AWC 妖精城のワルキューレD つきかげ


        
#4514/5495 長編
★タイトル (CWM     )  98/ 6/19  14:35  (180)
妖精城のワルキューレD                              つきかげ
★内容
  彼女が拳銃を持った男を斬ろうとすれば、命を取るしかない。それができないの
であれば、死ぬのはレンファのほうだ。
 白髪の男が持つ白い拳銃から、妖気が立ち上るのを感じる。何らかの魔法が関与
した武器である事は、間違いない。
「さて、まず剣を捨ててもらおうか、それから」
「やめておけ」
  白髪の男は突然声をかけられ、階段の最上段を見上げる。そこにいる初老の男こ
そ、この館の主ジュリアス・コーネリウスであった。
  白髪の男は、銃をコーネリウスへ向けようとする。
「既に、刃を風の中に潜ませてある。動けば首の血筋を裂く」
「はったりだろう」
  銃を手にした男は、反論しつつも、動けなかった。レンファに気を取られ、ジュ
リアスの出現に気付かなかった時点で、白髪の男は敗北していたといっていい。
  ジュリアスは、ゆっくりと階段を下ってゆく。痩せて長身のその老いた剣士は、
未だ眼光鋭く、気力の衰えを感じさせない。猛禽のような殺気を漂わせ、ジュリア
スはレンファの前に立つ。
  ジュリアスは皮肉な笑みを見せ、白髪の男に語りかけた。
「久しぶりの客だ。手厚くもてなしたいところだが。儂がジュリアス・コーネリウ
スと知って、この屋敷に来たのだな」
「そうだ」
「名乗ってもらおうか」
  少し躊躇いを見せる白髪の男に、ジュリアスは侮蔑の笑みを投げかけた。
「名乗れぬ程度の小物か、おまえは」
「おれの名は、ティエンロウだ」
  ジュリアスは、満足げに頷く。ジュリアスの放つ威圧感は、部屋の空気を砂に変
えてしまったようだ。ティエンロウと名乗った白髪の男は、少し息苦しげにため息
をつく。
  ジュリアスは、口の端を歪めて笑うと、語り始める。
「さて、ティエンロウ殿。おまえも儂の元に来るからには、ユンク流剣術の技を知
っているのだろう。儂の技は不可視の水晶剣を高速で回転させ、空気の中に潜ませ
る技だ。この部屋の中には、既に十を越える刃を放ってある。一人でも動けば、お
まえたちを殺す。よいな」
「嘘だ。剣など存在しない」
  ティエンロウは、ジュリアスに反論する。しかし、既に主導権はジュリアスに握
られていた。剣の有無に関わらず、ティエンロウは銃を撃てない。ジュリアスの実
力を、見切れないためだ。
  ティエンロウはジュリアスの術中に、はまりつつあった。
「確かに、儂は嘘をついてるのかもしれない。試してみるがいい、ティエンロウ殿。
引き金をひけ。儂の言葉が嘘ならば、儂が死ぬ。そうでなければ、お主が死ぬ」
  ティエンロウの銃を持つ手に、緊張が走る。
「怯えておるな、ティエンロウ殿」
「違う!」
  ジュリアスの言葉に思わず叫び返したティエンロウであるが、その言葉とは裏腹
に、額へ汗が滲んでいる。ティエンロウは、術中に落ちた。
「恥じることは無い、ティエンロウ殿。恐れているのは儂も同じ。お主と儂の技は
互角。まずは銃を下ろせ、ティエンロウ殿。そうすれば、儂も剣を収める。互いに
武器を収めて、話し合おうではないか。ここで血を流すのは、儂の本意ではない」
  ジュリアスは落ち着いて、誠実な口調で語りかける。ティエンロウの手が、少し
震えた。
「さあ、ティエンロウ殿」
  突然、闇の中に哄笑が響いた。闇の中から狼の笑みを浮かべた男が、姿を現す。
黒い髪の男が手を叩きながら、部屋へ入ってきた。ジュリアスは、ため息混じりで
呟いた。
「ブラックソウル、おまえだったのか」
  ブラックソウルは陽気といってもいい、口調でジュリアスに語りかけた。
「さすがだ、ジュリアス・コーネリウス!ティエンロウが銃を降ろすのと同時に、
斬りつけるつもりだったな。いいねぇ、さすがは、おれの兄弟子だよ」
「おまえは破門された。ブラックソウル、儂はおまえの兄弟子ではない」
「相変わらず堅いねあんたは、コーネリウス殿。さて、あわよくばティエンロウだ
けで片づけられるかと思ったが、やっぱりあんたの相手はおれのようだ」
  ジュリアスの顔から、表情が消えていた。黒い光のように放たれていた殺気も、
すっかり影を潜めている。反対にブラックソウルは、とても楽しげだ。
「ブラックソウル、何の用だ。儂はもう神聖騎士団を退団してから、何年もたつ。
儂から得られるものなぞ、何も無い」
「これがやっかいな時代になってね、あんたの知ってる事が必要になったんだ。妖
精城への道をね、教えてもらいに来たのさ」
  ジュリアスの瞳が一瞬怪訝そうに、曇る。しかし、すぐに冬の冷気のような殺気
が、甦ってきた。ブラックソウルの瞳がそれに応えるように、真夜中の太陽を思わ
す昏い輝きを放つ。
「無駄だ!コーネリウス殿」
  ブラックソウルの両方の手から、闇色の虹のような光が放たれた。それは、澄ん
だ音をたて、空気中に潜んでいたジュリアスの水晶剣を跳ね飛ばす。
  大気の中に水飛沫を散らしたように、薄い水晶の刃は闇色の光に回転を止められ
姿を顕す。ジュリアスの水晶剣は撃ち落とされた蜻蛉のごとく、床へ落ちる。
  ブラックソウルの両の手には、太陽が沈んだ後の昏い海を思わす深い闇色の剣が
姿を現した。その昏い色の薄く小さな剣を見たジュリアスは、呻く。
「闇水晶剣を、両手であやつるとは」
  闇水晶剣と呼ばれる、水晶剣よりさらに薄くさらに鋭い剣を操る技は、ユンク流
剣術の究極奥義とされていた。その剣を操れる人間は、ユンク自身を除けば、その
一番弟子であるケイン・アルフィスくらいのものである。
  しかし、ケインにしても、一度に一つの闇水晶剣を操るのがやっとであった。闇
水晶剣を操る為には、通常の水晶剣を使う時よりも、遥かに多大な精神集中を必要
とする。
 だが、使いこなしさえすれば、闇水晶剣は水晶剣の数倍の速度で空気を切り裂く。
又、その硬度においても、水晶剣を上回る。
  全ての剣をたたき落とされた今、ジュリアスには戦う術が無かった。ブラックソ
ウルは相変わらず、楽しげな笑みを浮かべている。
  ジュリアスは敗北を知って尚、不敵な態度を崩さなかった。
「腕をあげたようだな、ブラックソウル。しかし、おまえにできることは、儂を殺
すことだけだ。おまえに教えることなぞ、無い」
  ブラックソウルは、宴を楽しむように微笑みながら剣を手首の鞘へ納め、指を鳴
らして待機している兵士たちへ合図する。黒装束の男たちが、レンファを押さえつ
けた。
  ブラックソウルは上機嫌で、ジュリアスへ語りかける。
「話したくないことを、教えてもらうやりかたは、色々ある。ユンク流剣術の体系
の中にも、拷問術はある。しかし、おれは、おれ流でね」
  ティエンロウが、押さえつけられたレンファの前に立つ。にやにやと笑うと、レ
ンファの着物を引き裂いた。レンファの悲鳴が上がる。
「やめろ」
  青白く燃える怒りを湛えた目で、ジュリアスはブラックソウルへ一歩踏み出す。
しかし、その体は魔操糸術に操られたエルフの絹糸で、絡めとられた。
「夜は長い。あんたの心が挫けるまで、ゆっくりやらせてもらうよ」
  ブラックソウルは狼の笑みで、ジュリアスの眼差しに応えた。

  魔導師ラフレールは、巨大な純白の鷲に跨り、七色の雲が渦巻く空間を進んでい
た。金色に輝く髪を風に靡かせている魔導師は、人間というよりは魔族に近い雰囲
気を持っている。
  真夏の空を支配する太陽のように金色に輝く瞳と、若者とも年を経た古き者とも
見えるその美貌は、赤銅色の肌を除けば魔族そのものであった。ラフレールは、魔
界の王のごとく悠然と前方を見据えている。
  力強く羽ばたく白い鷲は、ラフレールに語りかけた。
「かなり、近づいてきたようだ」
  ラフレールは、無言で頷く。鷲は、妖精族の王ペイルフレイムの変化した姿であ
る。
  そこは、アイオーン界と呼ばれる領域であった。様々な色彩に変化していく雲が
渦を巻き、その奥には浮遊する大陸が飛び交う。ここは、大地と空が混然一体とな
ったような奇妙な世界である。
  そして、この世界は龍族の故郷であり、又、地上に降臨した際には邪神と呼ばれ
る精霊たちの住処でもあった。白い鷲に変化したペイルフレイムは、ラフレールに
注意を促す。
「龍が近づいてくる」
  その漆黒の巨体を持った、巨大な魔法的生き物は、ペイルフレイムと平行して飛
び始めた。黒い龍が声をかけてくる。
「おまえは、妖精族の王ペイルフレイムのようだな」
  その巨大な暗雲の固まりのような生き物は、危害を加えるつもりは無いらしい。
紅く鬼火のように燃える瞳を白い鷲にむけているが、その巨大な羽が巻き起こす風
によって純白の鷲が失速しないように、気を使っていた。
「いかにも、我が名はペイルフレイムだ」
「我が名は、イムフルだ。それにしてもなぜ、妖精族の王が人間を背に乗せている
のだ。何者だ、その人間は」
  ラフレールは、黄金に輝く瞳を龍に向ける。
「私の名は、ラフレール」
  龍は炎のような、吐息をはく。
「ラフレール!聞いた覚えがある。人間ながら我が一族のフレイニールの心臓を食
べ、その力を身の内に取り込んだといわれる者か」
  ラフレールはイムフルの、敵意と畏れが混在した眼差しを気にとめず、闇を切り
裂く夜明けの輝きを持つ瞳で龍を見据える。
「いかにもそうだ。偉大なる龍フレイニールは、我が身体の内に生きており、その
力は私のものでもある」
  イムフルは、蒼ざめた溜息をつく。
「それにしても、おまえたちは、なぜこのような所にいるのだ。この先は、我々龍
族にとっても危険な場所になる。何しろウロボロスの領域だからな」
  ラフレールは若き神のような美貌に、微かに笑みを見せた。
「我々が目指すのは、そのウロボロスの領域だ」
  イムフルは、警告するようにかっと紅い口を開いた。その口は白い鷲ごとラフレ
ールを飲み込めそうだ。
「やめておけ、小さくか弱き人間よ。今まさに、ウロボロスは目覚めつつある。そ
の力は、やがて世界全体を覆うだろう。その力を我らとて、押さえることはできな
い。ここは我々の世界だ。おまえたちの来るところでは、無い」
  突然、ラフレールが哄笑した。
「私が、小さくか弱い存在か?本当にそう思っているのかイムフルよ」
  イムフルは、沈黙した。明けの明星のごとく輝く双の瞳で、ラフレールを見つめ
る。
「おまえ、ただの人間ではないな。フレイニールの力を取り込んでいるようだが、
それだけではない。おまえを見ていると、思い出すぞ。グーヌと呼ばれる黒き男が、
始めて大地に降り立ったときを。やつは、我々を召喚し、精霊たちも呼び寄せ、あ
の果てしのない戦いを始めた。
  おまえは、あの男と同じ匂いがする。我々に逆らうこと許さなかったあの、黄金
の林檎の匂い。まさか、おまえ」
  ラフレールは、輝く瞳でイムフルを見つめる。その光は凶暴であり、又、神聖さ
を宿していた。
「その通りだ、イムフル。我が内に死せる女神の心臓にして、全ての生命の源であ
る黄金の林檎がある」
  イムフルは、鋭い雄叫びをあげた。それは大地の奥底から湧き起こる、地鳴りの
ようである。
「おまえは驚くべき存在だな、ラフレールよ。おまえはその力で、目覚め始めたウ
ロボロスを再び封印するつもりなのか」
  ラフレールは、静かに頷く。漆黒の龍は、荒れ狂う嵐のような、笑い声を上げた。
「面白い。やってみるがいい。では、私が案内しよう。かつて金星の牢獄にグーヌ
を封じ込めていた力、ウロボロスの元へ」
  漆黒の巨大な龍は、ラフレールたちを先導するように前へでた。龍の力に引き寄
せられるように、白い鷲の速度もあがる。
  渦巻く七色の雲は、しだいに消え始め、その奥から巨大な暗黒が姿を現し始めた。
それは荒れ狂う、凶暴な破壊の力の固まりである。
  あたかも死せる恒星のような、巨大で壮大な力を持った暗黒。その輪郭は遥か彼
方に広がり、全体像を把握することはできない。
  その中では無数の血に飢えた漆黒の悪霊たちが、暗黒の舞踏を乱舞しているよう
だ。拗くれた破壊の力は、螺旋を描き巨大な暗黒の上を駆けめぐる。
  イムフルが畏れのこもった、咆吼を上げた。
「みろ、人間、そして、妖精族の王よ。あれがウロボロスだ!」




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