それとも、四日間の内の一日だけ、丸ごと休みにする
方がいいかしら?」
「丸ごと一日、自由な時間をもらえるのがいいです」
 一回生の大勢はこの意見だった。そういう訳で、四日間の中で唯一、平日で
ある十一月二日の月曜日がその日に充てられる手筈になった。
「たこ焼きやっている方にも伝えておいて」
 黒沼さんが言った。

 学園祭は初日から、好調であったと言えよう。初めての展示なので、何を基
準にしていいのか分からないのだが、とにかく忙しかった。
 午前中はそれほどでもなかったのに、土曜日のためか、昼を過ぎてから、ど
っと客の出入りが激しくなった気がする。予感していた通り、近くの女子高連
中が押し寄せて来たらしい。まあ、客足が伸びて、利益が上がるんなら、それ
はそれで結構である。
 会誌の閲覧・即売の模様も、ファンタジーっぽい話と黒沼さんが妥協して描
いた「かわいらしいイラスト」のおかげで、概ね好評である手応えを感じた。
 僕にとっての個人的な問題は、繰り返しになるけど、犯人当てだ。今日来た
お客さんの中で、いったいどれほどの割合の人が応募してくれるのだろう? 
こういう場合の犯人当ては、作るのは難しいと痛感した。難しすぎても簡単す
ぎてもいけない。読者に応募する気を起こさせ、なおかつ正解者続出であって
はならない。内輪のイベントならば、自己満足のためにうんと難解な物を書い
てもいいんだけど。そういう点で、アノ問題はちょっと外れているかもしれな
い。
 そんなことを気にしながら様子を見ていると、すぐに応募してくれる人はや
はり少ない。考える時間が欲しいらしくて、
「また明日、来よ。ちゃんと考えてから出したいし」
 などと言っているのを小耳に挟んだ。そういう理由があって応募が少ないの
であれば、満足満足。
 そう話していた人達が次の日に、本当に来るかどうか気に揉んでいたら、ち
ゃんと来てくれている姿を確認でき、嬉しくなることがしばしばあった。
 こんな風にして僕達の学園祭は、どんどん流れて行った。展示室だけでなく、
たこ焼き屋も好調で、売り上げはかなりの額に届きそうだ。
 そんな中、四日の内では最も暇であろう十一月二日のことだった。予想外の
客を僕らは迎えた。
「かわいらしくしてあるのね」
 今日ばかりは閑古鳥が鳴く喫茶で、聞き覚えのある声が入口から聞こえた。
 みんな――と言っても、この日は一回生はもちろん、二回生も出払った状態
だったので、三回生である僕と黒沼さん、そして田原の三人だけだったのだが
――がその声の方向を見やると、いたのだ、佐川ふみえが。
「佐川さん、来てくれたの」
 三人で歓迎。合宿以来、何の連絡も取り合ってなかったはずなんだけど、こ
うして来てくれると嬉しいし、懐かしさもちょっぴりある。
「短大とは少し、感じが違うわね」
 そう言いながら入って来た彼女は、合宿で出会った頃と比べて、さらにかわ
いらしさを強調した服装をしていた。白いブラウスにオレンジ色のカーディガ
ン、下は赤のチェックのスカート。
 彼女の後ろには男がいた。いや、男の子と言い直すべきだろう。詰襟の学生
服を着ているところを見ると、高校生らしい。身長は平均以上あるものの、ど
ことなくおどおどした雰囲気の、頼りなさそうな男の子である。
「そっちの男の子は誰?」
 僕は佐川に聞いた。まさか、佐川の彼氏ではあるまい。釣り合いが取れてい
ないもはなはだしい。
「男の子かあ。それはいいわ。この子、私の弟なの。今、高校二年生だったわ
ね? ほら、挨拶なさいよ」
「どうも。佐川雄治っていいます」
 姉に促され、高校生は頭を下げた。性格はよさそうなんだけど、どこか、姉
のふみえに後押しされなきゃ何もできないタイプ。僕はそう直感した。
「嫌がるのを無理に付き合わせちゃったから、ちょっとむくれてたんだけど、
ここに来たら少しは機嫌が直ったみたい」
 ふみえの言葉に、僕は引っかかった。
「そう言えば、高校の方は? 今日はただの月曜日だけど……」
「ご心配無用です。この子の高校、昨日まで文化祭をやっていて、今日は代休
なの。ね、雄治?」
「うん」
 短い答。
「そういう訳か。そうだ、合宿のとき一緒だった山田屋さんは? 今日は一緒
に来ていないのかい」
 田原が聞いた。すると、僕には見せなかったような笑顔で、ふみえは答える。
「ううん、来てるわ。他にも短大の友達連れて来てるからさあ、他を回ってる
のよ。あ、たこ焼きももらったから。おいしかった」
「そりゃよかった。こっちでもおもてなししよう。メニュー、そこにあるから、
好きなのをどうぞ。山田屋さん達がこっちに来ない内にね。おごりにするよ」
 田原は調子のいいことを言い出した。ま、お金を払うのであれば、文句は言
えない。
 ただ、黒沼さんと折角うまくやっていると思ったのに、これじゃあ逆戻りす
る可能性もある。全く、いい加減な奴。何を考えているんだ?
 黒沼さんだって、今度ばかりは怒っているんじゃないか? その証拠にふみ
えが来てからは、ほとんど口をきいていない。
 もっと友達らしい某かの付き合いがふみえとの間にあったのなら、僕だって
とがめやしない。友達に親切にするなんて、別に普通だ。しかし、知り合って
間もない異性とこうも親しげにするなんて、田原の心を疑ってしまう。黒沼さ
んだって多分、同じ気持ちだろう。
 それなのに、田原は僕らの神経をさらに逆撫でしてくれるような真似をして
くれた。そろそろ佐川姉弟が帰るという頃、ふみえが田原を手招きしたのだ。
「ちょっと、話があるんだけど」
「何だ?」
 小さな声が何とか聞き取れた。
「できれば、二人だけで話がしたいのよね」
「ここじゃだめなのか? そうか、それなら……」
 と、田原はこちらをちらりと見たかと思うと、廊下にふみえと二人きりで出
て行ってしまった。
「黒沼さん」
「いいんじゃないの」
 珍しく、黒沼さんは冷たい調子で言った。彼女のこんな声を聞いた記憶が僕
にはない。
「盗み聞きなんて、いけないんだし」
 僕は黙った。

――続く




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