#4555/5495 長編
★タイトル (NKG ) 98/ 7/30 23:16 ( 98)
【少年時間】〜アラガエナイ罪〜(2/2) らいと・ひる
★内容
バカだよ。
生きるを諦めてしまうなんて、これ以上の愚かな行為は他にはないのだから。
それでも他に逃げ道がないのなら……。
バカだよ……こんな気持ちがわかったって、なんの意味もないのに。
それともボクは、彼女の気持ちがわかるということに満足したかったのだろう
か?
一人が寂しかったんだ。
もう一人の自分をみて安心したかったんだ。
卑怯者だよ。
許される罪でないことはわかっている。
だから……。
風が心地よく、夕陽の光が少しだけ眩しく感じられる。
幼い頃からずっと見てきた夕暮れだから、最後ぐらいはしっかりと心に焼きつけ
ておきたい。
ここから飛べば、すべてが終わる。
自分が生きていた時間を、自分自身の力で終わらせることができる。
なにもできなかったボクが唯一できること。
自己満足と自己陶酔と、そんなもので自分自身を正当化していく。
もう疲れたから……ボクにはもう何もないから……だから、すべてを終わらせる
しかない。
誰かを知らずに傷つけてしまって、生きていたことに後悔をしてしまうから。
フェンスを乗り越えて、真下が見える位置に立つ。
ふいに風にあおられてぐらりと躯が揺れた。
とっさに右手がフェンスを掴む。
恐怖感。
自ら命を断とうという人間が、情けない話だ。
情けなくて涙がこぼれてくる。
もう終わりにしよう。悔やむのも、涙を流すのも。
でも……。
ためらい。
一歩足を踏み出せばそれでいい。簡単なことじゃないか。もしかして、ボクにはそ
んな簡単な事さえできやしないのか?
怖くなんかない。何を今更踏みとどまっているのだろう。
終わりにするんだから……。
−それでいいの?
どこかで声がする。
周りに人の気配なんてありはしない。臆病なボクの心が作り出した幻聴だ。
−本当にそれでいいの?
やめてくれ。ボクの判断を迷わすのは。
−卑怯者。
誰が?
−それはわかっているはず。
なんで?
−考えることを自ら放棄してしまってる卑怯者だから。
ボクは、自分で考えてここへ来た。だから……。
−嘘つき。
本当に考えたんだ。
−じゃあ、なぜ迷っているの?
それは、ボクが愚かなくらい臆病者で、何もできなくて、何も知らないから。
ボクはなんにもできない、まるで駄々をこねる子供のようだから……。
死ぬことさえできないから。
−違うよ。
そうだね。ボクは生きようとすることさえ、できないと決めつけていたのかもし
れない。
嫌い。
だから、ボクはボクが大嫌い。
自分自身を否定して。できるならば消してしまいたいと思って。
そんな不安を抱きながら、ボクは誰かに自分を重ねてしまっていたのだろう。
同じ人間がいるということで、少しでも自分自身を肯定したかったから。
−もうわかっただろ?
うん。そんな愚かな事を繰り返すのはやめたい。
本当に罪を償いたいのなら、ボクは消えてしまってはいけない。
ボクはボクの自らの居場所を作ることを諦めてはいけないのだ。
−でも忘れちゃいけないんだ。彼女の事も、ボクの犯した過ちも。
**
結局、彼女とボクはまったく違った人間だった。そんな簡単な事にさえボクは気
づかなかったなんて。
他人を他人と認められて、自分を自分と認められるようになりたい。もう、あん
な過ちは犯したくないから。
だから、強くなることがボクの唯一の償い。
何もできなかったことを悔やむのではなく、何かをできるようにならなくてはい
けない。
どんなに辛くても、どんなに悲しくても、たとえ孤独であっても、ボクは生き続
けなくてはいけない。
それが罪を背負った人間の運命だから。
知らないことは罪となる。だから、ボクは大人にならなくてはいけない。
(2/2)
【少年時間】〜アラガエナイ罪〜
(了)