AWC 妖精城のワルキューレC つきかげ


        
#4513/5495 長編
★タイトル (CWM     )  98/ 6/19  14:34  (186)
妖精城のワルキューレC                              つきかげ
★内容
  シルバーシャドウは、フレヤに目を向ける。
「巨人族のフレヤ殿、でしたわね」
  フレヤは、晴れ渡る真冬の空のように青い瞳で、シルバーシャドウを見下ろした。
「あいにくと、記憶を失っている。あんたと会っていたとしても、憶えていない」
  シルバーシャドウは、くすくすと笑った。
「気になさることは、ありません。さあ、こちらへ。ロキ殿、あなたの話を伺わね
ばなりませんね。なぜ、魔族の女王ヴェリンダ殿が人間に荷担しているのか」
  死神のごとく黒衣のロキは、薄く笑った。
「ああ、こちらも教えて貰わねばな、ここにもたらされた黄金の林檎がどうなった
かを」

  シルバーシャドウによってテラスの一つにフレヤとロキは、案内された。元々透
明な葉のドームで囲まれた空間であるここは、天候の影響を受ける事は無い為、壁
や天井には単なる区切り以上の意味はないようだ。
  剥き出しになっているテラスも、ここでは一つの部屋として扱われるらしい。シ
ルバーシャドウはロキとフレヤに、向かい合った。
「ロキ殿、あなたは、ここに黄金の林檎を求めて来たと仰るのですか」
  シルバーシャドウは、夜空に輝く月のように玲瓏と微笑むと言った。
「確かに私たちのもとに、人間の魔導師ラフレールが訪れたとき、彼は黄金の林檎
を携えておりました。その力はあまりに危険なものであった為、私たちは魔導師ラ
フレールと共に封印したのです」
  黒衣のロキは、蹲った夜のようにシルバーシャドウの前に腰を降ろしている。表
情を変えぬまま、神の造った人造人間はエルフの女王に問いかけた。
「では、まだここに黄金の林檎はあると」
「いいえ、ラフレールは私たちの造った結界の内で、数百年に渡り眠り続けたので
すが、つい数ヶ月前、目覚めたのです」
「ほう」
  闇を纏ったロキは、白の長衣と銀の装身具を身につけたエルフに顔をよせる。
「数ヶ月前とは?」
「外の世界で夏が終わり、冬の訪れる前です」
  ロキは、フレヤを振り返る。
「おまえの目覚めた時期だ、フレヤ。おそらくおまえの目覚めが、ラフレールを目
覚めさせた」
  フレヤは、どうでもいいといったふうに、肩を竦める。
「あるいは、逆かもしれません。ラフレールは自らが目覚めた理由を、こう語りま
したから。邪龍ウロボロスの封印がとけたと」
「ウロボロスだと」
  ロキの声に、驚愕が含まれていた。
「まさか。それが本当であれば、この妖精城は終末を迎えている」
  シルバーシャドウは、落ち着いた声で応える。
「だからこそ、私の夫ペイルフレイムが封印しに向かったのです」
「いくら、ペイルフレイム殿が優れた魔導師とはいえ」
「おい」
  黙って見下ろしていたフレヤが、唐突に口を挟む。
「なんだ、その邪龍ウロボロスとは」
  ロキは、巨人を見上げる。
「かつて、聖なる神ヌースと、邪神グーヌが数億年に渡る戦いを行う前、グーヌ神
は金星の牢獄に封印されていた。その金星の牢獄を覆っていたのが、ウロボロスだ
よ」
「神の牢獄の、門番ということか?」
「いや、門番は本来グーヌだったのだが。本当に封じられていたのは死せる女神フ
ライアの死体だ。フライア神は死体と化しても尚、危険な存在だった為死の神サト
スが強大な力のフィールドで覆った。それが、ウロボロスだ」
  フレヤは、面白がっているような笑みを浮かべていた。
「少なくとも、一度はそのウロボロスは破られているのだろう。グーヌ神が金星か
ら、地上へ降りてきたという事は」
「グーヌ神は黄金の林檎を使ったからな。ウロボロスの力は世界を根底から変容さ
せる程、強大なものだ。ヌース神はかつてグーヌ神との戦いの中で、ウロボロスを
制御してグーヌ神を封印しようとしたが、ヌース神の力を持ってしても、ウロボロ
スを制御する事は不可能だった。その時、ヌース神はこの世の終わりまで、ウロボ
ロスを封じたはずだ」
  シルバーシャドウは、水に映った月のように微笑みながら言った。
「だからこそ、ラフレールは目覚めたのです。終末がくる前に邪龍が目覚めたとな
ると、黄金の林檎が必要になるはずだと」
  ロキの表情は変わらなかったが、その瞳は物思いに耽っているように曇っていた。
「バランスが、崩れ始めている。黄金の林檎が失われた為か」
「ロキ殿、今度はこちらから質問させていただきます。中原ではいったい、何が起
こっているのです?」
「ラフレールがここに来たという事は、ある程度の話は聞いたのだろう。例えば魔
族の暗黒王ガルンが聖樹ユグドラシルの元に封じられていた黄金の林檎を持ち去り、
古の約定を破って中原を支配しようとしたこと等」
「ええ、魔導師ラフレールは偉大なる王エリウスV世を助け、ガルンを倒し、黄金
の林檎を奪い返したと」
「そこまでは、よかった。しかし、ラフレールの心に闇が忍びこんだ。ラフレール
は黄金の林檎を聖樹ユグドラシルの元に返すことなく、姿を消している。私は、ラ
フレールの足跡を辿ってここへ来た」
「闇が忍び込んだと仰いますが、黄金の林檎を星船に乗せ、天上世界へと返す事は
人間の滅亡を意味します。ラフレールの判断は、人間として当然でしょう」
  ロキは、苛立たしげに目を光らす。シルバーシャドウは、笑みを絶やさずに続け
る。
「いずれにせよ、私たちエルフは人間にも魔族にも荷担するつもりはありません。
私たちは友人としてラフレールを受け入れ、手助けをしただけです」
「判っている」
「暗黒王ガルンが中原を蹂躙したにしても、今の混乱は説明つきません。まず、ヴ
ェリンダ殿の事を聞かせてください。なぜ、人間を家畜としか見なさない魔族が、
自らの夫として人間を選んだのか」
  ロキは、うんざりしたような目でシルバーシャドウを見る。
「ガルンは、自分が殺した先王の娘を幽閉した。それは、デルファイと呼ばれる場
所らしい。その場所では、魔法を一切使えない。ガルンの死後、デルファイに幽閉
されたままのヴェリンダを救う事ができなかった為、思いあまった現在の王が、ヴ
ェリンダを救った者をヴェリンダの夫とするというふれを出した。そのヴェリンダ
を救ったのが、人間でありオーラの間者であるブラックソウルだ」
  シルバーシャドウは少女のように、くすくす笑う。
「中原の王国は、そのオーラとトラウスに二分されているようですね。なぜ、そん
な事になったのです?」
「元々、正統王朝がトラウスにあり、東のオーラに分家のクリスタル朝が存在した。
ガルンが王国を蹂躙した時に、最後までガルンと戦ったのがオーラであった為、王
国を立て直す時にイニシャチブを握った。そのまま、本家を自分の支配下に置こう
としているのだよ」
  シルバーシャドウは、神秘的な輝きを潜ませた瞳で、ロキを真っ直ぐ見つめる。
「まさか。王国の運営は、ロキ殿の管理下にあるはず。なぜ、そのような事が許さ
れるのですか」
  ロキは、真っ直ぐシルバーシャドウを見つめ返す。
「ロキとは、あなたも知ってるだろうが、ヌース神が造った模造人間だ。我々は全
部で十三体存在する。我々の使命は、人間を指導し、星船を復活させる事にある。
我々は千年に一人目覚め、任務を遂行する。私の前のロキはガルンに殺された。そ
の後に私が目覚めたのだが、なぜかその時目覚めたのは、私一人ではなかったのだ」
  シルバーシャドウが、息を呑んだ。
「そんな事が?」
「どういう事故でそうなったのかは、判らない。もう一人のロキは、オーラに荷担
し、中原を制圧するつもりだ。私は、もう一人のロキによって、王国を追放された
身だ」
「はっ!」
  フレヤが、笑い声をあげる。
「初耳だな。おまえが、追放者だったとはな」
  ロキは肩を竦める。
「だから、私にはおまえの手助けが必要なのだよ、フレヤ」
  シルバーシャドウが、ロキの手に自分の手を重ねる。
「ロキ殿。私たちはあなたの使命に手を貸すことは、できません。それは、古の約
定に定められた事ですから。しかし、あなたも私たちの友人に変わりはありません。
とにかく、我が夫、ペイルフレイムとラフレール殿が戻られるまでお待ち下さい。
世界のバランスを取り戻す為であれば、ラフレール殿も協力して下さるでしょう」
  ロキは、皮肉な笑みを見せる。
「だといいがな」

  夜の支配者である月が、黄金の光で地を満たす。その夜は、闇で大地を覆うこと
を忘れたように、明るかった。
  レンファ・コーネリウスは、明かりを灯すことを忘れてしまいそうな月の光が差
し込む窓辺で、手紙を読んでいる。それは、彼女の従姉妹であるイリス・コーネリ
ウスからの手紙であった。
  イリスは、彼女が護衛としてつく事になった王子のことを書いている。伝説の偉
大なる王の名を持つ王子、エリウスW世のことを。
 レンファは、酷く奇妙な感覚を抱いた。何百年も昔のサーガに語られているよう
な英雄が、甦ろうとしている。
  ふと、レンファの瞳が曇った。何かの気配が、外に感じられる。レンファは手紙
を机に置き、引き出しから水晶剣を取り出した。
  蜻蛉の羽根のように、薄い水晶の刃。手のひらに収まる程の大きさの水晶剣は、
革の鞘へ収まっている。レンファはその剣を、左の手首につけると部屋の扉へと向
かう。
  屋敷の廊下は、しん、と静まり返っていた。この広い屋敷に、夜は彼女と彼女の
父親であるジュリアス・コーネリウスの二人しかいない。
  不用心ではあるが、片田舎の古びた屋敷に忍び込む物好きな賊は、いなかった。
特に剣の達人として有名なジュリアス・コーネリウスの屋敷ともなれば、むしろ避
けて通るほどだ。
  レンファは優美な曲線を描く階段を下り、玄関ホールへと向かう。月明かりの仄
かな光に満たされた玄関ホールへ、レンファは降り立つ。
  気配は、正面の扉の背後で酷く強まった。殺気に似たその気配に、レンファは思
わず水晶剣を手のひらの中へ取り出す。
  たん、と扉が空いた。黒装束の影のような男たちがばらばらとホールへ入ってく
る。その数は、10人近くだ。顔を墨のようなもので黒く塗っているらしく、男達
の表情は伺えない。
  レンファは、水晶剣を放った。三日月型の透明な刃は、凍り付いた光のようにホ
ールを飛ぶ。その剣はエルフの紡いだ絹糸で、レンファに操られる。
  ごとり、と黒い影が薄暮に出現したように、肘から先の腕が床へ落ちた。腕を落
とされた男は苦鳴を押し殺しながら、腕を拾い下がってゆく。
  これで男たちは、丁度8人になったようだ。統率に乱れた様子もなく、レンファ
を取り囲む形で左右に展開する。
  盗賊を相手にする時は惨く斬れ、というのが父の教えであった。訓練されていな
い夜盗の類は、それで怯み逃げていく。結果的に流す血は、少なくて済むことにな
る。
  しかし、この男たちに乱れは無い。いわゆる野伏りというよりは、忍兵に近いよ
うだ。それなら、別の手を取らねばならない。
  レンファが父に学んだユンク流剣術というものは、単なる剣技のみに閉じたもの
ではなかった。格闘術、諜報術、本草学、治癒術から魔道、呪術を含む総合技術体
系である。
  レンファは魔操糸と呼ばれる技を、使い始めた。魔道によってエルフの絹糸を操
り、相手の動きを封じる技だ。できうる事なら男たちを生きたまま捕らえ、その意
図を知りたいと思う。それに人を斬り殺す事に、レンファには躊躇いがある。人を
斬ったことはあっても、殺したことは無い。
  この男たちを相手にするのであれば、殺さねばならい。彼女の父ジュリアスなら
ば、躊躇わずにそうするだろう。レンファは、それが嫌だった。
「やめろ」
  一人の男が新たに戸口へ姿を現し、言い放った。その言葉に、糸を操るレンファ
の手が凍りつく。
  新雪を思わす白い髪が、月の光の中に浮かび上がる。その手の中には、白い拳銃
が握られていた。骨のように白い銃身を月光に晒す、拳銃。
  レンファは拳銃を見るのは、初めてだった。一見似たような武器である、陶器の
筒を火薬の力で発射する火砲は、拳銃と比べるとごく簡単な構造でできている。
  拳銃は火砲とちがい、鉄の固まりであった。オーラにてロキの支配下におかれて
いるという、アースローズ協会。そのアースローズが持つ古代の技術を利用して、
初めて作り出される武器である。6発の弾を収容する弾倉には雷管がつけられてお
り、その雷管が撃鉄により与えられる衝撃で発火して弾倉内の火薬に火をつけ弾丸
を発する仕組みだ。
「あんたの剣より、おれの銃のほうが速い。お嬢さん、あんたに勝ち目は無いよ」
  白髪の男の、言うとおりであった。殺すことを躊躇った瞬間に、レンファの敗北
は決まっている。




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