AWC 【しすてむAI】恋と友情とミエナイキモチ (4/6) らいと・ひる


        
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★タイトル (NKG     )  98/ 5/24  21:58  (186)
【しすてむAI】恋と友情とミエナイキモチ (4/6) らいと・ひる
★内容
「わたし知ってるんだから、七香がなんで石崎さんにこだわっているのかって。七
香は橋本くんが昔付き合ってた彼女のことが気に入らないだけ、そんなくだらない
嫉妬にわたしたちは付き合わされているのよ!」
「……七香……それほんとなの?」
 二宮紗枝は、彼女の言葉が初耳だったらしい。驚いた顔をして川瀬七香の方を向
く。
「いいじゃない! どっちにしろ紗枝だってあいつのことが気に入らないでしょう
が……まったく、わたしたちの友情を壊そうなんてサイテー!」
 だんだんと二人が川瀬七香への不信感を抱き始めている。しかし、彼女もあきら
めが悪いらしく、なんとか私への攻撃でそれをごまかそうとしていた。
「わたしはもう七香には関わりたくない。今年はもう受験だし……同じ進学先なわ
けじゃないんだから!」
 桑原智恵は、後ろを向いて扉のところまで駆けていく。
「と……智恵!」
 川瀬七香が必死に呼び止めるが、それを無視して教室の外へと出ていってしまう。
「ごめん七香……智恵との方が付き合いが長いし……ほっとけないから」
 二宮紗枝は、不安げに言葉をこぼす
 予想通りの展開。利口な者ならば、どちらを優先するかは考えるまでもない。
「そ……そんな、紗枝まで、何言ってるのよ」
「七香には川瀬くんがいるけど……智恵を孤立させるわけにはいかないの」
「ちょ……ちょっと」
「ほんとにごめん。わたしもあいつのことはムカツクけど……でも、そんなことで
あの子との友情にヒビを入れたくないの」
 川瀬七香より桑原智恵との関係を大事にしたことは、客観的にみても正しい判断
だと思う。一見、アナログのような人間関係も窮地に立たされると、人間はデジタ
ルな答えを出したがる。
「美しい友情だね」
 私のその言葉に二宮紗枝は、一瞬キッとこちらを睨み付けて、そのまま桑原智恵
を追って外へと出ていく。
「紗枝……」
 一人置き去りにされた川瀬七香は呆然と立ち尽くす。
「さて、川瀬さん。どうする?」
「返せばいいんでしょ!」
 彼女は逆ギレしたように怒ってノートを投げ返してくる。完全に我を忘れて取り
乱していた。それほどショックな事だったのだろうか?
「まったく頭悪いというか、そんなにすぐに盗んだこと認めてどうするの?」
「あんたのおかげで智恵と紗枝が……」
 そんなに大事な友人なら、こんなことにまで付き合わせるべきではなかった。結
局、彼女にとってのあの二人は道具でしかなかったってこと。その事に当人が気づ
いていないのが、なんともくだらない。
「私のせいにしないでよ。あなたは言ったじゃない。『これぐらい』のことって。
その程度のことで崩れるものだったってことでしょ。それにね……」
 私はふうっと、一呼吸おく。
「橋本くんとはもう終わってるんだし、いいかげんに嫉妬とか八つ当たりはやめに
しない?」
「あんたなんかに私の気持ちが……」
 両手を握りしめて肩を震わす彼女。感情だけで動くからそんなことになるんだ。
「わかりたくもない。だいたい、こうなった原因は川瀬さんの軽はずみな行動から
でしょ? まったく、単に自業自得なだけじゃない」
「……橋本クン、まだあんたのことが……」
 彼女の口から漏れたその言葉はあまりにも意外な事だった。
「もう関係ないって言ったでしょ! だいたい川瀬さん、噂ではあんたが橋本くん
と付き合ってるって聞いたけどな」
 それは事実、だから私にはなんの問題もなかったはず。
「あんなの付き合ってるなんて言えないよ。橋本クン、なんにもしてくれないんだ
から」
 私に愚痴を言ってどうするんだ。
「それは清い男女交際でよろしいんじゃない」
 嫌味を言ってあげよう。
「……まだあんたの事忘れられないに決まってる」
 そんな断定されてもなぁ。
「私には関係ないって。もうあんな男どうでもいいんだけど……」
 なんだか川瀬七香との話もどうでもよくなってきて、目線をそらして制服のボタ
ンの部分を弄ぶ。すると、つかつかと彼女が私の目の前までやってきた。
「あんたがそんなんだから!」
 いきなり平手が当たる。
「なにすんの!」
 反撃に出ようと右手を振り上げるが、なぜだか自分の中に躊躇いが生まれてしま
う。
 いつの間にか涙目になっている川瀬七香。容赦する必要なんてないんだけど……。
 これ以上の弱い者イジメはこっちが惨めなだけ。自尊心が傷つくとか、そんな感
情的な理由を私の中のシステムが勝手につけているのか。
「哀れだね」
 そんな言葉が私の口から自然とこぼれた。誰が? 彼女が? それとも……。
 川瀬七香の右手が私の言葉に反応して動く。とっさにその右手を捕まえる。二度
もやられるわけにはいかない。
「他人を責めることで自分を正当化しようだなんて、どっちがサイテーだか」
「あんたなんかにわたしの気持ちがわかるわけが……」
 最後まで聞いてられない。
「うっとおしいから消えてくれない?」
 私はそう言って彼女を突き放す。ほんとうにどうでもいいことなんだ。
 


 SIDE D(幾田 明生)


 川瀬七香が泣きながら、すごい勢いで横を駆け抜けていく。あの分だと、僕の存
在すら気づいていないだろう。
 彼女の後ろ姿を見送ると、本来の目的である教室へと足を踏み入れた。
「詰めが甘かったな」
 自分の机の所で複雑な顔をしている石崎藍に声をかける。
「立ち聞きしてたの? 幾田ってけっこう趣味が悪いというか……」
 彼女は僕の顔を見ると苦笑した。
「荷物を取りに戻って、この場の雰囲気に遠慮しただけ。その気になれば、きみを
援護することもできたんだけど」
「そんなもの必要ないよ」
「そう言うと思って、黙って聞いてたんだぜ。ま、結局は痴情がらみの御粗末な展
開だったけどな」
「そんなくだらない感情に縛られるのって馬鹿だよね」
 下を向いた彼女の横顔に一瞬、寂しげな表情が見え隠れする。
「なんか、きみの言い方を聞いていると一瞬羨ましいんじゃないかって思えてくる
よ」 
 イジワルというわけではないが、僕は素直な感想を彼女へと伝えた。
「……どう解釈しようが、あんたの勝手だけど」
 相変わらず強がりを言うところは彼女らしいのだろう。
「前から不思議に思ったんだけどさ。どうして石崎って、そこまでくだらないって
言い切ることができるんだ?」
 もちろん今回の事だけではない。噂やら、実際に聞いた話やら、彼女にはそうい
う傾向があることを前から疑問に思ってはいた。
「なんであんたにそんな事答えなきゃいけないの?!」
「僕は好奇心の塊みたいな人間だから、君みたいな人間を見るとちょっかいかけた
くなるわけだ」
「はっきり言って、うっとおしいんだけど」
 ますます彼女を不機嫌にさせてしまっているようだ。でも、こういう時は自分の
ペースを守るのが一番。
「まあ、僕の好奇心を満足させてくれれば、僕の興味は他へ行くよ。その方が効率
いいんじゃない?」
「あんたを満足させてやれるような答えなんて、私は持ってないよ」
「別にすぐに答えを出して貰おうなんて思っちゃいないって。僕は気が長いからね」
「あー、ますますうっとおしい!」
 イラついている顔にもかわいげがある。そんな些細なところに、同級生らしさを
感じてしまう。
「きみの考えってさ、人間の本能のシステムを否定してるわけだろ。でも、もとも
と男女がくっつく過程なんか、人間として正しい行動なわけだから、それを馬鹿に
するのは間違ってないか、と思ってさ」
「恋愛に縛られた人間ってのは、おかしくなるじゃない。感情を制御できなくなっ
て、しまいには行動まで狂いだす。そこらへんが私は気に入らないだけ」
「人それぞれだろ?」
 いったい彼女は何をそんなにこだわっているのだろうか。
「少なくとも私の周りは、そんなのばっかりだったけど」
「そんなのばっかりじゃないと思うけど。世の中もっと広いと思うよ」
 前向きに生きるなんて、石崎には無理な話なのかね。
「恋は素晴らしいものだって、そのうち誰かが教えてくれるかもって? ……少な
くとも私は素直にそんな風に思えない。あんたはさっき人間の本能のシステムとし
て恋愛をするんだって言ったよね。それはたしかに正しい行動原理なのかもしれな
い……でもね、遺伝子のプログラムに従っているだけのその行動は、私みたいな人
間には、とても空しく思えてしまうの」
 そうか、彼女がこだわっているのはやはりその部分だったんだ。
「石崎って、やっぱり面白いよ。遺伝子のプログラムね。たしかに、僕もその事に
は興味があるよ。人間は生体部品でできた精密機械だからね。プログラムに支配さ
れるって発想も好きだよ。だけどさ、利己的遺伝子の仮説を発表したリチャード・
ドーキンスの話を知ってるかい?」
「生物は遺伝子の器ってやつでしょ? だいたいは知ってるよ」
「彼が言うには、この地上で唯一我々だけが利己的な自己複製子たちの専制支配に
反逆できるんだとさ。それは、人間の持つ複雑な感情システムゆえのことなんだと
僕は思う。簡易なシステムは、より複雑なシステムには干渉できないって……これ
は持論だけど」
「話としては面白いけど、その考え方はあまり好きじゃないな」
「え? どうして?」
 得意気に言ったつもりはないが、あまりにも簡単に否定されると拍子抜けする。
「人間だけが特別ってのは、歴史的にみても、もっとも愚かしい考えじゃない。自
分たちを特別視することで、他者を蹴落としてその上であぐらをかく。だけどね、
この地上のありとあらゆる生物はすべて地球上の元素はから成り立っているだけだ
し、生物活動が終われば分子レベルまで分解されるだけ。構成する物質にさほど違
いがあるわけじゃなし……自分たちだけが本当に特別で例外になれるのかって」
「本当の事なんて誰も知らないよ。今の科学力じゃ、人間が特別かそうでないかな
んて完全に説明できやしないんだから」
「でもね、人間がシステムに支配されているって状況証拠だけは、確実に証明され
つつあるんだけどな」
 彼女は人間らしさというものを否定したがっているのか?
「石崎って、心や魂まで否定するタイプ?」
「さあね? あんたに答える義務はないと思うけど」
 さすがに、簡単にカードを見せてくれないか。
「ちょっと聞いてみただけだって」
「じゃああんたは、人間にだけ高尚な魂が宿っていて、人間だけが高度な心を持っ
ていて、人間だけがこの地上の支配者に相応しいとか思っているわけ?」
 彼女はイジワルげに早口でまくしたててくる。
「僕だって別に、自分が特別でありたいなんて思ってるわけじゃないんだよ。でも
ね、せっかく他の生物にはないような複雑なシステムを持っているんだから、遺伝
子のプログラムの支配に反逆しようと考えたって別にいいんじゃないかな、って思
っているわけ」
「反逆ねぇ……あんたレジスタンスとか、ああいう反国家思想に憧れるタイプでし
ょ」
 僕は思わず吹き出して笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「石崎でもそんな冗談言うんだなって」
「たいした冗談でもないんだけどな。ま、あんたの思想にまでは干渉するつもりは
ないけどさ」
 彼女の場合はどこまでマジメな話なのかよくわからない。そこらへんが、僕の興
味をそそるのだろう。でも、本当のところ、なぜ彼女に感心を持つかは僕自身にも
わからなかったりする。もし、人間がシステムに縛られているのだとしても、その
システムは僕に対して何の答えも出してくれない。
 だから、僕は追い求める。
 探求する心こそが、知的生命に与えられた唯一の手がかりなのだから。





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