AWC そばにいるだけで 25−8   寺嶋公香


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#4543/5495 長編
★タイトル (AZA     )  98/ 6/20  14: 0  (144)
そばにいるだけで 25−8   寺嶋公香
★内容                                         16/10/16 01:51 修正 第2版
「え? あ……そうなるのね」
 失言だったとの思いから、頬に手をやる純子。
「計画するのは男子の役目よ」
「あれ。こういうときだけ男に押し付ける」
「だって」
 反論しようとしたが、やめた。自宅がすぐ目前にあったから。
「送ってくれてありがと」
 帽子を前に両手を添え、深くお辞儀。
「それに今日のこと、楽しかったわ。きっと、いい思い出になる。私達の無茶
なお願いを聞いてくれて、本当にありがとうね」
「そこまで感謝されると……弱る。自分自身、楽しんでたから」
 門柱を前に、純子から少し顔を逸らした相羽。
 純子の方は相手の言葉を聞いて、かえってほっとした。
「よかった! あなたも含めてみんなが楽しかったのなら、いいじゃない」
「−−うん」
 相羽の表情にも安堵の色が見られた。
「じゃ、また明日、だね」
「ええ。気を付けて帰ってよ。おばさんにもよろしく伝えて」
 純子は気分よく、さよならの挨拶を交わした。相羽の個人的な話は聞き出せ
なかったけれど。

 下駄箱の蓋を開ける。上履きの内側に指をかけ、左右同時に引っ張り出す。
学校に来れば毎朝やっていることだ。
 だが、今朝、純子の上履きの中には普段ない物が入っていた。
「誰よ、ごみなんか入れて」
 とつぶやいたのも束の間、純子の指先には紙片が引っかかる。
 小さく折り畳まれたそれがノートの切れ端であることは、開かずともたやす
く分かった。白地に薄い黒だか紺だかのラインが入った極普通のノート。
(何かのメモみたい)
 一人での登校だったし、純子はその場で紙切れを広げた。ちょうど手の平を
覆い隠す程度の大きさの紙面に、きれいとは言えないが勢いのある文字が踊っ
ている。
「……」
 文章にそって目を動かす純子。ほどなくして、その目が点になるような気持
ちに至った。
(清水から? 何なのかしら)
 今日の放課後、体育館の裏、中庭側で待っているから来てくれとあった。さ
らに、今日が都合悪ければ、いい日を言ってくれとも書いてあった。あとは清
水の名前が角張った字体であるだけで、用件は記されていない。
「あ、そうか」
 閃きに、思わず手の平を拳で叩きたくなった。
(きっと、応援のことだ。はっきりさせてなかったもんね。どう言おうかな)
 そこまで考えたとき、玄関口の方から友達の声が聞こえた。案の定、純子の
姿に気付いて呼びかけてくる。
「純子ーっ」
 純子は手早く畳み直すと、紙片を学生鞄の外ポケットに放り込み、チャック
をした。
 走ってきた富井と井口が純子の両側に並ぶ。
「おはようっ」
「おはよ、久仁香、郁江」
「純ちゃんは今度の土曜、暇?」
「うーん、分からない」
 小首を傾げて正直なところを伝えると、富井は不満そうに口を膨らませる。
「またあ? 最近の純ちゃん、そればっかだよお」
「予定が立たなくて……何かあるの?」
「もうすぐ父の日でしょ。買い物、一緒に行かないかなあって。忙しいんなら、
かまわないけれど」
「忙しいと言うよりも……」
 最後まではっきり言わず、口を閉ざした純子。
 レッスン、特に声楽と振り付けの指導が増えてきている。そればかりでなく、
モデルとしての撮影もぼちぼち入り始めた。
 だが、多少無理をすれば、皆とショッピングに行く時間のやりくりは利くだ
ろう。予定が急に変更される場合があるのが問題なのだ。
(月曜から金曜まで、わがまま聞いてもらってる分、土日はできるだけ空けて
おきたいのよね)
 話がまとまらない内に、二年生の教室のある階に着いてしまった。
「昼休みか放課後、またね」
 井口へ手を振って、純子と富井は十組に。
「芙美にはもう言ったの?」
「うん。いつでもいいって」
 続きを話していると、邪魔が入った。白沼が足早に駆け寄ってきたかと思う
と、二人の前で通せん坊するように立ちふさがる。
「涼原さん、富井さん」
「は、はい」
 相手の冷ややかさを帯びた口調に、わけもなく緊張して固い返事になってし
まった。足を止め、じっと待つ。時間が長く感じられた。
「二人とも、この間の日曜日はどこかへ行っていたのかしら?」
 心当たりがある純子達は何度か瞬きして、互いに顔を見合わせた。
(グループデートの日だわ)
 そのまま説明していいものか、純子にはためらいがあったのだが、富井の方
は微塵もないらしい。純子の目配せを違う意味に受け取ったようで、にんまり
してから口を開く。
「相羽君達とデートしたんだよ。ねーっ、純ちゃん」
 言葉に嫌味さは全くないのだが、逆に富井の明るさが白沼の気持ちを逆なで
するかもしれない。
 純子は曖昧に笑って、ほんのわずかうなずいた。目だけは白沼に注意を向け、
変化を探る。
(まさか、この場で怒鳴り散らすなんてことはしないと思うけれど)
 結果的に純子の心配は完全に的外れだった。
 白沼は満足した風な微笑を浮かべている。一旦目を伏せ、不意にまた開く。
「そ。あの話は本当だったのね。みんなで仲よく、遠足みたいに行ったんでし
ょう?」
「うーんと。ま、そっかな。わいわいやって、楽しかったしぃ」
「八人だったかしらね? そんな大人数では、ムードも何もなかったでしょう
ね、恐らく」
「でも、相羽君が色々考えてくれて−−何よぉ、純ちゃん」
 袖を引いて富井のお喋りを中断させると、純子は潜めた声で始める。
「おかしいよ」
「何が?」
「白沼さんが日曜のグループデートを知ってるのが。八人で行ったことまで分
かってるなんて」
「言われてみれば……」
 富井は視線の照準を白沼に合わせた。大きな目を一生懸命?細くして、今頃
になって疑惑を込めている模様。
 白沼はしっかり聞き耳を立てていたらしく、純子達が尋ねない内から反応を
示した。
「私にとっても彼は大事な人だから、常日頃から気にしているのよね」
「じゃ、私達が約束してたとこを立ち聞きしたとか?」
「違うわよ」
 遠慮のない富井の物言いに、白沼はかすかに顔をしかめる。
「あとで聞いたのよ。お喋りなお仲間がいると、秘密を守るのも大変ね」
「秘密ってわけじゃあ」
 純子は思わず口を挟んだが、それよりも富井が声を大にする。
「誰が喋ったの、白沼さん?」
「想像できるんじゃなくて?」
 試すように、焦らすように、白沼。
 純子も富井も見当着かなくて黙っていると、白沼はふっと息をついた。
「鈍いわねえ。ま、あなた達を仲違いさせる気はなくってよ。あの尻軽男は口
も軽くて困り者だわ」
 そう言われても誰を指すのか分からなかったが、男子なのは理解できた。
「……あなたが相羽君のことを悪く言うはずないし、勝馬君だってそういうタ
イプと違うから、唐沢君?」
「そうよ。言っておくけど、向こうが勝手に喋ったのよ」
「それより……白沼さんが何を言いたいのか分からないんだけど……」
「あなた達が相羽君と影でこそこそしようとしても、私にかかれば、何でもお
見通しってことよ」
 腰に両手首を当て、胸を張る白沼だが、その様子が純子にはおかしく感じら
れた。
(お見通しって、日曜のことだって唐沢君が話さなきゃ、知らないままだった
と思う……)
 でも、声にする勇気はなかった。つまらない揚げ足取りで、敢えて波風を立
てることもあるまい。
「そういうことだから」
 白沼は目を瞑り、長い髪を右からなで上げた。
 そして髪がぱらぱらと落ちてくるや、すかさず、ぱっちり見開く。
「次からは隠れてやらず、堂々としなさいよ」
 拳銃の形にした指で純子達を示すと、スカートを翻して去って行く。
 髪をなびかせ、スキップしてるみたいな足取りで席へ向かう白沼の後ろ姿を
ぼんやり眺め、純子と富井は目を合わせた。
「何だったのかなぁ?」
 それが正直な感想だった。


−−つづく





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