AWC 僕は君だけは許せない  2   永山智也


        
#4636/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/10/31   1:57  (199)
僕は君だけは許せない  2   永山智也
★内容
「私はシュミレーション」
 本庄が言った。すかさず、僕はたしなめてやる。
「シュミレーションじゃなくて、シミュレーションだよ。『趣味』でやってん
じゃないんだから」
「いいじゃない、どっちでも。意味が通じればいいの」
「黒沼さんは?」
 本庄を無視して、僕は黒沼さんに目を向けた。すると、彼女と瞳があったよ
うで、ちょっとどきどきしてしまう。
「えっと、確か経営管理。たっちゃんと一緒よ」
「そうだったっけ」
 僕は、笑いながら頭に手をやる。無論、彼女と一緒になる講義の時間を忘れ
るはずがない。わざとこのことを話題にしたのだ。これで少しでも田原が悔し
がってくれたら、儲けもの。
「じゃ、みんな四限はないのか。終わったら一度部室に集まって、どこか遊び
に行かないか?」
 こちらの意図に気付いているのかいないのか、田原が言った。
 この意見にみんな賛成して、昼休みは終わった。

 うちの大学は嬉しいことに――少なくとも、僕は嬉しい――、夏期休暇の前
に試験がある。他の大学では、夏期休暇後に試験を行うところが多いそうだけ
ど、そんなの、何のための夏休みなんだろ? ああ、ここの大学でよかった、
よかった。
 それはともかく、結果はどうあれ、ようやく試験を乗り切り、僕らは夏休み
に入った訳である。八月、九月とまるまる二ヶ月、休みである。
 さて、夏休みには、クラブ・サークルに入っている学生にとって、恒例の行
事がある。そう、合宿である。
 我が文芸サークルでは、学園祭は三回生が仕切り、合宿プランは二回生の意
見が大きく取り上げられることになっている。その代わりに、合宿の手続きを
するのも二回生なのだ。一回生及び三回生以上は、家で待っていれば準備して
もらえる訳。
 今年はT県のH町に避暑を兼ねての合宿と決まった。合宿と言っても、みん
なでワープロの早打ち競争をしたり、漢字テストをする訳では断じてない。単
に遊ぶだけ。プール(あるいは海水浴場)とテニスコートがあれば、たいてい
の部員はご機嫌になる。
 九月七日から三泊四日の予定で、僕ら文芸サークルのメンバー十三人は、T
県H町にある国民宿舎に向かった。四回生の人達もいるのだけれど、今回は就
職活動等の関係で忙しいとのことで、先輩達の参加はなし。これで自分達三回
生の天下になるって訳。去年のうらみを二回生達にぶつけて晴らしてやる、な
んて気は更々ないけれど。
 ローカル線に三時間近く揺られて、ようやく最寄りの駅に到着。安くすませ
ようと思うと、身体に辛い。
 この上にバスに一時間強も乗らないといけないのだ。全く、空気がいいのは
結構だけど、どうしてこうも交通の便が悪いのか。悪いが故に、自然が残って
いるのかな。
 最初の頃はわあわあ騒いで、トランプとかウノなんかのカードゲームに興じ
ていた僕達だったけれど、さすがに座りっ放しが腰にきたのか、みんな口数が
少なくなってきている。僕自身もそうである。腰と背中がしびれたようになっ
て、ちょっと触れられただけでも、ぴりりと来そう。
「おーい、渉外。まだかあ」
 三木が、今度の合宿をプランニングし、旅行会社との手続きをした渉外担当
の二回生に呼びかけた。
「あ、はい。もう少しだと思います」
 元から旅行好きの質で、自分から進んで渉外になっただけに、慣れた調子で
答えている。それでもさすがに、腰は痛そうだ。
「なあ、ヒロ。あまり大声を出すなって。他にも人達が乗っているんだから、
迷惑になるし、格好が悪いじゃないか」
 田原が呆れたように、前に座っている三木に言った。
「いいって、いいって」
 三木の方は、いたってのんきなものだ。
 ふっと気付くと、一番前の席に座っている学生らしい女の子二人が、こちら
をちらりと見、すぐに顔を見合わせて、くすくすと笑っているじゃないか。あ
あ、恥ずかしいったらないね。
 そんなこんなしている内に、やっとバスは目的地に到着した。我慢しただけ
あって、国民宿舎の割には凄くきれいだと思う。白く、瀟洒とさえ言える造り
で、ちょっとしたホテルのよう。
「わあ、いい感じじゃない!」
「ほんと、あーあ、のびのびした気分」
 駐車場は黄色い声でやかましくなる。
 それはそれで結構だが、さあ、荷物を建物まで運ばないといけない。これが
最後のけだるさを起こしてくれるけれど、一ふんばりしなくては。軽くストレ
ッチ運動をしてから、腕に力を込めて荷物を取る。
「何だ、どうやら同じ国民宿舎みたいだ」
 田原が、荷物を持っていない方の手で、ある方向を指さしていた。
 見ると、さっきのバスの一番前の席に座っていた女学生らしい二人が、笑っ
て話をしながら、楽しそうに歩いて行く。
「期待してると、がっくりするよ、きっと。恐らくね、お相手の男子学生の方
は先に来て泊まっているんだ」
 僕が横からそう言ってやると、田原はわずかに慌てたような表情をこちらに
向けたけれど、それもすぐに余裕の笑みに変わる。
「何を言ってるんだい。僕は黒沼さん一筋さ」
 ちっともはにかんでいない。いい性格だよ。でも、うまい具合いに黒沼さん
は本庄と一緒に先に行っていた。
 こんなことをしていられない。足早に建物の中に入ると、渉外の子がフロン
トで鍵を受け取っているところだった。ロビーは天井が高く、広々としている。
喫茶みたいなスペースもあって、益々、気に入りそうだ。
「えーと、改めて部屋割を指示させてもらいます」
 渉外が言った。
「男子八人、女子五人ですので四人部屋を二つと、六人部屋を一つ、取ってい
ます。三〇七と三〇八が四人部屋。三一一が六人部屋になっていますから。男
子の方は、あとで適当に分かれましょう」
「んじゃ、鍵の一つは俺が持っておこうかな。いいだろう?」
 と、三木。
「もう一つは、やっぱり田原かな」
「分かった。責任持って、預かるよ」
 三木の判断に、田原がうなずいた。
 女子は女子で、黒沼さんが持つことになった。
「じゃ、とりあえず、荷物を置いて、休憩としようかな」
 時計を見ながら、三木が言った。ただ今、昼の二時過ぎ。
「それで、三時からテニスコートを一面だけ借りられたそうだから、やりたい
人間は誘いあって行ってくれ」
「部長はどうするんですか?」
 一回生の子から声が飛んだ。
「俺は寝る。と言うか、横になりたいんだ。この年齢のせいか、腰が痛くてか
なわん。回復すれば、あとで寄せてもらいに行くかもしれんが」
 と、三木は老人のような言葉遣いの上に、身振りでとんとんと腰を叩いた。
もちろん演技でやったのだろうけど、様になっていて、笑いを誘う。
 部屋に行くには、階段しかないらしい。ここら辺ばかりは、所詮、国民宿舎
ってとこかな。
 室内に足を踏み入れてみると、畳敷の間。部屋の中央にあるテーブルには、
お約束のように、魔法瓶と急須、お茶の葉の筒に湯呑、そしてお茶菓子があっ
た。
 荷物は、掛軸の手前にあるスペースに、まとめて置く。
 障子を開けて外を見てみると、きれいな緑の景色が広がっていた。山の一部
に早くも紅葉しかかっている箇所があって、風情がある。
「さあテニス」
 ということになって、着替えにかかる。こんなところに来て気取ってもしょ
うがない。テニスウェアを持って来るはずもなく、ほとんど全員がTシャツに
ジャージという出で立ちだ。
 廊下に出たところで、ちょうど男女が顔を会わせる格好になった。女子全員
に、男子三人の合計八名がテニス組らしい。
「他の人は?」
 黒沼さんが田原に聞いた。
「三木ヒロはまじで横になってるよ。あとの男子四人は麻雀牌と卓を借りに、
フロントに向かった」
 肩をすくめて答える田原。いちいち様になるから、気に入らないな。それに
対して黒沼さんも楽しそうに反応するから、いらついてしまう。
「昼間から健康的なこと」
「さあ、それより早く行こう。時間がもったいない」
 廊下の突き当りにある掛け時計を見ると、午後二時五十分といったところ。
ま、ちょうどいい時間だ。
 ロビーを通って、駐車場を横目に続く自転車道。そこをいくらも歩かない内
に、グリーンの金網で囲われた、運動場のような場所が目で捉えられた。その
少し奥にテニスコートはある。
「あ、先客がいる」
 見えたままに僕は言った。僕らが使う予定の隣のコートで、二人がプレイを
楽しんでいる。例の女学生二人組で、シングルをやっているところを見ると、
相当、やり込んでいるのかしらん? スタイルは僕達と似たようなジャージ姿
だから、そんなことはないと思うが……。
「あのー、一緒にやりませんか?」
 どうしたことか、田原が扉を開けてテニスコート場に入るなり、二人に声を
かけた。おやおや、先ほどの「黒沼さん一筋」はどこへ行ったのやら?
「あ、バスで」
 こちらに背中を向けてプレイしていた方が、汗をぬぐいながら振り返った。
それほど長くない茶色の髪を、後ろで束ねている。目が細くてきつい印象がな
きにしもあらずだが、なかなかの顔立ち。
 続いて、向こう側にいた方も何かを言ったけど、よくは聞き取れなかった。
ちょっと鼻にかかった、甘えた声をしている。こちらの方はヘアバンドの似合
う、すらりとした肢体の持ち主。それでいて、顔は少しぽっちゃりしている。
「どうしよ?」
「同じ場所に泊まってるんだし、安心よね」
 そんな相談をしてから、二人の女子学生はこちらに近付いて来た。ヘアバン
ドの方が口火を切った。彼女、近くで見ると胸が大きい。つい、見つめてしま
う。
「一緒にお願いします。私、佐川ふみえって言います。飛脚で有名な運送屋さ
んに、平仮名でふ・み・え」
「へえ、ふみえさん」
 勝手にどんどん音頭を取っている田原は、おかしそうに受け答えする。
「私は、山田屋節子です。普通の山田に屋敷の屋、節分の子供、です」
「山田屋さんとは、変わった名前ね。あ、ひょっとして下の方の名前の由来、
節分の日に生まれたからとか?」
 本庄が図々しくも、興味深そうに聞く。彼女は最近、コンピュータによる占
いに凝っているらしい。名前を聞いたのには、そんな理由もあったのかな。
「あ、惜しいです。単なる二月生まれ。その代わり、二十九日」
 こちらの人間から、おおぅと声が上がる。閏年だ……。
「じゃあ、四年に一度しか歳を取らないって訳? いいなあ」
 黒沼さんが、本当に羨ましそうに言った。そう言えば彼女、落ち着いた雰囲
気の容貌のせいで、本当の年齢よりも上に見られるのが嫌だって言っていたっ
け。
「まさか。でも、プレゼントが四分の一に減らされそうになるわ」
 冗談ぽく答えた山田屋。つられて、こちらの女子全員が笑う。うん、まずま
ず気が合いそう。
「ふみえさんは、誕生日は?」
 田原が言った。どうやら、田原はこちらの佐川ふみえがお気に召した様子だ。
僕としては好都合なんだけど、黒沼さんの表情が少し陰ったように見えるのは
気のせいだろうか?
「私は一月二十三日。男の子だったら、『ひふみ』ってつけるつもりらしかっ
たの、うちの親」
「へえ」
 そんな風にして自己紹介が始まったもんだから、こちらも自分の名前やら誕
生日やら、さらにはそれにまつわる故事来歴(?)を交えて、談笑。はっと気
付いたときには、三時を二十分ぐらい過ぎていた。
「こりゃ、もったいない」
 例の渉外が計算高いところを見せて、さっさと始めましょうと言い出した。
まあ、正論である。
 五時までの百分間、ダブルスのリーグ戦をやって、結構盛り上がった。レベ
ルの方は、やはり佐川・山田屋が一枚上。田原がこれに続くもんだから、また
悔しいではないか。文章ばかり書いてないで、テニスの練習もすればよかった。
と、このときだけ決心し、すぐに忘れるのだ。
 帰りは、十人で一緒に戻ることになった。その道すがら、話題は自然とお互
いの、より詳しい自己紹介となる。
「ふうん、二人とも短大の二年なんだ。じゃ、僕の方が年上か」
 田原が言った。会話の相手は主に佐川。僕がさっき、にらんだ通りだ。
「え? 何回生なの?」
「三回生の今年二十一なんだ」
「そうなの? てっきり、同い年のつもりで話していたわ」
「別に気にしないで、普通に話そうよ」
「そのつもりよ」

――続く




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