#4491/5495 長編
★タイトル (NKG ) 98/ 5/24 21:59 (185)
【しすてむAI】恋と友情とミエナイキモチ (5/6) らいと・ひる
★内容
SIDE A(石崎 藍)
放課後、下駄箱のところで茜に会う。私は帰宅部、部活のある彼女とは帰る時間
がいつもは違うのだが、今日は委員会の仕事が少し長引いたからだ。
「久々ね。途中まで一緒に帰る?」
にこっと笑って茜がそう誘ってくる。
「今日はまっすぐ帰らないとならないから、ま、いいか」
私がそう返事をすると、すかさずツっこんでくる。
「じゃあ、いつもは寄り道してるの? いーけないんだ」
「私は優等生じゃないからね」
「優等生に見られているくせに」
「あんただってそうでしょ」
「わたしは正統派の優等生。あんたは、成績がいいだけで陰でなにやってるかわか
らん優等生じゃない」
「あのね」
会話のテンポがノってくるとインチキ関西弁が出てしまう。小学校の時のクラス
のムードメーカー役の男の子を思い出す。
「見つかったら大変よ。風紀係の先生たちなんかがっかりしちゃうかも」
「そな、大げさな」
「いやいや、噂はよく職員室で聞きまっせ」
「茜……漫才やってるんじゃないんだから歩きながら話そう。途中まで一緒に行く
んでしょ?」
「そうだね」
彼女の返事で私たちは校門へと歩き出す。
「三年こそは一緒のクラスになれると思ったんだけどな」
「何言ってるんだか。小学校の時さんざん同じクラスだったじゃない」
「そうだけどさ、なんか寂しいじゃない」
「私は全然。むしろ茜がいない分のびのびやってる」
「そんなぁ、つれないな」
「小学校の時はけっこう気を使ったんだよ。茜が悲しそうな顔するからさ、なんと
かクラスになじもうと努力したし」
「楽しかったじゃない」
「それは否定しない。でもね」
「でも?」
「自分に嘘を付くのが嫌だったから……」
それ以上言ったら愚痴になってしまうことはわかっている。
しばらく沈黙が続いた。茜が私の言葉を待っていたからだ。私はしょうがなく、
自分から話題を切り出すことにする。
「そういえばこの前の後輩の子どうした?」
私がそう言うと、しょうがないなと思ったのだろうか茜は溜息をついて話し出す。
「もう、泣きついてきたことなんか嘘のように元気になっちゃってさ。新しい彼氏
探すって。わたしなんかより気持ちの切り替えが早いこと」
「茜も江口の奴にフラれた時は、立ち直るのに二週間はかかったよね」
昔の古傷をちょこっとつついてみる。彼女に遠慮は無用だ。
「まったく誰かさんが慰めてくれればもうちょっと早く立ち直れたものの」
茜もそれをわかってか、明るく答えてくる。
「私は放任主義だから」
そう言ってふふっと笑う。
「藍ってきっと、私とか家族の前じゃないと笑顔見せないんだろうね」
しみじみと彼女は言った。
「今は茜だけじゃない。最近、母親も見てないと思う」
「え? そうなの」
少し驚いた顔をする茜。
「そうマジになんないでよ。たいしたことじゃないよ」
「でも、一時期、笑顔がまるっきりなくなった事があったじゃない。あれは中一の
時だったかな」
「本人は気にしてないから、覚えがないなぁ」
茜はたまに些細な事を気にしてくる。他人のことなんだから、深く考える必要な
んてないのに。
「藍は覚えてないかもしんないけど、こっちとしてはかなり印象に残っているんだ
から」
なんとなくその当時の事を思い出す。あれは、たしか橋本誠司が関係していた。
だけど、その事を茜に説明してもしょうがない。
「もしかして中一の秋ぐらいのこと? だったら、単に機嫌が悪かっただけだって」
ごまかしではないが、機嫌が悪かったのは本当だ。
「でもさ、全然、雰囲気とか変わっちゃっててさ。声をかけるのでさえ、躊躇って
たんだから」
茜は茜なりに、私のことに気づいていたのだろうか。
「まあ、いろいろあったからね」
私はその頃のことを思いだし目線を空へと向ける。
「そんな遠い目をしないで。あの時は、なんだか怖くて訳を訊けなかった」
不安そうな顔の彼女。大げさにしたがるのもこの子の性格。
「そうだね。あの時は訊かれても答えなかったかもしれない」
「うん。だから……」
「だから?」
「なんか、藍がすごく遠くへ行ってしまったような気がして、落ち着かなかった時
期があるの」
「あのね。私は基本的にはこの性格は変わりません」
自然と口調だけは明るくなる。余計な事は考えたくないからだ。
「でも、あの頃からだよね。藍が恋愛なんてくだらないって言うようになったのは」
「それは前から考えてはいたって、うちの両親見て育ってるんだから」
「そりゃ、私も藍の家庭の事情は知ってるけど……」
ちょっと茜は口ごもる。変なところで気を遣うのがこの子らしいな。
「昔からくだらないと思っていたけど、それがなんでくだらないか、小さい頃は説
明できなかった。両親見て、感情的になってた部分の方が多いよ。でもね、論理的
に考えてみると、けっこう納得できる部分多くてね」
「『肉体に魂なんか存在しない』って言い出したのもあの頃からだよね?」
「茜。正確には『魂が存在しない理由を説明できる仮説がある』って言っただけ」
「同じじゃない?」
「いや、微妙に違うよ。今のところ私は『魂』の否定はしてない。ただ人間を『シ
ステム』として考えてみると、いろいろ面白いことが見えてくるの」
茜に難しい事を説明してもきちんと聴いてくれない。だから、言葉を選んでしま
う。
「そうそう、そんなこと説明してくれたっけ。でも、初めて聞いた時は藍がなんか
変な『宗教』入っちゃったんじゃないかって心配したんだから」
「茜ってそういう風に私を見てたんだ」
まあ、私が他人からどう見られているかなんて想像はついてたけど。
「いや、おかしいとは思ったんだ。あの藍にかぎってそんなことはないはずだって」
「私は基本的に茜と同じ。神がいようがいまいが、それに頼ることは絶対しない。
たぶん、私とあんたがこんなに性格違うのに話が合うのは、そんな基本的な部分が
似通ってるからだと思うんだ」
私はしみじみと自分と彼女の共通点を分析する。
「うん、今でも私は神頼みは大っ嫌い。でも、私は初詣行くし、クリスマスパーテ
ィーも楽しむ。そこが、藍との大きな違いだけど」
くったくのない笑顔でそう言い切る茜。私は彼女が羨ましいだろうか? 人との
コミュニケーションをうまくとれる彼女自身の性格が。
「典型的な日本人だね」
私は自分へのごまかしも含めてそう応えた。
「だって日本人だもん」
予想通りの笑顔。
「だいたい初詣行って何するの? あんた願い事言うの嫌いなんでしょ」
「お賽銭あげて、今年の目標を心の中で唱えるの。それは願い事じゃない。わたし
はお祭り好きだから、雰囲気が楽しめればそれでいいの」
「なるほどね。長年の謎が解けたよ。茜とこういう話するのも久々かな」
「小6の春休み以来じゃない」
「そうだっけ?」
「……」
「……」
私がそっけなく返事をするものだから、しばらく沈黙が続いてしまう。話の腰を
折るのは不本意だが、茜に対して遠慮するのも嫌だったりする。
「ねえ。藍はなんでわたしとは一緒に帰ったり、普通に話したりするわけ?」
いきなり話をふる茜。話題が他にないわけじゃないだろうに……それとも、彼女
はずっとそれを訊きたかったのだろうか?
「そりゃ、昔からのなじみだし……」
私としては歯切れが悪い答え。
「藍って他の人に対してものすごく冷めてるでしょ。もちろん、藍の性格だからわ
たしがあれこれ言う問題じゃないことはわかってる。でも、なんか時々無理してる
んじゃないかって思えることがあるの。だって昔の藍は」
「いつまでも昔の私じゃないよ」
反射的に強い口調になってしまう。なんだか最近、このパターンが多くなってき
た。それだけ、茜が私に対して干渉してくる回数が多くなったからかもしれない。
「でも、藍はわたしと話すときだけはすごく自然に感じるの。変に理屈っぽいとこ
ろも多いけど、わたしの昔から知っている藍なの。だから、他の人にもなんで同じ
ようにできないかって」
「私は茜じゃないから」
今度はそっけなく言葉をこぼす。
「違う。藍は自分からコミュニケーションを閉じてしまっている」
「それは性格だよ。私は茜みたいにみんなに対して笑えないもん。茜の笑顔は嘘じ
ゃないけど、私の笑顔は嘘になるだけ。そんなのは、自分に対しても相手に対して
も惨めなだけだよ」
惨めというのは、私の中で勝手に作られた感情。なんで私はこんな事にこだわっ
ているんだろう。
「違うよ。藍は人を好きになることをどこかで制御してしまっているんだと思う。
人が人を求めるのは本来自然なことなんだから」
「そう、遺伝子に組み込まれたシステムとしてね」
私は彼女の顔が見てられなくなり下を向いてそう呟いた。
茜の熱い口調と視線は、時々うっとおしくなる。いや、正確にはうっとおしいの
ではなく、私がそれに耐えられないだけなのかもしれない。
「なんでそうやって考えちゃうの? なんで自分の気持ちを素直に受け止められな
いの?」
余計なお世話だと言ってやるのは簡単だった。すべてを否定してやってもよかっ
た。
「どうして人は人を好きになるんだろうね?」
思わずそんな言葉が自分の口からこぼれる。
「藍……」
「普通の人には当たり前の事なのかもしれない。でも、私はそれを当たり前のこと
として考えられない。だって……私のシステムは壊れてるから」
愚痴になってしまう。
「藍……それは違う」
「違わない。……お願い……茜。お願いだから、私の気持ちがわかるなんて言わな
いでね。あんたにだけはそんな事言ってほしくないの」
私は茜に親友なんてレッテルは貼りたくないし、私も彼女にそんなレッテルは貼
られたくない。
「……」
「それが最低限のルールだから……茜が自分の意見を言うのはかまわない。でも私
に干渉するのだけはやめて」
他人に必要以上に干渉して、馴れ合いにはなりたくない。
「……ルールって、そんな……わたしは干渉してるんじゃない」
「茜って時々残酷だよ。押し売りの親切は干渉にしかならないんだよ。私は私の事
でさえどうにもならないんだから」
そう言って溜息をついて足を止める。ちょうど曲がり角。一緒に帰る道はここま
で、どちらかの家に行くのでなければここで二人は別れる。タイミングがいいのか
悪いのか。
「じゃあね」
私は右手だけあげてそのまま振り返らずに歩いていく。このまま茜と話していて
もつらくなるだけかもしれない。
結局、卑怯者はいつも私……だから、いいかげんに愛想をつかしてくれればいい
のに。
いや、それも時間の問題かもしれないかな。
でも、なんで私はあの子を完全に拒絶してしまわないのだろう?