AWC 僕は君だけは許せない  5   永山智也


        
#4639/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/10/31   2: 1  (200)
僕は君だけは許せない  5   永山智也
★内容
 それにしてもずっと思っているのだが、佐川の喋り方は完全に同級生感覚な
んだなあ。文芸サークルの一員としては、気になってしょうがない。
「それから、住所と電話番号、あとで教えてくれるわね」
「え?」
 佐川のいささか押し付けがましい言葉に、さすがの田原も面食らった様子が
窺えた。が、田原は田原ですぐに立ち直ると、こう切り返していく。
「いいよ。君も教えてくれたらね」
「もちろん」
 そう言って、彼女は田原に耳打ちをした。さすがに聞き取れない。
「いい?」
「うん。覚えたけれど、この番号に電話したら、精神病院につながったなんて
のは、ごめんだぜ」
「そんなことなくってよ。さあ、田原さんも教えて」
 田原は、さっき彼女にされたと同じように耳打ちをした。
 教えてもらった住所と番号を、佐川は山田屋へと伝えた。どうしてかなと思
っていたら、何と山田屋は、プールにメモ用紙を持って来ているじゃないか。
ひょっとしたら、佐川は元々こうするつもりで、山田屋に持って来させていた
のかもしれない。
「じゃ、ちょっと泳ぎたいから」
 佐川は水に浸かると、いきなりクロールで泳ぎ始めた。しぶきが高くはね上
がって、あまりうまい泳ぎ方とは言えない。でも、それが佐川らしいと、何と
なく納得してしまった。彼女のことを、ほとんど何も知らないにも関わらず。
 先ほどの想像が当たっていたのか、山田屋の方は泳ぐ気はないらしい。プー
ルサイドに腰掛けたまま、佐川に声を飛ばす。
 僕達はと言えば、午前中にかなり泳いだせいで、短大生二人組にはあまり付
き合えなかった。折角着替えてきたのだからと、プールに入るだけは入ったが。
 そして引き揚げるとき、佐川達二人と、また今夜も部屋で一緒に盛り上がろ
うということになった。

 何をしたかは昨夜と大した違いはないので省略しよう。
 遊ぶのが終わってから、三回生ばかり集まって、歓談した。要するに、回生
ごとに別々の部屋に分かれたのだ。三回生の場合、一応、学園祭で何をどうす
るかっていうのがテーマとしてあったのだが、話はちょくちょく脇道へ逸れる。
「学園祭の話、どうなったんだ?」
 三木が言った。会長らしく、話を元に戻そうと努力しているらしいね。
「そうそう」
 黒沼さんが同調したので、僕も流れに従うとしよう。彼女は僕の顔を見て、
そのまま言葉を続けた。
「犯人当てみたいなの、できないかしら? 懸賞付きで」
 サークル内で推理小説に手を染めているのは、僕だけだ。
「犯人当てタイプのを書くことは書けると思うけど、どういう形式にしよう? 
朗読するの?」
 僕は聞き返した。朗読は相当堪えると考えたのだ。
「そんなことはしなくて……冊子を作って配布するだけよ。あとは暇な時間に
読んでもらって、回答用紙に答を書いて、持って来てもらう」
「あんまり、期待できない気がするな」
 本庄が言った。
「冊子を受け取ってはくれるかもしれないけど、そのあとがねえ」
「どうして、いくちゃん?」
「だって、お客さんはみんな、『学園祭』に来ているんだよ。タダで配布して
いる犯人当ての冊子を持って行くことはあっても、それを読んで、推理して、
考えをまとめて、紙に書いて、またうちらの部屋に持って来るなんて手間、か
けたいとは思ってないんじゃないかなあ?」
「……そうよね。どうにかできない、たっちゃん?」
 黒沼さんは、僕に話を振ってきた。彼女ら二人の会話を聞きながら考えてい
たことを、僕は口にする。
「問題編の長さをうんと短くするのはどう?」
「いくら短くしたって、無理があると思うね、私は」
 何だか、世話焼きおばさんのような口ぶりで反対する本庄。
「短くして解いてもらおうと言うのなら、クイズみたいにするしかないわよ。
それもマルペケで答えられるような形式にしなきゃ。時間を取るのはだめ」
「もう一つ、問題があるな」
 三木が、不意に割って入ってきた。ずっと考えていたのか。
「ヒロさん?」
「学園祭は四日間、あるんだぜ。これを長いとするか短いとするかは別問題だ
が……客はその中の一日だけやって来て、帰ってしまうのがほとんどだと思う。
そういう客に対して、どうやって正解を知らせるんだ? 当選者の発表だって、
どうするんだ?」
「そうか、それもあったわ」
 黒沼さんは、難しい顔をしている。自分の提案に、次から次へと障害が出て
来ることに対する不安とでも言うべきか。
「倉井、まさか、毎日、日替りの問題編を作るなんて、無理だろう?」
「それはちょっと……。そればっかりに掛かりっ切りになれば、不可能じゃな
いだろうけど」
「そうだよなあ。となると、最終日に正解を公開する以外、手はない訳か。そ
れまでの客、たとえば初日の客に対して正解を教えたら、次の日から正解続出
ってこともあり得るからなあ」
「無理じゃないか、結局は」
 田原が言った。ずっと黙っていたと思ったら、全てを断ち切るような発言を
してくれるとは。その訳は、僕が黒沼さんと共同で一つのことをやるのが彼は
気に入らないから……と見るのは、僕のうがった考えだろうか。
「ちょっと待って。いいアイディアじゃないんだけど……」
 黒沼さんが意見を述べようとする。みんな、静粛に。
「少し費用がかかってしまうかもしれないけど、お客さんに回答用紙の最後に
住所とかも記入してもらって、学園祭が終わってから、解決編の紙と当選者名
簿みたいなのを郵送してあげるの、どうかしら?」
「そうなると、冊子を無料配布って訳にはいかなくなるね、恐らく」
 田原が言った。これはもっともな意見だ。うちはサークルだから、正式なク
ラブほどの補助費が出ていない。
「じゃあ、送料が」
 黒沼さんが本庄と計算を始めた。こういうことには本庄が向いているのだと、
サークルの誰もが認識している。
「それならいっそのこと、コピー代も取ったらどう? その冊子って、コピー
して作るんでしょ?」
 聞きながら、僕の方へ振り返る本庄。僕は首を縦に振ってから、
「でも、今の段階じゃ、何枚になるか分からない」
 と答えた。
「仮に、A4で詰めて書くとして、最低でも何枚ぐらいになるか、見積もれな
いかな? だいたいでいいからさ」
「うーん。五枚、いや、回答用紙を付けると六枚にはなるかなあ」
「それなら……きりのいいところで百五十円は設定しなくちゃね。どう?」
 皆を見回す本庄。
「百五十円というのは、まだ中途半端だな」
 三木が意見を述べる。
「五十円玉ってのは、あまり財布の中にないもんだぜ。たいていの客は百円玉
を二枚、出すだろうからな。いっそのこと、二百円に値段を決めたらいいんじ
ゃないかな?」
「賞品にもよりけりだと思うけど」
 黒沼さんが、お客の立場に立った良心的な意見。
「出せる限界を考えると、一万円程度だろうなあ。二百円が五十倍になる可能
性があるのなら、やるかな? どうだろう?」
「人それぞれだろ。要するに問題は、学園祭という枠の中で、わざわざ買って
まで、やってもらえるかどうかってことだから」
「一部、百円に押さえようよ」
 僕は、最初の値を覆すことを試みる。本庄がぽかんとした表情になったかと
思うと、すぐに反論してきた。
「どうやって? 赤字覚悟?」
「コピーをしないで、全てプリントアウトで済ませる。大学のコンピュータで
ワープロを起動させて、そこで印字させれば紙代もインクリボン代も、電気代
さえ僕らの懐は痛まないんだから、経費は一部につき郵送料だけになる」
「そっか。会誌を作る感覚で考えていたから、最低でもコピーをしなくちゃっ
て思っていたけれど、それでもいいんだ」
「ちょっと待った。それなら、最初から会誌に犯人当てを掲載したらいい。何
も二つに分ける必要はない」
 田原は揶揄するように言った。
 うーん、確かに盲点ではあった。どうして気付かなかったんだろ。文芸サー
クルで出している会誌に犯人当てを載せれば、簡単に解決するじゃないか。た
とえ応募がゼロだとしても、損することはない。
「目玉になる物がたくさんあるのと、一つに絞るのと、どっちがいいかってわ
けだな。要は」
 三木は田原の意見の隙を突く。
 よくよく聞いてみると、会長の言ったことも、考慮する必要がある。ころこ
ろと態度を変えてるようだが、大事な話なのだ。
「目玉についてなんだけど、人手が足りるかどうかは後回しにして、私、もう
一つ考えていることがあるの」
 黒沼さんが言った。
「何?」
「展示室を喫茶店にできないかなって」
「喫茶店? 展示はどうなんの?」
 すっとんきょうな声で聞いたのは、例によって本庄。黒沼さんと本庄は本当
に対照的で、見ていて面白いほど。
「展示ももちろんやるわ。一つの展示室に、会誌なんかを展示する場所と喫茶
店をやる場所の二つを取るつもり。無理かしら?」
「無理じゃないだろうけど」
 眉を寄せる本庄。いささか困惑した様子だ。新しいことにチャレンジするの
は敬遠したがる性格なのだ。安定が一番、これがモットーだと聞いた覚えがあ
る。
 彼女に替わって、三木会長が口を開いた。
「面白いな。展示の方で会誌の一冊でも買ってもらって、それを読むスペース
として喫茶を提供する訳だ」
「さすが会長、分かってくれてる!」
「どうして、そんなのを思い付いたの?」
 僕はちょっと不思議で、聞いてみた。黒沼さんは幻想味溢れる作品を書くか
ら、こういう現実的なことに対する発想は薄いと思っていたのに。
「全然、大したことじゃないのよ。中学のときの友達が、今、コミック喫茶っ
ていうのをやっているって聞いて、楽しそうだなと思ったから、それをヒント
にしたの」
「ふうん、コミック喫茶ね」
 僕はその店の内装を、勝手に想像しつつ、ため息を漏らした。何故かしら、
『不思議の国のアリス』にある挿絵に似たタッチのイラストで埋まる店内を思
い浮かべてしまう。こういったことに関しては、僕の方が想像の範囲が狭いら
しい。作家が想像力貧困でどうするんだ?
「それじゃあ、その線で進めてみるか。会誌の内容は、長い作品は例によって、
黒沼・倉井の両先生に任せるとして、俺達は短いのでお茶を濁させてもらいま
すか」
「そういう言い方はないと思うわ、ヒロさん。短い作品が長いのよりランクが
下みたいな見方は、完全な間違いよ。作る手間では同じ、どうかしちゃうと、
短い方が切れ味が必要だから、熟練を要するかもしれないっていうのに」
 黒沼さんがふくれながら言った。さすがに、こういうことになるとうるさい。
会長もたじたじである。そんな情熱が、僕は好ましく思える。
「分かった、悪かった。俺の失言だった。許して」
 黒沼さんの「口撃」が止まりそうになかったせいか、三木は必死で謝って、
終結を望んでいる。黒沼さんも気分が納まったか、
「では、よろしい」
 と、ちゃめっけたっぷりに答えると、それでおしまいにした。
「……ということで、展示は決まりだな。模擬店の方は、一応、二回生主導で
やってもらっているんだが、何か意見のある者、いないかな?」
 こう言った三木に対して、田原が手を挙げた。
「例年通りのたこ焼きをやるのは、もう決定なんだろう?」
「そうだな」
「じゃあ、それに新たに何か付け加えようたって、難しいぜ。たこ焼き屋をし
ながら犯人当てをする訳にもいかないだろう?」
 どっとみんなが沸く。たこ焼きと犯人当ての取り合わせが、何とも言えずお
かしい。僕は頭の中で、つまようじの刺さったたこ焼きを口に加えながら、問
題を読んで難しい顔をしている人を想像した。自分の想像に、また笑ってしま
う。
「あー、おかしぃ。そうだな。付け加えようがないか。それなら、あちらはも
う変更なしということにするか」
「異議なし」
 てことで、真面目な部活のお話は終わり。このあと、他の話題で大いに盛り
上がったのは、付け加えるまでもない。

 一夜明けて(文芸サークルのメンバーにしては、陳腐な言い回しで恥ずかし
いな)、三日目。佐川ふみえや山田屋節子にとっては、今日が最後となる。
 僕らは全面的に彼女達二人に付き合うことにした。一番乗り気だったのは、
言うまでもなく田原だ。
 まあ、結局のところ、昼までの間、テニスばかりする格好になって、かなり
体力を消耗した。名前だけは避暑地だけど、暑くてたまらない。

――続く




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